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*** 25 感謝と忠誠心 ***

 


 別の大使閣下も質問して来た。


「そういえば先ほど各国の飢饉の際にも介入すると仰られていましたが、どのように介入するのでしょうか」


「まずは惑星管理省からの連絡により、救援省が飢饉の起きている現場に調査員を派遣します。

 転移で派遣するので時間はかかりません。

 その調査員の通信報告により、医療部隊、救助部隊、仮設住宅設置部隊、食料等輸送部隊、調理部隊などを合わせた総合救援部隊が派遣されて現地住民の救援に当たります。

 命の危機にある住民などは我が国の治療施設に転移されて治療を受けることもあります」


「あの、現地の貴族領主などが領兵を派遣して、領内に侵入した罪をもってその財や食料などを奪おうとするのでは」


「その場合には略奪を命じた領主と領軍は転移の魔導でこの国の牢に収監されます。

 領兵などは単に命じられただけなので10日ほどの拘留でしょうが、領主は最低禁固3年でしょうね。

 明らかに略奪目的だった場合には禁固30年です。

 被災住民に対する救援物資を私欲のために奪おうとする領主は許せません」


「あの、それでも救援部隊が引き上げた後、次の領主が村に物資を奪いに来ませんか?」


「その場合にも次の領主と領兵に消えてもらうだけでしょうね。

 それから、村人たちにはこの魔導学園国への移住を推奨しています。

 通常農民の方々は住み慣れた村や自分の畑から離れたがらないのですが、魔導学園国には税が無いこと、住居はすべて国が用意して住居費も無いこと、そして学園初等部で学んで一定の成績を上げれば、畑付きの村を支給されると聞くと、ほとんどの村人が移住を選択します。

 もちろん移住前には村長さんや村の主だった方々にこの国の見学にも来てもらっていますし」


「あの、それは農民の逃散に当たりますので、領主側も必死になって阻止するのでは……」


「我が国では、『居住の自由』『国籍の自由』と言って、本人の意思で国を変えたり移住することを妨げることは許させていません。

 もしこれを妨害するようならばその領主も牢に収監されるでしょう」


((( ………… )))


「あ!

 そういえば我が国では30年ほど前に、洪水で畑を流された村の住民300名が忽然と消えたことがあったのですが、あれもまさか!」


「間違いなく我が国に移住されたのでしょうね」


「あの、移住者は元からの住民に排斥される傾向があると聞いたのですが……」



 局長は傍らにいた部下に指示を出した。


「予定を若干変更して例の村の上空に向かってくれるか」


「はい」



 ここで局長は背筋を伸ばして胸を張り、大使閣下たちに向き直った。


「私の祖父は70年前まで或る国の農村に住んでいました。

 ですが酷い日照りのせいで村の作物が全滅してしまったのです。

 村人たちは必死で川や井戸から水を汲んで畑に撒いたのですが、それでも作物は全て枯れてしまったのですよ。

 村長が領主に救援を求めても完全に無視されました。

 それどころか、もし税が納められなければ、村長を始め村の主だった者たちを死罪にすると激怒していたそうです。

 当時20歳だったわたしの祖父は新婚の祖母と共に死を覚悟したそうですね。


 そこに魔導学園国の救援部隊がやってきました。

 もちろん村人全員が移住に同意し、数日後には学園国に転移して行ったのです。

 何の救援もせずに死罪にすると脅しただけの領主は、すぐに魔導国の牢に転移させられました。


 そして祖父たちはまず学園の初等部で学び、それから畑付きの村を貰い、わたくしの父を育てながら働きました。

 そうして父もその村で働きながら結婚して生まれたのがわたくしです。

 わたくしは魔導学園で真剣に学び、大学部の政治・経済学部を次席の成績で卒業出来たおかげで、今や魔導学園国外務省のナンバー4である局長にまで成れています。

 祖父母も墓の中で喜んでいてくれることでしょう。


 わたくしにはまだまだ至らないところが多々ありますが、このレオニーダス・フェリクス魔導学園国に対する感謝の念と忠誠心だけは誰にも負けません」


((( …………………… )))


「あ、そろそろ見えて来ましたね。

 あれがわたくしが生まれ育った村で、今では弟が村長をしています」


 その村では大勢の子供たちや村人たちが上空の飛行魔導機に笑顔で手を振っていたのである……

 きっと魔導通信により、村長の兄である外務省局長閣下が国賓を連れて飛行魔導機に乗り、視察に来ることが伝えられていたのだろう。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 レオニーダス・フェリクス魔導学園国の見学会に参加した多少なりともまとも(・・・)な感性を持った大使たちは、それからも感銘を受け続けていた。



(それにしても移民で農民の子が、努力次第で外務省のナンバー4にまで上り詰めることが出来、あれほどまでの国への忠誠心を持てる社会か。

 我が国の平民の内、何人が国への感謝と忠誠心を持つというのだ……)


