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短編

この魅了魔法マジで使えませんから!

作者: 猫宮蒼



「カタリナ、その、一つ確認させてほしいんだ」

「なんでしょう、ライエル様」


 貴族学院、生徒会室にて。


 生徒会副会長であるライエルは、自らの婚約者であるカタリナ・アデレイド伯爵令嬢を呼び出していた。

 ちなみに婚約者であるけれど、二人きりではない。

 この室内には生徒会長であるワイアット、書記のリリアンヌもいた。

 他の生徒会メンバー勢ぞろいでは流石にカタリナも気まずかろうという微妙な気遣いの結果だ。


 急な呼び出しという事もあってか、リリアンヌがそっとカタリナの前に淹れた茶を置いた。

 小声で礼を言い、そっと頭を下げたカタリナにリリアンヌもいえいえとばかりに頭を振って、そっと後ろへと下がる。


「噂、そう、噂で聞いたのだが。

 カタリナ、きみは、魅了魔法を使えるのか……!?」


 どう切り出すべきかを悩んだ結果、遠回しな物言いは無理だと判断したライエルは率直に尋ねる事にした。

 この結果、彼女が正体がバレた怪物のように開き直って魅了魔法をこの場にいる者たちに使うような事になったら――と考えはしたが、それでも対抗魔能力SSランクのワイアット、状態異常耐性Sスキルを所持しているリリアンヌならカタリナが何かをするより先に対処できる。

 更に言うならリリアンヌはその華奢で可憐な見た目に相反して急所攻撃スキルがAであり、命中精度スキルもA。何かあった場合速やかに相手を無力化するだろう。


 ライエルの問いに対する答えを、カタリナ以外の一同はじっと待った。

 カタリナが次にどういう行動に出るかはわからないが、それでも何かあった場合の事を考えてカタリナから注意をそらさずに。


 視線だけで穴が開いてしまうのではないか、と思える程の視線を向けられていたカタリナはカップをそっと持ち上げ出された紅茶を一口含む。

 そうしてこくん、とその喉が嚥下するべく僅かに動き――カップは次の瞬間そっと元の場所に戻された。


「その噂の出所がどこか、までは存じ上げませんが。

 わたくし確かに魅了魔法が使えます。がその魅了魔法は使えません」


「ん?」

「何か?」

「いや、使えるんだよな……?」

「えぇ、でも使えないのです」


 ライエルは思わず首をわずかに傾げていた。


「使えるが、使えない事にしている、つまりは内密に、という事だろうか?」

「いいえ。別に知られた所で構わないものです。けど、使えないのでわざわざそれを大っぴらに言う必要性がまるでない、というだけの話で」


 カタリナの表情からは煙に巻いて有耶無耶にしよう、という風でもない。

 だからこそライエルは更に突っ込んで聞く事にした。


「カタリナ、君は、その……私に魅了魔法を使った事は?」

「ありませんわ。有り得ませんもの」

「む、そう、なのか……」

「はい。だってライエル様、貴方お料理しないでしょう」

「ん?」

「何か?」

「いや、何故、料理が……? 確かにした事などないが」


 それはそうだろう。

 騎士として野営だとかそういう事をするのであればいずれ多少の調理技能は必要になるかもしれないが、少なくとも今の所ライエルはそういった事をする必要がない。家に帰れば雇っているシェフが料理を作るし、学院での食事は学院で勤めている料理人たちの仕事だ。

 生徒であるライエルたちが料理を作ろう、という事はまずもって無いと言っていい。



「すまないねカタリナ嬢、実は先日複数名の生徒が魅了魔法にかかったらしき状態で発見されてね。幸い大きな事件に発展していないとはいえ、放置するわけにもいかない。かといって大々的に知らせるわけにもいかないからこそ、生徒会で内密に犯人捜しをしているところなのさ」

