1*歯車は狂いだす
「煌銀」は「こうぎん」と読みます。
早くも敵の登場です。
敵がちょっと気持ち悪く……なったかも(汗
楽しんでもらえたら幸いです。
春。それは、別れの季節。
出会いの季節。
始まりの季節。
「うん。いい天気」
ケータイのアラームで起きた大野風歌は、まだ着慣れない制服に袖を通す。
高校に入学して、1ヶ月が過ぎた。
高校には、幼なじみで親友の高月琥珀と一緒に入学。2人の家の中間地点、花の丘公園の時計台に7時20分に集合して電車に乗り、行く。中学のときとは全く違い、なんだか違和感を感じる。
(変わらないのは、うちが見る夢だな……)
春休みあたりから、毎日同じ夢を見るようになった。そのことを、つい先日琥珀に相談したばかりだった。
「気にしなくていんじゃね?」
それが、琥珀の返事。呑気な風歌は、本当に気にしないことにした。
「そもそもうち、考えること苦手だし」
うん、と頷いて朝食を食べ、家を出た。
しばらく歩くと、風歌を呼ぶ声がした。
『風歌……』
(およ?)
立ち止まって、辺りを見る。近くに、人はいない。 空耳だと思い、また歩きだす。
『風歌…』
今度は、さっきよりもハッキリした声で呼ばれる。近くに人は……サラリーマンの人ぐらいだ。
「やいテメー、さっきからうちのこと呼んでんじゃねー!」
サラリーマンの胸ぐらを掴んで言う。すると、頭を叩かれた。後ろを振り向くと、琥珀がいた。
「すんません、こいつバカなんで無視していいですよ」
サラリーマンから風歌を剥がす。
「何すんのさっ」
「風歌は何してんだっ」
「だって、あいつうちの名前呼んだんだよ!?」
「そーかそーか、気のせいだ。よし、行くぞ」
琥珀は風歌を引きずって、駅えと向かう。
「ちょおおおぉぉ!!!!」
風歌に拒否権は、無し。
(あれ?さっきの声、どっかで……)
少し考え、何もひらめかなかったので、とりあえず暴れた。
「うわ!? 急に暴れるな!捨てて行くぞ」
「すんませんしたぁっ!」
「あ、ゴミ収拾車だ。すんませーん!これバカゴミなんだけど……」
「スライディング土下座するからあっ」
すると、琥珀がピタリと止まり風歌を見る。
「学校でやれよ」
「のおおおおぉぉんっ!!!!」
風歌に拒否権は…無い。
「あ、朝から疲れた……」
あの後、本当にスライディング土下座を教室でさせられた風歌は、クラスの笑い者になった。
「っ……」
風歌の隣で笑いを堪えているのは新しくできた友達、久条那珂。
「笑いたいなら笑えやチクショー!!」
「え、いいの?」
那珂は腹をかかえて笑いだした。そこへ、琥珀がやってくる。
「なかなかいい笑い方だな」
「だ…だって風歌……あはははっ!!」
琥珀もさっきのことを思い出したのか、笑いだした。
「いつか覚えてろぉ!!!」
泣きながら教室を出ていった。
「席つけぇ」
担任の中川が教室に入ってきた。右手に出席簿、左手に風歌を抱えて。
「ところで…これは何ゴミだ?」
「バカゴミです」
すかさず琥珀が中川の問いに答える。
「そうか。バカゴミはいつだ?」
「今日です」
「でも、もう時間過ぎちゃったからまた来週ですね」
さらに那珂まで参戦する。
「いじめだああぁぁぁ!!!!」
風歌は朝から、大忙し。
大野風歌。11月10日生まれ。茶色い髪をツインテールに結んでる、身長の低いバカ。
高月琥珀。9月5日生まれ。日本人とイタリア人のハーフで、オレンジの髪は短い。男っぽい性格。
久条那珂。4月21日生まれ。長い黒髪をおろしている、スタイル抜群の姐御。
性格はバラバラだが、3人はうまく付き合ってる。
風歌の忙しい学校生活の1日を終えて、部活へ行く準備をする。風歌は家が道場であり、空手・剣道・弓道・薙刀といったことを教えているため、風歌も空手と弓道を幼い頃から教わっていた。
「風歌が弓道部って、意外」
「むむ。那珂さん、これでもうちの家は道場ですよ」
少し頬を膨らます。
「……エイプリルフールは今日じゃないよ?」
「ちょ、那珂テメッ…うちだってそこまでバカじゃないよ」
信じない那珂に対して、風歌は琥珀に助け船を出す。
「残念だけど……事実だ」
俯きながら言う。那珂はひどく驚いた顔をする。
「琥珀ちゃん、何が残念なの!? うち、こう見えて結構デリケートだからね」
『風歌……どこ?』
朝に聞いた声が、また聞こえてきた。
(なに…なんなの、この声?)
