84:合流と相談
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ラングとの合流は五日後に出来た。
時計がないので感覚値だが、九階層で一日、十階層で一日を採掘に使い、目的の十一階層で三日間ビースト・ハウスの列に繰り返し並んだ。
ビースト・ハウスでは山ほどのミノスが出てきたが、全員が全力を出してかかればあっという間に片が付いた。アルが槍を振り回し、エレナが炎で焼き、ツカサが風魔法で切り刻む。飛び散る血でさえ灰になるので足場が汚れなかったのも助かった。
出現頭数は百以上と多く、六階層よりも時間はかかったがドロップが美味しい。
三十分ほどでポップするので回転率も高く、並んでいる冒険者はのんびりと構えていた。
アイテムバッグを持ったパーティは二回転もすればいっぱいになるので早々にダンジョンを出ていく。戻ってきたらまだツカサたちがいたので驚かれることもあった。三人ともアイテムバッグを持っていることにして乗り切ったが、腐る前に戻れよと注意された。時間停止機能付きなので腐らないのは当然ながら秘密だ。
そんなこんなで感覚値五日目、ビースト・ハウス攻略合計十回、山ほどの肉とミルクを入手し癒しの泉エリアに戻ったところで、お茶を飲むラングと合流した。
無事な姿を見て安心し、駆け寄った。
「ラング!」
「来たか。怪我は?」
「ないよ、ラングは?」
ラングは肩を竦めて無事を示す。そこは大丈夫と口で言っても良いと思う。
癒しの泉エリアには他にもパーティがいて、ここ三日で顔見知りになった人たちでもある。
「お、噂のお兄ちゃんリーダー?」
「無事合流できてよかったな」
「果実欲しくて残ったんでしょう?満足いくまで狩れたの?」
わいわいと声を掛けられてラングはツカサを見遣った。
ツカサはそうっと視線を逸らしたが首筋にびりびりとしたものを感じる。余計なことをしゃべったなと圧を加えられている。しばらくしてラングは小さく首を振り、パーティを向く。
「あぁ、満足した」
ラングは声を掛けてきた男性にそう返し、ツカサ、アル、エレナがそこへ輪になって座った。
「そちらはどうだ」
「重畳、しばらくはもつんじゃないか?戦果は置いといてまずはラングに報告がある」
「聞こう」
「ツカサ、頼む」
『迷宮崩壊が起きるかも』
ツカサが言語を変えてラングに言う。
周囲にパーティはあるがツカサの言語に首を傾げる人はいない。隣の大陸に渡る人が少ないことを逆手に、向こうの国の言語だと言い張ってある。ラングが手を回すように、ツカサも相談のための下地を整えておいた。
周囲の様子にラングも気づいたのだろう、一つ頷いてみせた。
『詳しく聞こう』
『ジュマから入ってた連絡を無視して、クランを組んでボス部屋攻略に行ったって聞いた』
『いつ出立した?』
『二ヶ月前だって。ボス部屋まで二ヶ月かかるらしいから、もしかしたら今攻略中かもしれない』
『わかった、すぐに出ることにしよう』
『帰還石は?』
『もちろん使う。よく情報を得たな』
褒められ、ツカサはふふんと胸を張った。
ラングはアルとエレナにも頷いてみせて声を掛けた。
「では、合流も出来たことだ、戻るぞ」
「了解」
ラングがお茶を片づけて立ち上がり、アルもそれに続く。
「おー、ついに出るのか、勿体ない、十二階層で転移石出るぞ?」
善意の声に礼を言い、見学だからと笑って返す。
そうか、と片手を上げて別れを告げられ、ツカサはエレナと手を繋ぐ。恥ずかしかったがエレナの方から繋いでくれたので、ここは紳士として握り返す。
アルはツカサの肩に、ツカサはラングの腕を掴んで全員がどこかしらに触れていることを確認し、ラングが帰還するを唱えた。
ダンジョンの外、建物の中に出る。足を止めずに出口へ向かった。
「どうするの?」
「いつ迷宮崩壊が起きるかはわからないが、十全でない状態で王都を出るのも得策ではない」
「だな、あと野菜は手に入れておきたいんじゃないか?」
「そうね。そうすると今晩は休む方針かしら?」
「無難だとは思うが、どうだ?」
それはそうだ。一週間近くダンジョンに籠り風呂にも入れていない。自覚している疲れも、できていない疲れもある。王都から出れば不寝番もあるのでぐっすり休めるかと言えばそうでもない。
「俺は賛成」
「俺も」
「私も賛成よ。明日は手分けして食材の買い出しと出立になるわね?」
「そうだな」
作戦会議をしていれば早いもので、あっという間に建物を抜けた。
ちょうど出る馬車があったのでこれ幸いと足早に全員で乗り込み、王都へ戻った。
特に騒ぎにはなっていない。陽は沈んだところで夜の賑わいがある。
移動ついで目に付いた屋台物を買い込むことも忘れない。明日出るのならば、今度食べよう、は出来ないのだ。
宿に戻れば、思ったよりも早い帰還に受付の女性が驚いていた。
「おかえりなさいませ、冒険はいかがでしたか?」
「ただいま、重畳の結果だ。今後の方針についてパーティメンバーで会話がしたいのだが、冒険者が入れて、かつ個室の店などは知らないか。腹が減っている」
「でしたら、当宿を出て右手、二つ目の通りを左手に入りますと、配慮のあるお店がございます」
「感謝する」
ラングは銀貨を差し出してカウンターから戻った。
「行くぞ」
頷いてあとに続いた。
言われた通りの道を行けば、賑わっている酒場があった。よくある酒場の店構えで、テーブルでは冒険者たちが楽しそうに酒を飲んでいる。
