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*** 19 初等部最後の授業 ***

 


 バフンくんら4人は必死でトリガーワードを使わぬよう努力し、無言で暮らすようにしていた。

 まるで一昔前にやっていた正月番組の『英語禁止ゴルフ』のようである。

 それでも1週間も経つと全員の鼻の長さが3メートルを超えた。

 そのままだと地面を引きずって痛いので、4人は鼻を首の周りに巻いている。



 停学中といえども、学園内を歩くことは許されている。

 この4人がヒマ潰しに学園中央のショッピングモールなどの付近を歩いていると、生徒たちは衝撃に立ち尽くし、すぐに道や廊下の端に逃げていく。

 女子生徒の中には悲鳴を上げている子も多い。

 なにしろ先頭を歩いているドチョンボくんは何か首の周りに巻いているだけに見えるが、その後ろの3人は焦茶色の肌のみならず頭髪や眉毛睫毛がまったく無く、全員が3メートルを超える鼻を首に巻いて歩いているのだ。

 しかも口に手を当ててくしゃみなどすると、その鼻の輪が一気に膨らむのである。


 でもよかったねバフンくん。

 君が熱望していた凄まじいまでのプレゼンスだよ。

 しかも皆が道の端に避けて立ち止まってくれるのは、本来エラいひとへの敬意だからね。

(社会人の読者諸氏も社内の廊下で社長さんや役員さんなんかとすれ違うときにはやってるでしょ)

 でも誰も話しかけてくれることは無いから、臣下を増やすことは無理だろうけど。



 学園理事会は、貴族、王族出身者に学園規則を遵守させるために、この鼻魔導を生徒学生全員にかけることを検討中である……




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 決闘翌日の初等算術再学習の授業にて。


「この授業の担当は今日から学科主任のわたしに代わりました。

 先週の担当教師は、職権乱用、生徒に対する脅迫並びに傷害罪で禁固2年の判決を受けましたので。

 もちろん教員は解雇です」


 ここでこの新教師はレオニーを見た。


「それでレオニーくんの質問なんだが。

 あの『或る数を分数で割るときは、分数の分母と分子を上下逆さまにして掛け算にすると何故正しい答えが得られるのか、数式ではなく初等部の児童にも分かるような言葉で説明せよ』についてなんだけどね……

 算術科の教師全員で考えたんだが、誰も答えられなかったんだよ。

 知り合いの大学教授にも聞いてみたんだが、みんな『当たり前すぎて言葉では説明出来ない』って言うし。

 わたしもこれからもっと考えてみるから、レオニーくんももし答えを思いついたら教えてくれないかな」


「畏まりました。

 それとどうもありがとうございます」


(因みに筆者はこの↑問題を算数最大の難問と考えております……

 まあ数式ではなく言葉だけで数学を説明するって難しいよね。

『球体の体積を求める式を半径で微分すると球体の表面積を求める式になる』とか『円の面積を求める式を半径で微分すると円周の長さを求める式になる』なんて、最も美しい数学命題のひとつだと思うけど、なぜそうなるのか言葉だけで説明出来るとは思えないし。

 もし説明出来る数学者がいたとしても、何を言っているのか全く理解出来ない宇宙人語かハナモ〇ラ語にしか聞こえないだろうし)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 1年と少し前。

 9歳のレオニーくんは初等部6年生のSSS1クラスからSSS10クラスまでの生徒500人を前に『実践魔導』の授業を行っていた。

 尚、この授業は中等部入学試験直前、つまり初等部最後の授業になる。


 そして何故か教室はいつもの大教室ではなく、1万人収容の学園大講堂だった。


 そう……

 その大講堂には、生徒を取り囲むように、学園上級職員、学園教員、大学講師に大学教授、大学院生と多数の大学生、果ては大魔導士数十名に学園理事、学園副理事長の姿まであった。

 子供たち500名の周囲を9000名以上の学園重鎮たちが取り囲んでいたのである。

 講堂内には魔導カメラも複数置かれ、レオニーくんの授業を録画しようとしていた。

(なぜか女子生徒たちは制服のスカートではなく、皆作業用のジャージを着ている)