「あぁ、そういう事でしたのね」


 横から口を挟んだワイアットに、カタリナは成程、と小さく頷いた。

 突然呼ばれた事もそうだが、いきなりどうしてそんな質問をされているのか……という疑問が解決した瞬間だった。

「つまりわたくしは容疑者の一人、という事でしたのね。お約束ですが無実を訴えますわ」

「あぁ、ここでいきなり自分がやった、なんて白状するような人はいないだろうね。無実を訴えるのであれば、それを納得させられるだけの理由があるのだろう?」


 ワイアットは机の上で手を組んで悠然とカタリナを見ている。穏やかな笑みすら浮かんでいるが、その目は真偽を確かめようとばかりの鋭さがあった。


 視線の厳しさに普通の令嬢ならば怯んだかもしれない。けれどもカタリナは一切怯えた様子を見せるでもなく、ふふ、とかすかに笑う余裕さえあった。


「確かにわたくし魅了魔法が使える事は使えるのですが……あぁ、ご安心くださいませ。今この時点でライエル様にもワイアット様にも魅了魔法は使う事ができません。その可能性があったのはリリアンヌ様だけでしたが……リリアンヌ様、魅了魔法をかけられた、という感覚はありますか?」

「え、わたし、ですか……? いえ、そういった魔法をかけられた、という感覚はありません」

「はい。魅了はかかっておりませんもの。発動すらしていませんわ」


 にこ、と笑みを浮かべるカタリナにリリアンヌは困惑したように視線を巡らせた。

 彼女の言い分が正しければこの場にいる三人とも誰も魅了魔法はかけられていない。実際にそうなのだろう、とは他の二人の様子を見ればわかる。



「わたくしの魅了魔法についてですけれど。これは発動する際に条件がありますの」


 どういう事なのか、と更に聞こうとしたがそれより先にカタリナが話し始めたので、三人はそのまま大人しく聞く事にした。


「その前に一つ聞かせていただきたいのですけれど。

 お三方は恋のおまじないなど、どれくらい把握していますでしょうか?」


 話を聞く態勢に入っていたものの、突然の質問にライエルは意味が分からないとばかりにカタリナを、ワイアットとリリアンヌはきょとんとしたままお互いを見た。


「魔法とは違うただのおまじない。気休めにもならないそれ。

 その中で、食べ物の中に髪の毛や爪といった自分の一部を混入する忌まわしい代物があるのはご存じかしら?」


 言われてライエルとワイアットは心当たりがあったのか、途端にうんざりした表情になる。


 正直普通に毒を盛られた方がまだマシだと思った事もあったくらいだ。毒なら解毒魔法があるし、ライエルもワイアットも普通に毒耐性スキルはAランクある。余程の事がない限りは無事なのだ。


「わたくしの魅了魔法の発動条件はそれなのです。いえ、仕込む方ではなく、やられる側で」

 先程まで僅かに笑みすら浮かべていたカタリナだったが、今はどこかげんなりとした感じに表情が変わっていた。



 カタリナの魅了魔法の発動条件とはつまりこうだ。


 恋のおまじないをしたかどうかに関わらず、カタリナが口にした食べ物の中にカタリナ以外の人物の髪や爪といった身体の一部が入っていた場合、そしてそれを知らず口にしてしまった場合にのみ魅了魔法が発動するのだとか。


「つ、使えんな……」

「ね、使えないでしょう?」


 成程、さっき使えるけど使えない、と言っていた理由がよくわかった。


 ちなみに作った人物の一部であればまだしも、後から別の人物の身体の一部をそっと仕込んだ場合はロクに効果は発揮されないのだとか。

 つまりは、料理を作った相手がうっかり髪の毛だとか眉毛だとかまつ毛だとかを料理に落としてしまい、そしてそれに気付かないままカタリナに料理を提供し、そのカタリナもそれに気付かず口にした時点でしか魅了魔法は発動しない。


 カタリナの魅了魔法の餌食になる人物が、とても限定的。


 ちなみに魅了魔法の持続時間はとても短い。

 髪の毛だとかは口に入れた時点で場合によっては気付いて吐き出すわけだし、眉毛まつ毛あたりなら気付かず胃の中に入ったとしてもずっと胃の中にあるわけでもないだろう。

 もし、毛ではなく汗や涙、唾液血液といった体液であったら効果の程も違うのかもしれないが、流石にそれを試してみよう、とはカタリナも思わない。控えめに言わずとも気持ち悪すぎる。


