主人公に転生したのにピンチです。
生前の楓の時から好きだったアレク。
辛い時に側にいて励ましてくれたユグ。
客間で一人、ぼんやり窓から外を見ていた。
いつの間にか日が暮れようとしている。
そんな夕日を見ながら、アレクと過ごした約一年を思い出していた。
一生懸命、イベントを発生させる為に苦労した日々。
攻略メインキャラだけあって求められるレベル水準が高い。なのでティアの学業のレベルアップ、光魔法のスキルアップ、マナーや礼儀作法を身に付け、その合間にアレクとデート。
本当に努力と根性な日々だった。
それもこれもアレクとのハッピーエンドの為だ。
なのに
(何で私、迷ってるんだろう……)
アレクと結婚するつもりだった。何も疑わずに。
でも今、ユグとの数日の方がティアの中で鮮明だ。
(不思議な体験とかしたから……?吊り橋効果とか、あるって、言うよね)
自分の心なのに良く解らない。
トントン。
扉を叩く音。『はい。』と返事するとアテナが顔を出した。
藁にもすがる気持ちの時のアテナ先生。
きっとポセイドン辺りに聞いて来たのだろう。すぐにアテナは状況を理解してくれた。
でもその答えは
「自分で気付かなければいけない物だと思いますわ。存分に悩んで下さい。」
だった。
「何をどう考えたらいいのか、解らないのに。」
そう訴えると『すぐに解ります。ヒントは心に素直でいる事ですよ。』とニッコリ微笑まれた。
「良いだろうか?」
不意に声を掛けられ振り返るとユグが立っている。
どんな顔をしたらいいのか……
動揺するティアに『お邪魔虫は消えますね。』にんまり笑顔を残し消えるアテナ。
急に部屋に静寂が訪れた。
いつもは明るくお喋りなユグが静かだ。何だか緊張でもしている様にも見える。
そこでユグがストーカーだった事を思い出す。
きっとアレクとの昼間のやり取りを見ていた事だろう。
何を言われるだろうとティアは身構えた。
責められる?
取り乱される?
駄々っ子になる?
「ティアの好きな方に決めたらいい。」
一瞬、何を言われたのか解らなかった。
もしかしてエウレカの魔法が後から作動した?とも思ったが……
それが杞憂だったと、ビックリして固まっているティアにユグが続けた言葉で理解する。
「本当に、ティアが好きだから、ティアに幸せでいて欲しいんだ。だから、笑顔でいられるなら……嫌だけどあの人間を選んでもいいよ。」
泣きそうな笑顔で言われる。
何も言えないティア。
ただ、ユグの顔だけを見つめていた。
「覚えていて、ティアの幸せが俺様の幸せだから。」
あまり長居しても悪いと、それだけ言うとユグは精霊界へ帰ってしまう。
衝撃だった。
正直、ユグは力技で来ると思ってたからだ。
きっとティアを諦めずアレクと結婚なんて言ったら、強制的に精霊界に連れて行ったりするかもしれないと。
こんなにアッサリ身を引くなんて……
一瞬、前の駆け引き云々の時みたい?とも思ったが、ユグは一向に帰って来る気配もない。
日が落ち、夕食に呼びに来たメイドに体調が悪いからと部屋に食事を運んで貰った。食欲もないと伝えたが、運ばれて来たのは豪華なフルコース。
人が出入りしなくて良い様にと配慮され、一遍にテーブルいっぱいに並べられる。
いつもなら喜ぶティアだが、食が進まない。
ストーカーするからいいって事?
見てるだけで気が済むの?
あれだけ嫁嫁言ってたのに?
頭の中を占めるユグ。
ぐるぐる
止めようとしても止まらなかった。
実物を知って想像と違ってたり?
アレクを攻略しようと偽りのティアを演じていた。それもティア自身解ってるからこそ思う。
見ていたティアと違うと思ったのではないか?
……本当は諦めたかった?
ぐるぐるグルグル……
違うと否定する気持ちはあるのに……
泣きそうな笑顔……ユグが演技出来るとは思っていない。
それでも
悪い方向へ、悪い方向へと思考が加速する。
理不尽な怒りと悲しみが湧く。
涙が溢れだす。
勝手にユグならどんな私でも、無条件でずっと愛してくれると、傍にいてくれると思ってた……
いつの間にそんな風に思ってたのか。
自身のさもしい考えに気付いて愕然とする。
浅慮さ、そして配慮のなさに。
ずっと、どんな時でも側に居てくれる物だと思い込んでいた。例えアレクと結婚したとしても。
そんな事ありえないのに……
なぜそんな風に思えたのか。
しんと静まる室内。
一人きりの客間がとても広く感じる。
精霊界は賑やかで、部屋にはアスカがいつも居てくれていた。
もちろん王宮にもメイドはいるが、親身になって仕事以外で時間を割いてまで話を聞いてくれる様な仲の人はいない。
部屋に一人で居たくなくて外へ出てみる。
春先とは云え、まだまだ寒い。
なので、ショールを羽織って昼間来た庭園のガゼボに来ている。
魔法の掛けられた花々が淡く発光して幻想的な雰囲気は、どこか精霊界を思い出させた。
たった数日だったのに、精霊界のあの場所がティアの中で安心する大切な場所になっていた事を思い知る。
もう、戻る事もないのかな……
どちらにしてもアレクを選んだら、もう戻る事は無いだろう。
そしたら精霊や精霊王達に会えない。
もちろんユグにも。
気付いた時には何とも言えない気持ちが溢れていた。
そして、抑え切れなかった気持ちが涙と共に溢れ出る。
「……ユグ。」
強い風が吹き一瞬、瞳を瞑る。
「呼んだか?」
瞳を開くとユグが立っていた。
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