『聞こえるなら、返事して…』
(どうやって…まさかテレパシーとか!? 冗談キツいって!)
「おい、風歌っ!」
「ふぁい!!!」
「どうしたの?急に黙って」
どうやら、2人の声に気が付かなかったらしい。 2人とも、なんだかんだ言って風歌を心配している。
「あー……なんでもない!部活行ってくんね」
そそくさと荷物をまとめて、その場から立ち去る。 扉まで行くと、立ち止まって2人に「また明日!」と挨拶をする。
「あ、ああ。また明日」
「うん。また、明日……」
琥珀と那珂は、不思議そうにお互いを見て、それぞれ部活へと行った。
(うちを呼ぶ声…あれ、多分だけど夢に出てくる子の声だ)
部活も終わり、今は家路についている。
この変な声のせいで、今日の部活は散々だった。集中力はなくなる、人の話しが全く耳に入らない、射った矢は的にすら当たらない(ひどいときは構えすらしない)、最終的に顧問の村松に叱られた。
毎日見る夢、そして最近聞こえるようになった声。
(これ、絶対なにかあるよ。うちの勘)
考えにつかっている間に、人通りの多い街頭から、閑静な住宅街を歩いていた。 点っている外灯も虚しく、辺りは暗い。
(早く帰ろ…)
風歌は早足で歩く。
ズンッ――
「っ…!」
一瞬、体に振動が走った。驚いて、おもわず近くの電柱に掴まる。再び歩きだそうと前を見ると、
「なに……これ、」
住宅街が、暗い赤の色に染まっていた。
(思考回路ショートするって!)
背中に嫌な汗が流れる。
よく見ると、家の玄関の電気が全て消えている。 カーテンの向こうの微かな部屋の明かりも、ない。
(……っ、帰らなきゃ)
「お前……『銀の魔女』の“鵺”か?」
走りだそうとした風歌の耳に、声が届いた。辺りを見渡しても誰もいない。
「あははは!どこ探してるんだろうね?」
「上だよ上」
風歌が顔を上げると、電線に立っている、顔が2つある黒い怪物がいた。
「ひっ……!」
恐怖のあまり声が出ない。 怪物の体は脂のような光沢があり、下にいくにつれ脂肪がある。顔も、右側は上下逆さだ。
「こいつ、『銀の魔女』の“鵺”じゃないのかなあ?」
「でもフィールドにいる。鵺であることは絶対だ」
(シロガネとかヌエとか……なんの話し!?)
風歌は隙を狙って逃げようと走ったが、怪物がすぐに反応して風歌の前方に立つ。
「逃がさないよー」
2つの顔が気味悪く笑う。
「“鵺”でも“鵺”じゃなくても、お前を殺すぅ!」
「いやああああぁぁ!!!」
怪物の腕が伸び、風歌は手を前に差し出す。すると、一瞬銀色に光った。
怪物の腕が、千切れていた。
「え…今のうちの力?」
風歌は自分の両手を見つめる。
「おのれ…やはり“鵺”かっ!」
「ムカつく!絶対殺す、絶対殺す!」
腕がない怪物は、風歌に噛み付こうと大きく口を開け、早いスピードで近づく。
(やばいっ…殺される!)
「私の“鵺”に、その醜い姿を見せないでくれるかしら?」
鈴のような綺麗な声が聞こえ、風歌の前に現れた少女は、銀の髪に、スラッとした曇りのない太刀を手にした、夢の中で出てくる、
「アルン……?」
だった。
敵の描写はどうでしたか?
書いてる友加も、ちょっとアレでした←
次話は、風歌とアルンの絡みを多く入れたいと思ってます。




