*** 24 惑星管理省 ***
またある大使は。
「なんだこの貧相な部屋は!
王族(註:第13王子)である余になんという無礼を働くかっ!」
貴賓室に案内せよっ!」
「残念ながらこの魔導機には貴賓室はございませんが、特別展望室ならばございます。
そちらにされますか?」
「最初からそこに案内しろっ!」
10か国の大使閣下と護衛合計20名は全員が特別展望室に入った。
「な、なんだこの部屋はっ!
床も無く外の石畳が見えているではないかぁっ!
ふ、ふざけるなぁっ!」
「いえいえ、これは床が無いのではなく、透明な結界が張ってあるのです」
「なにっ……」
「それではそろそろ離陸いたしますね」
((( ……離陸?…… )))
そして飛行魔導機が浮き始めると……
「ぎゃぁぁぁ―――っ!」
「怖いよ怖いよぉ―――っ!」
「助けてママあぁぁぁ―――っ!」
飛行魔導機の高度が徐々に上がり、対地速度も上がり始めると一行の混乱度合いもますます上がった。
そうして全員が気絶してしまったのである。
透明な床にはやや色のついた水が溜まり始めたため、案内員は慌てて転移で避難していた。
尚、仰向けに倒れている者はまだしも、俯せに倒れていた者は相当に悲惨であったようだ……
(全く、案内状には『飛行の魔導機にて見学』とちゃんと書いてあったというのに……
案内状をちゃんと読まなかったか、それとも字も読めないのか……)
小阿呆大使グループでは。
「ふむ、ここが農村か。
して、この国の小麦の取れ高は如何ほどじゃ」
「昨年の取れ高は50億石ほどでございました」
「ん? 50億石とは何石のことじゃ」
(なにコイツ?)
「あの、貴国の石高は如何ほどでございましょうか……」
「驚け。
我が国の石高は5万石で、我が侯爵領の石高は5000石もあるのじゃぞ!」
「あの、50億石とは5万石の10万倍のことで、5000石の100万倍のことです
「そうかそうか、して、100万倍とは何のことじゃ?」
(ダメだこりゃ。
相手が阿呆すぎるとフツーの会話も出来ないんだな……
あ、そうか、王族や貴族って偉そうに喋って威厳さえ保てれば、話の中身なんてどうでもいいし、話を繋ぐための教養も要らないんだ……
大勢で会話していても、きっと各人が好きなことを言っているだけなんだろう)
そして比較的マトモと見做された大使たちは……
飛行魔導機が離陸して飛び始めると、大使の一人が早速質問を始めた。
尚、この魔導機には念のため外務省の局長級か副局長級の高官も同乗している。
「お聞かせ願いたい。
この魔導機には最大何人乗れるのだろうか」
「定員は300名ですが、詰め込めば1000名でしょうね」
「制限重量は無いのか」
「この機は魔導で飛んでおりますのでございません。
まあ加速や減速が若干遅くなるだけです」
「このような魔導機を貴国は何機保有しているのか」
「現在は100機です」
「ふむぅ、それだけあれば十分か。
航続可能時間と最大速度は」
「この魔導機の動力源は魔導車と同じ魔石ですので、航続可能時間は年単位になります。
また最大速度は時速3000キロですが、推奨速度は時速1000キロまでですね」
「ということは、ここから2000キロ離れた我が国の王城に数時間で10万の兵を送り込めるということか……」
「やれと言われれば可能ですが、そのようなことをしたことはありませんし、これからもしないでしょう」
「何故だ。
そうすれば如何なる国でも滅ぼし、その地を支配出来るであろうに」
外務省の局長が案内係を目で制した。
「ここからはわたくしがお答えいたしましょう。
我が国は武力をもって他国に侵攻することを国の基本法によって禁じられておるからです」
「それは何故か」
「この国は2500年前に極大賢者レオニーダス・フェリクスにより建国されて以来一度もその基本法を変えておりません。
そしてその建国の目的はレオニーダス・フェリクス魔導学園を安定的、発展的に運営することでありまして、そのためこの惑星全域から有為の人材を集めるよう義務付けられています。
ですので他国に軍事力をもって侵攻することは厳に禁じられているのです。
