39 解決
ロディーヌは黙って聞いていた。
父の言う事は、父なりの正論なのかもしれない。
ただそのために、どのくらい多くの人の運命が狂ったのだろうか。
しばしの沈黙の後、ロディーヌは言葉を発した。
「私には真実はわかりません、お父様」
「ロディーヌ、だからわしは……」
「お父様は、これから静かな所でお暮しになると思いますわ、おそらく」
「ロディーヌ」
「そう、アルスターの北の村。お母さまが生まれた場所で」
「おい、ロディーヌ」
「私に命を下さった事は感謝致します。では、さようならお父様」
「待ってくれ!」
父の叫びを背に、ロディーヌは部屋を出た。
王宮に与えられた自室へと戻る。
しばらくすると、扉を叩く音がした。
「ロディーヌ、いるか?」
リューウェインだった。
ロディーヌは扉を開けるなり、リューウェインの胸に飛び込んだ。
声を上げて泣きじゃくった。
なぜ涙が出るのか、自分でもわからなかった。
リューウェインはその間、そっとロディーヌを抱きしめていた。
「ロディーヌ、愛しているよ」
「……はい」
「俺の妻は生涯お前だけだ」
「はい、リューウェイン……様」
「リューでいい」
「では。はい、リュー」
二人は見つめ合い、唇を重ねた。
「これから毎日言うよ、愛していると」
「本当ですか?約束ですよ」
ロディーヌはいたずらっぽく笑った。
二人はテーブルに向かい合って座る。
「ところでな」
リューウェインが話し始めたのは、ショーンとコルデリアの事だった。
「ショーンが自白したよ。コルデリアもな」
二人の自白の内容は、既に判明している事情を裏付けるものだった。
以前より、アングル王国と接触があった事。
アングルの魔術を学んでいた事。
そして提供された資金で、密かに魔術師ギルドや王宮の衛兵達を買収していた事。
第一王子の暗殺は、コルデリアとアングル王国の魔術師によるものであること。
人魚を誘拐し、魔物を操らせようとした事。
そして魔物を召喚し、リューウェインを襲わせたのも。
当然、ダーメット二世へ健康を害する呪いをかけたのも。
ロディーヌにとって、特に意外に思う出来事はなかった。
「実はアングル内部でおかしな動きがあるのは以前からわかっていた」
「そうなのですか?」
「どうもこちらの情報が漏れたり、アングルに内通しているらしき人物がいたりな」
「そんな事が」
「いつ戦が起こってもいいよう、準備だけはしておいたのさ。君と婚約する少し前からかな」
「それであれだけ迅速に対応できたんですね」
「ここで禍根を残すとやっかいだ。アングルは叩いておきたい。ショーンを逃がしたのもそのためさ」
当初の予定通り、アングル軍と一緒に向かってくるなら叩き潰す。
アングル国内に逃げるなら、大逆犯を匿っているという事でアングル王国に罪を問う。
ショーンが一生をアングルで穏やかに過ごすというなら、それもまたよし。
いずれにしても対処のしようはあるとのリューウェインの言葉だった。
アングル王国でも内紛があり、王位をめぐる暗闘があったらしい。
アングル王家の血を引くショーンをエリンの王位につけ、アングル・エリン連合王国を樹立する。
そう構想し、暗躍した一派があったという事情のようだ。
今回の件については、アングル王国とエリン王国の間で、長い話し合いになるだろう。
「最初はショーンが裏切っているとまでの確信は持てなかったし、色々予想外の出来事もあったがな」
リューウェインはそう言って苦笑した。
「父と義母はどうなるんでしょう?」
「アングルの資金を受け取っていたのは確かなようだ」
「そう……ですか」
「ただ、ショーンやコルデリアも僧院への幽閉だ。それより重い罰を与えるわけにもいくまい」
リューウェインはテーブルの上にある紅茶のカップを手にとり、一息に飲み干した。
「静かな所で暮らしていただく事になるだろう。お二人別々に。それでかまわないか?」
「はい」
だがこの件とは別に、ロディーヌには気になる事があった。
「聞いていいのかわからないですが」
「何だい?なんでも聞いてくれ」
「あの……妹さんのキーラ様と、あの子供さんはどうしておられるのですか?」
「ああ」
リューウェインは微妙な表情になる。
「ここしばらくキーラは子供たちといるらしい。心を入れ替えたと言っているが、いつまで続くのやら……」
そうだ。
リューウェインの甥や姪である、あの子供たちを助け、聖女の力に目覚めた。
そこから全てが始まったのだ。
その時のロディーヌには知りようがなかったにせよ。
誰しも先の事はわからない。
けれども生きていれば、何かが変わるだろう。
争いも憎しみも絶える事はない。
だが穏やかで愛にあふれた時間を過ごすこともできるはずだ。
生きてさえいれば。
その後も色々な事を話した後、リューウェインは部屋を出て行った。
何しろ即位したばかりだ。
彼にもやる事は数限りなくあった。
ロディーヌは机に向かう。
まだここは仮住まいだ。
レンスター邸宅からの引っ越しは完全には終わっていない。
母の日記を取り出して読み始める。
いずれはこの王宮にも研究室を作りたい。
薬草園やバラ園も。
そして王宮も王都もレンスター領も、いやエリン王国全体に花と緑が行き渡るだろう。
それは多くの人の病を癒し、生活に潤いを与えるだろう。
それがかつて母が夢見た事であり、ロディーヌ自身の願いでもあった。
ふいに扉を叩く音がした。
「どうぞ」
入ってきたのはメアリーだった。
「ロディーヌ様、新しいお茶をお持ちしました」
「ありがとう、メアリー」
二人でしばらくお茶を楽しむ。
話題はこれからの事だった。
「それでね、メアリー。リューとも話したんだけど」
ロディーヌは一旦カップを置く。
「私たち、エリン王国を変えていこうと思うの。古い制度だけじゃない。もっと学校や病院も建てたいし、できる事はたくさんあるはずよ」
「それはとても素晴らしいですわ!」
「色々な儀式も簡素にして行こうって。それでね。リューの戴冠式は三ヶ月後ですって」
その言葉にメアリーの顔色が変わる。
「なんですって!たったの三ヶ月先!それでは何もできませんわ!」
メアリーはまるでこの世の終わりであるかのような表情をしていた。
「戴冠式の準備なら普通は一年以上、最低でも半年は必要ですよ、ロディーヌ様!」
「でも式典の準備は王室の係がいるし、王宮の使用人達も……」
「それだけではないんですよ!レンスター家での内輪の祝いに、ご領地への巡幸の準備や、民へ振る舞う食材の手配に、ロディーヌ様のドレスだって」
「私はほら、婚礼の時のドレスを仕立て直せば」
「いけません」
メアリーはきっぱりした口調で言う。
「ロディーヌ様はこの伝統あるエリン王国の王妃になられるのですよ。しっかりなさってください」
「そ、そうね。ごめんなさいメアリー」
「こうしてはいられませんわ」
メアリーの頭の中には、既に様々な計画が駆け巡っているようだ。
「すぐにデザイナーを呼ぶよう手配しなければ。それでは失礼します」
ロディーヌに礼をすると、大急ぎで部屋から飛び出していく。
メアリーのその姿は、自然とロディーヌを笑顔にさせる。
そしてついにこらえきれず、声を立てて笑った。
それがこの一連の事件の終わりを告げる出来事だった。
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