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*** 1 レオニーダス・フェリクス魔導学園 ***



新作始めました。

中編の予定です。

本日はあと1回20:00に投稿させて頂きます。



 


【レオニーダス・フェリクス魔導学園国基本法】


 第1条 国家目的

 レオニーダス・フェリクス魔導学園国の設立及び存続目的はレオニーダス・フェリクス魔導学園を発展的・安定的に運営することである。

 国民への福利厚生、農業を始めとする国営事業はすべてこの目的に沿うためのものとする。


 第2条 国家元首と官僚機構

 レオニーダス・フェリクス魔導学園国の国家元首はレオニーダス・フェリクス魔導学園理事長とする。

 副理事長以下の理事、理事補佐、理事候補は全て理事長を補佐する官僚となる義務を負い、その地位は代表権の存する理事長の意思に基づく。


 第3条 階級制度

 国家元首、魔導学園理事などの役職はあるものの、レオニーダス・フェリクス魔導学園国に於いては王族、貴族、平民などの世襲制階級制度は存在しない。

 理事長、副理事長、理事、大臣等も世襲は許されない。


 第4条 国家の義務

 第1条の目的を果たすため、レオニーダス・フェリクス魔導学園国は、国内のみならず惑星全域から広く有為の人材を集める努力を義務付けられる。

 この目的の達成のため、惑星全域に於ける治安の維持、特に過酷な税や戦争行為、内乱などを平和裏に鎮圧する義務も負う。


 第5条 国民の義務

 レオニーダス・フェリクス魔導学園国国民は、教育を受ける義務と勤労の義務を負う。

 ただし、納税の義務は無い。

 魔導学園国の運営費については、すべて国家事業で賄うものとする。




【レオニーダス・フェリクス魔導学園規則】


 第1項 レオニーダス・フェリクス魔導学園(以下当学園)の存立目的は、すべて魔導及び科学、技術、社会科学等の研究と実践を通じてヒューマノイド社会の発展に資することである。


 第2項 禁止事項

 第1項に記される目的を追求するため、並びに魔導学園国家の基本法第3条を遵守するため、当学園に於いては皇族、王族、貴族、平民などといった世襲制地位による優越、区別、差別を禁止する。

 この規則に従わない場合、数回の警告の後、退学処分となる。


 第3項 入寮義務

 当学園在校生は、中等部より大学部まで全員入寮が義務付けられる。

 また、第2項の禁止事項により、入寮の際には侍女、侍従、下男、下女などの随伴は認められない。

 なお、学費、寮費、食費などはすべて無料とする。


 第4項 学制

 当学園初等部は、学園国の国民はもとより、中央大陸、東大陸、西大陸、南大陸の孤児、難民、困窮民などの移民に広く門戸を開くものとする。

 中等部入学はすべて入学試験の成績によって決定される。

 中等部卒業生のうち、成績優秀者は高等部に進学出来る。

 高等部卒業後の大学部に於いては、魔導学、魔導具学、理学・物理学、教育学、政治・経済学、医学・薬学の各学部を選択するものとする。

 大学在学中に優秀な論文を発表した者は、大学卒業後に大学院にて助手、講師、准教授、教授などの地位が与えられ、准教授以上には研究室と研究資金も付随する。


 第5項 年齢制限

 当学園では、初等部から大学まで、最低年齢以外の年齢制限は存在しない。

 初等部の在籍制限については10年間とする。






 季節は春。

 その日はレオニーダス・フェリクス魔導学園中等部入学試験の合格発表日であった。

 入試の際も合格発表の際も魔導学園の敷地内には受験生しか入れなかったために、護衛の兵と侍女侍従を伴うことが出来なかった王族貴族受験生とその護衛たちはほとんどが激怒していた。

 強引に入り口を突破しようとしたり剣を抜いて威嚇した者たちは転移の魔導で留置場に収容され、武装解除された上で10日ほど拘留された後に出身国の大使館に再転位されている。


 入試要項にそう書いてあるので仕方がない。


 王族貴族受験生の侍従などの中にはその入試要項が読めた者も少数ながらいたが、彼らの主人である受験生に告げると一笑に付された。

 もちろん全員が自分の高貴な身分であればそうした制約は免除されるものと信じ込んでいたからである。

 それが免除されることも無く、護衛や侍女侍従が学園内に入れないとなれば、王族貴族たちは自分の身分が軽んぜられたとして激怒するのである。


 学園職員にはすべて強固な防御魔導がかけられているが、職員に暴行を働こうとした場合には、監視記録魔導により罪状が決定され、最低3か月から終身刑までの独房収監が課せられていた。



 護衛無しでの行動など経験の無い王族貴族出身者は、護衛が消えたために顔面蒼白になって大使館に逃げ帰るが、入学試験の場合はともかく、合格発表の際には一応その受験生が合格者であるか否かはチェックされる。

 合格者だった場合には大使館に連絡が行くとのことだが、護衛が収監されたような受験生が合格していたケースは例年ほとんど無かったようだ。




 そして合格発表会場では……


「おいっ! 余が不合格だと!

 お前のような下っ端では話にならんっ!

 学園長を呼んで来いっ!」


「学園理事長はどなたともお会いすることはありません。

 それがたとえ大国の国王陛下であってもです」


「な、なんだと!

 余はかの超大国であるスットコドッコイ王国の第1王子であるぞ!」


「もし入試結果がご不満であるのならば、あちらにあります相談窓口に苦情申請してくださいませ」


「ふざけるな! 貴賓応接室を用意して担当官を呼びつけろっ!」


「そのご要望にはお応え出来ませんし、よって試験の合否結果も覆りませんが?」


「ぐぎぎぎぎ……」



「おい! キサマが担当官か!

