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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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62:ダンジョンから戻って

 

 ジェキアのダンジョンの入り口、ギルドの中に出た。


 ランタンの灯りがあるギルドは明るく、トーチに頼っていて見えていなかった自分の状態も、ラングの姿も良く見える。

 ツカサは自分の治しきれていなかった火傷に気づいて治療をしたし、肩にかけたままの炎のマントは焼け焦げていて半壊。

 ラングは怪我こそツカサに治してもらっているが、ブーツの底も溶けているし、二の腕まで服が焼けていて素肌を晒している。ラングの師匠から譲り受けたマントが無事だったのは僥倖、ダイムで買い足した冬装備がだめになった程度で済んだ。

 そう思うと炎のマントがあってよかった。


 そんなぼろぼろの状態で出てきたもので、周りの冒険者からは揶揄いと心配の声が飛ぶ。

 ラングは腰のポシェットから出すふりをして、空間収納から取り出したファイアドラゴンの鱗を一枚掲げて見せた。


「売り本屋のブルックを呼べ」


 ランタンの灯りの中、ラングが鱗を軽く揺らして輝かせる。


「ファイアドラゴンを討伐した」


 爆発のような歓声が上がり、ギルドが一時騒然となったのは言うまでもない。





 ラングとツカサはすぐさまギルドマスターに呼ばれ鑑定ができる者が鱗を見た。ファイアドラゴンの鱗だと証明され、ギルドマスターは二人という人数とそのランクに目を丸くしていた。実際に討伐してきたのだから紛うこともない。

 ランクの更新も提案されたが断った。過度な待遇は旅の重荷になるので嫌だと言えば、ギルドマスターは苦笑を浮かべながらも理解を示してくれた。

 その傍ら、ツカサはどっと疲れが出て思考が風呂一色になっていた。さっぱりしたい。


「まさか本当にいたとはな」


 ギルドマスターは少年のような目でファイアドラゴンの鱗を眺め、時々大事そうに持ち上げる。


「ギルドには卸すのか?」

「そのつもりはない」

「だが、これは良い金になるぞ?」

「他のもので生活は足りる」

「だが…」

「くどい」


 ラングはすぱりと会話を打ち切った。ギルドマスターは残念そうに肩を落とし、鱗をラングの前へ戻した。

 レアポップの討伐だものな、記念だよな、とギルドマスターは一人で納得をしていた。

 一頻りやり取りをした後居住まいを正し、真面目な顔に戻る。


「以前に報告を受けていた5階層か?」

「そうだ」

「どこだ?」

「ここだ」

「そこで出るのか、ハズレ部屋じゃないか」


 フラグを立てなくてはポップしない中ボスだ、隠す必要はない。ラングは地図を指差し淡々と受け答えた。ツカサはその横で睡魔が襲ってきて大あくびをしてしまった。


「疲れているか、それもそうか。短剣使いなら走り回るだろう」

「討伐の確認と証明は出来たな。帰っていいか」

「そうだな、装備もボロボロになるくらいの戦闘だったんだろう、また後日報告に来てくれ」

「今以上の報告はない」


 眠そうなツカサの腕を引き、立たせ、ラングはドアに向かう。

 ツカサはギルドマスターに一礼してその後に続いた。


 階段を降りれば冒険者たちが武勇伝を聞くために群がってきた。称賛され、馬鹿にしたことを謝られ、どこでポップしたのか、どう倒したのかを様々な言葉で尋ねられる。

 風呂に入りたいツカサは疲れのせいか段々と苛立ちを覚えた。


「どいてくれ、どいてくれ!」


 聞き覚えのある声に冷静さを取り戻した。

 冒険者を掻き分け、息を切らせたブルックがツカサたちの前に躍り出る。外套を羽織ってくることも忘れたのだろう、部屋着に雪が積もっていた。


「いたのか」


 ラングは黙ってファイアドラゴンの鱗をブルックに差し出した。


「依頼の品だ、確かめろ」

「あぁ…、あぁ!あいつの鱗だ、あの時、儂らが倒した、あいつの」


 鱗を受け取り額につけ、ブルックは膝から力を失って崩れ落ち男泣きというにふさわしい姿で慟哭をあげた。

 かつて証明が出来ず馬鹿にされ、生き残った面々もばらばらになった。残った日誌だけが証拠だった。

 無念が晴らされたブルックはしばらく泣き続けた。

 

「ラング」

「なんだ」

「ごめん、もう、無理」


 睡魔が限界だった。ふらついた体をラングがため息と共に支え、それから背負われた。


「致し方のない」


 ラングも同じように戦い、怪我をし、戻ってきたばかりだ。

 ツカサは周りの冒険者が笑う声を聞きながらラングの背に体を預けた。経験値の差なのだろうか。ツカサはそんなことを思いながら眠りに落ちた。

 


