*** 12 政治概論の講義 ***
入学式の後はクラスごとに分かれてHRが始まった。
「わたしはこのSSS1クラスの担任を務めるマーロウだ。
諸君らは入試成績上位50名という誇りを持って学問に励んでほしい。
このクラスのメンバーは全員が初等部出身者だからもう当然知っていると思うが、学園生活での注意事項を確認しておく。
まず重要なのは禁止事項である。
学園内では闘争学の実技授業、並びに許可を受けた上で教師の立ち合いの下で行われる決闘以外での暴力行為は厳重に禁止されている。
仮にこの禁を破った場合には即座に停学処分になるし、停学3回で自動的に退学処分となる。
また、体術であろうと魔導であろうと非公認の闘争で相手を傷つけた場合には傷害罪が適用されて禁固刑となるだろう。
被害者が死亡した場合には終身刑だ。
もちろん屋内や人気の無いところでの暴力行為でも、監視魔導によって容易に追跡出来るので見逃されることはない。
要はこの学園では暴力行為には厳罰が適用されるので覚えておけということだ。
もちろん王族貴族だろうが平民だろうが例外は無いぞ。
さて、次は授業内容についてだが、必修科目と選択科目がある。
1年生の内になるべく必修科目の単位は取っておけ。
これから資料を配布するので慎重に検討して受講科目を申請するように。
さて何か質問はあるか。
無ければ選択科目の検討を始めろ。
締め切りは本日夕刻18:00までだ。
受講票を提出した者は終日自由時間とする。
学生課の周囲のバスターミナルに行けば、学園内観光のバスも出ているぞ」
この学園中等部では、必修科目は数クラス合同で100人用小教室か200人用中教室にて行われる。
選択科目については1000人収容の大教室が使用されることが多かった。
入学式の翌日から授業が始まった。
レオニーくんは1000人の1年生と共に大教室で一般選択科目である政治概論を受講する予定である。
(もちろんこの学園は生徒数が100万人もいるため、同じ政治概論の講義は100の大教室にて行われていた)
彼は授業開始15分前に来て最前列中央の席に座っている。
レオニーくんの前にあのバフン・ウーニー第3王子とその側近3人が近づいて来た。
(政治の講義といえば、学生の大半が貴族、王族であろう。
つまりこの場こそは我が臣下を集める絶好の場である。
まずは大いに余の威信を示し、この場の生徒たちを教導することとしよう。
そのためにはまず最前列中央の最も目立つ席を確保することだ。
なんならその場で教室後方を向いて立ち、生徒たちに訓示してやってもよかろうの)
3人の側近の中でも最も体の大きな伯爵家縁者ドチョンボ・フリテンが、最前列中央に座るレオニーくんに大きな声を出した。
「貴君の家名と爵位、並びに出身国を問う!」
(あー、こいつらどう見ても王族だの貴族だのだな)
レオニーは自分で努力もしていないのに、生まれだけに胡坐をかいて威張り散らす連中が大嫌いだった。
「なあおっさん、人の名を問うときはまず自分から名乗れって、ママに教えて貰わなかったのか?」
「な、なにぃぃぃっ!」
「そんな大きな声を出して威圧しなくても十分聞こえるぞ」
「うぎぎぎぎ!」
因みにレオニーくんは大きな声は出していなかったが『遠話の魔導』で教室中に声を届けている。
ほとんどの生徒は気づいていなかったが、初等部出身者はまたレオニー先生が何かやらかすと思ってワクワクしていた。
おっさんはツラをひん曲げながらレオニーくんに顔を近づけてさらに威嚇して来た。
「俺はスポポダ王国フリテン伯爵家縁者のドチョンボ・フリテンだっ!」
「あー、ドチョンボのおっさん、あんたの口すっげぇ臭せぇな。
ドブの水でも飲んだのか?
俺に話しかけるときは口を閉じて喋ってくれねぇかな。
あ、口閉じてたら喋れねぇか、あはははは。
仕方ねぇ」
レオニーの前に2メートル四方ほどの透明な板が出て来た。
やや色がついているために、板がそこにあることはわかる。
「なっ! なんだこの板はっ!
どこから出したっ!」
「そんなもん結界の魔導に決まってんだろ。
あんた結界も使えねぇのか?」
もちろん結界の魔導は中級魔導である。
中等部でもごく限られた成績上位者しか使えないだろう。
「俺の名はレオニー、生まれも育ちもここレオニーダス・フェリクス魔導学園国だ」
「なんだと!
ということはキサマ平民かっ!
