黒霧
エウレカを中心に風が発生する。
黒霧を含んでいて視界を徐々に奪う。
アテナに身を守る結界魔法をかけて貰っていたが、視界を奪うだけの黒霧には役に立たない。
けれど覆い尽くされたらマズイ気がする。
状況に焦った護衛騎士が看守を呼ぼうと扉を開けた。
スルり
その隙間から誰かが侵入して来る。
フードの男、オリジンだ。
黒霧に覆われる室内でパチっと目が合う。
ギラギラとした目が印象的だった。
黒霧の室内で視界も悪いのに迷う事無く一直線にティアに向かって来る。
なぜ、他は見えないのにオリジンだけが鮮明に見えるのか。
ティアを掴もうと手を伸ばす―――
オリジンと目が合ったまま動く事も逃げる事も出来ない。
(もう、ダメだ……っ!)
と思った瞬間、見えない壁に阻まれで止まる。
「チッ精霊の力か。」
オリジンが忌々しそうに呟く。
今しかないとエウレカを振り払おうとするも、ティアの腕を凄い力で掴んでいて離さない。
その間、オリジンが何か呪文の様な物を呟いている。
レムから貰ったペンダントを握るも何も起こらず、気持ちばかりが焦った。
(せてめ、外に中の状態を伝えられれば!)
隣の部屋で待機しているユグとアレク、そしてレムとプルートー。
精霊界ではイフリート、ポセイドン、アテナ、ジンが、人間界ではルカ、フレデリック、ロバートが礼拝堂で待機してくれていた。
外に伝えれば何とかしてくれる!
気持ちを込めてペンダントを握る手に力を込めた。
その様子に気付いたオリジンが呪文の速度を上げる。
ぶあっ
オリジンからより黒い霧が吹き出す。
『漆黒』
塗り潰されれば光も見えない闇に見えた。
ティアの足が震える。
あの闇に飲まれたら、もう戻れない。
そんな予感が頭を過ぎる。
徐々に近寄る黒霧。
蛇の様に。
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくりと波をつちながら。
恐怖に心が侵食される。
もうダメだと思った。
(ユグっ!!!)
心が求める名前を呼ぶ。
次の瞬間
パアァ
握りしめたペンダントから光が放たれる。
そして、それと同時に風が吹く。
爽やかな自由な風。
それは部屋を駆け巡った。
風に乗った光がキラキラと闇を離散させる。
真っ暗だった視界が開けると、次に立っていた場所は精霊界だった。
周りにはヒルフォートに居たはずのユグ、アレク、レム、プルートー。それに他の精霊王達。
何故かジンがドヤ顔である。
忌々しそうにオリジンが精霊王達を睨む。
「久しいな。オリジン。」
「昔馴染みならば邪魔をするな!」
プルートーが話し掛けるが忌々しそうに言い捨てた。
「昔馴染みだからこそ、悪い事をしたならば止めねばなりません。」
凛と答えたレムをギロリと睨む。
「何故止める!?俺はセシリアと共にありたいだけだ!」
皆が止まる。
『セシリア』とは?
止まった好機を見逃さずオリジンがティアに再び黒霧を放つ。
逃げようにも、エウレカに捕まれ逃げられない。
しかし、黒霧がティアに届く前に先程の光の風に黒霧は掻き消さた。
再びジンがドヤ顔である。
「僕がペンダントに仕掛けといたんだ〜。強力になったでしょ〜。」
あの日、イタズラっ子の顔をしてたのはこれか。
「確かにあれなら光が拡散され効率的だな。」
「ジンもたまにはやるぅ。」
「たまにはって何〜?僕はやればできる子なんだよぉ。ぷう。」
「……まぁ不服だが、見直さない事もないかな……」
周りの精霊王達やアレクに褒められご満悦なジン。
対照的に苦虫を潰した様な顔のオリジン。
だが、安易に喜んでばかりもいられない。
ペンダントの中に入れてくれたレムの力がどのくらい残ってるのかわからないし、私がエウレカに捕まれてる以上まだまだ危険な状況だ。
実際、ティアが人質に取られている様な状態で、誰も安易に近付く事ができないでいた。
「セシリアの希望を叶えたのはお前だったろう?」
発したのはプルートーだった。
オリジンが睨む。
「それがお前の幸せだと、やめろと助言した俺に言ったのもお前だ。オリジン。」
その言葉にピクリと反応する。
「幸せだったさ。」
ポツリと呟く。
「セシリアと一緒にいる時はっ!幸せだった!!」
勢いのままに叫ぶ。
悲痛な叫びがその場に響いた。
「でも!もうセシリアに会えない!!どこを探しても!セシリアがいないっ!!!」
勢い余ってフードが取れる。
「「「っ!!!??」」」
その姿にオリジンの正体を知らない者はハッと息を飲んだ。
「っ……ユグっ!?」
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