殺人事件
お読みいただきありがとうございます。
そしてすみません……さきほど投稿してから第四話がそのまま掲載されていたようです。修正いたしました。
黒く染まった海水が渦を成して押し寄せ、埠頭を叩いていた。秋や冬の足音が近づいてくる季節特有の光景だ。
探偵の氷上は田沼巡査の運転するミニパトカーに乗って漁港まで来ていた。
漁船は古びた小さな船がいくつか停泊しているだけだった。強い磯臭さの混じった潮風が氷上の頬を叩いていった。
消防団員が数名ビニールシートの周囲に集まっているのが見えた。
青いどこにでもあるビニールシートだったが何かの上にかぶせられているようだった。さきほど発見されたという遺体なのだろう。
「おーう田沼さん」
「どうもどうも」
田沼巡査がミニパトカーから降りて手を挙げた。
声をかけてきた消防団員の男にむかって歩いていく。50代くらいだろうか。
消防団員が氷上に気づいた。
「こちらは?」
「昔から当職がお世話になっている探偵の氷上さんです」
「探偵……」
「どうも氷上です」
氷上が長身を折って挨拶すると消防団員はぽりぽりと頭をかいた。
「まぁ田沼さんが連れてきたなら仕方ないっちゃけどナ……」
男の言い方に氷上は含みを感じたが、この場は受け流すことにした。
田沼巡査はブルーシートをめくっていた。
「……うーんこれは"検視"をちゃんとするまでもなく事件ですね」田沼巡査がつぶやくように言う。
「応援を呼びますかいね?」
「何しろ事件ですからね、駐在所では手に負えないでしょうし……一度刑事課に相談してみます……氷上さぁーん!」
田沼巡査が声をかけてくる。
「氷上さんもその……当職はいまから警察無線をつかいますので……」
その間に遺体を見ておいてくれということなのだろう。臨場した警察官が自ら探偵に依頼するわけにはいかないというわけだ。
「分かった、ごゆっくり」
消防団員の男が手招きする。
氷上はブルーシートに近寄り、念のため手袋をはめてからシートをめくった。
「……」
事件性があるのは明らかだった。
さほど腐敗が進んでいるわけではないので比較的新しい遺体だ。スーツを着ている男性のように見える。体格は良さそうだ。
しかしその遺体は後ろ手に荒縄で縛られていた。まず自殺ではないだろう。自殺だとしても第三者が幇助しているように見え、そうであればどのみち事件になる。
氷上はその様子を脳裏に焼き付けた。
「田沼巡査……」
田沼巡査はちょうど連絡を終えたばかりのようだった。
「氷上さん……あれは……ですよね」
「事件性はあると思うよ……ただ今、探している探し人ではなさそうだ」
芽衣から聞いた人物像はもう少し華奢な男性だ。多少の腐敗で膨らんだ可能性もあるが、スーツにぴったり収まっているのでそういうわけでもないだろう。
「探し人?」
「まぁそれは良いんだが……後で念のため、誰の遺体か分かったら教えてくれないか。刑事課に聞いてくれてもいいよ」
「ヨモさんに聞いておきます」
田沼巡査がにやりと笑った。
結局、刑事課の"ヨモさん"は氷上に協力的……というよりいろいろと田沼巡査を補助するように仕事を頼んできた。警察無線ではなく携帯電話にかけてくるあたりがヨモさんらしいやり方だ。
「さて……」
氷上はちらりと腕時計を見た。
芽衣を旅館に残しているのは気になったが、今のうちにこの町の様子を見ておきたいと思ったのだ。
田沼巡査はしばらく動けないとのことで、消防団員の男が自転車を貸してくれた。レンタカーの店舗などはなく、タクシーも個人タクシーが数名いるだけとのことだったのだ。
那珂湊はさほど大きな町ではない。
起伏も多いが自転車があるだけでもありがたかった。
氷上はありがたく自転車を借りて漁港を離れるのだった。
第6話です。
港にあがった身元不明の遺体。
これが意味するものは……
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