平民ごときが貴族家縁者のこの俺にそのような無礼な口を利いてよいとでも思っているのかぁっ!」
「思ってるぞ?」
「なっ!」
「それになぁおっさん、この魔導学園じゃあ貴族だろうがなんだろうが、一切特別扱いされないんだよ。
それどころか家名や爵位を名乗ることすら禁止されてるんだ。
あんまり大きな声で爵位なんか名乗ってるのを学園職員に聞かれたら、停学処分になっちまうぞ」
「ぐぅぅぅっ!」
「もうよい、下がれ」
「で、殿下っ!」
「そこな平民、余は北の大国ウーニー王国第3王子バフンである。
頭が高いぞ」
「あんたもな」
「な、なにぃぃぃっ!」
(バフンくんの威信:低下)
「王族だろうが貴族だろうが平民だろうが、この魔導学園国じゃあ何の意味も無ぇって言ったろ。
全員が同じ生徒なんだよ。
学園規則読んでねぇのか?」
「まったくなんという下賤なる学園だっ!」
「だったらなんでそんな学園に入学したんだよ。
そんなおっさんになるまで浪人しながら。
ふつー3浪もしたら諦めて働くだろうに。
それを20浪以上してまでどうして下賤な国の学園に入りたかったんだ?」
「ぐぎぎぎぎ……」
(バフンくんの威信:さらに急低下)
いつの間にか大教室に集まっていた生徒全員が固唾を吞んでレオニーくんたちを見つめている。
「それからな、あんたウーニー王国の事を北の大国って言ったよな。
どこが大国なのかこの平民にも教えてくれや」
(ん?
これはこの場の者共に我が国の偉大さを示してやるチャンスだな!
ここで余の威信を誇示し、この教室の全員を我が家臣や下僕とする1歩としよう!)
「まったく平民は口の利き方も知らんのか!
それでは特別に教えてやろう!
我が国は180年もの歴史を持ち、8万平方キロもの広大な国土を領有し、併せて60万の人口と3万の軍勢を有しているが故に大国であるのだ!」
「なぁ、180年もの歴史って言うけどさ、実際には100年前にムラサキウーニー王国が王弟と王子の跡目争いで分裂してムラサキ王国とウーニー王国に分かれたんだろ。
だったら歴史は100年なんじゃないか?」
「逆賊ムラサキのことなどどうでもよい!
いずれ我がウーニー王国はムラサキ王国を征服して祖国統一を図るのだ!」
「いや、それは無理だな」
「なんだと!
何故無理なのだ!」
「このレオニーダス・フェリクス魔導学園国は、2500年前の建国から現在まで他の国に侵攻したことは1度も無いが、他国からは5200回も侵略を受けたにもかかわらず、ことごとくすべてを跳ね返して来た。
それだけでなく、この惑星上の4大大陸にあるすべての国々が行って来た侵略戦争や内乱もすべて介入して暴力を使わずに鎮圧して来た。
100年前のムラサキウーニー王国の内乱もだ。
この国の介入が無ければ軍人だけでなく一般国民にも膨大な数の死傷者が出ていただろう。
国のトップである王族や上位貴族は、自分のメンツや利益のためなら国民がいくら死のうが気にもとめないからな」
「な、なんだと!
この国はいったいどれだけの軍勢を持っているというのだ!」
「798有る他国に置いた大使館の警備兵合計1万と、国内治安維持用の衛兵1万の併せて2万だな」
「たったそれだけか!
我が国の兵3万が攻め込んでこの国を滅ぼすぞ!」
「いやそれも無理だ」
「な、何故無理なのだぁっ!」
「聞いてなかったのか?
あんた記憶力無いのか?
この国は過去2500年間で5200回も侵略を受けたが、それをことごとく退けて降伏させてきたと教えてやっただろうに。
その中には最大200万の兵力で攻め込んで来た国の連合もあったのにもかかわらずだ」
「!!!
た、たった2万の兵でなぜそのようなことが出来たというのだ……」
「それはもちろん大魔導を行使したからだな」
「いったいどのようにして……」
(バフンくんの威信:さらにじりじりと低下中)
「簡単だ。
敵の兵を全て『収納の魔導』で異空間に収納し、併せて武器防具衣服までをも全て剥ぎ取った上で、マッパになった将兵を全員本国王城に『転移』させただけだ」
「し、収納の魔導は生物を収納出来ないはずだ!」
「それは初級収納魔導の話だ。
それでも高等部の生徒でも使える者はわずかだが。
だが収納の大魔導であれば、生物も収納出来る。
この魔導は絶対に防げないしな。
それに転移の超級魔導も防げない」
「そ、そんな魔導を使える者がいるはずが無いっ!」
「俺は使えるぞ?」
「!!!!!」




