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*** 11 入学式 ***

 


 大講堂の入り口付近では大勢の生徒たちが学園職員に詰め寄っていた。


「なぜ余をこの講堂に入れぬのだ!」


「あなたは入試成績上位者に渡される赤い入場チケットをお持ちでないからです」


「では今そのチケットを渡すよう命じる!

 そして会場内では最前列中央席に案内せよ!」


「それは出来ません。

 この入学式会場に入れるのは、入試成績上位1%の方々のみですので」


「き、キサマ余を誰と心得るっ!

 彼の大国フンボルト王国の王子であるぞっ!

 膝下低頭して依頼すれば新入生代表として他の新入生共に言葉をかけてやらんでもないぞ!」


「結構です、早く一般生徒用の大教室に行ってください」


「な、なんだとぉっ!

 キサマ不敬罪で処刑するぞぉっ!」


「警備員さん、この人を留置場に連れて行ってください。

 王族位を名乗った学園法違反と脅迫容疑です」


「「「 はっ! 」」」


 尚、この場の光景と音声は全て監視カメラの魔導具で記録されているので言い逃れは出来ない。


「な、なにをするっ!

 ふ、不敬であるぞぉぉぉ―――っ!」


 その王子は手錠をかけられて腰縄も打たれた上、音声遮断の魔導具で口も封じられて警備員たちに連行されていった。


 中には講堂に入ろうとしていた生徒を脅して赤チケットを奪おうとした王族貴族家関係者もいたが、監視の魔導具で見つかって直ちに拘束されている。


 大講堂入り口前ではこうした貴族王族が数百人も逮捕されており、多少とも知性を持った貴族王族は、この光景を見て項垂れながら大教室に引き上げて行った。

 あのウーニー王国第3王子のバフンくんたちも、辛くも逃れたうちのメンバーである。


 尚、こうして逮捕されて独房に入れられた貴族王族(18歳~45歳)は、今までに周囲に全く人がいないという経験をしたことが無いため、すぐに丸く小さくなって泣きながら過ごしているようだ……




 大講堂では粛々と中等部の入学式が始まった。

 座席には入試成績上位1万名が座っていたが、よく見れば全員が12歳ほどに見える少年少女である。

 このレオニーダス・フェリクス魔導学園の中等部受験資格には最年少12歳という条件以外には年齢制限が無いため、受験生は12歳から最高齢70歳まで多岐に渡っていたが、大講堂へ入れる赤チケットを手にした入試成績上位者たちは、全員が学園初等部の現役合格生徒たちだったのである。

 王族や貴族は一人もいなかった。



 学園理事長は、決して人前に姿を現さず、会ったことがある者も学園理事の一部に限られているため、新入生歓迎の挨拶は例年副理事長と中等部の校長によって行われる。

 彼らの挨拶は非常に簡潔でそれほど長くはなく、新入生たちは皆ほっとしていた。


 尚、この入学式では来賓挨拶は無い。

 レオニーダス・フェリクス魔導学園に来賓として招かれるような人物は、この惑星上に存在しないからである。

 例年大国の王や宗教国家の教祖サマやら教皇サマやらが『余が来賓として訓示をしてやる!』とねじ込んでくるが、全員あっさりと断られて激怒していた。


 副理事長らの歓迎挨拶の次は学園生活の案内や注意事項の説明だったが、これも順調に終わった。



「それでは次に入試成績筆頭者の挨拶を行います。

 新入生代表レオニーくん、壇上へ」


「はい」


 会場内最前列にいた10歳ほどに見える少年が立ち上がって歩き始めた。


 因みにこのレオニーダス・フェリクス魔導学園国では学園国創立者のレオニーダス・フェリクスにあやかる名前が非常に多い。

 例えば、レオ、レオニー、レオニード、レオニーダなどである。

 よってレオニーくんが紹介されても、誰も創立者の子孫だとは思っていなかった。

 加えて創始者レオニーダス・フェリクスもその次の学園理事長も、子孫を残さず生涯独身であったことは有名だったのだ。



 新入生代表であるレオニーくんが壇上に上がると、その場に大歓声が響き渡った。

 入試成績上位新入生の全員が盛大な歓声と拍手を送り始めたのである。


 実はこのレオニーくんは、2年前、つまり僅か8歳のころからあまりにも成績優秀ということで初等部に於いて教鞭を取っていたのだ。

 それも超優秀な生徒の集まる進学SSSクラスで。

 つまり、この大講堂に入れた入試成績上位者のほとんど全員が、レオニーくんの教え子たちだったのである。


 自分よりも年少の者が教師となる。

 普通の子供たちであれば大いに反発することだろう。

 だが、彼が担当したクラスは進学SSSクラスであり、知識欲と向上心の塊のような子供たちしかいなかった。

 教師の学力不足には容赦は無いが、圧倒的な知識と魔導能力には素直に敬意を表する子供たちばかりだったのである。

 さらにレオニーくんは8歳にして10を超える有名魔導具の開発者とされていた。

 彼の開発した魔導具の中には、魔導車のトランスミッションをマニュアル式からオートマ式に変えた物があるとか、高度1万メートルまで上昇可能な魔導飛行機もあるとの噂も存在するほどである。

