*** 29 最終話 地球へ ***
そう……
女神さまはレオニーダスくんへの愛とヒト族の交尾の快感にハマってしまっていたのである。
しかもどうやら種族特性らしく、その愛は強烈だったのだ。
さすがは女神族である。
レオニーダスくんと女神さまの相談の結果、子を為すのは200年に一度、つまり1つの生に1度ということになり、現在では23人もの子(天使)がいるが、女神さまの愛は全く衰えなかった。
レオニーダスくんが女神さまの神域に行った際には、夜になると必ず女神さまがレオニーダスくんの膝に乗って来ておねだりしてくるほどである。
レオニーダスくんがこれからは神域にも行くと言ったのは中等部に入ったからではなく、そろそろ精通が始まりそうだったからでもある。
初めての精通は女神さまが相手でないと、女神さまがスネるそうだ……
(なんだよそれ! 精通と同時に爆ぜやがれっ!)
女神さまの愛の重さを物語るエピソードをひとつお伝えしよう。
1500年前までは創世女神教神聖国という国があった。
4つの大陸に3000を超える神殿を持ち、信徒数も5000万を超える有力宗教である。
もちろん本物の創世女神さまとは何の関係も無く、単に宗教名と国名がそうなっていただけだったが。
女神さまは気にも止めずにそのままにされていた。
だが、その宗教の教皇猊下の孫がレオニーダス・フェリクス魔導学園中等部を受験して、見事に落とされてしまったのである。
(この宗教の教皇は世襲制だった)
「お、おじいちゃん、ボク悔しいよっ!
答案用紙にはちゃんと全部に創世女神教教皇猊下の嫡孫って書いたのに、ボク落とされちゃったんだもん!」
「な、なんじゃとぉぉぉ―――っ!
それは教皇たるワシに対する侮辱であり、ひいては創世女神さまへの冒涜であるっ!
断じて許さんっ!」
こうして教皇猊下は、全世界の神殿を通じてレオニーダス・フェリクス学園国に対する戦争行為を行うため、創世女神さま神罰軍の結成と聖戦を呼び掛けたのである。
数百か国が連合軍を組めば、あのレオニーダス・フェリクス魔導学園国にも勝利出来ると考え、その場合には莫大な財を奪えるとの計算もあったようだ。
これに女神さまがマジギレした。
「勝手に私の名を使い、教義をデッチ上げたのみならず、愛しいレオさまの国に宗教戦争を仕掛けるとは!
もう許しませんっ!」
女神さまはまず創世女神教神聖国の中央神殿にご自身の分位体を派遣された。
見た目は女神教神殿にある女神像そっくりだが、その身長は30メートルに達し、この宗教では白が女神さまのシンボルカラーであったために真っ白なお姿だった。
この巨大女神像が中央神殿前に顕現したと聞いて教皇猊下は狂喜した。
「創世女神さまが我が聖戦を寿ぐためにご顕現下された!
皆の者女神さまの像の前に膝下低頭し、感謝の祈りを捧げるのじゃ!」
こうして神殿内の全聖職者が女神像前でひれ伏し、熱心な信徒たちがその周囲を取り囲んだのである。
そのとき女神像が御言葉を発せられたのだ!
「勝手にわたくしの名を冠し、勝手に教義を捏造した上に略奪目的の戦争まで起こそうとするこの国は許せませんっ! これより神罰を下しますっ!」
そうして、超特大の雷撃爆裂魔導を中央神殿に落とされたのである。
(もちろん遠隔で超級雷撃爆裂魔導を落としたのはレオニーダスくんだった)
神殿は粉々になった。
しかもその破片は、この宗教では忌避と罪悪の象徴である真っ黒な色に塗り潰されていたのである。
(もちろん着色の魔導によるもの♪)
「あああぁぁぁ―――っ!
