*** 22 国土見学会 ***
まずは中等部生徒たちの国土見学会が始まった。
生徒たちは学園から転移門で飛行場のポートに移動し、飛行魔導機に乗り込むと空中から国を見学していく。
高層建築に昇ったことはあるものの、飛行魔導機に乗るのはもちろん初めての生徒たちは大喜びである。
垂直に浮かび上がった魔動機は空中を時速100キロから1000キロほどまでの速度で移動を始め、まず農村部の小麦畑、野菜畑、果樹園、北部山麓の甜菜畑などの上空を飛んでいた。
まだ慣れない案内員がメモを見ながら必死に案内をしているが、そのうちに録音の魔導具でアナウンスが流れるようになるだろう。
昼には湖の畔に建設された展望レストランにて昼食になる。
学園の食堂と同様なメニューに加えて、イタリアンや中華料理の新メニュー、パフェやショートケーキなどの新作スイーツなども供されていた。
その後は中央街に戻っての映画鑑賞になる。
レオニーダスくんは、5000年前にこの星に転生した際、女神さまたちに頼んで膨大なネット資料も入手させてもらっていたが、ついでに大量の映画もゲットしていたのである。
初等部と中等部の児童・生徒たちにはアニメが、高等部、大学部、教員たちには試しにアニメに加えて古代の戦争モノやSF映画などを見せてみたが、大人たちに最もウケたのもまたアニメだったようだ。
あまりにも好評だったために、今後映画館は国内各地に100か所ほど建設される予定である。
「お師匠さま、ご視察の方は如何でございましたでしょうか」
「素晴らしかったよ。
クラスメイトたちもみんな喜んでいたし。
ボクが思っていた以上の出来栄えだったね。
特にあの飛行魔導機の特別展望室は秀逸だったよ。
開発・製造に携わったひとたちにお礼を言っておいてくれるかな」
「それはようございました。
皆も大いに喜ぶと思います」
ただし、あのバフンくんのような王族貴族家出身者たちは、あまりの国力の差に呆然とし、口も利けなくなっている。
なにしろ農民がたった300人しかいない村で、小麦だけで5000石の収穫があるというのだ。
(その他野菜や果物、食肉や鶏卵の収穫も小麦換算で5000石相当)
そうした村が全土で100万もあるというのである。
因みにバフンくんの母国であるウーニー王国の総石高は6万石しかない。
つまり、このレオニーダス・フェリクス魔導学園国の村12個分でしかないのである。
さらに王家直轄領と貴族領からの上納を合わせても、王家の収入は2万石でしかない。
要はレオニーダス・フェリクス魔導学園国の農村4つ分でしかなかったのであった。
何人かは展望室で気絶し、せっかくのスイーツも食べられなかったようだ……
こうしてすべての学生や教員が見学を終えると、次に798ある各国の大使館に魔導学園国外務省から国内見学会の招待状が送られたのである。
「大使閣下、魔導学園国外務省より学園国内見学会の案内状が届いております」
「ふん! こんな平民共の国の何を見学させるというのだ!」
「ただし随行員は2名まで、護衛も含めて武装はお断りするとのことですし、また30か国ほどの国と合同の見学会になるそうです」
「無礼者めっ!
ワシを招待するのになんという不遜な条件だっ!
さすがは王族貴族のいない下賤なる国であるの!」
「…………」
「そのような招待に高貴なワシが応じる必要は無いっ!
その方ら3名で出向き、後で奴らの貧弱な国の内実を報告せよ!
