ユグとアレク
昼下がり。
アレクに指定され王宮の庭園のあのガゼボに来ていた。
「やぁ、来てくれて嬉しいよティア。」
そう言いながらアレクの顔が引きっっている。
それもその筈……
ティアの両サイドにレムとアテナが陣取っているからだ。
「必要以上にティア様に近付くではありませんよ。」
目の笑っていない笑顔のレム。
「私、お茶は特製のブレンドティーと決めておりますの。」
アテナは給仕するメイドに持って来た茶筒を渡し淹れる様に催促している。
「……すみません。」
何となく、謝ってしまうティア。
「保護者の方にはお帰り願いたいのだが……。」
言うアレクに
「私達の事は気にせず、いない者と思って話を進めて下さい。」
レムとアテナはニッコリ笑う。
給仕が終わったメイドをアレクが下がらせる。
「ティア。」と真剣な目を向ける。
いなくなる気配の無いレムとアテナ。
アレクは気にする事を止めたらしい。
「話しとは何かな?答えを聞かせてくれるの?」
優し気に問いかけて来るアレク。
答えが出ているが、いざ、目の前にすると言い難い。
やっぱり優し気な顔や雰囲気はティアにとってタイプだ。
楓の頃から好きだった。
「……それは……」
アレクの瞳。
催促する事なく、優しく見つめられ言葉が出ない。
「ユグ様が良いそうです。」
キッパリハッキリ右隣からのレムから言葉が発せられる。
「光の王には聞いていません。」
アレクが怖い笑顔でレムに言う。
「察しの悪いオスね。私達が着いて来た時点で解るでしょうに。」
挑発する言い方のアテナ。
「ティアの口から聞いてませんから。」
ねっ。とティアに微笑むアレク。
(皆が……こ、怖い……)
笑顔の裏の水面下の戦いに、どうして良いか解らない。
が、止められるのはティアしかいない。
「レム、アテナ、少し二人で話したいの……いい?」
ティアの言う事だから、と渋々了承する二人。
しかし、席は離れる事は断固拒否。
口を挟まない事だけ納得してくれた。
最初に口を開いたのはアレク。
「ティア。君には悲しい思いをさせた。それは決して消せない過去だ。」
苦渋の表情を浮かべ「それでも」と続けた。
「君を愛している。ティア、どうか償いをさせてくれないか。」
真剣で強い射抜く様な眼差し。
情熱を感じる。
以前のティアなら喜んで受け入れただろう。
でも今は……
「ごめんなさい。」
目を反らしたかった。
アレクと目を合わせるのは辛いから。
でも逃げる訳にはいかない。
アレクが誠意を示してくれたのだから……ティアもせめて、それ位だけでも返したかった。
しっかりとアレクの水色の瞳を見つめ
「気持ちには……お応えできません。」
暫く沈黙が訪れる。
アレクの顔は悲しげで、忘れた事を悔いているのだろう。
そのせいでティアの心が離れたのだ、と。
きっと、そう思ってる。
「アレク様、好きでした。」
そして
「多分……忘れても、忘れなくても、こうなる運命だった様な……そんな、気がします。」
その言葉に寂し気なアレク。
「……起きてしまった事を悔いても仕方ないな。」
何となく納得している様にも見える。
ティアは改めてアレクと対峙して、話をしてみて気が付いた。
本当はユグと出会って、途中から気付かない振りをしていたのかもしれない。
アレクを攻略対象として見ていた事。
そう……ティアにとってアレクは、ずっとゲームの中のキャラクターでしか無かった。
好きだと思っていたのも、TVの中のアイドルに憧れてるのと同じ。
恋愛ごっこをしていただけ。
だから、ティアにとってリアルに感じた男性はユグが初めて。
ゲームの中との違いに、いつの間にか攻略対象を抜け出していた。
キャラクターではなく、一人の男性として認識したのだ。
アレクとユグの違い。
楓の頃からの憧れのアレクと、ティアになって男性として認識して意識したユグ。
人としてティアの中で生きているのがユグだった。
些細な事だが、それが大きな違いになったのだ。
誰のせいでもない。
ティアの言った言葉『忘れても、忘れなくても』は本当に本心から出た言葉だった。
きっと、ユグと出逢えばこうなっていたと思うから。
「ごめんなさい。」
申し訳なさでティアがもう一度謝る。
「謝らなくていい。」
優しくアレクが言う。
「僕も、もう謝らないよ。だからお相こだ。」
「それに、僕はティアを諦めない。」
発言にビックリしてお茶を吹きそうになったティア。
それまで傍観していたレムとアテナがアレクを睨み付けている。
「諦めなくてもティア様は、もうユグ様の、精霊界の王妃になられる方です。」
余計な恋慕は止めて頂きたい!と珍しく憤ってるレム。
その隣で
「諦めの悪いオス程、始末の悪い者はないですわ。引き際が肝心ですのに。」
黒いオーラを背負ってアレクに向け、怖い笑顔のアテナが微笑む。
美形って怒ると迫力あるんだなぁ……現実逃避したいティアはレムとアテナを見て思う。
「まだ妖精王と結婚した訳ではないのだろう?破棄だってあり得る。そうだろう?ティア。」
ニッコリ笑顔で言うアレク。
レムとアテナが怖い……
「アレク様。私は……」言いかけてアレクの指がティアの唇に触れ、言葉を止められる。
瞬間、レムとアテナが猫が威嚇をするかの如く、殺気だったのが解った。
しかしティアの唇に触れたアレクの指を払ったのはレムでもアテナでもない。
パシンっ。
ティアの肩を抱き、アレクの手を払うユグ。
「俺様のティアに、勝手に触れないで貰おう。」
やっぱりストーカー健在だったとティアは思った。
「まだ誰の者にもなっていませんよね?」
挑発する物言いにティアはヒヤっとする。
仮にも精霊王で、仮にも王族だ。
精霊王の怒りを買い国に何かあれば、王族として面目丸潰れになるだろう。
それに国としても精霊界との対立なんて事になれば、他国との関係にも影響を与える事になる。
「もうすぐティアは俺様の嫁だ。俺様のものだ。」
「ティア。嫌になったらいつでも僕の所へおいで。」
永遠と続きそうな言い合いに割って入る。
「アレク様。言って下さる言葉は、とても嬉しいです。ですが、もうユグと歩むと決めたのです。どうか……解って下さい。」
ユグのティアの肩を抱く手に力が入る。
「ティアが幸せである事が一番だ。でも……」
そう言いながら、ティアを見ていたアレクの目が一瞬ユグに向き、ティアに戻る。
「昨日、今日で気持ちの切り替えなど出来ないのだ。整理が付くまで好きでいる事は許し欲しい。」
真摯な言葉に『それくらいなら……』とユグが妥協する。
ユグにも、アレクの気持ちが解ったのかもしれない。
男同士の友情も芽生えるかも!
ティアが思った矢先。
「精霊王に愛想が尽きたら、いつでもおいで。」
一段落着きそうな所でのアレクの発言。
「やっぱり、今すぐ諦めろー!!!」
ユグの声が響き渡った。
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