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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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65:ジェルロフ家


 ツカサは、ラングが冒険者ギルドでブルックに鱗を渡したところまで語り、冒険譚を締めくくった。

 ルバルツは惜しみない拍手を送り、目を輝かせて声高に叫んだ。


「見事、見事だ!ツカサがその力を存分に振るったことも、窮地、弟を、弟子を守るためにその背を盾にしたラングの勇士も!いやぁ、素晴らしい冒険譚だ!ツカサ、君は良い語り部だなぁ!」


 ルバルツはひたすら感動して大袈裟に楽しんでいた。

 ツカサは何回目かのおかわりクッキーの皿へ手を伸ばし、その勢いに少し苦笑を浮かべる。


「旦那様はかつて金級冒険者として、ジュマやジェキアのダンジョンでご活躍されていらっしゃったのです」


 ツカサの前に新しいティーカップを置き、紅茶が注がれる。馬車でも同行していた執事が会釈をした。


「今は御領主様としてこちらに居りますが、今でもダンジョンに行きたいお気持ちが強いのですよ」

「行かないんですか?」

「責任を負う身でありますから」


 それはそうか。行政を動かしていたり、責任を負う人が急にいなくなったとあっては、各所に問題が生じるだろう。

 金級と聞いて興味が湧いたツカサは、そっと【鑑定眼】を使った。


【ルバルツ・フォン・ジェルロフ(43)】

 レベル:104

 HP:645,000

 MP:8,000

 【スキル】

 統治者の知見

 剣術Lv.7

 索敵Lv4


 なかなかのステータスだ。索敵というスキルは初めて見たが、文字と知識から周囲の魔獣や人の気配に敏感なのかもしれない。

 統治者の知見は、ルバルツがジェキアを治めるにあたり自然と身に着けたものだろう。

 金級でレベルが100超えということはかなり強い。エルドが大盾に特化しているのだとすれば、ルバルツは攻めることで攻略をするタイプだったのではないだろうか。


『レベル104だって、剣術のレベルが7だから、結構強そう』

『そうか。ところで食べ物の類は鑑定したのか?』

『えっと、今した。クッキーもサンドイッチもケーキも紅茶も、美味しい素材だけで作られてるよ』

『そうか』

 

 ツカサの答えを聞いて初めて、ラングは紅茶に口をつけた。ツカサの紅茶と同じタイミングで新しい物に替えられているので、美味しいはずだ。ここで初めて食べたケーキは、流石貴族と言うべきか、美味しかった。

 ラングの警戒心がすごい、相手が貴族ならそれだけのものが必要なのだろうか。ツカサは今後、鑑定したらラングに共有することにした。


「しかし、その強さで銀級なのか」


 ルバルツは納得がいかない顔でラングとツカサを交互に見遣る。


「私たちの目的はスカイへ行くことだ。余計な面倒事を呼び込むつもりはない」

「ほう!悪魔の国へ行くのか」


 その物言いにツカサはカチンと来た。ラングがツカサの顔の前に手を出して制し、言葉を引き受けた。


「調べているのなら知っているだろう。ジュマに十余年いたとはいえ、私たちの仲間はスカイの出身だ。言葉を訂正しないのならば、少しばかり暴れる覚悟はある」


 今までツカサに会話を任せていたラングが微かな威圧を放ちながら言い、ルバルツは目を見開いた。それから席を立ち、ぐっと頭を下げた。


「すまない、失礼な物言いだった、謝罪させてくれ」

「構わん」


 尊大に頷くラングにルバルツはほっと息を吐いた。

 金級だったというのは伊達ではなく、きちんと相手の力量を見極められるのだろう。ツカサは感心してしまった。もしくは、冒険者時代、出自に関わる話で嫌な思いをしたことがあるのだろう。


「そうか、旅の目的地が遠いのか。だとすると金級だからと依頼を渡され、断り続けるのは面倒かもしれないな」


 理由をあっさりと理解してルバルツは座り直す。

 そして話題を切り替えた。


「ところで、なぜ君たちはファイアドラゴンと遭遇が出来た?」


 それはギルドには明かしていないものだ。ブルックも【冒険者の楽しみ】という観点から、今後も言わないはずだ。


「単純に、運が良かったんだと思います。あそこは下層に降りる階段も出ないし、人があまり行かない、ハズレの中ボス部屋だったので」


 これはラングと事前に決めていた言い訳だ。日誌を辿ったことを言えばブルックが危険になり、ルートがあるのだと言えばラングとツカサが面倒に巻き込まれる。

 日頃行かないところに行ってみたら出た、が、言い訳だ。ギルド内でもレアポップだと認識をされていたからこその方便でもある。


「運も実力の内、か。いやはや、流石と言うべきか。実はな、私も冒険者時代には何度も挑戦していたんだよ」


 過去を懐かしみ、ルバルツは微笑みを見せた。

 細めた目の皺が年を感じさせる。


「ジュマのダンジョンを踏破したかった。ジェキアのダンジョンではファイアドラゴンをこの手で討ってみたかった。今や憧れも良い思い出さ」


 ルバルツは少しだけ寂しそうに微笑み、暫し沈黙のあと執務机から移動しラングとツカサの向かいのソファへ座った。

 