本国にも報告書を送れ。
さすればこのような下賤なる国にワシのような高貴な者を配するのは無駄だとよくわかるだろう!」
「「「 はっ 」」」
こうして500か国ほどの大使は欠席し、中・下級貴族家出身の大使館員が見学に来ることになったのである。
ただ、大使自らが見学に来ることを決めた国も300か国ほどあった。
これらの大使たちの多くももちろん何も考えていなかった。
パーティーや晩餐会に呼ばれるのはそもそも王族貴族の習いであったが故に参加を決めただけである。
ただ、ある程度の観察眼を持っており、魔導学園国の恐るべき実力を肌で感じ取っていた大使もそれなりにいた。
見学用の飛行魔導機は、大使を含むグループ用と大使館員のみのグループ用に分けられている。
どちらのグループでも、飛行魔導機が離陸すると盛大な悲鳴が上がった。
彼らは本国ではもちろん高層建築などは見たことがないし、大使館の有る中央街周辺でもせいぜいが8階建てほどの高さだった。
(学園中央の本部建物は82階建てだったが、魔導学園は大使館街から300キロ近く離れている上に、隠蔽の魔導がかかっていて見えない)
大使館員のみのグループでは。
3層になっている3つの展望室では、大使館員たちが周囲の大型ガラス窓付近から逃げ出し、中央部に固まって腰を抜かしている。
この飛行魔導機はほとんど揺れないが、少しでも加速や減速をするとやはり悲鳴が上がっていた。
だが、若い大使館員などは次第に窓に近づいて行ったようだ。
飛行魔導機は農村部上空を飛行していた。
眼下の様子を案内人が解説している。
「あの、農村を中心に見渡す限り畑があるんですが……
それも整然と区画された」
「そうですね、こうした村では農民の居住区や倉庫を中心にして、周囲には約100ヘクタールほどの畑があります)
(1ヘクタール:100メートル四方の土地、1万平方メートル)
「それほどの広さの畑なら、大変な数の農民がいるのですね」
彼は農政に詳しいようだ。
きっと下級貴族出身者で領地で育ったのだろう。
「いえいえ、村1つにつき300人ほどですね。
ですので老人や子供を除いた労働人口は200人ほどでしょうか」
「い、いくらなんでもそのような少人数でこれだけの畑を運営するのは無理でしょうに。
水撒きだけでもたいへんな重労働でしょう」
「水撒きは魔導具で行っていますので、しばらく雨が降らなかったときに水撒きが必要だと判断した村長がボタンを押すだけです」
「は?」
「あ、ちょうど水撒きが始まったようですね」
よく見れば眼下の畑では倉庫から発進した小型の飛行魔導機が飛び回り始めていた。
その魔導機の底部からは雨粒状の水が噴き出している。
「「「 ………… 」」」
「あ、あの水はどこから来ているのでしょうか!
見たところ川も溜池もありませんし!」
「ここから2000キロほど東に行った大山脈の麓には多くの川やダムがあります。
そこの水を収納魔導で収納庫に入れ、あの小型飛行魔導機に転移魔導で送っています」
「「「 !!! 」」」
「そ、それでもこれだけの畑から麦を刈り取るにはとても200人では……」
「それでは実際に麦の刈り取りを始めた村の上空に移動いたしましょうか」
その村の畑では、かなり大きな魔導車10台ほどにそれぞれ農民が乗り込み、整然と斜向列を組んで移動していた。
その魔導車が通ると畑の麦は全て刈り取られていっている。
「あ、あれは……」
「あれは『ハーベスター』の魔導車です。
御覧の通り麦の穂を刈り取りながら脱穀し、麦の実と麦の茎に分けてから後部にある運搬用の荷台に溜めています。
この後、麦の実は倉庫に運んで乾燥させて収納魔導庫に保存することになるでしょう」
「「「 ………… 」」」
「あの!
この国の畑の総面積はどれほどなのでしょうか!」
「現在では畑の総面積は1億ヘクタールほどです。
つまり100万平方キロになり、すべて集めれば1辺1000キロメートルほどの畑になりますね」
「「「 !!! 」」」
「こ、石高は……」
「私共の国では1反の畑から年間最大30石の麦が取れます。
ですので全ての畑で麦を作ったとすれば、年間150億石ほどの麦が取れることになります」
「「「 !!!!!! 」」」
(な、なあ、ウチの国の公称石高って8万石で、実際には5万石ぐらいだよな。
150億石ってその何倍だ?)
(えーっと…… 30万倍だな)
(マジかよ、ウチの国30万個分かよ……)
「ですが、同じ畑で麦を作り続けますと畑の栄養分が毎年失われていって、収穫量がどんどん減っていきます。
ですので1年間麦を作ったら、翌年は豆やクローバーを植えて地力を回復させます。
豆はそのまま油や食料になりますし、クローバーは牛が好んで食べますしね」
「あの、小麦の次に豆や草を作ると地力が回復するのですか?
そうすればまた1反の畑から1石の麦が取れるようになるのでしょうか」
「それ以外にも畑の土に肥料を混ぜたり、正条植や塩水選などの工夫をし、なおかつ春小麦と冬小麦の2毛作を行えば、この国のように1反から最大年30石の麦を得られるようになります」
「「「 !!!! 」」」
「ですがまあ、そんなことを続けているとすぐに畑が弱って収穫が減ってしまいますし、実際には豆やクローバーを育ててもいますので、実際の麦の石高は50億石ほどでしょう」
「あの、こんなことを申し上げるのもどうかと思うのですが……
そのような貴重な情報を我々のような他国の者に教えてもよろしいのでしょうか……」
「いえいえ、こうした情報は2000年以上前から魔導学園の高等部や大学部の農学教室で教えていますよ?
ですからみなさんも高等部で学習すれば得られる情報です」
「「「 ………… 」」」
「あの、この国には全ての国民に学園で学ぶ義務があると聞いたのですが。
これら農村にそれぞれ学園があるのでしょうか」
「いえ、農村の幼児、児童は村の中央部にある転移門から魔導学園の幼年部や初等部に通っています。
中等部以上では寮生活になりますが」
「「「 !!!! 」」」
「そ、そのように大量の転移門があるのですか……」
「はい」
「「「 ………… 」」」