――――



 次に目を覚ませばそこは宿の部屋だった。ラングが運んでくれたのだろう。

 ボロボロの服のまま布団に転がされていたが、眠れたことで疲れは取れていた。大きく伸びをして部屋を見渡す。

 ラングは居ない。とりあえず風呂に入るために浴室へ向かい、準備をした。

 エレナの石鹸で隅々まで洗う。髪は一、二回では泡が立たず、随分汚れていたのだと感じる。体も一度ではさっぱりしなかったので少し湯に浸かってからまた洗った。魔法が使えることを良いことに、水を溢れさせ沸かし直し、たっぷり体をリラックスさせた。

 すっかり温まり、お湯を片づけタオルで髪を拭きながら部屋へ戻る。部屋が暖かい。


「戻ったか」


 ツカサが起きたタイミングだけ席を外していたのだろう、ラングが戻ってお茶を飲んでいた。


「おはよう、運んでくれてありがとう」

「構わん。緊張の糸が切れると眠くなるところも、改善しなくてはな」

「そうだね…。ブルックのところ行かないとだね?」

「あぁ、明日にでも」


 今何時なのだろうか。雪が降る外は薄暗くて時間を計り難い。


「夕食前だ。ダンジョンから戻って丸一日寝ていた」

「そんなに?」

「シーツの替えは頼んでおいた」

「ありがと」


 魔法で髪を乾かし、少しストレッチをすることにした。今日は宿に食事を頼んでいるので声がかかるまでは自由時間らしい。


「ジュマのダンジョン、報酬が本当に破格だったんだね。普通に考えたら今回の収入だって高額なんだろうけど」

「そうだな」

「素材はどうする?」

「取っておけばいい。もしくは、今回破損した防具の代わりにするのもいいだろう」

「あー、ラング、ブーツの底が溶けてるよね、どうするのそれ」

「職人に同じものを作れるか聞く。幸い、あと一ヵ月はここに足止めだ。後衛だけでなく、前に出るお前も装備を換えた方が良いだろうな」

「もう少し着けろってこと?」

「その方が安心だろう」

「まぁね」


 ラングが淹れてくれたお茶を啜り、ツカサはぽつりと尋ねた。


「俺、邪魔じゃなかった?」


 シールドの下で訝し気な表情をしているのがわかる。首を傾げ、続きを促される。


「いや、あの、ファイアドラゴン、俺が居ない方がやりやすかったんじゃないかって」


 もごもごと口の中で言葉が籠る。既に完治しているとはいえ、ラングが酷い火傷を負ったのは追い詰められたツカサを守るために盾になったせいだ。

 ラングは肩を竦めてお茶を口に運び、喉を潤した。


「居ても居なくてもやりようはあった。どのような状況下でも最善を尽くすのは、冒険者(ギルドラー)として当然のことだ」

「そうなんだけどさ」


 居て良かったと言ってほしいツカサに対し、ラングは望む答えを言いはしない。

 評価を求める冒険者は、やがて評価のために無茶をするようになる。そのために冒険者になるのなら問題はないが、ツカサの場合は少し訳が違う。

 生きるために冒険者になっている若者に、師からの評価は褒美になるのだろうか。

 

「私を全てにされるのは困るのだがな」

「え?」


 ため息と共に呟かれた言葉はツカサには聞こえず、ラングはもう一度肩を竦めた。

 

「もし私が一人で挑んでいたならば、時間が掛かっただろう。追い詰められる甘さはあるが、動き自体は以前よりも、面倒を見ずに済んだ」


 そこまで言い、ラングは顎に手を添え考え込んでしまった。少しだけ間を置いた後、言葉が続いた。


「まぁ、成長は見られた。今回はお前が居ることが前提の戦いだったからな、居ない想定は考えていなかった」

「ふはっ、ラング、口下手過ぎない?」


 思わず笑ってしまって隣の席から不興を買う。慌てて謝りながらも笑いが止まらない。


「ごめん、ありがと、うん、そうだよね。ラングにとってはそうだ」


 そもそも既に【異邦の旅人】で攻略したものを、邪魔だったのではないか、とか、居なければやりようがあったのではないだろうか、とか、終わったことに文句をつけるような人ではなかった。

 ダメなところがあれば必ず指摘を入れるし、叱咤があっただろう。それが無い時点で及第点と思えば良かったのだ。

 ツカサは一人納得をして肩から力を抜いた。


 ラングは何かを言いたそうにしていたが、腕を組んでツカサを無言で睨むだけにしたらしい。

 その圧に苦笑をしているところでドアがノックされた。逃げるようにそちらへ行けば、エレナがポットを手に持って立っていた。


「おかえりなさい、ツカサ。お夕飯前にお茶はいかが?」

「ただいま、エレナ!いただこうかな」


 昨日より今日、今日より明日。

 この温かい居場所がある限り、ツカサは大丈夫だと思えた。




次回更新は4/5の予定です。

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