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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第二章 別々の場所で

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2-4:休養


 薬屋はツカサの足で四十分ほど走ったところにあった。


 王都だけあって店構えも大きく、中に入れば漢方のような香りとハーブの香りが入り混じり、種類の多さに見渡してしまった。

 店員もカウンターだけではなく接客する人が居て、初めてマブラで入ったときとの乖離が激しい。だが今は助かる。


「いらっしゃいませ、どのような薬草をお探しですか?」

「ヴァロキアから来てるんだけど、パーティメンバーの女性が体調を崩してしまって…体がだるかったり、よく寝付けなかったり…そうだな、計ってないけど、もしかしたら微熱もあるのかも。なんかそういうのに良い薬草とか薬ってある?」

「あぁ、ヴァロキアから来たんですね、だとしたら風土病に(あた)ったかもしれませんね」

「風土病?」

「えぇ、フェネオリアは雨が降ると湿気が増しますから、長雨のときには同じような症状を抱える方も多いのです。それに旅をされてこられたなら、疲れもあるかもしれません。滞在はいかほど?」

「一ヵ月は滞在して療養を予定してる。同じような症状が出た人はどうしているんだ?」


 店員はツカサを棚へ促して、いくつかの薬草を取り出した。


「いくつかの薬草を混ぜて薬草茶にして服用をしてもらいます。体内の調子を整えるものがメインですね」

「これから先ガルパゴスへ向かう予定なんだ。謝礼は支払うから調合を教えてもらえないか?フェネオリアで雨が降る度に体調不良になるのは心配だ」

「構いませんよ、そう難しい調合でもありませんし、うちで薬草を買っていただけるなら」

「助かる、他の人の迷惑にならない程度、ありったけ買わせてもらおう。あと道具もあれば新調したい」


 ツカサはほっと胸を撫で下ろし、その場で薬師を呼んでもらって調合を学んだ。

 薬研や秤、擂粉木、茶こしなどの道具も一式揃え、それを使い奥で調合を習う。秘伝ではないか?と確かめればこの風土病、フェネオリアに住む者であれば一度は必ずかかり、予防をし続けなくてはならないため特段秘伝ではないのだという。それならば安心とツカサはメモを取りながら調合技術を身につけた。

 薬草やハーブも迷惑にならない範囲で購入し、旅の分の追加はまた別日に何回かに分け取りに来ると約束を取り付けた。先払いで支払っておいたので心証が良くなったらしく、湿気がすごい日には苦手でなければ辛い物を食べて汗を流したり、熱めの湯に浸かると良いとアドバイスももらった。清涼感のあるハーブティーを飲むのも気分転換に良いということで、やはりハチミツミントを飲んでもらおう。

 薬師のライエールとはオルワートに居る間、親密な付き合いになるだろうなと思った。



 宿へ戻る途中、やはり目に付いた屋台物を買い込む。

 豆や芋、肉やソーセージを煮込んだ料理が多く、持って帰るには鍋が必要なものが多かった。ここで見慣れたコロッケのようなものを見つけて嬉しくて買い込んだ。ただ、今のエレナには食べられないだろう。

 豆の形が崩れるまで煮込まれたスープは栄養価も高そうで、空いている鍋に売ってもらった。ニシンを挟んだサンドイッチや、薄いパンケーキのような生地でチーズやソーセージと包んだものなどを仕入れる。

 八百屋では果物を多く買い、パン屋では真ん中の柔らかそうな種類を選んだ。これはパン粥にするためのものだ。


 宿に戻りシャドウリザードのマントをポールハンガーに引っ掛ける。ぽたぽたと落ちる水滴も湿気に思えて、風魔法と炎魔法を組み合わせたドライヤーのようなものであっという間に乾かした。部屋に湿気が籠ってしまった気がしたのでそこは風と氷魔法だ。故郷で【除湿】を使った時のエアコンをイメージしたが、上手く出来たような気がする。

 

