漆黒
「くっ」
対抗するアテナだが額には大粒の汗が滲む。
ティアも応戦すべく願いを込める。
「お願い!皆の幸せの為に!!」
光が結果を包む。
他の精霊王達もそれに加わる。
それでも闇の威力は衰えない。
狂気を含んだ暴走した力が膨れ上がる。
抑えようと皆が力を一層込めたが弱まる気配を見せない。
それどころか増しているようにも思える。
(……もう、抑えきれない……かも……)
タタっ
誰かオリジンに近付く。
エウレカだ。
腕には魔法無効化の印が浮かんでいる。
それの効果なのだろう結界も闇も物ともせず、オリジンに近づいて行く。
近くに寄るとオリジンを抱きしめた。
「エウレカ嬢っ!?」
「離れて下さいっ!!」
アレクとティアが慌てて声をかけた。
声が聞こえないのか気にせずエウレカはオリジンに話しかける。
「……私では……いけませんか?」
しかし、声は届かない。
「俺が……っ間違ってっっ」
「危ないっ!離れてっ!」
ティアが叫ぶ。
が、エウレカには届かない。
「オリジン様っ!」
「……俺が……っ……」
魔法無効化と言っても闇が強力なのか、徐々にエウレカを傷付け始める。
「エウレカ嬢っ!戻って!」
アレクも説得にかかるがエウレカは反応を返さない。
「オリジン様っ!!」
その間もエウレカの体には闇の力で付いた傷が増え続けていた。
「……俺が……もっと……」
「「エウレカ嬢っ!!」」
アレクとティアが呼びかける。
「私ならっ!!!」
全てを切り裂く様なエウレカの声が響く。
「私なら!!オリジン様を1人に致しません!!!」
虚ろな目のオリジンを強い瞳が捕える。
ピタっ
オリジンが止まる。
「……1人に?……しない……?」
空気がピリっとした。
「……お前が?」
オリジンが求めてるのはセシリアだ。
激昂しかねないと周りは息を飲んで見守る。
「はい!お傍に置いて下さい!」
「俺に……復讐でもする気か?」
オリジンの目にギラリとした物が再び宿った。
警戒してアテナが結界がいつでも貼れる様に念を練る。先程よりも強力な物を。
「なぜ復讐をすると思うのですか?」
「……俺はお前を利用したろう?」
「私を必要としてくれたって事ですよね?」
その言葉に
「お前なんか必要ないっ!」
オリジンから再び濃い闇が溢れる。その闇がティアへと向かう。
すかさずアテナが結界を張る。
しかし、オリジンに抱き着いているエウレカは結界に入れず魔法の無効化を物ともしない闇の霧に体を傷付けられ続けていた。
「エウレカ嬢!こちらへ!!」
アレクの声も聞こえて無いのか反応しない。
「私は!」
エウレカの声が響く。
「私には!オリジン様が私の運命だと感じましたわっ!!」
「……運命……?」
「はい!オリジン様のセシリア様にはなれませんが、ずっとお側にいます。お1人にはさせません!」
「ずっと……?」
「そうです。オリジン様が嫌でなければ、ずっとずっとお側に置いて下さい。」
「精霊になっても……いいのか?」
「構いませんわ!オリジン様と永遠なんて夢の様で素敵ですわ。」
うっとりと語るエウレカ。
嘘を言っている様には見えない。
「……永遠に?」
「はいっ!永遠に!」
沈黙が流れる。
「……お前……名前は?」
「エウレカですわ。」
「エウレカ」
「はいっ!」
くるりとエウレカがユグに向く。
「すみません。ユグ様。私の王子様はオリジン様だった様です。どうか私の事は諦めて下さいませ。」
綺麗な令嬢の礼をしてオリジンに向き直る。
「……本当にいいのか?」
「私にはオリジン様しか見えませんわ。」
そっと手を伸ばすオリジン。
オリジンの差し出した手を取り、2人見つめ合ったまま闇に溶けて行った。
それは狂気を覆い尽くす様な、全てを飲み込む様な、そんな黒々とした漆黒な闇。
残された者達は呆然とするしか無かった。




