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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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76:巡り合い


 アルの言葉に三人とも言葉を失った。

 

 本人は決死の思いで言ったことらしく、何やらもじもじしている。

 アルは全員から反応が無く、エレナでさえ首を傾げている状況に、挙動不審で慌てて言葉を紡いだ。


「いや、あの、あれなんだよ、俺の故郷、【渡り人】が多くてさ。スカイがっていうことでもあるけど、俺の地元って言うの?」

「貴方どこの出身なの?」

「デイア領、今はフェヴァウルの統治領だけど」

「あぁ、なるほど、そういうことね!」


 納得したエレナはツカサとラングに説明をしてくれた。


「スカイにある元デイア領、今はフェヴァウルという貴族が治めている領地なのだけれど、【渡り人】の街があるのよ。私も何度か人を連れていったことがあるわ。イーグリスという街ね」

「マジ!?」

「マジマジ、俺の家はその街の、なんていえばいいんだろうな」

統治者(オルドワロズ)なのね?」

「そう」

「オルドワロズってなに?」


 ツカサの質問に、エレナはしっかりと答えてくれた。


 イーグリスという街は先ほどの説明通り、【渡り人】を保護するための街なのだそうだ。セルクスがツカサのことをイーグリステリアの子と呼んでいたので、恐らくそこからついた名だ。統治者(オルドワロズ)というのは所謂市長のようなものだそうだ。

 スカイでの【渡り人】はそれなりの歴史があるらしい。これから聞くことはアルの家に統治者(オルドワロズ)として代々伝えられているもので、今は機密事項の歴史。そんな話をして良いのかと問えば、縁だよ、と笑われた。


 【渡り人】の歴史はスカイでは二百年程で、その頃からスカイや近隣の国に不思議な人間が現れたのだと言う。

 彼らは見た目よりも強く、様々な技術や知識を有し、そして思う存分に暴れまわっていた。

 ツカサはそれを聞いて、()()した人たちがいたのだとわかった。

 【渡り人】たちは徒党を組み、この世界に故郷のような発展した国を創ろうと画策した。多くの渡り人の言語が公用語に変わり、意思疎通が容易になったこと、異世界を蹂躙できるという目的から一つの国が出来上がろうとしていた。

 その手始めに選んだ国が悪かった。


「スカイだったんだ?」

「そう」


 ツカサの言葉に頷いて、アルは続けた。


 結論から言えば【渡り人】の軍勢は一蹴された。

 やり方が不味かった。

 ゲームの世界だ、NPCだ、経験値だと口々に言い、罪もない人々を虐殺していったのがスカイの逆鱗に触れた。

 手記に残っていたらしいが、当時王家には神託が降りており【渡り人】の保護というものが進んでいたらしい。それを任されたのがアルの家系だった訳だ。領主ではなく一村長だった者が、突然王家からそんな使命を受けてどう思ったのだろうか。

 とにかく、そうした施策があったため、中にはスカイの保護下に置かれ生活に慣れるための支援や衣食住など、きちんとしたものを受けていた人もいたそうだ。

 その手を振り払い好き勝手にやるだけでは飽き足らず、国民を虐殺した【渡り人】をスカイが許すはずがなかった。

 スカイは神罰を恐れなかった。

 国軍を挙げスカイ侵略を企てた【渡り人】を一人残らず抹殺した。

 自然の精霊と言葉を交わせる理使い(ナーラー)もいたので、逃げようとしてもそこに風があれば、地があれば、水があれば、暖を取る火があれば逃げ場はなかった。


 スカイの保護下にいた【渡り人】は震えあがった。

 もしくは、【渡り人】を憎み、憐れみ、スカイへ申し訳ない気持ちを告げる者もいた。

 

「保護されている身で、同じ【渡り人】がそんなことをしたんなら、うん、気まずいと思う」

「実際そうやって言う人多かったみたいだな、そういう記録が家に残ってるよ」

 

 ツカサは頷いて返した。


「んで、元から保護を受けていた人だけじゃなくて、いっそ大きな街を作ってしまえば国盗りとか考えないんじゃないかって、まぁ当時の王家は考えたわけだ」

「あんまりに簡単すぎない?」

「でもこれが上手く行ったんだよ」


 ぬるくなったハーブティーを飲んでアルは一息ついた。


「大きな街を故郷として持つことで、落ち着いたんだ。街に居候させてもらうでもなく、居させてもらうでもなく、ここが自分たちの街なんだと思ったことで落ち着いたんだってさ。面白いのが、開墾から好きにさせたんだそうだ」

「開墾から?」

「そう、俺の遠い祖父さんが長には立ってたけど、どうしたいのか、どんな街にしたいのか、それは【渡り人】に任せてみたって書いてあった」


 なるほど、だからこそ【自分たちの国・街・故郷】という認識が出来たのだろう。

 居場所がないことは誰にとっても怖くて不安で、そしてストレスだ。

 かつて国を求めた【渡り人】たちは自分たちの居場所を確固たるものにしたくて行動したのだろう。


「俺にも【渡り人】の血が入ってるんだよ、祖母さんがそうでさ」

「え、そうなんだ」

「おう、ヤマトナデシコって祖父さんは言ってた」


 アルの黒髪が懐かしいのがわかった気がした。

 祖母は日本人だったのだ。


「そっか、ちょっと親近感湧いたかも」

「だが、なぜそれが行くことに繋がる?」


 ツカサが安堵の息を吐いた横でラングが切り出した。


「王都に行ったあとでいいんだ。もし戻る手段が見つからなかったらどうすればいいのか、って思うだろ?だから、そういう場所もあるんだって知っておけば怖くないじゃん」


 帰る手段がなければ、ここで生きなくてはならない。

 そういった答えが出た時に行ける場所があるというのは、確かに不安を軽減してくれる。


「そうか。私は帰るがな」


 ラングの目的はいつもブレない。

 アルは笑って頷いた。


「方法を探す旅には俺も付き合おう、ラングといれば見れない景色も見られそうだし。ツカサはツカサで、スカイに着いていろいろ調べてから考えると良いよ」

「俺だって、ラングが帰るまで一緒にいるに決まってるよ!」

「はは、悪い悪い、そうだな先輩!そいでさ、俺がパーティを抜けるのかどうするのかって話だけど、そういうことで俺はラングが帰るまでご一緒させてもらうよ」

「私はスカイで様子見ね。求められればご一緒するわ」


 一先ず、二人との同行は長くなりそうだ。それは安心した。

 しかしツカサには腑に落ちないことがある。


「どうしてこんなに都合が良いんだろう?」

「何が?」

「いや、だって、エレナに会ったことも、アルに会ったことも。それも【渡り人】の多い隣の大陸(オルト・リヴィア)じゃなくてこの大陸(スヴェトロニア)で会えたことも。すごい確率じゃない?しかも二人共スカイ出身で、【渡り人】に詳しくて、お膳立てされてる気持ちになる」

「あぁ、うん、なるほどそういう」


 アルはにっと笑ってツカサの肩を叩いた。


「安心しろって、【渡り人】と縁のある人っていうのは【渡り人】に会いやすいっていうのは、スカイじゃ普通に知られてることだ」

「私は夫が【渡り人】、アルはそういう家に生まれているからなのよ、きっと」

「そうそう、あぁ、でも」


 ツカサは微動だにしないで話を聞いているラングを見遣った。

 ここまでいろいろ話を聞いていて、ツカサはいっぱいいっぱいだった。

 構わずにアルは続けた。


「それは理の神様(クリアヴァクス)からの償いなんだって、兄貴から聞いた」




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