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*** 20 スピッツベルゲン魔導学園副理事長閣下 ***

 


「さらにこの魔導に慣れてくれば、空中を飛びながら攻撃魔導を放つことも出来るようになるでしょう。

 あ、今は練習しないでください!

 見学者も大勢いますし、500人が攻撃魔導を放ったりしたら、この講堂が破壊されてしまいますので!」



 こうして500人の児童たちは生ける戦闘爆撃機と化したのであった……

 因みに航続可能時間は予備の魔石さえ持っていれば10年を超えるだろうが、そんなに飛び続ける必要は無い。

 お腹が空いたり眠くなったりしたら、転移魔導でお家に帰ればいいのだ。

 攻撃を始めるときは探知魔導で敵を見つけてその上空100メートルに転移すればいい。

 隠蔽ステルスの魔導をかけておけばより安全である。


 各人が小さく、また熱も体温しか出していない上に特上級の防御魔導もかけていれば、たとえガトリング砲弾や地対空ミサイルが偶然当たっても子供たちに怪我は無いだろう。

 モビルスーツを着ていない無敵のモビルソルジャーw


 もしこの子たちが総攻撃すれば、現代地球の空母戦闘群も壊滅させられるかもしれない。

 武器も持たない生身の12歳の子供たちに撃沈される空母www

 沈みつつある空母から、上空で歓声を上げる子供たちを見る艦隊司令官の心情は如何ばかりか……



 授業が終わると生徒たちは皆レオニー先生に抱き着いて来た。

 ほとんど全員が大泣きしている。


「みなさんとはこれでお別れではありませんよ。

 中等部や高等部、そして大学や大学院、魔導研究所でもまたお会い出来るでしょうから♪」




 レオニーくんが職員室に戻ると見かけない女性秘書官が訪ねて来た。


「お忙しいところ失礼しますレオニー先生。

 スピッツベルゲン魔導学園副理事長閣下がお会いしたいとのことです」


 職員室にざわめきが走った。

 副理事長閣下には滅多にお会い出来るものではなく、会えるとしても初等部の校長ぐらいなものだろう。


「恐縮ですが明日正午に学園中央棟最上階にある副理事長室にお越し願えませんでしょうか」


「畏まりました。

 明日正午に副理事長室ですね」



 翌日。

 レオニーくんが学園中央棟に出向くと、入り口で昨日の秘書官が待っていた。


「ようこそお越しくださいましたレオニー先生」


「あの、レオニーとお呼びください」


「畏まりましたレオニーさま」


「いえ、『さま』も無しでお願いします」


「それではレオニーさん、こちらにどうぞ」


 レオニーと秘書官は魔導エレベーターに乗り、最上階82階にある副理事長室の前についた。


「副理事長閣下、レオニーさんをお連れしました」


「入ってもらいなさい」


 秘書官が念動の魔導で開けてくれたドアをレオニーが潜る。


 副理事長室には簡素ながら重厚な家具が置かれていた。

 床は絨毯張りではなく、マホガニーの板が敷き詰められている。


「どうぞこちらのソファにお座りください」


「ありがとうございます」


 レオニーの斜め前には小さなコーヒーテーブルが置いてあり、そこに秘書官がカップに入ったコーヒーを収納庫から取り出した。

 香りからすればモカ・マタリであり、コーヒーシュガーの容器はあったがミルクのピッチャーは無い。

 レオニーの好みそのままである。


(はは、もうバレているっていうことかな)


「当面の間誰も通さないように」


「畏まりました閣下」



 副理事長閣下は大きな執務机に座ったままレオニーくんを見た。


「昨日君が教室で生徒たちに魔導を授ける際に使用した『送信』の魔導だが、新魔導評価委員会はあれを『超級魔導』と認定した。

 君には生涯国から毎年金貨50枚(≒5000万円)の年金が支払われる」


「光栄です」


(レオニーくんは既に魔導や魔導具の開発で金貨500枚の年金を得ているので、特に影響はないだろう)


「それで……

 もし君がよければ君のステータスボードを見せてもらえないだろうか……」


(もう潮時かな)


「どうぞ」


 レオニーくんは空中に自身のステータスボードを出し、副理事長の前に動かしていった。



【ステータスボード】


 名前: レオニー

 年齢:  9歳

 性別:   男


 H P: 1.5E+12

 M P: 2.8E+15


  力 : 4.5E+10

 防 御: 3.2E+13

 俊 敏: 1.8E+11

 器 用: 6.4E+13

  運 : 2.8E+12


 スキル: 825種類(あまりにも多いため詳細割愛)

  (既知のスキルすべて。平均レベル1.5E+10)


 魔 導: 1528種類(あまりにも多いため詳細割愛)

  (既知の魔導すべて。平均レベル3.5E+10)