 既にこの惑星のヒューマノイドが生んだ最高の英知を持つ1人として、学園の大学教授たちからも大賢者の称号で呼ばれているほどだったのだ。


 実際にレオニーくんが教えた進学SSSクラスの生徒たちは、過去2年間全員がこの大講堂での入学式に参加することが出来ていた。

 こうして、研究者として、そして教育者としての実績により、学園理事会から特例として中等部の受験資格を得ていたのである。



 レオニーくんが壇上のマイクの前に立つと大歓声が一際大きくなった。

 だが、彼が笑顔のまま手を挙げると瞬時に収まる。

 その姿はまるで独裁国家の大統領のようだ。


 彼の生徒たちは、授業中の彼の発言を遮ったり私語で他人に迷惑をかけたりすると、世にも恐ろしい非殺傷性魔導が飛んでくることをイヤというほど知っていたのだ。

 中でも生徒たちを恐怖のどん底に叩き落としたのは『鼻毛や腋毛が異様に多く太く黒くなり、生える速度も時速1センチになる』というものや、『髪の毛がすべて頭皮から垂直方向に完全におっ立つ』というものや、『日量10立方メートル分のおならが出続ける』などなのである。

 どれも思春期の少年少女には致命的なものであった……


 初等部では就職組の悪ガキたちが『お前らこんなガキンチョの授業を受けててアホじゃね?』などと言いながらよく授業妨害に来ていたのだが、これら恐怖の魔導を喰らって翌日には泣きながら謝りに来たものである。

 それでも中には『ぶっ殺してやる!』などとイキって来るDQNもいたが、『そお? ボクをぶっ殺したりしたらキミは一生そのままだね♪』と言ってやると号泣しながら詫びて来るのが常であった。

 まあ暖炉の前などに行って背を向けると、ここぞとばかり一気に10立方メートルのメタンガスが噴き出て火ダルマになるような人生に悲観したのだろう。

 自分のおならで爆死したり焼死するという人類初の死因は避けたかったようだ。


(パンツを降ろしてケツにコップを当てておならをし、すぐにライターなどで火をつけると本当に燃えるらしいが、良い子は決して実行しないように!

 親に見られたら泣かれるぞ!)



 レオニーくんの立ち姿は実に堂々としていた。

 まるで副理事長や校長を何十年も続けて来たかのような貫禄である。


「みなさん、わたくしも含めましてご入学おめでとうございます。

 みなさんのようにここにおみえの方々だけでなく、大教室で中継を御覧になられている方々も、このレオニーダス・フェリクス魔導学園にご入学されたということは、今まで大変なご努力を為されて来られたものと思われます」



 レオニーくんの姿をスクリーンで見た新入生たちは驚きの言葉を交わしている。


(お、おい、なんかこのガキ、異様に小さくないか?)


(なんだお前知らなかったのか。

 こいつが入試首席な上に史上最年少でこの学園に入学したレオニー10歳だぞ)


(マジかよ……)



「そのご努力にはさまざまな動機があったことと思います。

 学問が好きだったから、成り上がることが出来るから、この学園を卒業すれば一生安泰となり家族に楽をさせてやれるから、領地に帰れば嫡男を追い落として当主になれるから、上級貴族家に嫁入り出来るから、誰かを見返してやれるから。

 その動機は千差万別だったことでしょう」



(こいつ本当に10歳か?)


(天才児って本当にいるんだな……)



「ですがみなさん、わたくしも含めてここでもう一度ご自分の動機を考え直してみられたらいかがでしょうか。

 この学園を卒業された方々のご努力によって、この惑星全体の戦争、貧困、飢餓は激減して来ました。

 それらはまだまだ残っているかもしれませんが、それでもこの学園があったからこそ、2500年前に比べて明らかに社会は安全になり、進歩し、さらに明るい未来も見えて来るようになってきています」



(マジとんでもねぇ奴だな)


(どこの国出身なんだ?)


(このレオニーダス・フェリクス魔導学園国らしいぞ)


(マジか、っていうことは平民かよ)


(あの大講堂にいる入試成績優秀者の全員が平民らしいしな)


(な、なあ、俺たちみたいな王族や貴族ってやっぱり阿呆なのかな……)


(そうなのかも……)



「わたくしは、この学園にいる間に物理学、理学、医学、薬学上の新発見、もしくは新技術開発、新しい魔導や魔導具の開発、社会学上の貢献、それらのうち死ぬまでにたった1つでも良いから達成したいと思いを新たにしております。

 それが社会に貢献出来るものならば、さらに望外の喜びです」



 大講堂でも小さな声が上がった。


(なぁ、レオニー先生って社会に貢献する画期的な魔導具はもう10コ以上開発してるよな)


(しっ! おなら魔導が飛んで来るぞっ!)


(!!!)



「また、最近では優れた魔導や魔導具の開発は、個人によって為されるのではなく、共同研究によって為されるケースが増えて来ております。

 それだけ魔導や魔導具が高度化して来ているという事なのでしょう。

 そのためにもこれから皆さまと大いに議論し、研究し、切磋琢磨していきたいとも考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 このお願いをもって新入生代表挨拶とさせていただきます。

 ご静聴ありがとうございました。

 新入生代表、レオニー」



 大講堂には再び嵐のような大歓声が沸き起こった。

(一部の生徒は、新な魔導の開発とはあのおなら魔導の類似品かもしれないと思って戦慄している)


 だが……

 大教室で映像を見ていた新入生たちは、その大半が驚きのあまりあんぐりと口を開けているだけだったのであった……





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