8*偽り
アルンに守られてばっかじゃ嫌だった。
命懸けの戦いをアルンはしてる。
うちは、隠れて見てるだけ。
この戦いは、うちも戦わなきゃいけないんだ。
アルン1人の戦いじゃない。
うちの戦いでもある。
だってアルンの“鵺”だから。
でも、うちにはアルンみたいな力はない。
だから、強く願ったんだ。
――アルンを助けたい!――
そしたら、不思議な事が起こったんだ。
うちの足下に、銀色の…魔方陣っていうのかな?それが浮かび上がって。
目の前には、銀色に輝く弓矢が浮かんでた。
うちはそれを取って、弓道の時と同じように、引いた。
そしたら、また不思議な事が起こったの。
なんてゆうか、周りの風とか気がうちに力を貸してくれるみたいに集まった。
矢が、銀色に輝きだした。直視できないくらいに。
いける、と思ったうちは全神経を集中させて。
矢を射った。
ビルの屋上から銀の煌跡をひく矢が、一直線にグリアラへ向かってきた。
グリアラは、風歌の射った矢にまったく気付かず。
「ぐっ……!?」
気付いた時には、もう遅い。
矢はグリアラの胸を貫通、さらにその後風歌が射った2本目の矢は左太股を貫通した。
グリアラは倒れる事なくその場に踏ん張り、最後の力だろうを振り絞り、必死に人形を操る。
「終わりね、グリアラ」
フラフラの人形達は、アルジェントの刀によって斬られる。
それでも諦めようとしないグリアラに、刀を締まい、銃を取り出してはこめかみに押しつける。
「で、何か言い残すは? あるなら今のうちよ」
アルジェントの問いかけに、ただ薄ら笑いをするだけで何も喋らない。
そんなグリアラに違和感を抱きつつ、アルジェントが引き金を引こうとした瞬間。
「っ!?」
さっきまで感じられなかった強い気迫が、アルジェントを襲う。
これは、“生屍”の中でも力のあるもの――“死神”の放つ力のものだ。
そして、その力の矛先は……
「きゃああぁぁあぁ!?」
風歌の悲鳴が、フィールド内に響き渡る。
「風歌っ!!」
アルジェントは焦りを感じ、その場から跳躍し、ビルの屋上へと跳ぶ。
そこにいたのは人形に捕らえられた風歌と、グリアラだった。
「……下にいたのは、ダミー…」
不安と焦りの感情を殺して、冷静を装う。
「僕の人形相手に大分苦戦したようだね?」
クツクツと笑うグリアラに、沈黙を続ける。
「君の“鵺”…今まではとんだ無能だった」
過去を憶測し、懐かしむように言う。
「それが、どうだね? 素晴らしい力を持っている」
「だからなによ?」
グリアラの口端が吊り上がる。
「僕の舞台――喜劇の人形劇の主人公に相応しい」
そう言い、ぐったりしている風歌に近づく。
すかさず銃弾を3発放ち、グリアラの行く手を阻む。
「私の“鵺”に……風歌に近づかないでくれるかしら」
絶対零度の瞳でグリアラを睨む。
「それは無理な願いだ。コレはもう僕の人形だ」
「人形…? 風歌が、お前の……?」
そう呟いた後、アルジェントの瞳がエメラルドグリーンから焔のように赤い紅蓮に変わる。
「冗談もほどほどにしなさいよ……」
「冗談? いつ、誰がそんなの言ったのかね」
「ああ…お前、相当私に殺されたいみたいね」
いつもより、声のトーンが低い。その声音には、アルジェントの怒りがふんだんに含まれている。
殺気を放ちまくってるアルジェントに少し後退りするも、グリアラは食い付く。
「まさか…僕の新しい人形で、君を殺してあげよう」
新しい人形というのは、間違いなく風歌の事だろう。
グリアラの言葉に、アルジェントの怒りはついに頂点を越えた。
「本当に、昔から、お前は嫌い」
アルジェントの言葉に、そうだったんですか、というような顔をする。
「風歌を返す気がないなら、無理矢理奪い返す…!」
今度は銃をしまい、刀を取り出す。斬りかかろうとするアルジェントを、風歌を使って制止させる。
もちろん、アルジェントには風歌を傷つける事は不可能。
「なっ!?」
慌てて刀を引っ込め、素早いバックステップで距離をとる。そんなアルジェントの行動を面白がるように笑う。
「なんのつもり? 返答によっては今すぐ殺すわよ」
「君の反応が面白くて、ついね……人形劇は今日じゃつまらない」
考え込む仕草をしてから、こう言った。
「準備が必要だからね…3日後、この時間にこの場所で人形劇を公演しよう」
「待ちなさいよ…その間、風歌はずっとお前の許にいるとでも?」
当たり前だというように両手を広げる。
「馬鹿じゃないの? そんな事させるわけないわ。その3日間、風歌が無事でいる確証なんてないじゃない」
「君の方こそ馬鹿だね。僕が新しい人形をそう簡単に壊すわけないじゃないか」
そして、2人の間に不穏な空気が漂う。
考えた末、アルジェントはグリアラの言葉を信じることにした。
「――いいわ。3日後ね。今すぐ殺せないのは残念ね」
「焦らずとも、僕が3日後君を殺してあげよう」
白いマントを取り出し自身を取り囲むと、グリアラは人形と風歌とともに消えていった。
「しっかりやりなさいよ――風歌」
アルジェントの呼びかけに、声なき声で風歌が答える。
(イエッサー!)
サブタイトルの「偽り」という意味ですが、実はグリアラが人形だったことと、捕らえられてぐったりしている風歌が“演技”していたからです。
後者の詳細は次話で!