 なぜ余を不合格にしたのか釈明の上、合格とせよ!」


「まず受験票を提示するように」


「なんだと!

 貴様スットコドッコイ王国の第1王子である余になんという口を利くかぁっ!」


「本官は貴君の名も受験番号も知らん。

 それでは受験内容の精査も出来んのは当然のことだが」


「ぬががががが……

 ほら! これが受験票とやらだっ!」


「少々待て。

 あー、これは酷いな。

 まず貴君は全ての答案用紙の冒頭で『受験番号と名のみを書け』という指示に従わず、家名も地位も書き込んでいるな。

 答案用紙の指示に従えなかった段階で、その受験科目の成績はすべて0点になっているぞ」


「な、なんだと!

 家名も地位も書かなければ、余がスットコドッコイ王国の第1王子であることを周知させられないではないかっ!」


「このレオニーダス・フェリクス魔導学園国には王族貴族はおらず、全員が国民と呼ばれている。

 レオニーダス・フェリクス魔導学園でも、在学中は王族位、爵位による優遇措置、優越性も無く、家名を名乗ることすら禁じられている。

 そんなことも知らずにこの学園の入学を希望したのか?」


「ということは貴様平民か!

 平民ごときが王族である余に向かってなんという口を利くかぁっ!」


「平民ではなく、この国では国民という呼称を使用していると言ったが?」


「お、同じことだろうっ!

 我が国の王立学園であれば、余の家名と第1王子であるということを記入しただけで、答案など書かずとも即座に合格となるぞ!」


「ならばなぜレオニーダス・フェリクス魔導学園を受験した」


「そ、それは……

 次期国王として箔をつけるためだっ!」


「我が学園の入学試験は3日間かけて8教科20科目1000点満点で行われている。

 念のため貴君の答案も採点が為されたが、なんと全科目合わせても合計で40点に届いていない。

 これでは箔をつけるどころか大恥だろうに」


「な、なんだとぉぉぉ―――っ!」


「特に点の取りやすい体力、剣術試験では100点満点で6点しか取れていないのか……」


「それはキサマらが余の得意とするダンスの試験を用意しなかったからだ!

 余は宮廷舞踏会では如何なる令嬢と踊っても1曲のうちに5回までしか足を踏まぬと評判になるほどのダンスの名手と言われておるのだぞ!」


「あー、スットコドッコイと言えば南部の辺境地域か。

 彼の地では舞踏会の靴としてつま先を覆う鉄板が入った『安全ダンス靴』が流行っているらしいなぁ」


「あ、当たり前だろう!

 ダンスの最中に余の足を踏んで怪我をさせたともなれば令嬢の命がいくらあろうとも足りん!」


「あれだけの受験生がいればいちいちダンスの試験などやっている時間がないだろうに。

 ダンスの代わりに『敏捷性』と『器用さ』を測る試験として『反復横跳び』と『平均台歩行』があったはずだが、貴君の『反復横跳び』は20秒間でたった3回で0点か……」


「あ、あのような下賤なる平民兵の訓練のような真似は王族には相応しくないっ!」


「平均台に至っては乗ることも出来なかったのでこれも0点か」


「あのような高いところに乗って、もし落ちて余の玉体に傷でもついたらなんとする!」


「剣術試験では貴君の攻撃を弾いた試験官を無礼者と罵ったそうだな」


「あ、当たり前だっ! 王族の攻撃を弾くなど不敬の極みであるっ!」


「選択受験科目である乗馬試験も0点だ。

 どうやら馬に乗ることすら出来なかったらしいな」


「あ、あれは踏み台を用意しなかったキサマらの落ち度だ!」


あぶみがあるのに踏み台が無いと馬に乗ることも出来んのか?

 それでは演習も遠征も不可能だろうに。

 それでも貴君は軍を率いることが出来るのか?

 司令官が踏み台など使って馬に乗ったら兵たちに爆笑されるぞ?」


「も、もう許せんっ!

 我が国の精鋭3万を率いてこの無礼な国に攻め込むぞぉっ!」


「お、それは宣戦布告か?」


「そうだ!

 ザマァみろ!

 この国とキサマの無礼さのせいで、超大国である我がスットコドッコイ王国との戦争が始まるのだ!

 その原因になったキサマなど、すぐに処刑されてしまうだろう!

 今なら地に頭を擦り付けて謝罪し、余を合格とすれば許してやらんでもないぞ!」


「ご配慮いただいて恐縮だがな、例え貴国と本当に戦争が始まっても私が罰せられることはない」


「な、なぜだっ!」


「なにしろこの合格発表の時期には、貴君と同じように不合格を合格にさせようとして武力による脅迫を試みる者が多いからなあ。

 この惑星に4つある大陸中には、小国から大国まで800ほどの国があるが、そのうち毎年30か国ほどの不合格王族が武力脅迫を試みるのだよ。

 有力貴族家に至っては平均120家ほどが脅迫してくるな」


「!!!」


「もっともそれらの国や貴族家の中で、実際に戦争行為にまで至るケースは10件も無いが。

 そんなことでいちいち苦情受付担当官を罰していたら、すぐに担当官がいなくなってしまうだろうに。

 本官も戦争脅迫を受けたのはこれでちょうど300回目だな」


「ぬががが……」


「そうそう、余談だがそうしたクレーム受験生にはけっこう明瞭な傾向があってだな、入試成績の悪い者ほどクレームが多く武力行使を声高に叫ぶのだよ」


「ぬがぁ―――っ!」





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