*** 21 ずっと初代理事長閣下のまま ***
「と、ところでさ……
ボクもこれからずっとあのひとたちと家族として暮らして行きたいとは思ってるんだ。
女神さまに頼んでみんなに命の加護もかけてもらってるけど、それでも彼らのことは大事にしてあげてくれないかな」
「もちろんでございますよ。
お師匠さまのご推薦によって副理事長にまでしていただきましたし、副理事長の3代までの子孫ともなれば国の保護も終生続きますし」
「キミが副理事長になったのはあの『ウイルス感染症治療の魔導具』の開発をしたからであって、ボクの力じゃないよ。
なにしろ治癒の魔導は主に怪我なんかの外科治療に効果のあるもので重篤な疾病治療には限界があったから、癌は切除出来てもウイルス性疾患治療は無理だったもの。
それにしてもすごい魔導具だよね。
きっとこれからずっと何億何十億の人々の命を救っていくだろう。
副理事長に推挙されるのには当然の業績だ。
おかげでこれからますます惑星人口も増えて行くだろう」
「それもあなたさまが『電子顕微鏡の魔導具』を作ってくださったからこそです。
まさか光学顕微鏡の拡大倍率を遥かに上回る顕微鏡を開発されるとは」
「まあ、あれは21世紀の地球にそういうものがあるって知ってたからだよ。
『そういうものがある』ってわかれば開発は出来るから」
「はは、そうなのですね。
ですがあの魔導式を相手の脳内に直接送る『送信』は、地球にもございませんでしたでしょう。
あの『おなら魔導』も『鼻毛や腋毛の魔導』も」
「ははは、『送信』の魔導は単にそうした魔導があれば生徒にいろんな魔導を教えてやれて便利だなって思っただけだし、あの非殺傷性魔導は単なるジョークだよ」
「そのジョークが、わたくしも含めて思春期の児童生徒たちを恐怖のどん底に落としたのですな」
「ま、まあ効果は精々3日間にしたから見逃して欲しいかな。
おなら魔導は女の子には使ってないし」
「それにしても、やはり今生でもレオニーダス・フェリクスさまの正体は隠されるのですか」
「まあ肉体的にはボクはスピッツくんの曾孫だからね、文句を言う奴が出て来るかもしれないし」
「実質的にはこの2500年間ずっと初代理事長閣下のままでしたでしょうに。
しかもそれ以前の2000年も国どころか山脈も大湖もずっと造り続けておられた建国者であらせられますし」
「確かに最初に転生してきてからすぐは大変だったよ。
最初の500年ぐらいは女神さまの神域でずっと魔導や体術の訓練に明け暮れて。
その後は下界に降りて国造りというか土木工事を始めたけどさ。
でも土木工事を終えてからも結構大変だったかな。
なにしろ200年生きた後は転生するから10年ぐらいは結構無防備だし。
まあ女神さまの配下の大天使さんや天使さんたちが下界に顕現して、ボクやボクの家族を守ってくれてたからなんとかなってたし、そのうち大天使さんが王になってクニを作って侵略者に対処してくれてたから。
でもボクの魔導レベルが100万を超えたころになるとそれなりに楽になったかな。
7歳ぐらいになるとボクや家族だけじゃあなくって家族のいる村もクニも魔導で守れるようになったし。
それでも天使さんたちは、レオニーダス・フェリクス魔導学園国を作ってからも1000年ぐらいは下界にいて助けてくれてたんだ。
スピッツくんみたいな優秀な理事さんたちに任せられるようになったのは、ほんとここ1500年ぐらいなんだよ。
まあ今でも天使さんたちは神域からいつも見守ってくれてるんだけどさ」
「それはそれは……」
「だから代々の副理事長さんたちに頼んで、レストラン部門から料理を神域に転移してもらってるんだ。
ヒト族の作った料理って女神さまも天使さんたちも、ものすごく喜ぶからね。
そもそも彼らって魔素さえあれば生きていけるから、料理っていう文化も技能も無いから。
でも味だけは楽しむことが出来るんだ。
おかげでずいぶん喜んでくれてるよ。
ありがとうね」
「お安い御用でございますよ。
なにせ建国を支えて下さった大恩人の方々ですし」
「それでこの学園の理事長であるボクの正体についてだけど、5000年に渡って26回も転生してるなんて誰にも信じてもらえないと思うんだ。
それにもし信じても、『ワシも転生させて永遠の命をよこせ!』とか『ワシこそがレオニーダス・フェリクスの転生した身であるのだからして、ワシを国家元首とせよ!』とか言って来る阿呆が山のように押し寄せて来るだろうから面倒でしょ。
自分を神の化身だと思い込んでる宗教国家の教祖サマとか。
だから正体不明の方がいいんじゃないかな」