来店に気づいた店員が近寄り、声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ、何名ですか?」
「四人だ。【鷲鍋】の紹介で来た。個室は空いているか?」
「もちろんです、こちらへどうぞ。食事はご用意してまとめてお持ちしますがよろしいですか?」
「構わない。酒は飲む者が少ない、果実水を多めに頼む」
「承知いたしました」
テキパキと対応し、酒場の通路を進んでいく。こちらですと通された個室は宿の一室のようになっていた。
一先ず席に着いて脱力をする。途端に腹の虫も声を上げだす。それを揶揄われながら待つこと数分、冒険者向けの食事が山盛り持ってこられた。
特産のミノスを使った山盛りステーキにシチュー、パンは炙り直されていて温かくパリパリ、サラダもあるし、果物も付いている。蒸かし芋と削るための岩塩も出された。
赤ワインのデカンタは一つ、あとはミルクと果実水がどんと置かれ、店員は部屋を下がっていった。
ラングが防音の宝珠を起動し、手を合わせた。
「いただきます」
全員でその後に続き、カチャカチャと食器の擦れる音だけがしばらく続いた。
ステーキを頬張り、パンをシチューにつける。芋をはふりと齧って喉を詰まらせれば果実水で流し込む。ダンジョン帰りのテーブルでの食事はまた格別だった。
ある程度食べ進めて腹が膨れるとラングが切り出した。
「明日の調達の手分けを相談したい。食事はしながらで構わん」
やめろと言われてもやめるつもりはないが、食事マナーにうるさいラングが敢えて言うのだ、そういうことだ。
「まず、空間収納のある私とツカサは別行動をすることになる」
「だな、俺のアイテムバッグにも限りがあるし」
「私のは荷物や家財で埋まっているしね」
「組み合わせはどうする?」
ミルクをコップに注ぎながら尋ねれば、ラングは少しだけ考えた後に言った。
「私とアル、ツカサとエレナで考えている。どうだ?」
納得した上で行動してほしいと思っているラングは、必ず確認をとる。全員頷いて返した。
「俺は異論なし」
「私もそれでいいわ。ただ、出来れば合流場所に、移動距離が短い分担が良いわね」
「わかった、王都の出口は西側だったな。ツカサとエレナは西口付近の大通りで食材と調味料、欲しい物を調達してくれ。ルフレンの操作はエレナが頼む。護衛を怠るなよ」
「わかった」
「そしたら俺とラングは適宜?」
「そうなる」
「了解」
「集合は西口だ。資金を渡しておく」
ラングは金貨の入った袋をツカサに手渡した。
「九、十階層で鉱石は採れたのか?」
「すごい採った」
「ここでは換金が出来ない、分配はまたいずれになるが良いか?」
「こういう状況だもの、異論ないわ。それよりも迷宮崩壊に巻き込まれないほうが大事」
「だなぁ。話に聞くだけで面倒そうだし、危ないしな」
それぞれが大きなため息を吐く。
迷宮崩壊などという懸念が無ければ、宿を取っただけの期間、探索や散策、食べ歩きが出来た。甘い物だって、ティーブレイクをしたかった。明日はそれも買い込もうと決めた。
しっかりと食べ、残った分は空間収納へ仕舞いこむ。エレナはちゃっかり赤ワインのデカンタをおかわりして、ツカサに保管を依頼した。
酒場を出て宿に戻りがてら屋台の物をさらに調達する。宿で酒場の礼と明日出立することを伝えれば、女性と責任者の男性が最初に不愉快にさせたせいだと思い謝罪が始まった。
埒が明かないので訳を話すことにした。
「迷宮崩壊ですか…?」
男性が少し考え込んだ顔で呟く。ツカサたちの様子から嘘だとは思っていないようだが、信じきれないでいる。迷宮崩壊の発生原理を知らないのだからそうもなるだろう。
「先を急いでいるから、迷宮崩壊が起きて足止めされるのはちょっと困るんです」
「そう、ですか…」
「別に信じてもらわなくて良いぞ」
アルが苦笑まじりにそう言えば、男性は同じように苦笑を返した。
「当宿の不出来からそういった御冗談を言われている、のではないのですね?」
「貴方たちには良くして頂いているわ」
エレナの言葉にようやく二人が緊張を緩めた。
男性はふと真面目な顔になって呟いた。
「ギルドに、小耳に挟んだと情報を出すべきでしょうか?」
それはツカサたちになるべく迷惑をかけないようにしたい、という気遣いでもあった。
ラングはそれを手で制した。
「私たちがマジェタを出た後に、【異邦の旅人】からの情報として伝えてもらえれば良い。それと共に、ジュマの冒険者ギルドへ確認を入れるように進言してくれ」
「わかりました」
ジュマに【異邦の旅人】の名を出せば、詳しいことは教えてくれるだろう。あ、と小さな声を上げてツカサは身を乗り出した。
「すみません、ついでに手紙を冒険者ギルドで出してもらえませんか?」
「えぇ、構いませんよ。それを口実に冒険者ギルドへ向かわせて頂きます。どなた宛てでしょうか?」
「ジュマの専属パーティ、【真夜中の梟】のロナ宛で」
「かしこまりました。レターセットはいかがいたしますか?」
男性はメモを取りそれを胸ポケットにしまい、ツカサに微笑む。
「お願いします」
ツカサはそのお言葉に甘えた。
少し話数をまとめている部分があるので、この後ちょくちょく長いものが差し込まれると思います。
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