5*季節外れの転校生は
戦闘シーンはまったくありません
4人の絡みメインです。
――季節外れの転校生は、銀の髪をなびかせた、美少女――
「アルジェント・ディア・スモルツァンドよ」
教室中に歓喜があがった。
(窓ガラスにヒビ入ってる!)
「じゃあ、スモルツァンドの席は――」
「ああ、風歌の隣がいいわ。昔からの知り合いだから」
今は昼休み。風歌、アルジェント、琥珀、那珂の4人は立ち入り禁止の屋上にいる。
休み時間に紹介したかったが、アルジェントがお約束の質問攻めにあっていたため、結局昼休みになった。
琥珀には、登校中に紹介は済ませてある。 お互い、第一印象がよかったのか、だいぶ親しく話す。
(第一関門突破!)
「アルン、この子は真柄那珂」
「那珂って呼んでいいよ」
「分かったわ。私のことは好きに呼んで」
「じゃ、私もアルンって呼ぶ」
那珂は笑顔で、アルジェントに手を出し、握手を求める。
「よろしく」
こうゆう機会が少ないのか、少し照れ臭そうに握り返す。
(か、かわっ……)
「………」
アルジェントに睨まれた。
(読心術!?)
「にしても、風歌に外人の知り合いがいたなんて初耳だな」
琥珀が、焼そばパンを頬張りながら言う←大好物。
風歌と琥珀は、幼稚園からの仲。お互いの事はよく知っている。琥珀は驚きが隠せない様だ。
「あー、うん。言ったことなかったから…」
「どうして?」
言葉を濁す風歌に、那珂が容赦なく問いただす。
(那珂、目が恐いっす!)
「ああ、それは私が口止めしたからよ」
そこでアルジェントが助け船を出す。
「アルンが?」
「そう。私の外見が外見でしょ?」
もし、風歌が自分の友人に銀髪の美少女がいると言ったら?
「会ってみたいな」
「琥珀、飲み込んでから喋ろうよ」
「そう。みんな風歌に詰め寄る、外国にいる私はなかなか日本に戻れない。だったら、私が日本に来たとき紹介すればいいのよ」
「たしかに。噂にもなっちゃうしね」
那珂が納得したように頷く。2人は、それ以上深い追求はしなかった。
(助かった…)
(まったく、感謝しなさいよ)
突然、脳にアルジェントの声が響き渡った。驚いた風歌は思わず声を上げる。
「何だよ、北澤でも見たのか?」
北澤というのは、数学教師のことだ。分かりにくい上に、ハゲていることで評判は非常に悪い。
「なんでもない!ただ、葉結姉に録画を取り消しされたかもしんない…」
何だよ、と言って焼そばパンを食べ始める←2個目。
(“討伐者”と“鵺”の間だけでできるやり取りよ。相手のことをイメージしながら心ね中で話し掛けるだけ)
(そうなんだ…聞こえてる?)
(もちろんよ)
キーンコーン...
「お?もう予鈴なってんのかよ!」
「琥珀だけよ、食べおわってないの!」
琥珀は、一口で食べるにはまだ大きい3個目の焼そばパンを放り込む。
「もぐもぐもぐ……」
「ちょ、風歌!アンタも食べおわってなかったのね!? 待ってるから早くしなさい」
「つかさぁ、こうなったら4人で堂々と遅刻しね?」
「私、転校初日なんだけど」
「ヘーキヘーキ」
手をひらひら降り、炭酸水をゆっくり飲む。
「あ、そういえば、さっき思ったんだけど…」
那珂が思い出したように言い、荷物を床に置いて座る。
「なに?」
立っていたアルジェントも、那珂につられ座る。
「アルンの歓迎パーティーしない?」
「あ、それ楽しそう!」
「ふぁーふぃー?」
「飲み込んでから喋りなさいってば……」
琥珀に注意してから、アルジェントに向き直る。
「いいでしょう?パーっとやりましょうよ!」
「わ、私のために?」
いきなりのことで、アルジェントは動揺する。
それもそうだろう。今まで、終わりの見えない戦いをずっとしてきたのだ。このようなイベントは無いに等しい。
「やろうよ!」
「名案だな!いつやる?」
「そうね…来週の土曜日は?」
「え、その日ってテスト2日前じゃん」
「いいだろ。みんなで夏休み補習受ければ」
もはや、アルジェントの意見は完全スルー。
(まぁ、風歌から離れなければ何でもいいわよね)
「補習受ける前提!? うち殺されるんだけどっ」
「そこは心配しなくていい」
「何故じゃ!?」
風歌が腕を組み、渋い顔で琥珀を見る。
「あたしも殺されるから」
「頼りねぇぇ!!!」
「今から勉強始めれば1日分くらい補えるわよ」
「出ましたよ琥珀さん。那珂さんの頭良い発言!」
「あーあー、やんなっちゃうよな、まじで」
すると、今まで黙っていたアルジェントがいきなり
「だったら、私が基礎からみっちり教えたげるわ」
「決まりね。これから昼休みと放課後は勉強会よ」
「えぇーっ!」
風歌は悲鳴を上げ、琥珀は心底嫌そうな顔をする。
「部活はどーすんの?」
「サボりなさいよ」
「那珂もサボんのかよ」
「当然」
那珂は胸をはって答える。
「2人は教えがいがありそうね」
アルジェントが、ニヤリと笑い腕を組む。
「「覚悟しなさい」」
学校中に、風歌と琥珀の叫び声が響き渡った。
――その後――
「遅れてすいやせんしたぁ!」
勢いよくドアを開けた風歌の額に白チョークがクリーンヒットし、後ろに倒れる。担任の中川が、古典の授業をしていた。
「お前ら…堂々とした遅刻だな? あ?もう6時間目も10分で終わるぞ」
「妊娠してる人を助けてた」
琥珀が真剣な顔で言う。
「そーかそーか、大変だったな」
「先生っ!真柄那珂、命の重みを学習しました!」
「そーかそーか、偉いな」
「私は、この3人の馬鹿さを理解したわ」
「そーかそーか、理解できたのか」
クラス中、笑い声で包まれる。
そして、最後の一言……
「これから放課後は、学校中の雑草抜きをしてろぉぉおおお!!!!!」
「「「ぇぇえっ!!??」」」
「あはははっ!」
風歌、琥珀、那珂の大絶叫と、アルジェントの笑い声は、いつまでも続いていた。
次話は、歓迎パーティーについて書きたいと思います。