「そうですか……」
「ところでさ、この国もいよいよ次のステップに進んでもいい頃だと思うんだ。
それであの『大型飛行魔導機』の定員300人ぐらいのやつを100機ほど製造してくれないかな。
それから料理開発部門に頼んで、以前に渡したレシピから料理の再現も頼むよ。
あとは建設部門にお願いして映画館や劇場みたいな各種娯楽施設の建設も始めておいてね」
「ということは、これからは各国大使や視察団にこの国の見学をお許しになられるということなのですね」
「うん、それで影響を受けてこの学園にもっと受験生を送り込みたいとか、自国にも農業研究所を作りたいとか思う国も出て来るかもしれないよね」
「畏まりました。
理事長閣下の設計したものを作れる技術者たちも、閣下のレシピを再現出来る料理研究所の者たちも喜ぶと思います」
時は戻って現在。
レオニーくんはまた副理事長室を訪れていた。
スピッツベルゲン副理事長が居住いを正している。
「あの初等算術再学習の教師に関しましては大変に失礼いたしました。
まさかあのような愚か者がまだ学園に残っていたとは……」
「まあ学生の評価なんていうちっぽけな権力を与えられたヒトが増長するなんてよくある話だよ。
でも魔導で授業内容を記録するようになったからこそ、あの手の輩をすぐ排除出来たじゃない。
翌週から代わったあの算術課の主任さんなんかかなり立派だったよ。
それにあの政治講座のスコットニー教授も実に熱心だったし」
「あの、他に何か問題点にはお気づきになられましたでしょうか……」
「あのバフン王子みたいなアホな奴もまだまだ多いけどさ。
全体ではゆっくりとだけど確実にいい方向に向かってるんじゃないかな。
あのムラサキ王国みたいに進歩し始めた国もあるし、学園の卒業生が国に帰って先進農業を始めてる国も30か国に達したみたいだし。
全般にかなり順調に行ってると思うんだ」
「畏れ入ります……」
「それにしても、あのバフンやその取り巻きたちって、よくこの学園に入学出来たよなぁ」
「はは、それも理事長閣下ご自身がお決めになられたことでしょうに。
ここ魔導学園初等部の卒業生は約90万人で、全員が中等部を受験します。
ですが合格者が約100万人という事は、10万人の合格者は他国の者になるでしょう。
しかもそのほとんどが王族貴族家関係者です。
ムラサキ王国のように平民学校を作っている国はまだまだ少ないですからな。
ということは、入試成績上位90万人と下位10万人では大きな得点の隔たりがあります。
それぞれの平均点は800点と120点ぐらいになりましょうか。
ですので、もし合格者を90万人としていたら王族貴族の合格者は間違いなくゼロになるでしょう」
「それもそうだけど」
「ほんの少しでも各国の貴族王族に現実を見せてやり、たとえ微々たるものでも彼らの意識を改善出来たらと、『阿呆枠』として10万人も受け入れるようにされたのは、他ならぬあなたさまでございましょうに」
「まあ中等部の学生がこの魔導学園国出身者だけになると、学園の生徒たちに『この国の外にはこんなにも阿呆な貴族王族がいるんだよ』と教えてやれないからなぁ」
「そのような『阿呆枠』の中で15浪も20浪もしていたなら、あのバフンたちのような者でも合格出来るのでしょうね」
「はははは」
「ところであの『鼻魔導』はいつまで効力があるのでしょうか」
「あの鼻魔導はバフンくんたちが反省するまでもう少し長く続けるつもりなんだ。
停学期間が終わったらいったん鼻は元通りにしてあげるけど、鼻魔導そのものは継続しようか」
「それはそれは……
一度元通りになった鼻が再び伸び始めたらさぞかし落ち込むことでしょうな。
それならば多少は反省するかもしれません」
「まあ無理かもしれないけど一応期待しておこう」
(因みに停学期間終了間際のバフンくんたちは、首や体の周りに30メートル級にまで成長した鼻が巻き付いており、転んでも1人では起き上がれない状態になっているらしい)
「ところで昨年来製造しておりました魔導機械や建築物、料理などが完成しておりますが、ご視察は如何いたしましょうか」
「そうだね、まずは今年の中等部合格者の内上位3万人に見学させようか。
そうすれば僕も視察出来るし。
もちろんその後は順番に中等部から大学院までの学生たち、先生や教授たちにも交代で見学させてほしいんだ。
だから定員300名の見学用飛行魔導機100機に案内係のひとたちも配置してくれるかな。
そのうち案内係のひとたちも慣れて来るだろうから、そうしたら各国の大使連中にも声をかけようか」




