攻略対象達
頭の中で繰り返し聞こえる声。
イクレイ公爵家に向かう馬車の中。
卒業パーティーでエウレカをエスコートする為に向かっている。
アレクは脳裏に映像が浮かぶ様になっていた。
ある女の子に会ってから。
初めて会ったハズだ。見た記憶もない。
けれど声を、姿を、見た事がある気がする。
でも思い出せない。
(知ってるハズなのに、知らない……?)
脳裏に浮かぶ映像。エウレカではない別の女の子。
その姿には靄がかかり、うっすら輪郭しか解らない。
しかし、何故か声だけは鮮明だった。
楽しそうに笑う声。
愛しそうに自分を呼ぶ声。
愛しいと解るのに誰なのか解らない。
(解るのに解らない!)
『✕✕✕好きだよ。ずっと側にいてくれ……。』
『この花がとても美しくて✕✕✕に贈ろうと思ったんだ。』
いつか誰かに言った自身の声。
一緒に出掛けただろう映像。
ただそこに姿がない。
顔も名前も思い出せない想い人。
解るのに解らない女の子。
「君は誰なんだ……っ……!」
アレクの声だけが淋しく馬車の中で響いた。
同刻、ボルト公爵家。
ロバートは卒業パーティーに幼なじみフレデリックと一緒に行こうと家へ誘いに来ていた。
何だか朝から物足りない。二人共感じている違和感。
最近楽しかった事があったハズだった。
しかし、それが何か解らない。
「そう言えばさ、あいつが……あいつ?」
ロバートが誰の事か言いかけて、解らず止める。
フレデリックも街頭で配られ取っておいた演劇のチラシを手に
「これ、あの子が好きだって言ってたよな。」
すかさずロバートに「あの子って?」と突っ込まれ「誰だっけ?」と考える。
思い当たる人物がいたハズなのに、思い当たる人物がいない。
そもそも演劇のチラシを受け取る事すらしないロバートが誰かの為に持って来たモノ。
それをフレデリックが誰かが好きだからと取って置いたモノ。
それは一体、誰の為?
会話に出てくるあいつもあの子もいない。
思い当たる存在がいないのだ。
朝からずっとこんな感じ。
何かを思い出しては掴みきれず消える。
分かりそうで分からない。
誰かを忘れている様な……
二人にとって大切な人だった気がする。
それでも二人には思い当たる人がいない。
ただ
朝、会った彼女。
ロバートもフレデリックも普通に対応したハズだ。
けれど、傷付いた顔をしていた。
それが二人の胸にいつまでも引っかかっている。
何となくだけど、泣かせたくないと思った。
次に会う時は彼女の笑顔を見たいと。
時を同じく。
いつもの図書館のいつもの椅子で本を読むルカ。
ふと時間が気になる。
本来ならパーティー等、騒がしいのは好きではないので出る気はない。
しかし『出よう』と言われたので出ないと。
そこでハタと気が付く。
誰に?
ルカはいつもの一人だったハズだ。
人の言葉は、自分の意思に添わなければ従う事はしない。もちろん、それが偉い先生であっても。
それなのに誰かの言葉を気にしていた。
朝から違和感は感じている。
一人で平気だった。なのに今日は何か違う。
ソワソワと、誰かを待ってる自分がいた。
声をかけて来た女の子。
皆、ルカを遠巻きに見るだけ。直接、声を掛ける人などいない。
だから珍しいな、とは思ったのだ。
無意識的に待っていた人物。
待っていたつもりはない。
でもソワソワと誰かを待ってる。
誰かの気配がするだけで見てしまう。
大好きな本も進まない。
(人など待っていない!)
それでも気になってしまう。
待っているのはあの時の彼女なのか?
姿が頭の中をチラつく。
そうである様で、そうでない。
違う気もするし、そうである気もする。
行く気などなかった卒業パーティー。
でもやっぱり出ないといけない気がして席をたつ。
それぞれがもう一度
彼女に会いたいと思っていた。
パーティーに行けば、きっと、会える気がする。
卒業パーティーまで
後一時間半。
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