「さてみなさん、本日の授業は中等部入試を控えたみなさんへのはなむけとして、わたしが最近開発した新しい魔導を贈らせて頂きたいと思います。

 残念ながらこの魔導はまだ等級認定は為されていないのですが。


 それではみなさん、まずは自分に『身体防御』の魔導をかけてください。

 それが出来たら、先週の授業で伝えさせて頂いた脳内での受信の準備をしてください。

 出来るだけ白紙の領域を保ち、平静な心を保ってくださいね。

 それではわたしから魔導式を送信しますので、それを受信して保存してください」


 レオニーくんが手を挙げると生徒たちに穏やかな光が降り注いだ。


「受け取れましたか?

 それではその魔導式を脳内記憶領域に保存してくださいね。

 それを今度は作業領域に転写し、『実行』と念じてください」


 途端に生徒たちがゆらゆらと空中に浮き始め、大講堂内に大きなどよめきが満ちた。

 中には立ち上がって手を振り回したり震えている大人もいるが、多くは額に汗を浮かべながら口を開けて生徒たちを見つめていた。


 空中浮遊の魔導は上級に分類される魔導である。

 これを実行可能な魔導士は上級魔導士とされ、4億の人口を持つレオニーダス・フェリクス魔導学園国でも5万人ほどしかいないだろう。

 それを初等部の生徒たちが数百人も為しているとは。


 だがまだ浮遊出来ずに悲しそうな顔をして席に着いたままの生徒たちもいた。


「まだ浮遊していないみなさんは、わたしが転送した魔導式を好奇心から保存前に見てしまいましたね。

 それで式が揺らいでしまったので発動しなかったのです。

 それではもう一度送信しますので、受信領域を空白にしてください。

 今度は保存が終わるまで中身を見てはいけませんよ」


 また生徒たちに光が降り注いだ。


「そうです、そのまま保存して、それから作業領域に転写し、『実行』と念じましょう」


 席に残っていた生徒たちも全員宙に浮いた。

 大講堂にはまたもどよめきが起こっている。


「みなさん成功しましたね。

 それでは魔導式の中の『高度』というパラメーターを見て下さい。

 今は5メートルに設定されていますが、これを変更すると高度を自由に変えられます。

 でも1000メートルなどに設定すると、講堂の天井にへばりつくか、天井を突き破って高空まで飛んで行ってしまいますから気を付けてくださいね」


 生徒たちはくすくす笑いながらも空中で上下に動き始めた。

 中には天井に頭をぶつけてしまった子もいる。


「それでは今度は念動の魔導を自分にかけ、前後左右にも動いてみましょう」


 子供たちはまだぎこちないながらも自由に動き始めた。

 大人たちの上空もふよふよと飛んでいる。

 見学者たちはますます仰け反っていた。


「慣れてくればもっと機敏に動けるようになります。

 最高速度は時速3000キロほどでしょう。

 それ以上は空気抵抗のせいで難しいですし、空気との摩擦で服が燃えてしまいます。

 また、時速1200キロを超えると音速突破の衝撃波が生じて耳が痛くなりますし、周囲の建物などを破壊したり、ヒトを吹き飛ばしたりしてしまいますので気を付けましょうね」


 くすくす笑いが広がる中、子供たちは自由に飛び回り始めた。

 中にはかなり機敏に飛んでいる子もいる。


「しばらく飛ぶ練習をしながら聞いてください。

 中等部の入試では、『魔導』の実技試験で『あなたの最も得意とする魔導を見せてください』と言われると思います。

 その時に、この空中浮遊の魔導を見せれば特別加点が50点貰えます。

 浮遊したまま念動の魔導で自由に動き回れれば、特別加点100点です。

 これでみなさんは他の受験生に比べて相当に有利になりましたね♪」


 盛大に仰け反った大人は中等部の入試担当責任者なのだろう。

 滅多に出ない特別加点者が500人とは!





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