僅かな希望
朝の食事を終えてから姿が見えないユグを探して執務室に来ていた。
昨夜に借りた上着を返す為に。
しかし、扉の前で入れずにいる。
中からうっすら聞こえる話し声。
「……っ……人間……と……イクレイ……だ……」
「……が……っ……闇魔法……何か……の……」
話の中で『イクレイ』の名前が聞こえた気がして、扉入る事もを離れる事もできないのだ。
イクレイってイクレイ公爵って事……?
闇魔法って聞こえたし……
嫌な予感があった。
今回に関わっていたりして……?
エウレカはゲームの悪役令嬢だ。
何か企んでいたりする可能性がある。
『愛姫』のゲーム内でのエウレカは手段を選ばず妨害してくる。
軽い物だと悪評を流したり、ティアの物を隠したり壊したり。
重い物だとモンスターをけしかけて襲わせたり階段から突き落とそうとしたり、人を雇って消そうとしたり。
悪役令嬢らしい悪行の数々。
決定的な証拠は無いにしても目撃者や状況から、アレクもエウレカの仕業だと解っていた。
そんなエウレカだ。
何かをしていたとしてもおかしくはない。
暫く考えていたが、居ても立っても居られなず執務室へと飛び込んだ。
ガチャりと開いた扉。
ユグとプルートーとレムの目がティアに集まる。
驚いて固まる3人。
悪いことをしたつもりもないが、マナーは悪い。一斉に見られると怖じ気付いてしまう。
「立ち聞きするつもりは、なかったんだけど……聞こえちゃって……聞いたら、気になっちゃった……」
亭木が部屋に訪れる。
「ふぅ」ため息を付くユグ。
ピクリ。
呆れられたかと肩を揺らすティア。
暫く考えた後ユグが口を開いた。
「聞こえてしまったなら仕方ない。」
本当は聞かせなくなかったけど…そう言いながら追い出したりせず、話に参加させてくれる様だ。
本来は後で話をまとめた上で、ティアに聞かせても良い内容だけ・・知らせるつもりだったらしい
聞いてしまっていたなら、と始めから教えてくれる。
ティアが来た初日、プルートーが謁見していたと云う者がエウレカの使いの人間だったとの事。
始めは全能のユグに委ねるつもりだった様だが、エウレカも代理者も闇の魔法使い。
謁見き来たプルートーは闇の王。
同じ闇なら解って貰えると思ったのか、プルートーへ手紙を託して帰って行ったそうだ。
代理者の顔は何かに怯える様に必死な形相だった。
そんな者に『是非とも!何卒!!』と手紙を渡されて怪しげながらも受け取った。
プルートー曰く、何か感じる嫌な気配みたいなモノがあったとか。
代理者の持って来たエウレカの手紙には、そう書かれていたらしい。
『是非、力を貸して頂きたい。』
普通なら精霊に頼むのが筋。
それを飛び越え精霊王に直接頼み事をするなど、精霊界では礼儀がなっていない。
会社で言うなら
下請け業者が上司に相談もせずに親会社の、しかも大企業の社長に頼みに行く様な物なのだ。
それ程の失礼極まりない行為。
もちろん、王によって処罰されても文句は言えないのだそうだ。
人間界と精霊界では規則もマナーも考え方も違う。
当たり前の事が当たり前では無いのだ。
私も失礼な事をしていたかも……
精霊王達を近くに感じていたけれど改めて、自身とは違い遠い目上の存在なのだと再認識する。
青い顔になっていたティアに
「ティアは俺様の嫁だから命令しても大丈夫なんだぞ。」
とユグ。続いてレムも
「それでなくても聖なる光の姫。ティア様のお願いでしたら、私を含め他の精霊の王達も喜んで聞くでしょう。」
それにプルートーも頷いてくれ「命令しないよ」と言いつつホッとした。
これが主人公パワーなのか。
そこでハタ、と
「いやいや、嫁ではないけど!?」
ツッコむティアに恥ずかしがり屋なんだからぁ~とニマニマ笑うユグ。
レムは若夫婦を見守る親の様な暖かい目で見てくる。
どうしたらいいの!?
そんな空気をプルートーが打ち破ってくれる。
空気の読めなさグッジョブです!