「……まて、そうするともしかしてカタリナ、きみの家で働いている料理人が頭をつるつるに剃っている挙句眉毛まで剃り落としているのは……」

「魅了魔法対策です。給仕のメイドたちが意図的に異物混入したところでそれは効果がないので……」


 以前ライエルがカタリナの家に訪れた時に見かけた料理人の姿を思い出す。あえてツルッツルに剃っているというのが強烈で、あれは彼の流儀か何かかと悩んだものの流石に聞くに聞けずもやもやしていたのだが、その謎がまさかここで解けるとは。

 眉毛まで剃っていたので最初に出会った時はぎょっとしたのだ。まさかの魅了魔法対策。

 そうまでしてアデレイド家で働きたい、という事なのだろうか。むしろそこまでしてくれるのであれば、カタリナもうっかり異物混入を警戒せずとも良いわけだしお互いが納得しているのであれば良い雇用主使用人なのだろう。


「それでさっきわたしに魅了魔法がかかったかどうかの確認を……」


 カタリナにお茶を淹れ出したのはリリアンヌだ。もしその時点でリリアンヌの髪がカップに入っていたら。

 いや、流石に飲む前に気付くとは思う。ではもしまつ毛あたりがするっと抜け落ちていたら。

 その場合はカタリナが気付かず飲み込んでしまった可能性もあるわけで、そうなっていたならリリアンヌは一瞬とはいえカタリナに魅了されていたかもしれないという事か。



 ライエルもワイアットもリリアンヌもそれらを聞いて、一同顔を見合わせた。

 今回の件、彼女は犯人ではない。

 そもそも魅了されたらしき人物は自分で料理もしないような男子生徒だ。いくらカタリナとて料理もしないような相手から作られた手作りの料理――この場合は菓子の方が可能性は高い――など口にするとも思えない。


 むしろカタリナの魅了魔法がかかる可能性が高い人物はとても限定されている。

 カタリナの家で働く料理人。しかしこちらは髪や眉毛を剃り落としているので万一魅了されるのであれば後はもう涙だとかの体液が混ざった時だし、学院の料理人もそういった異物混入はあってはならないものとして、事前に髪の毛だとかが入らないよう制服が指定されている。

 それ以外に可能性がある相手は、例えば街に出かけた時に立ち寄るカフェだとかの飲食店か、はたまたお菓子作りを嗜む女生徒か……どちらにしても今回の被害者はカタリナの魅了魔法の発動条件に当てはまらない。


「疑って悪かったね」

「いえ、疑う、というよりは単なる確認でしょう? 実際に魅了された相手がいるのであれば調査しないわけにもいきませんし、構いませんわ」

「あぁ、きみが魅了魔法を使える、なんていう話が出てライエルときたらもしかしたら自分もその魔法の効果に……!? なんて慌てふためいていたからね。自分のこの気持ちはもしかして偽りのものではないのか、なんて」

「ワ、ワイアット!」

「ははは、だが聞いた話なら、ライエルがきみの魅了魔法で魅了される事はない。せめて手料理を作れるようになってから疑うべきだったね」

「そ、そうは言ってもだな……!」

「良かったじゃあないか。きみの気持ちは正真正銘きみのもので、魔法によるものなんかじゃない。誇っていいと思うよ」

「あ……」

「せっかくなら少し席をはずそうか?

 ちょっといちゃつくくらいなら問題はないよ。盛られると困るけど」

「ワイアット!!」


 照れか怒りかわからないが顔を真っ赤にして叫ぶライエルに、ワイアットは普段浮かべているような柔和な笑みとは程遠いにやにやとした笑みを浮かべている。明らかにライエルの反応を楽しんでいた。


「席を外されても困ります。わたくしの疑いも晴れたようなのでそろそろ失礼させていただきますね。

 ……あ、そうだ」


 音を立てずすっと立ち上がったカタリナは、ふと思い出したようにワイアットを見た。


「先日の魔法薬学部で盗まれたらしい薬は発見されましたの?」

「いや、そちらは薬学部で調査すると言っていたからね、こっちでは調査等はしてないよ」

「そう……盗まれた薬って確か惚れ薬だったと思うのですけれど」

「え……」


「今回の魅了魔法被害者と思しき人物、惚れ薬を摂取したのでは?」


「あ、あの、でも惚れ薬って普通に飲んでも味がとても美味しくないって話ですよね。あれ摂取させる方が逆に難しいってやつだったかと」


 リリアンヌの言葉に、カタリナははて? と言いそうな顔をして小首を傾げる。


「それに関しては確か調理研究部で不味いお薬をどうにかして何事もなく飲めるような調理法を、って研究されてましたし、薬を盗んだ犯人がそれを実践した可能性、ありますわよね?」

