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*** 3 リース魔導車作動停止 ***

 


「もちろん大馬力魔導モーターを搭載した魔導列車の独自開発は、4大陸すべての国の悲願でありまする。

 500年前にこの大陸縦貫・横断鉄道の路線が造られ始めてから、4大陸中の大国が挑戦して来ました。

 ですが、未だに如何なる国も鉄道網の建設を成し遂げてはいないのです。

 また、仮に魔導モーターや列車を作れたとしても、我が国の王都から隣国スチャラカへの鉄道敷設は、我が国の国家予算10年分の費用がかかるとの試算が出ていますので、到底不可能でしょう」


「レオニーダス・フェリクス魔導学園国にはそれほどまでの資金力があると申すか!」


「資金力というよりは魔導技術力でしょうね。

 なにしろ我が国王都とスチャラカ王国王都間300キロメートルの鉄道敷設も、魔導土木技術を用いてわずか5日で終わらせていましたので」


「!!!」


「ついでに言えば、かの国の国家予算は4大陸799か国の国家予算をすべて合わせた額を遥かに上回るそうです。

 我が国の国家予算の200万倍ですね」


「な、なんだと……

 なぜそれほどまでの資金力があるのだっ!」


「それは800か国で現在使われている魔導具が、すべてレオニーダス・フェリクス魔導学園国で生産されたものだからです。

 魔導列車だけでなく、魔導車も灯の魔導具も水の魔導具も温風冷風の魔導具もポンプの魔導具も食品保存の魔導具も治療の魔導具も」


「!!!」


「彼らはそれら魔導具を一切販売せずに『りーす』と呼ばれる貸与品として普及させたのです。

 その『りーす料』はたいへんに安いのですが、なにしろ4大陸800か国全土に普及していますから。

 すべて合わせると莫大な金額になるのですよ」


「か、彼の国の軍事力は!」


「彼の国が798の国に置く大使館にはそれぞれ10名ほどの護衛兵がおり、それが交代要員も入れて全部で1万名、また本国には約1万の衛兵がいるそうです」


「たったそれだけか!

 ならば我が国3万の精兵で攻め込めば、奴らの財も全て我が国のものとなるな!」


「…………」


(この阿呆王子、レオニーダス・フェリクス魔導学園国が設立されてから今年で2500年、その間それこそ星の数ほどの国や貴族家が彼の国の財を狙って侵攻したのにも関わらず、まだいかなる国もそれに成功したことが無いのを知らんのか……

 彼の国がそれだけの寡兵でことごとく各国の侵略を跳ね返しているのは、魔導具の『ぶらっくぼっくす』を遥かに超える最大の謎と言われておるのに……)



「さて、そろそろスチャラカ王国王都駅に到着いたします。

 我らが魔導車と糧食その他を調達して参りますので駅舎で少々お待ちくださいませ」




「いや騎士さま方、もちろん魔導車のリースは出来ますが、スットコドッコイ王国までとなりますと、些か問題がございまして」


「どのような問題なのだ?」


「実はスットコドッコイ王国がレオニーダス・フェリクス魔導学園国に宣戦を布告したそうで、その後はスットコドッコイ王国内では全てのレオニーダス・フェリクス魔導学園国産の魔導具が使用不能になっているそうなんですよ」


