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*** 5 せめてもの手向け ***

 


 しばらく経つと、暗い通路が大型ランタンの灯に照らされ、応援の近衛を連れて護衛近衛隊長が地下室に戻って来た。

 その後ろには宰相と近衛騎士団長を伴った国王の姿もある。


「ち、父上っ!」


「皆の者、よくぞ戻った」


 国王はどっかりと古いソファに座った。


「ち、父上、あのレオニーダス・フェリクス魔導学園国があろうことか第1王子たる私を不合格にし、あまつさえ侮辱したために我が国の名誉を守るために宣戦布告を……」


「委細は承知しておる。

 レオニーダス・フェリクス魔導学園国から宣戦布告書と共にそなたと苦情受付官とのやり取りの『えいぞう』が届けられたからな」


「な、ならば!」


「アホダスよ、そこに跪きなさい」


「は、はい」


「そなたは与えもしていない軍権を持つと偽り、この国に未曽有の国難を齎した。

 よってこれより沙汰を申し渡す」


「えっ……」


「アホダス・フォン・スットコドッコイよ、そなたから王族位を剥奪し、平民に落とすものとする」


「!!!!

 お、お待ちください父上っ!

 そ、そうだ!

 母上はっ!

 母上にとりなしをお願いして!」


「王妃はすでに平民修道院に入った。

 そなたの冥福を祈るためとのことだ……」


「え? 

 はは、わたしはまだ死んでおりませぬが」



 国王は険しい目をしたまま自らの嫡男を見た。


「おい」


「「 はっ 」」



 近衛が2名、王子の脇に膝をつき、その手と背中を押さえた。

 もう1名が頭を押さえる。


「え?」


「息子へのせめてもの手向けとして、余自らが剣を振るってやろう……」


「え? え?」


 国王は王子の横に立ち、剣を抜いて上段に構えた。


「え? え? え?」


 ザンッ!

 ブシャァァァッ!




「近衛騎士団長、城の宝物庫から用意していた金貨1万枚を急ぎ謁見の間に運び込め」


「はっ!」


「宰相よ、護衛10名と共に古い平民服に着替え、この首を箱に詰めてレオニーダス・フェリクス魔導学園国大使館に出向き、併せて謁見の間に置いた金貨の転移魔導による回収を依頼せよ。

 その手土産をもって宣戦布告の撤回を成し遂げて来るのだ」


「はっ……」


(註:金貨1万枚。購買力平価ベースで日本円100億円に相当。

 スットコドッコイ王国国家予算の半年分)




「レオニーダス・フェリクス魔導学園国大使閣下。

 こちらの品をお持ちしました。

 どうかお収め願えませんでしょうか。

 併せて王城謁見の間の金貨1万枚も転移魔導にてご査収くださいませ……」


「畏まりました。

 この場で30分ほどお待ち願えませんでしょうか。

 転移門により本国外務省に戻り、品の確認をして参ります」


「どうぞよろしくお願い申し上げます……」




 しばらくの後。


「宰相閣下、たいへんお待たせいたしました。

 本国外務省に戻り、鑑定魔導にて精査したところ、こちらの品は確かに本物と確認されました。

 こちらの宣戦布告書の破棄も認めるとのことでございます」


「ありがとうございまする……」


「また、こちらの品はどうぞお持ち帰り頂き、体と共に王族用墓地にご埋葬くださいませ」


「いえ、この大罪人はすでに平民に落とされておりますので、平民用修道院の共同墓地に埋葬されることとなるでしょう……」




 スットコドッコイ王国全域では、すぐに全ての魔導具が再起動し、全土が大歓声に満ちたとのことである。

 この国の歴史上、王族の行為がここまで民衆の喝采を浴びるのは初めてのことだったそうだ……




 実はこの第1王子の首が胴体から離れた瞬間に、レオニーダス・フェリクス魔導学園国からの遠隔魔導により頭と胴体には保存の魔導がかけられていた。

 そして、その2つが一緒に平民用修道院に埋葬された後、転移の魔導で回収されて命の加護魔導により生き返らせてやっていたのである。

 もちろんその後は禁固30年の刑を受けて魔導学園国刑務所に収監されていたが。


 極秘連絡によりこの情報を得た王妃は修道院を出て王宮に戻ったそうだ。

 だが王妃が生きているうちに息子に会えるか否かは定かではない……




 また、レオニーダス・フェリクス魔導学園国では、年末に決算が行われている。


 外務省にて。


「ふむ、今年度の賠償金収入は62か国から合計金貨80万枚か」

(≒8000億円相当、平均的国家の国家予算40年分)