「調理研究部ってそんな事してたんですか……?」

「あぁ、極秘裏に、って話でやってますわよ。バレたら色々と問題がありそうだから、部活内容などはかなり改竄して書類を提出していたはずです」


 あまりにも当たり前のように言われて、ワイアットは咄嗟に机の中にしまい込まれていたいくつかの書類を引っ張り出した。

 調理研究部での研究は基本騎士団などの野営地で入手できる食材などを使い、味のバリエーションを増やそう、という内容が主だった。つまりは新しいレシピを作ろう、という内容。

 簡単に、それでいて色々な味にできるのであれば、将来騎士団に入る者たちからすればとても助かる。

 だが実際の内容は別、と聞かされてワイアットは思わずその活動内容報告書をぐしゃりと握りしめてしまっていた。


 勿論そちらの活動もしてはいるのだろうけれど、それは表向きで本来の目的がそっち、となると……


「不味い薬をどうにか、って部分だけ聞けばいい事に思えるけど、それ下手したら毒物混入でも応用きくからね……リリアンヌ、早急に会計連れて調理研究部に踏み込むぞ」

「はぁい。じゃあちょっとヘンリエッタさん連れてきますね~」


 会計のヘンリエッタは隙あらば予算削減に余念のない女だ。

 本来とは異なる部費の使い方をしているのであれば、嬉々として予算を削る事だろう。


 調理研究部にとってはシャレにならない展開になりつつあるが、その事態を招いた当の本人は「あら」とまるで思ってもみない方向に事態が進んだな、といった反応である。


 案外近くで待機していたらしいヘンリエッタがやってくると、ワイアットとリリアンヌは颯爽と調理研究部が使用している部室へと向かって行った。

 あとに残されたのはライエルとカタリナである。



「……その、カタリナ」

「はい、何でしょうライエル様」

「調理研究部の活動内容を何故……?」

「どうして知っていたか、って事ですね? わたくしは調理研究部ではありませんし、本来の活動内容と異なる事をしているなら慎重になって外部に情報は漏らすはずがない」

「あぁ、そうだ」


 本来なら知るはずのない情報を知っているという時点で、確かに気になるだろう事は理解できる。勿体ぶって話を引き延ばしてもいいのだが、真面目な話をしている中でライエルを焦らしても特に面白みはないな、と判断したカタリナは早々に白状する事にした。きっとそっちの方がライエルが驚くだろうと思えたので。


「惚れ薬を盗んだ犯人は調理研究部のアルメルさん。あの方実はちょっと頭の出来がおかしいのか、ここをどうやら何かの物語だと思い込んでいて、自分はその物語のヒロインだと信じていらっしゃるようなのです。

 どうやらワイアット様を狙っている様子なんですが、そもそも接点がありませんでしょう? それで、どうにか接点を作るべく事件を起こしつつ自分はそれを手伝う側に回って……と画策していらっしゃるようなんですよねぇ……

 早々に尻尾を出してほしかったので、わたくしが使えもしない魅了魔法を使えるという情報をそっと流したらどうやら早速噂にしたようですわね」

「つまり……今日きみはここに呼び出される事をわかって……?」

「えぇ、というかですねライエル様。

 わたくし、この使い勝手が圧倒的に悪い魅了魔法という代物に意識を向けられているわけですけれど。

 諜報スキルSSSですのよ?」


「……は?」


 思ってもみない発言に、ライエルは思わずぽかんとした表情を浮かべた。

 普段きりっと真面目そうな表情しかしていないライエルのその顔はある意味で新鮮であった。さっきも似たような顔は見たわけだが。


「えぇ、ですから先程ワイアット様が暴露なされた魅了魔法によって自分はこの気持ちを植え付けられてしまったのか……なぁんて葛藤していらっしゃるライエル様の事は勿論把握しておりましたし、そういう姿も大層お可愛らし……コホン。あらわたくしとした事が。失礼いたしました、ほほほ」

 隠すつもりはこれっぽっちもない態度で言われて、ライエルはますます混乱する。


 え、知って……えっ?