 エレナは寝辛そうにしていたが、【除湿】を使ってからは徐々に穏やかな寝息に変わった。


「これは確かに、風土病なのかもな」


 ライエールは雨が止めば治るものだと言っていた。

 テントで眠るとはいえ、今までのラングのテントが空調も完璧な上にベッドだったので、それと今を比べれば質が落ちる。外気が影響しないテントはないものだろうか。


「でも、そうだよな、俺空間収納あるし、テントの中に出せばいいならベッドそのものを買ってしまえばいいんじゃないか?空調は魔法でどうにかするとして…。うわ、なんで思いつかなかったんだろう」


 今更の気づきだがこれは良い手段だと思えた。

 ラングのテントが異常に良すぎるだけだと思っていたが、せっかくスキルがあるのだ。ルフレンの馬具を全てしまって持ち運んでいるように、ベッドだって同じようにすればいいだけだ。直に布団を敷くよりも良いだろう。

 エレナの体調が良くなったら買いに行こうと相談することにした。


 一先ず習った薬草茶を作る。

 暖炉にクズ魔石を放り込んで火を点け、ポットを埋め込む。その間に薬草を混ぜ、少しすり潰しておく。このままだと苦いのでお湯を注いだ後にハチミツを入れれば飲みやすくなると言われた。ありがとう万能調味料ハチミツ。ラングと一緒に狩って集めてあったハチミツを入れて混ぜる。一口飲んだが清涼感の中にハチミツの甘さと遠くに苦みがあってすぐに青臭さが来る。これは薬だ、と思った。

 それを手にツカサはエレナの肩を揺らした。


「エレナ、寝てるところごめんな。これ、薬手に入れてきたから一杯だけ飲んで」

「えぇ…」


 だるそうにしながらエレナは体を起こし、コップを手に取る。

 一口啜って何とも言えない顔をした。


「わかるよ、美味しくはないよね」

「そうね…これはどうしたの?」

「薬師に習ってきたんだ、フェネオリアでは雨が降ると湿気がすごくて、エレナみたいに体調を崩す人が多いんだって」

「全くあなたって子は、本当に成長して」


 エレナに撫でられてくすぐったくなってしまう。ツカサも予防としてベッドに腰かけて同じものを飲む。

 これはラングの真似でもある。


「宿は一ヵ月取ってあるからゆっくりしよう。夕飯は食べられそう?」

「えぇ、空腹だわ」

「よかった、じゃあ部屋までもらってくるようにするよ。あと、体を温めるのも良いらしいから風呂も用意するね」

「ありがとう、ツカサ」


 いいって、と笑って応え、ツカサは食事のお願いをしに階下へ向かう。廊下に出ればここも湿気がすごかったので宿の人に許可を得て、魔法で【除湿】を行なっておいた。

 ドアを開け閉めすれば結局湿気るのだが、ひと時でもそれが払われるだけで随分違う。ツカサが食事を部屋に持っていきたいことを伝えれば快諾された。

 力と金の使いどころというのが、少しずつ分かってきたような気がする。 

 

 部屋に運んでもらった食事をエレナと取り、風呂を沸かして薬草茶を準備し休むように声を掛け、ツカサはシャドウリザードのマントを羽織って冒険者ギルドへ向かった。

 夜でも王都の冒険者ギルドは門扉を開いている。情報はいつでも集められる。


 こうして行動をすることで思うのは、ラングはすごかったということだ。

 ツカサが休んでいる間、ふと姿が宿から見えなくなった時、ラングはこうして情報収集を行っていたのだろう。


 ギルドは雨でも夜でも活気に溢れていた。備え付けのショップでダンジョンの地図を購入する。

 ここオルワートのダンジョンも踏破済で最下層では水に関係したマジックアイテムが手に入りやすいらしい。余程魅力的なアイテムなら潜るのも考えよう。最下層まで六十階層と深いが、地図からすると各フロアの広さはそうでもない。罠も多少あるが迷宮の加護があればあわやということもないだろう。