「あの人間の纏う気、闇魔法でも嫌な感じがした。何か企んでいるかもしれない。」
闇の王だから解ると言う。
しかし、それが何か・・は解らないそうだ。
もしかしたら、攻略対象者達の記憶喪失も何かしらの関係があるかもしれない。そう思った。
もし、関係あるなら戻す方法も解るかも!
少し光が見えた気がした。
ユグ、レム、プルートーに向かい、エウレカが何をしようとしてるなら止めて欲しいとお願いする。
が、渋い顔で『答えられない』と言われてしまう。
「聞いてくれるって言ったのに……」
しょんぼりするティアに
「いくら精霊でも人間界へ過度の干渉はできないのだ。」
とユグが教えてくれる。
精霊が力を使えるのは人間を介してのみ・・。
直接、動く事は出来ないのだそうだ。
人間界にとったら精霊の力が強すぎる為、どこかの国が独占でもした場合、均衡を崩す事となる。
なので大昔に人間界との取り決めで、過度に干渉しない事。させない事。
人間が使う時の力添えのみ・・可能だと決められたらしい。
なのでエウレカも『お願い・・・』なのだ。
エウレカ自身、自分を介して何かに力を使うつもりなのだろう。
何かを企んでるのが解ったのに、何も出来ないなんて……
口惜しく思う。
人間にはエウレカがどこにいるのかも分からない。
ましてや偵察等、難しいだろう。
そこで、ふとティアが気付く。
「精霊はダメなのよね。妖精もダメなの?」
「ダメ…じゃないな。」とユグ。
「規約には含まれておりません。」
とレムも教えてくれる。
グレーゾーンではあるけど責められる事は無い、と。
それならば!と偵察にピッタリだと云う妖精をプルートーが紹介してくれた。
風と闇の間の子の妖精。
隠れる事に長けているのだと云う事だ。
妖精にも属性のハーフっているんだなぁ……とティアは初めて知った。
「危なくなったら急いで逃げてね。」
そして無事に戻って来てと願いを込めて伝える。
凛々しく任せてくれと言わんばかりに胸を叩いた妖精は、勢い良く窓から外へ出て行った。
出て行く時、一緒光った様な気がする。
「加護を付けたんですね。さすがです。」
レムに言われてもキョトン顔だっただろう。
「あれ(光ったの)、私がやったの?」
「無意識に使うとは、大したものだな。」
感心した様に言うプルートーだが、意図せず使った本人は何とも言えない気持ちになる。
「何を言う!光の姫は自ら加護をお与えになったのです。失礼な物言い、やめて貰いたい。」
「いやいや、あれは無意識だ。それでもあのレベルの加護。褒めているのだぞ?」
言い合うレムとプルートー。
意図的だと言うレム。
無意識だと言うプルートー。
……プルートー正解。
絶対に自分の意思で使える様になってやる!絶対!!
「ティアは流石だな!あれだけの力を使って疲れたろう?ケーキ食べるか?喉乾いてないか??」
褒めようとしているのか、慰めようのしているのか、ティアを甘やさそうとするユグ。
「さぁ、ティアここへ。」
ユグに言われるまま執務室に置かれているソファに座る。
座り心地は最高だ。
ガチャり。
その言葉を聞いていたのかお菓子とティーポットを乗せたカートを押して、アスカとプルートーの補佐精霊のシャドウが入って来る。
シャドウは、黒猫の耳としっぽを付けた男の子のみたいだ。
目は猫のモノだし、鼻や口元も猫よりだが。
ゆらゆら揺れるしっぽが可愛い。
頭をワシャワシャと撫でたい衝動に駆られる。
猫好きにはたまらない。
そんなシャドウに見蕩れている内に、テキパキとお茶の準備が完了。
お辞儀をしてから再びカートを押し、出て行くアスカとシャドウ。
「休憩も必要だから。あっ、これ美味しいんだ。はい。ティア、あーん。」
嬉しそうにティアの隣に座り、甲斐甲斐しく世話をしようとしてくれるユグ。
横では、今だ言い合うレムとプルートーの2人。
拒否したが引かないユグに負け、恥ずかしさを堪えながら差し出されたフォークのケーキを食べる。
嬉しそうに次に食べさせる物を物色するユグ。
紅茶を飲みながら精霊が飛び出てった窓に目をやる。
どうか無事で
何か糸口になる物が見付かります様に。
祈る気持ちで窓を見つめた。
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