「「「 !!! 」」」


「ですからスットコドッコイ王国との国境の街までは魔導車も使えるんですけどね。

 でも国境を越えた途端に魔導車が動かなくなるそうなんです」


「彼の国はそのようなことまで出来るというのか……」


「もちろん私共もそのようなことは初めて知ったのですが。

 あの国の魔導技術は本当に凄まじいものがありますな」


「それではスットコドッコイに向かう我らはどうすればいいというのだ……」


「なんとか馬や馬車を調達されて行かれるしかないかと……」


「ここでは馬や馬車は扱っていないのか?」


「もう魔導車が普及し始めてから500年にもなります。

 もはや馬車は完全に骨董品扱いで、王家貴族家のパレード用か博物館ぐらいにしかありません。

 農作業用の荷車や農耕馬ならなんとか見つかるかもしれませんが……」


「わかった、それでは貴族街にある我が国の大使館に行って依頼してみよう。

 大使館に向かうため大型魔導車を5台貸してくれ」


「畏まりました」




「ガーニー伯爵大使閣下、こちらはアホダス第1王子殿下でいらっしゃいます。

 殿下を本国王城までお連れするため、随行員の分も含めて馬車を3台と馬を12頭ご用意願えませんでしょうか」


「護衛近衛騎士隊長殿、貴殿もご存じの通り馬車などはもはや博物館級の代物で、農業用の荷車ぐらいしかございません。

 また馬も農耕馬か貴族の乗馬用のものしか無く、それだけの数を用意するには最低でも5日はかかろうかと」


「タラバ・ガーニー伯爵大使よ!

 ならばスチャラカ王国国王に助力を要請せよ!」


「あの、お言葉ではございますが、スチャラカ王国は現在我が国との国交断絶を検討中でございまして、要請は受け入れられないかと……」


「な、なんだと!

 スチャラカは長年の友好国である我がスットコドッコイを裏切るというのか!」


「はい…… 残念ながら……」


「な、何故だっ!」


 タラバ・ガーニー伯爵大使閣下はアホダス王子を冷ややかな目で見た。


「それはもちろん我が国がレオニーダス・フェリクス魔導学園国に対して宣戦を布告したからでございますよ。

 スチャラカ王国も、我が国に協力して彼の国に敵視されるのは避けたいのでしょう」


「き、貴様は余のせいだというのかっ!

 不敬であるぞぉっ!」


「事実なので仕方がありませぬ……」


「あ、あの国はわざわざ入試とやらを受けに行ってやった余を不合格にした挙句、大国スチャラカの第1王子たる余に不敬を働いたのだぞ!

 偉大なる我が国の武力によって懲罰を与えるのは当然であろうっ!」


「それで成人前でまだ軍権もお持ちでない殿下が国を代表されて宣戦を布告されたと仰るのですか……

 あの、僭越ながら可及的速やかに王城にお戻りになり、陛下に申し開きを為された方がよろしいかと……」


「だから馬車と馬を用意しろと言っておろうがっ!」


「それでは本日は大使館にご逗留くださいませ。

 ただいまから馬と荷車の手配を始めますので、用意が整い次第ご出立ください。

 国境の街までは大使館の魔導車でお送りさせて頂きます」


「当然だっ!」




 大使館員たちは頑張った。

 近隣の貴族家たちは後難を恐れて馬を売ってはくれなかったが、農村部を駆け巡って法外な値段で荷車1台と老馬6頭を購入して来たのである。

 どうやら農民たちは馬や荷車を売ったカネで、最新の魔導トラクターを長期リースしてもらい大喜びしていたらしい……



「なんだこのみすぼらしい荷車と馬はっ!」


「これしか手に入りませんでした。

 どうかご了見くださいませ」


「しかも何故この荷車はこれほどまでに臭いのだ!」


「どうやら肥桶を運ぶための荷車だったようです。

 農民たちに徹底的に洗わせたのですが、沁みついた匂いまでは取れなかったようで……」


 哀れ王子殿下は肥桶と同じ扱いを受けるようだ。


「ぐぎぎぎぎ……」


「それとも殿下も騎乗されますか?」


「う、馬は好かんっ!」


(まあ踏み台が無いと馬にも乗れんらしいしな)


「また、馬も荷車もこれだけしかございませんので、侍女侍従たちを輸送することが出来ません。

 ですので殿下はこちらの荷馬車に、近衛騎士殿方5名はこの馬にてご出立くださいませ」


「お、王族の護衛は近衛騎士12名と決まっておるだろうに!」


「今は戦時中ですのでご辛抱ください」


「レオニーダス・フェリクス魔導学園国の兵に襲われたらなんとするっ!」


「彼の国は、この2500年間、他国に宣戦布告することはもちろん、侵攻したことすらございませぬ。

 ですので御身は安全かと……」


「な、なにっ……」


(この莫迦王子、そんなことも知らんのか。

 だからあの超大国に宣戦布告などしたのだな。

 教育係は死罪だの……)





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