わ、ワシの神殿がぁぁぁ―――っ!」
もちろん神殿内部にあった金銀財宝は全て賠償金としてレオニーダス・フェリクス魔導学園国に没収されている。
破壊された神殿は中央神殿だけではなかった。
女神さまは全部で30体の分位体を惑星全域3000の神殿に派遣し、神殿内のヒトを外に転移させた上で、3日かけてすべての神殿を叩き潰されていったのだ。
教皇猊下は一族と侍女侍従を引き連れて別の大神殿に向かわれた。
だがもちろん全ての神殿が黒い瓦礫の山に変えられてしまっていたのである。
教皇猊下は座りションベンをされながら泣き叫んでいらっしゃったそうだ……
こうしてこの宗教と宗教国家は、わずか3日で消え去ってしまったのであった……
尚、略奪目的でこの宗教の名を借りた神罰軍に参加しようと準備を始めていた50か国では、国王と王太子、宰相と軍務大臣の全員がレオニーダス・フェリクス魔導学園国に転移の魔導で捕縛され、禁固30年の判決を受けていた……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねぇ、めーちゃん」
「なんでしょうかレオさま」
「地球ってさ、俺が転生させてもらってすぐあのロシア帝国と中華帝国が世界大戦を起こしたけど、あっというまに大負けして国が無くなっちゃったんだよね。
大陸間弾道弾ミサイルも8割は老朽化で途中で落ちちゃったし、残り2割も全部撃ち落されちゃって」
「はい」
「それでもその2国の元首が自国の反乱軍に殺されそうになったとき、悔し紛れに自国内に向けて中距離核ミサイルを撃ちまくったんでしょ。
外国向けの大陸間弾道弾より国内向けの中距離弾道弾の方が遥かに多かったのは異常としか思えないけど。
万が一の軍の反乱に備えて中距離弾道弾の照準は全ての自国内の軍事基地に合わせてたそうだし。
まあいくら連合国でも敵国内部から内部への核攻撃は防げないよね。
それで地球全域に核の冬が来ちゃって、地球の人口が10分の1になっちゃってたんだよね。
ったくどっちの国も法律を改悪して元首が10年以上とか30年近くも国家元首に居座ってたしょーもない国だからなぁ」
「そうらしいですね」
「しかも敵国より自国内の自分に従わない者ほど憎悪して殺そうとするし。
まあ建国当時からずっとそういう国だったけど。
なにしろヒトラーと並んで世界3大殺人者と言われるスターリンと毛沢東は、双方の国の国家元首だった奴だしね。
しかも2人とも大量に殺したのは敵国の民じゃあなくって自国の民だったし。
つまりロシア大統領は自分の国の国民だと思ってた奴らが逆らったからウクライナ地方に攻め込んだし、中華帝国のプーさん主席も自分の下僕だと思ってた民が言う事聞かないからムカついて台湾県に攻め込んだつもりだったわけだ。
まあ片方は反乱軍から逃げようとして下水道内で足を滑らせて溺死しちゃって、もう片方は落ち武者狩りの農民に竹槍で突き殺されちゃったらしいけど。
でもおかげでせっかく勝った連合国側も大変な迷惑を被ることになったわけだね。
みんなあの国々の元首があそこまでトチ狂ってるとは思ってなかったから」
「ええ。
特に日本では核爆発の擾乱でインターネットが使えなくなったために、禁断症状で発狂したひとが3000万人も出てたいへんだったとか。
みなさん『アタマの中にWi‐Fiが届くようになったぁっ!』とか叫び廻っていたそうです。
それも若い人から発狂したので、残った方々の平均年齢は75歳を超えたそうですね」
「それでその後どうなったの?」
「核の冬から脱するために、生き残った各国が必死になって二酸化炭素を排出して温暖化を図ったようなんですけど。
アマゾンの大森林にミサイル1万発を撃ち込んで燃やして二酸化炭素にしようとしたら、煙とチリが舞い上がって、かえって寒冷化が進んだそうです。
それで現在では惑星人口が1億人を下回ってしまっているらしいんです」
「地球の女神さまはどうしてるのかな」
「あまりのショックに寝込まれているとか」
「お気の毒に。
5000年も寝込んでいるのか……」
「ですがわたしたち女神族の寿命から見て、地球人がインフルエンザで5日寝込む程度の感覚でしょうか」
「そうか……
確か地球とこの星の距離って1万光年ぐらいだったよね。
それぐらいなら転移出来るかな」
「今のレオさまなら簡単でしょう♡」
「まあ転生させてもらった恩もあるし、あと500年ばかり経ってこの星がもう少しだけまともになったら、俺が何度か転移で出張して立て直してあげようか。
そのときは一緒に行こうよめーちゃん。
もしこっちで何かあってもすぐに戻って来られるから」
「うふふ、なにしろレオさまはわたくしがここ5000年で8回も銀河系の『女神・オブ・ザ・センチュリー』を受賞させてもらった大功労者ですからね。
地球の女神さまも喜ぶと思います」
「それじゃあ少しでも早く地球に行けるように頑張ろうか」
「はい♡……」
(おわり)




