小さな光
もう一度話したいと思ってた。
ティアの言葉に反応して、ユグが現れた事が嬉しい。
正直な所、もう見ていないのではないか……とも思っていた。だから余計に嬉しい。
でも、いざユグを目の前にすると……
言葉が出ない。
「呼ばれて、思わず来たけど……話し合いまで会わないつもりだった……」
本音にチクリと胸が痛む。
嫌われちゃった……?
愛想、尽かされた……?
ティアの部屋では好きだと言っていたけれど、他の男と幸せになれと言われたのだ。
淋しさと苛立った様な尖った感情が胸の中に渦巻く。
何を言ったらいいのか……
口を開いて、閉じ、開いては閉じて。
中途半端な態度を取っておいて、ユグが引いたら淋しく思って、会いに来てくれただけで嬉しく思う。
アレクに対しての気持ちもユグに対しての気持ちもハッキリとしていない。身勝手な自分の気持ち。
言葉として何かを発したら止まらなくなりそうで、ティアは何も発せずにいた。
ユグも何も言わず、ティアを見つめているだけ。
沈黙する二人の間を春風が吹き抜ける。
勇気を出して話し掛けよう!
と、した瞬間……
「くしゅんっ。」
間が悪くくしゃみが出る。
ストールだけではまだ肌寒かった様だ……
ユグが指を鳴らす。
パッと景色が変わると、明るくポカポカと暖かい場所だった。
雰囲気的に精霊界だと思われる。
「ティアが風邪を引いては大変だから。」
ユグの優しさが胸を締め付ける。
もう……来る事はないと……思ってた。
「ここは俺様しか入れない場所。だから言いたい事を言って大丈夫。聞いてるのは俺様だけだ。」
周りを気にしないで好きな事を言えばいい。と、振られる前提の様な言い方だ。
「……ユグは……私に会えなくなっても平気なの?」
涙が止まらない。するりと出たのは、責める様な言葉になってしまった。
ユグは何も悪くないのに。
「平気じゃないっ!でも……ティアの笑顔が一番だ。」
「なら……何で私は今泣いてるの……?」
理不尽な言葉。ティア自身も分かってる。
それでも勝手に溢れる涙。
どうしても止める事が出来ない。
問われた答えに、ティア本人も解ってないのにユグに解る訳もなく、アタフタしていた。
「どうしたら笑顔になる?あの人間の王子を呼ぶ?」
困り顔のユグ。そんなユグの口からアレクの事が出て、ティアは複雑な気持ちになる。
聞きたくなかった。
言って欲しくなかった。
どうして?
オロオロするユグ。
そんな状態でも側にいる事が安心する。
そんなユグを微笑ましくも思う。
スッと手が差し出される。
ユグのその手にはハンカチが握られていた。
「使って。」と困り笑顔。
その手はハンカチを渡したら離れて行く。
「抱きしめられるのかと思った……」
「!!??」
ポツリと無意識に出た言葉にティアは慌てる。
「ち、違うの!そうじゃなくて……っ!」
「解ってる!大丈夫。アテナに無闇矢鱈と他のオスのメスに抱きつくのは良くない事だと言われたから。もうしないよ。」
もう一度念を押す様に『大丈夫。』と言われる。
急に淋しさが込み上げた。
何が大丈夫なのか。
ティアの心の中は大丈夫ではなかった。
色々な気持ちが渦巻く心の中。
乱暴な、苛立った、悲しい、切ない、淋しい、どうしようもない気持ち。
荒れる気持ちの中に小さな光を見付けた。
見付けてみて、初めて解る。
漸ようやく、自分の心に気が付いた。
『ユグが好き』だと。
ずっと足りないと思っていた物。
欠けていたピースがパチリとハマる様に、胸にストンと落ちる。
気持ちに気付いて、やっと苛立ちと淋しさの理由も解った。
そんなティアの心を知らないユグは
「暖まった?こちらではそんなに時間は断たないが、夜も遅いし、ティアが居ないと解れば騒ぎになる。そろそろ送るよ。」
何となく急いで帰したい雰囲気だ。
「そんなに早く帰さなくても大丈夫よ。それとも一緒に居たくない?」
直ぐに帰そうとするユグに悲しみを覚える。
ズルいと解っていても気持ちに気付いた今、ユグの気持ちが知りたい。
散々、嫁にならないと言ってたのに。
アレクと結婚するつもりだったのに。
今、気付いた気持ちだけど……
好きって言ったら軽い女メスだって思われる、かな?
「居たくない訳ない。逆にこのままここに居たら……ティアを帰したくなくなる……だから……だから早めに帰すんだ。」
そんな気持ちを打ち消す様な力強い言葉。しかし、ユグの顔が苦渋に歪んでいる。
もう、堪らなかった。
怖がってる場合でない。素直にならなければ後悔すると思った。
ティアはユグを抱きしめる。
初めてティアからユグに抱き付いた。
突然の事に驚きながらも、抱き止めてくれるユグ。
「ごめんなさい。」
ピクリとユグの体が揺れる。
体を固くするユグ。
悲しい想いをさせて『ごめんなさい。』だったのだが、違う意味で取ったのかもしれない。
勘違いさせたままは嫌なので慌てて、でもしっかりと伝える。
「ユグ。好きだよ。」
目を見て。ニッコリ微笑んでから
「待たせて、ごめんね。」と付け足した。
何を言われたのか解らなかったのだろう。呆けたまま固まっている。
徐々に覚醒したのか間髪入れずにユグに抱き締められた。
「俺様が?好き??本当に?」
顔は真顔だが、力強い腕に拘束されている。もちろんティアを傷付けない力加減で。
「本当に。どのオスよりも一番好きよ。」
言い終わるかでティアはユグに抱き込められた。
満面の破格な笑顔で。
「嬉しいティア!すぐ結婚しよう!!」
「気が早いってば。」
嬉しさとユグの気の早さに笑ってしまう。
そのまま二人は抱き合っていた。
暫くして。
落ち着いて今後について話そうとしていた二人の前を緑の風が横切った。
それはここに居てはいけない人物?精霊物?
ジンである。
見付かった!!顔をしたが、すぐに戻るジン。
ユグの雷が落ちる。
「ここは聖地で侵入禁止だって前にも言ったろう!」
きっと常習犯なのだろう。
「だって~、この先にある木の実が凄く美味しいんだよ?食べたくなっちゃうよね~。」
首を傾げる姿は小動物の様で可愛い。
うん。きっと、確信犯だな。
「レムに引き渡すか……」
その言葉に逃げようとするジン。すかさず、ユグの魔法で伸びた植物の蔓が絡まり拘束する。
「見逃してよ~。」
泣くジンにティアは心痛んだが、規則は守る為にある。
心の中で『後で慰めのお菓子をあげよう。』と思いつつ、レムに連行されていくジンの後ろ姿を見送った。
ジンは問題児だとティアは再認識する。
ユグに王宮の客間に送って貰う。
「明日、アレクにはちゃんと話をして決着を着けるから。」
話し合い前に伝えて置きたかった。
それを聞いたユグが自分も立ち合うと言い出す。
「逆上したら人間は何をするか解らない。」そうだ。
ユグが居た方が逆上しそう。二人で話させて欲しい。と頼み込み、何とか承諾してくれた。
もちろん監視付きで。
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