 フェネオリアに来て踏破済ダンジョンを知ったが、面白いのは攻略本が出ていることだ。それも購入し、宿で見ることにする。


「おう、兄ちゃんもしかしてソロか?」


 依頼ボードを見上げていたら声を掛けられて振り返る。

 粗暴な感じの冒険者が三人、にやにやとこちらを見下していた。少しばかり上背があるだけでツカサとそう変わらないのに、そんなに顎を上げて首が痛くならないのかと変な心配をしてしまう。

 そんなことを考えていたら澄ましているように見えてしまったようだ。


「おう、びびって何も言えないか?」

「あぁ、悪い、考え事をしていたんだ」


 肩を竦めてゆっくり視線を合わせる。


「何か用だったか?」

「澄ましやがって、ソロだったら手伝ってやろうと思って、親切に声かけてやったんだろうが」

「そうだったのか、ありがとう、気持ちだけで良い」


 穏やかに返せばそれはそれで気に入らなかったらしい。

 

「なぁ兄ちゃん、こういう親切は素直に受けておくもんだぜ?」

「親切はされる側も受け取るか拒否するか選べるものだ、あんた達の親切はいらない親切だなぁ」


 周囲の冒険者たちが遠巻きにやり取りを囲んでいる。

 聞き耳を立てたところ、どうやらこの三人は冒険者ギルドの鼻つまみ者で新人潰しのようだ。これもまた確たる証拠がなく悪名だけはあり、処罰できないパターンなのだろう。

 少し良く見ればそれなりに良い装備を身に着けているのだが、やはりこの世界の人からすると顔が幼く見えるのだろうか。ツカサはううむと腕を組んで唸った。


「ガキが、少しわからせてやらないといけないな」

「冒険者ギルドでのもめ事はご法度だろ?」

「ハッ!この金級パーティ【銀の隼】を前にして、ギルドスタッフが文句なんて言えるもんかよ」

「【銀翼の隼】に名前が似ているな?」


 こんな粗暴で成れる金級があるのかと感心しつつ、名前の感じに尋ねてみた。

 男たちは突然恍惚とした様子で胸を叩いた。


「おう!俺たちは【銀翼の隼】のアルカドスさんに憧れているからな!」


 そういうルーツのパーティ名もありなのかと知り、へぇ、と生返事を返す。


「懐かしい名前聞いたよ」

「【銀翼の隼】と会ったことがあるのか!?」

「因縁をつけられて殺されかけたことがあるよ」

「やっぱりお前はだめな冒険者らしいなぁ、ここでもまた痛い目見せてやるよ!」

「でもね」


 すぅ、はぁ、と呼吸をし、とん、とん、と足を鳴らす。


「そのアルカドス、うちの兄さんが簡単に倒したんだよね」


 びぃん、と床板が響いてツカサは跳ねた。

 拳を振り上げていた男の懐に入るとそのままの勢いで背中を胸に当て、弾き飛ばす。

 肘を入れては下手をしたら殺してしまう、肩を入れて自分が痛いのは嫌だ。それなら、装備の着けてある背中の広い面を相手の胸に当てて飛ばした方が、一番自分が痛くない。

 パンチは余程格闘慣れしていないとすぐに手を痛めると言われ、ラングは掌底、裏拳しか教えなかった。あとは肘、肩を使う方法を教え込んだのだ。

 ツカサは男を弾き飛ばして軽くぽんと着地をした。真ん中の男は吹き飛ばされた先で呼吸困難に陥り、必死で息を整えている。


「あの時は俺も殺されかけたけど、今はどうだろうなぁ」


 とん、とんと変わらず足を鳴らしながらツカサはぼやく。

 

「お、お前なんなんだよ、ただのルーキーじゃねぇな?」

「冒険者になって二…そろそろ三年?ルーキーはまだルーキーだけど」

「アルカドスさんを倒したって、まさかお前の兄貴って、お前は」

「申し遅れた」


 ツカサはふぅ、と息を吐いてクールダウンし、兄の真似をした。


「【異邦の旅人】のツカサだ。余計なもめ事は大嫌いなんだ、関わらないでくれないか」


 やはりラングほどの威厳はないなぁ、とツカサは胸中で呟いた。




いつも閲覧ありがとうございます。

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