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*** 4 深謀遠慮 ***

 


「ですがまあ念のため、道中では極力殿下がスットコドッコイの王族であるということは御内密にしてくださいませ。

 今回の件で迷惑を被ったスチャラカの民が殿下を捕縛して、レオニーダス・フェリクス魔導学園国に突き出さないとも限りませんし、護衛の数も少なくなってしまいましたので。

 王族服ではなく下級騎士服にお着換えください」


「!!!」


「よろしければ近衛騎士さま方も金属鎧を置き、下級騎士服と革鎧にお着換えを」


「ご配慮感謝いたします」


「そ、それにしても、なぜ魔導通信で本国から馬と馬車を呼び寄せないのだっ!」


「魔導通信機はレオニーダス・フェリクス魔導学園国のリース品でございますので、戦争当事国である我が国の使用は停止されました……」


「な、なんだと!」


「それではスチャラカ王国内国境街までは先に魔導車でお出かけ下さい。

 荷車と馬は大使館員が連れて行きますので」




 王都から100キロほど離れた国境街までは快適な魔導車で3時間少々の道のりであり、近衛兵たちはすぐに街で最高の宿を取ろうとした。


「あの、お客さま方、誠に申し訳ないのですが、スットコドッコイ王国がレオニーダス・フェリクス魔導学園国に宣戦布告したために、食材の仕入れが出来なくなっております。

 ですのでお食事がパンとスープしかお出し出来なくなっておるのですよ。

 それでよろしければご宿泊頂けますが、ここから100キロほど離れたスチャラカ王国王都まで行かれれば、食事の出せるホテルも多くございますが……」


「食材はスチャラカ国内で仕入れているのではないのか」


「スチャラカ国内では100キロ離れた王都にしか仕入れ先が無いのです。

 スットコドッコイならば10キロほど離れた町に市場があるので、今まではそこから仕入れていたのですが。

 何分にもスットコドッコイがレオニーダス・フェリクス魔導学園国に宣戦布告などしたためにスットコドッコイ国内では魔導車が使えなくなってしまいまして……」


「そうか……

 それでは仕方ない、食事は部屋に届けてくれ」


「畏まりました」




「おい!

 余を着替えさせろ!

 それから風呂にて体を洗え!」


「今は戦時中でございます。

 近衛は交代で歩哨に立ちますので、着替えや入浴はご自分でお願いいたします」


「な、なんだと!

 王族に自ら着替えをさせ、体すら自分で洗えというのかぁっ!」


「戦時中ですのでご辛抱ください」


「ぐぎぎぎぎ……」


(教育係は何をやっていたのだ……

 しかもこんな阿呆が軍権を所持していると主張し、宣戦を布告したというのか……)