 称 号: 極大賢者

      魔導学園初代理事長レオニーダス・フェリクス

      転生者(転生総回数26回)

      創世女神さまの使徒

      <以下の称号は厳重秘匿事項>




 レオニーくんのステータスを見ていたスピッツベルゲン魔導学園副理事長が顔を上げた。

 どうやらステータス画面を脳内に転写して保存していたようだ。


 副理事長は静かに椅子から立ち上がり、机を廻ってソファに座るレオニーくんの前に来た。

 そうしてその場に跪いてこうべを垂れたのである。


「ご無沙汰しておりました極大賢者さま……」


「ほんっと久しぶりだねスピッツくん♪」


 副理事長閣下はがっくりと肩を落とした。


「今生でもその呼び名でございますか……」


 スピッツベルゲン副理事長は、レオニーダス・フェリクスが5000年前に地球の日本という国からこの惑星に転生した際に持ち込んだ、膨大な量の資料を見せてもらっていたのである。

 そのなかにはスピッツという犬種の写真もあったのだ。



「大丈夫だよ、君以外にはあの犬種のことは誰も知らないし。

 それでさ、この国には身分の差は無いだろ。

 だからそんなところで跪いてないでソファに座ってよ」


「いえ、これは魔導学園初代理事長にして魔導学園国国家元首であらせられるレオニーダス・フェリクスさまに対する身分上の尊崇ではございませぬ。

 単に魔導の大先達にしてわたくしめのお師匠さまへの尊崇の念でございます……」


「まあ10年ぶりだから仕方ないかもしれないけど、落ち着かないからソファに座ってくれないかな」


「それでは失礼いたしまして」


 レオニーくんが少し手を動かすと、スピッツベルゲン副理事長の横にあるコーヒーテーブルに紅茶の入ったカップが出て来た。


「ダージリンの葉がまだ残ってたからどうぞ」


「おお! このような貴重品を!」


 副理事長は嬉しそうに紅茶の香りを嗅ぐとカップに口をつけた。


「それにしても驚いたよ。

 26回目の転生が無事終わったと思ったら、ボクの母さんがスピッツくんのお孫さんだったなんて」


「はは、素晴らしい偶然でございます」


「まあいくら寿命延長の魔導でテロメアの摩耗を防いでいても、200歳にもなれば気力も体力も相当に衰えてくるからね。

(実はちんちんも衰えちゃうんだけど……)

 だから200歳になるたびに女神さまに転生させてもらってるわけだ」


「それでこの5000年間で26回もご転生なされているわけですな」


「ボクが転生する先の受精卵は創世女神さまや大天使さまが選んでくれるんだけどさ。

 さすがは女神さまで、もう最高の両親だったね。

 おかげで素晴らしい幼年期を過ごせたし、父さんも母さんも優しくて大好きだし。

 しかも兄さんも姉さんもボクを溺愛してくれた上に可愛い妹までいたし」


「そう仰っていただけるとわたくしも嬉しゅうございます……

 それにしてもあのわたくしの可愛い孫娘の子があなたさまの生まれ変わりとは」


「だったら曾孫のボクも可愛い?」


「ご冗談を」


「えっ……」


「わたくしが12歳の初々しい少年だった折、『新開発の魔導の実験台になれ』とおっしゃられて、わたくしに『おなら魔導』をかけたお師匠さまの生まれ変わりでございますよ?」


「…………」


「しかもその後お師匠さまは研究所に5日間も籠ってしまわれましたし。

 おかげでわたくしは寮の同室の先輩たちに部屋から追い出されてしまいましたしね。

 なにしろ我が尻は寝ようとしても片時も休まず魔導の効果を発揮し続けておりましたので、『うるせぇ!』と怒られてしまったのです」


「……………………」


「おかげでその夜は寮の屋上で膝を抱えてひとり泣きながら過ごしました。

 翌日は授業を休み、お師匠さまの研究室に行ったのですが、いくらドアを叩いても研究に夢中になったお師匠さまからは返事も無く……

 その晩からは同部屋の同級生が調達して来てくれた軍用天幕を広場に張って、入り口を開けたまま火気厳禁で過ごしましたし……

 そんなお師匠さまの生まれ変わりを『可愛い』などとはとてもとても……」


「も、もう50年近く前の事なのに、スピッツくんって意外に執念深いんだね……」


「『執念深いことは研究者にとってもっとも大事な資質である!』と仰られたのはお師匠さまでございましょうに」


「そ、それって『諦めが悪いこと』の間違いじゃない?」


「同じようなものでございますよ」


「……………………」


「はっはっは、まぁ冗談はさておきまして……」


(く、口で笑って目で睨んでるぅっ!

 相変わらず器用な奴……)




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