「先に言っておく、断ってくれて構わない」


 そう前置きをした上でルバルツは続けた。


「君たちが冬宿にいる間で構わない、私の子を一度だけダンジョンに連れていってもらえないだろうか」


 ツカサは言葉の真意を測りかね、首を傾げた。ラングが皿をメイドに渡しながら尋ねた。


「護衛依頼か?」

「いや、そうではない」

「はっきり言え」

「君たちのパーティに一時加入し、連れていってほしい」

「断る」

「そうだよなぁ」


 ルバルツはがっくりといった様子で項垂れた。

 その様子があまりにも哀愁が漂っていたので苦笑を浮かべる。


「ルバルツさん、なんでまたそんなことを?」

「君たちは我がジェルロフ家について、在り方は知っているか?」

「在り方?」

「ふむ、その様子では詳しくは知らないか」

「ご説明いたします」


 執事が礼をし、合図でメイドが新しいお茶と軽食を持ってくる。内容にハムとチーズが増えた。ルバルツはワインをもらってそれらを肴にするらしい。

 ラングもしょっぱい物が欲しいらしく、メイドに持ってくるように声を掛けた。


「私たちにもハムとチーズを。それからツカサに、ハチミツ、クッキーなどの菓子も頼む」


 遠慮しない姿にツカサは驚くが、その態度に誰も何も言わないのは良いということだろうか。

 もしくは、ポーカーフェイスがしっかりしているのか。ツカサにはわからなかった。


 諸々の間食が揃い、執事はこほんと咳払いの後語りだした。


 ジェルロフ家は代々金級冒険者を輩出している。そして当主になるのは金級であることが条件である。

 ジェキアは冒険者ありきの生活様式をしているために、領主が冒険者への理解を深める必要があるからだ。冒険者から見限られてしまえば、困窮するのは領地経営だ。

 冒険者ギルドだけで統治できることはすでに判明しており、領主は尊き血というだけで上にいる。能のない者が領主となれば冒険者をぞんざいに扱い、反旗を翻されたり、税収は誤魔化されるだろう。


 だからこそ、冒険者への理解が必要なのだ。


 そして、支援という形で税を還元し、必要な存在でなければならない。


「領主というのは便利屋なのだよ」


 身も蓋もない言い方だが、あっけらかんと言われてしまえば頷くしかない。

 その背後では執事が肩を竦めていた。


「冒険者が強い地域はそうであるのがある意味正しい。搾取するだけでは双方に利益はない。我々は莫大な税を手中に納める代わり、還元し、地域の責任を担う。何かあれば騎士団を率いて対処に当たる。が、それだけなのだ。だからこそ、私は冒険者の中で生活し、彼らに敬意を払っている」


 窓へ歩み寄り雪空を見上げる。

 ルバルツはラングやツカサに対して、想像していたような尊大な態度を取らなかった。それはそうした思想と、ルバルツ自身が冒険者だからなのだろう。


「貴族の中には、冒険者が腕力だけと思う輩も多い。中には生活のためにそうしている者がいるのも事実だ。だが、上位の冒険者にはきちんと矜持を持つ者が多い。そして、賢い者もだ」


 ルバルツの視線がラングを見る。ラングはクッキーをさくさくと食べていた。


「ジェルロフ家の子息令嬢は、一定の年齢になると冒険者になる決まりがある。もちろん強制ではない、生来体の弱い者もいれば、適性というものがない子もいるからな」


 ただ、その時は当主になる権利を失い、補佐や市井で商人になったりするのだそうだ。

 執事が続けた。


「現在ジェルロフ家にはお二人の子息がいらっしゃいます。どちらも当主をお望みなのですが…」


 執事が言い淀む。


「良い、続きは私から話そう」


 ルバルツは執事に頷き、眉間の皺を揉んで続けた。


「どこで育て方を間違えたのか、冒険者というものに対し、それぞれの認識が違う」


 ツカサはまた首を傾げ、ラングはさくさくとクッキーを食べ続けている。

 興味が無いのだろう。

 ルバルツはちらちらしている。


「【真夜中の梟】に預ければいいだろう。金級冒険者、実績ともに問題あるまい。承諾するかは知らんがな」


 その手が、と言いたげに手がぽんと叩かれる。そのジェスチャー、ここにもあるのか。

 皿の上のクッキーをすっかり平らげて、ツカサは行儀悪だが指を舐めた。


「このクッキーと紅茶の茶葉を土産に包んでくれ」

「あぁ、それはもちろん構わないよ。気に入ってくれたようでよかった」

「お前の失礼の詫びに、エレナに届ける」

「おっと、それなら量を包まねばなるまい。ビクター、今日焼いた分は全て包むように厨房へ伝えろ。それから茶葉も用意してくれ」

「かしこまりました」


 ラングはそのやり取りを見届けると立ち上がった。


「馳走になった。サイダルの件はもう関わるつもりはない」

「そうか、わかった。こちらで全て対処しよう。良い冒険譚が聞けたことを感謝する。願わくは我が子の教育も頼みたかったがね」

「断る」

「君は冒険者の中でも一本芯が強そうだな」


 おかしそうに笑って握手のために手を差し出す。ラングはそれに応えてから扉へ向かった。


「君も、素晴らしい冒険譚をありがとう。引き続き君の冒険に幸あらんことを。武運を(ラクリェール)

「ありがとうございます。あの、頑張ってください」

「はは、ありがとう」


 偉い人と話すのは慣れない。ツカサはぺこりとお辞儀をしてラングの背中を追いかけた。

 馬車の準備は出来ているが、厨房からの届き物を待ってエントランスホール横の部屋で少しだけ待機する。


『まさか子供任されるとはね』

『断った』

『そうだけど、貴族ってなんていうか面倒なんだね』

『早く済ませるに限るだろう?』

『うん』


 もうのんびりと冬を過ごしたい。ダンジョンに行くのなら、ロナやマーシと臨時パーティを組んでいくのも楽しそうだ。そう、出来ればそういった形で気楽に行きたい。

 それにアズリアへの道も調べなくてはならないのだ。忙しい。

 これ以上の面倒ごとがないことをそっと祈った。





次回更新は4/13予定です。

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