(あの魔導機械化された農村、我が国の実質50倍と言っていい小麦の生産性を齎した農業知識、さらにはあの農民たちの笑顔、どれをとっても凄まじき国だ……)


(この星でも圧倒的に大きく強く豊かな国が、平民の作った平民しかいない国だとはな。

 我ら王族や貴族には何か問題があるのだろうか……)


(豊かさという点で、この国と我が国の間には隔絶された違いがある。

 それは何が違うのだろう。

 やはり魔導と知識か。

 ああ、だからここは『魔導学園国』なのだな。

 しかもその魔導も知識も、ほとんどすべてが公開されており、学園に入学さえ出来れば誰でも得られるものだとは……)


(いろいろ驚かされたが、あの料理も酒も素晴らしかった。

 酒と料理の質はその国の文化の程度を表すというが、我が国は文化の点でもこの国に完敗か。

 なにしろうちの国の宮廷晩餐会で出される菓子とは、小麦を水で溶いたものを焼いた上に砂糖を山盛りに乗せただけのものだからな。

 あんなものは高価な砂糖を買うことが出来るという見栄を見せつけるだけのものであろう。

 文化の欠片も無い)


(あのムラサキ王国の話は実に興味深かった。

 王族や上位貴族が農業や商業を下賤なものと見做すのは間違っているのかもしれん。

 その双方から上がる税で暮らしているというのに。

 我が子や孫たちにもこの国の魔導学園にて学問を受けさせたいものだ……)


(国内に農業研究所を作って生産性を上げつつある国がもう30か国もあるとは。

 我が国ではいつになることやら……)


(あの『えいが』というものも素晴らしかった。

 劇場の座席数から見てあれほど多くの民が一度に楽しめるものであるとは。

 それにしてもいったいどうやって絵を動かしているのだろう……)




 一方で大使閣下が見学会に参加せず、若手大使館員だけを見学会に派遣した大使館では。


「なんだこの報告書は!

 平民しかいない国がこのように豊かであるはずが無かろう!

 その方ら夢でも見ていたのか!」


 だが、この大使は『報告書は本国にも送っておけ』という指示を取り消すのを忘れていたのである。

 おかげで興味を持った王太子からの問い合わせにも碌に答えられず、大汗をかいたのであった。




「なんだこの報告書は!

 巨大な魔導車が100人近い人を乗せて、馬よりも速く空を飛んだだと!

 そのような物があるはずがなかろう!」


「で、ですが閣下、我らは実際にその魔導機に乗って飛びましたが」


「ええい!

 そのような物が平民しかいない国で作れるはずがなかろう!」


 そう、自分の常識で測れないモノが存在した時、例え実際に見聞きした人物から直接聞いたとしても、愚かな者ほど容易にそれを信じられないのである。

 知性と客観性に欠けた人物には、誠にありきたりなことであった。




 一方で見学会に参加しなかった大使閣下の中で別の反応を示した者もいた。


「なに!

 この国では他国が飢饉に陥った際に、食料を援助しているだと!

 ならばその方ら、この国の外務省に赴いて、我が侯爵領が飢饉に陥っていると言い、食料援助を命じて来い!

 そうだな、とりあえず麦50万石を要求せよ!

 ぐふふふ、これで我が侯爵領は国一番の豊かな領となろうぞ!」


 翌日。


「侯爵大使閣下、魔導学園国外務省より食料援助申請書を受け取って参りました。

 援助要請の理由や援助希望量などを記載の上、閣下のサインを求められております」


「ふん、その方らが記入しておけ!

 サインだけはしてやろう。

 それにしてもワシのサインが欲しいとな。

 平民にしては殊勝な者共であるな。

 どれ、このような紙切れでなく、特別に色紙にサインしてやろうではないか」


「あの、閣下……

 念のためこちらの書類にもサインをお願いいたします……」



 数日後。


 魔導学園国外務省からこの大使館に1枚の文書が届けられたのである。


『貴国フルチーン侯爵領に飢饉の兆候なし。

 よって貴国侯爵大使閣下は大規模詐欺罪にて魔導学園国の牢に20年間収容されることとなりました』


 同時に侯爵大使閣下はその場から消え失せられたのであった……

 もちろんこの国の王城にも、同じ文言の文書と共に侯爵大使閣下のサインが入った食料援助申請書の写しが届けられている。


 こうして大使閣下が詐欺罪で収監されてしまった大使館は80もあったそうだ。

 だがそれぞれの本国からの抗議はいずれも表面的なもので、強硬なものは無かったらしい。

 なぜならどの国の国王も、直轄領を増やすためにあらゆる機会を利用して貴族家を取り潰さんとしているからである。

 つまり国王は抗議どころか感謝をしていたのであった……





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