そのようなことをすれば人材が集められなくなりますので」
「むう」
「ただし、他国同士の戦乱、他国の内乱、飢饉や苛斂誅求などについては積極的に介入することも義務付けられています」
「武力を用いずにして如何に介入するのか」
「我が国を含む他国に攻め込むよう命じた国王、宰相、軍務大臣などを、遠隔転移の魔導でこの国の牢に収容します。
この国では他国への侵攻は重罪と見做されますので、国王は禁固30年から終身刑までの刑を言い渡されることでしょう」
「「「 !!! 」」」
「それでも戦を止めようとしなければ、王太子を始めとする王族、上位貴族なども全て収容します。
その後継を名乗って戦を継続しようとする者も同様です。
それでも戦を続行しようとすれば、兵もすべて収容します。
まあ兵の場合は全て武装解除した後に王城に戻してやりますが」
「そ、そのようなことが可能であるというのか……」
「はい。
この国には建国以来5200の国が財を狙って侵攻して来ましたが、こうした手段でことごとく撃退して来ました。
また、他国間の戦や他国内の内戦もすべて鎮圧して来ましたが、それに付随して牢に収監した王族や上位貴族は合計30万人を超えております」
「「「 !!! 」」」
「また、民に重税を課す国王や上位貴族も積極的に収監し、税率の上限を収穫の40%とする約定を交わした場合にのみ釈放しています」
「だ、だから我が国の民への最高税率も40%から上げないのだな……」
「はい、まあ上げないというより上げられないのでしょうが。
国王も貴族家当主も死ぬまで牢にいたくはないでしょうから」
「「「 ………… 」」」
「それから税率を収穫の40%とした理由は、定額制にすると旱魃や長雨、洪水による収穫の激減に際し、農民が飢餓の危機に陥るからです。
また被災地から遠い王都でも、税の低下によって何らかの理由で収穫が激減したことを理解出来るでしょう。
そうなれば対策を打とうとするかもしれません」
「そのような監視体制まで取っておるというのか。
それは間諜によるものか?」
「いえいえ、各国に平均2000か所ほど置いてあるマーカーを通じて、ここ魔導学園国から遠隔魔導にて監視しています。
王城や閣議の間、王族の執務室などはもちろん、各地方領主邸、各村の村長宅などですね」
「よくそこまでのことが出来るものだ……」
「我が国の『惑星管理省』には200万人の職員がおりますので」
「「「 !!!!! 」」」
((( わ、我が国の総人口より遥かに多いではないか! )))
各国の大使たちの額に汗が滲み始めている。
「こ、この国の面積、石高、また総人口は……」
「この国の総面積は1500万平方キロです。
これはここ中央大陸だけでなく、4つの大陸の陸地面積をすべて合計したものの約1割に当たりますね」
「「「 !!! 」」」
「昨年の石高は小麦だけで50億石、それ以外にも野菜や果物も大量に作っています。
国の人口は現在約4億になります」
「「「 !!!!! 」」」
「ぜ、税率は……」
「この国に税はありません」
「「「 !!!!! 」」」
「人口に比べて収穫量が多すぎるような気もするが……」
「将来には惑星規模の大飢饉が起きるかもしれません。
そうした時に惑星上全ての人々が千年生きて行けるだけの食料を備蓄するのが目的です。
もちろんその食料は異次元にある時間停止機能付き魔導倉庫に保存してありますので、腐ることも古くなって味が落ちることもありませんので。
中には2000年前に収穫した小麦もあるはずです」
「「「 !!!!! 」」」
「そ、それだけ大量の麦であれば売って金貨に代えることも出来まい。
税も無い国に財はあるのか?」
「金貨を100キロ分詰めた中樽が50億個あります」
「「「 !!!!! 」」」
「い、いったいどのようにして、そこまでの金貨を……」
「それはこの国の最高機密のうちの1つになっています。
実はわたくしもその方法を知りません」
「「「 ………… 」」」
「まあ金貨は食べられませんからね。
食料備蓄の方が遥かに重要ですよ」