 それから2日間、近衛たちは文句を言い続ける王子殿下に辟易しながら過ごしていた。

 そしてようやく馬車と馬が届くと一行は母国目指して出立して行ったのである。


「なぜこの荷車はこのように揺れるのだっ!」


「荷車には魔導車のように『さすぺんしょん』も『ごむたいや』もついておりませんので」


「ええい! 尻が痛いぞ!」


「戦時中ですので我慢してください」


「ぬぐぐぐぐ……」



 街道沿いの畑で農作業をしていた老人が一行に話しかけて来た。


「あんれまあ騎士さま方スットコドッコイ王国の王都に行かれるかね」


「ああ」


「やめときなされ。

 噂じゃあ魔導具が一切使えなくなった民衆が激怒して王城を取り囲んでいるそうだがね」


「な、なんと不敬な!」


「なんでも民衆は宣戦布告なんかした者を吊るし首にしろと喚いているそうだが」


「うひぃっ!」



 調達した馬は老馬だけあって足は遅く、1時間おきに休みと水を要求するために、一行は日に20キロほどしか進めなかった。


「殿下、今日はこちらで野営いたしましょう」


「ほ、ホテルは無いのか!」


「途中見かけた『どらいぶいん』も『もーてる』も、すべて休業中でした。

 まあ魔導車が全く走っていないので当然でしょうが」



 近衛兵たちは万が一の有事の際に王族を落ち延びさせるため野営訓練も行っていたが、王子には固い地面の上での野営は相当に堪えたようだ。



 翌日馬が1頭死んだ。

 どうやら老衰と過労が原因らしい。

 若手近衛が1名荷車の脇を歩いている。

 その翌日にもまた1頭死んだ。



「殿下、間もなく上り坂です。

 荷車を降りてお歩きください」


「な、なんだと! お、王族に歩けと申すかっ!」


「今は戦時中ですのでご辛抱ください。

 それに殿下を乗せた荷車を坂道で曳けば、それだけ早く馬が死にます。

 そうなれば殿下も常に歩かなければならなくなりますので」


「うぎぎぎぎ……」



 こうしてアホダス第1王子一行は、国境の街から10日もかけてようやく王都に辿り着いたのであった。



 だが、夕闇迫る中、王城は怒れる大群衆に十重二十重に取り囲まれていた。

 群衆は十万人近くはいるだろう。

 全ての灯の魔導具が停止しているために、王都は暗闇に包まれ始めていたが、ところどころに篝火や焚火も見られる。

 王城の城門は固く閉ざされ、近衛や衛兵、軍の兵士はすべて王城内に避難しているようだ。


 尚、レオニーダス・フェリクス魔導学園国大使館は結界の魔導で覆われ、許可無き者の侵入を阻んでいた。



「「「 なんで宣戦布告なんかしたんだぁぁぁ―――っ! 」」」


「「「 誰が宣戦布告なんかしたんだぁぁぁ―――っ! 」」」


「「「 宣戦布告した奴出て来ぉぉぉ―――い! 」」」



(そうか……

 レオニーダス・フェリクス魔導学園国が極めて安い『りーす料金』で魔導具を大量に普及させていたのは、有事の際にこうして魔導具を作動停止させることで相手国に深刻な打撃を与えるためだったのか。

 そのような策を500年も前に考えていたとは、凄まじいまでの深謀遠慮だの……)



「な、なんと不敬な賤民共だ!

 軍も近衛も何をしておるっ!

 早くあ奴らを無礼打ちにせよっ!」


「無理でしょう」


「な、なんだと!」


「王都の近衛と国軍は合計でおよそ5000、それ以外の国軍兵や貴族兵は王国各地に分散しております。

 たった5000ではあの殺気立った暴徒にすぐに飲み込まれてしまうでしょう」


「だ、だが貴族軍を呼べば……」


「間違いなく各貴族領の領都でも同じ騒ぎが起きております。

 軍の移動は不可能ですな」



「「「 宣戦布告した奴を吊るせぇぇぇ―――っ! 」」」


「「「 そ奴の首をレオニーダス・フェリクス魔導学園国に持って行って詫びて来ぉぉぉ―――いっ! 」」」


「あひぃぃぃっ!」



「これでは到底正門から入ることは出来ません。

 おい、極秘非常口に廻るぞ」


「「「 はっ! 」」」



 一行は城の裏手にあるボロボロの貴族邸に向かった。

 携帯型ランタンに火を灯し、邸の広い地下室に入ると、そこには椅子やソファも置いてある。

 隊長がコツコツと壁を叩き始めた。


「ここだな」


 隊長が壁を蹴ると、薄いレンガの壁がガラガラと崩れ、真っ暗な通路が姿を現した。


「な、なんだこの不気味な通路は!」


「ここは内乱や謀叛などの際、王族の方々に逃げ延びていただくための非常通路です。

 さあ参りましょう」


「い、嫌だ!

 余はこんな暗くて狭いところには入らんぞっ!」


「そうですか。

 ですがちょうどいいかもしれませんな……

 それでは人を呼んでまいりますのでここで少々お待ちくださいませ。

 お前たち3名はここで護衛につけ」


「「 はっ! 」」





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