「魔導具リース省や資源省の収入には遠く及びませんが、それでもまずまずですな」


「それにしても、年々増えて来ておるのぅ」


「我が国による平和維持活動唯一の弊害として、ますます王族貴族家子弟の知能レベルが下がると同時に、それを糊塗するための尊大さや見栄も増長しておるということなのでしょう」


「はは、戦が無くなると支配層が考えることも無くなるということか……」




 因みに、レオニーダス・フェリクス魔導学園国の稼ぎ頭は、極秘事項ではあるが魔導具リース省ではなく資源省になる。

 この資源省では海砂や海水、岩石などから錬成魔導具と抽出魔導具を用いて金銀や銅、鉄などの有用資源を直接得ており、つまりは完全無公害かつ低労力の資源調達だった。

 特に粒子の小さい砂などは魔導による金属原子の抽出が容易であり、この点で抽出魔導の使える魔導使いにとって、砂漠などは資源の宝庫だと言える。

 大賢者たちは、過去4500年間にのべ数十億に及ぶ『抽出の魔導具』を設置して、自動で金資源などを得て来たのである。

(収集された各資源は転移の魔導でやはり自動的に資源備蓄庫に送られる)


 惑星全域にハイパーインフレを引き起こさぬよう、その放出は完全なコントロール下にあるが、過去4500年間の資源抽出により、金資源を用いて鋳造した金貨だけでも5億トンの備蓄があるそうだ。


(註:過去4000年間で地球人類が採掘して精錬した金は合計20万トン。

 現代技術を用いても年間生産量は約3000トンでしかない。

 金はその地殻中存在度こそ0.003ppmと希少であるが、地殻中や海水中などどこにでも存在する。

 ただ、地球の金精練は合有率0.5%以上の金鉱石からでないと採算割れするそうだ。

 これに対し、魔導学園国の『抽出の魔導具』による抽出効率は100%であるため、これほどの差が生まれている)


 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 惑星上最大の面積9000万平方キロを持つ中央大陸中央部の到達困難極地帯では、極度の内陸性気候のため、夏の最高気温は摂氏50度、冬の最低気温はマイナス50度ともなっていたため、生命密度は極めて低く、4500年前までは無人の荒野となっていた。


(註:到達困難極とは、その大陸上であらゆる海洋から最も離れた地点を言う。

 地球のユーラシア大陸の場合は中華人民共和帝国新疆ウイグル弾圧区のウルムチ市から北におよそ320キロメートル離れた地点であり、砂砂漠では世界最大級と言われるタクラマカン砂漠に近い場所である。

 その東側には世界第4位の面積(約130万平方キロ)とされるゴビ砂漠も存在する。

 尚、ユーラシア大陸の到達困難極の場合、海洋までの距離は最短で2645キロメートルだが、この惑星の中央大陸のそれは3500キロメートル近くにもなっている)



 4500年前、或る大賢者がこの地の砂や岩石から有用資源を抽出しつつ、残った鉱石滓を錬成魔導で溶融合成し、荒野の東側に極大土魔導も用いて平均標高3000メートル、総延長1500キロメートルに及ぶ大山脈を3つ作り始めた。

(これらの山脈は隙間があるようややズラして作られている。

 これは大陸東部を砂漠地帯にしないための配慮であった)


 さらに遥か東にある高山地帯も削ってその標高を下げ、人工山脈に当たる偏西風が荒野に雨を齎すようにしたため、人工山脈西側には多くの大河川が生まれる。


 その大賢者の後継者である大魔導士たちが、それら河川の水を集めて大陸中央部に面積500万平方キロ(日本の国土面積の約15倍)、最大深度2000メートルにも及ぶもはや海洋とも言える巨大な人造湖を建設した上で、惑星各地の人類非居住森林地帯から肥沃な腐葉土を集めて湖周辺を沃野に変えた。


 仮に偏西風の蛇行などにより雨量が減少したとしても、やはり代々の大賢者により惑星各地の海洋から収納魔導を用いて膨大な量の海洋水を集めて広大な塩湖も作り、そこから蒸散する真水をもって降雨量を維持している。

 加えて同時に得られる塩を用い、塩の供給を独占して周囲の国を属国にしていた海洋に面する国々の専制支配体制も打破した。


 海洋から遠く、極度の内陸性気候のために居住や農耕に適さない地であるならば、そこに海洋を作って内陸でなくしてしまえばいい。

 このような発想に基づく壮大な施策であった……





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