 いやそれだけじゃなくて、可愛い……?

 周囲から朴念仁と言われているような自分が……!?


「可愛いのは、きみの方だろう」


 突然の情報量に頭がついていかなくて、思わず言うつもりもなかった言葉がぽろっと出てしまってライエルは言ってからしまった! と思った。

 こんなところで言うような事じゃなかった。自分でも思わぬ事態に顔に熱が集まるのを感じる。


 カタリナが一体どんな表情をしているのかすら見れなくて、ライエルの視線は迷子のようにうろうろと忙しなく彷徨っている。



 やたらと高性能な諜報スキルのせいで、そんなライエルの様子から何となく思ってるであろう内心を悟り、カタリナはあまりの微笑ましさについうふふ、と微笑んだ。

 あぁ、なんて可愛らしいのかしら。ライエル様こそ、わたくしに対して魅了魔法を使っているのではなくて? なんて言いがかりのような事すら思う。

 けれどあまりこの状態のままにしておくと、後になってからきっとライエル様は気まずさを覚えてしばらくわたくしの顔をまともに見れなくなってしまうわね。

 本当はもうちょっとこのままでいたいのだけれど。


「ライエル様」

「な、なんだ……!?」


 名残惜しいがカタリナは気持ち真面目な声を出す。

 そうする事でライエルも今の状況を変えようとでもいうように、上ずってはいるもののどうにか真面目そうな顔をして取り繕った。


「今回は容疑者の一人として呼ばれたわけですけれど。

 次からは情報提供者としてお呼びくださいね。必ずしもお望みの情報が手に入るとは限りませんが、それでも各種様々な情報を取り揃えておきますので」

「あ、あぁ」


 先程まで照れていたはずが、もうすっかり元通りになりつつある。その切り替えの早さは生真面目さからくるものなのかそれとも……

 かつん、とあえて音を出して一歩、カタリナはライエルへと近寄って、そっと耳元に口を寄せるように背伸びをする。それだけで折角普段通りの態度にもどりかけていたライエルは再び狼狽えた。


「学院内の取るに足らない情報から、お家の政敵が思わず失脚するような情報まで色々と取り揃えておきますから。是非近いうちにお話、しましょうね」


 それは甘く蕩けるような声で。

 愛を希うかのような声音で囁く。


 言ってる内容は全然可愛らしくもないのだが、ライエルはその事実に気付く事もなくカタリナの雰囲気にのまれるように、どもりながらも「あ、あぁ」と返事をするので精一杯だった。

 そんな返事でもカタリナにとっては満足だったのだろう。

「きっとよ? ライエル様」


 やはり蕩ける砂糖菓子のような声と笑顔を向けると、用は済んだとばかりに軽やかに立ち去っていったのである。



 ――ちなみに、一連の魅了魔法事件の犯人はカタリナの言う通りアルメルであったし、後日カタリナと二人で話をした時に実家の政敵でもある家の情報を色々と握らされた。

 それがどれだけの事か、本来なら即座に気付いて然るべきなのにライエルはすっかりカタリナに翻弄されて自分の婚約者が実はとんでもない相手だったという事にこれっぽっちも気付かなかったのである。


 ちなみにカタリナはそんなライエルを見てやっぱり可愛い人、なんてにこにこしていた。


 ある意味で、お似合いのバカップルであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鑑定魔法とかで魔法の仕様を辞書的に調べられる設定ならいいのですが、 手探りで悪用的な応用できないこと含め魔法の詳細突き止めたのならいろんな意味でお憑かれ様です。
[一言] 使えないというか、その条件満たす時点でもう惚れてるだろうから意味無い魔法だなwww でもその条件満たす奴ってお断り対象になりそうだからむしろ害しかないか?
[良い点] こんなに使えない魅了魔法は初めて見ましたw
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