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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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61:日誌を辿り終えて


 どすん、と重たい音を立ててファイアドラゴンの首が落ちた。

 

 熱を放っていた体はぷしゅうと蒸気を発し、やがて急激に冷えて灰に変わっていった。

 

 終わったのだ。倒した。

 ツカサはしゃがみ込んだ体勢のまま、ぼんやりとファイアドラゴンの灰が崩れていくのを見ていた。


「無事か」

「ラング」

 

 追い詰められたツカサを庇うために身を挺した師匠を振り返り、言葉を失う。


「ラング!」


 炎のマントで概ね守られていたのだろう。だが、手は焼けグローブは無く、シールドから覗く頬は爛れ、明らかに火傷を負っている。

 慌てて駆け寄りヒールをかける。ぱあ、と光の粒子が舞ってラングの怪我を治していく。火傷の一つも残して堪るものかとツカサが意気込んだからか、少し時間は要したが無事にラングの顔も、手も元通りになった。

 ラングの全身を光が包んだので、服の下も火傷があったのだろう。ついでにツカサ自身も光に包まれていたが無我夢中で気づかなかった。

 指先を確認し、手を握り、ラングは頷く。


「助かる。当てにしていた」

「よかった…、あ、でも、治ってない?」


 グローブのないラングの手をよく見るのは初めてだ。うっすらと両手の甲に火傷のような痕があった。


「焼き印は元からだ」

「なんで!?」

冒険者(ギルドラー)になるとき、証として手の甲を焼かれる。こうして二重登録を出来ないようにする」

「だからラング、最初の登録の時に焼き印じゃないのかって言ったんだ」

「よく覚えているな」


 思わずラングの両手を取って焼き印の痕を眺めてしまう。

 左右で焼き印の形が違っていた。


「なんで形が違うの?」

「右手が冒険者(ギルドラー)、左手が処刑人(パニッシャー)

「じゃあ、普通の冒険者(ギルドラー)なら右手だけ見ればいいんだ」

「そうだ」

「ラングがグローブを基本的にずっと着けてるのって、これを隠すためなのか」

「そうだ」


 新しいことを知れた。手入れの行き届いた爪も、少し骨ばった手もきちんと治っており、焼き印だけが残っている。これはすでに【治っている】からだろうか。


「宝を拾うぞ」

「あ、うん」


 手を引っこ抜かれてツカサは頷く。

 見れば、すっかり灰は消え、ファイアドラゴンがそこに居た証拠はドロップ品だけになっている。

 中ボス部屋のクリア報酬の宝箱、素材、ファイアドラゴン自体から落ちた宝箱がある。


 戦闘中も消さずに済んだトーチを回収し、宝の場所へラングと歩み寄る。


 【鑑定眼】を発動し、確認する。


――ファイアドラゴンの鱗 10枚

――ファイアドラゴンの血 1袋

――ファイアドラゴンの飛膜 1枚


 どういう仕組みなのか、血は革袋でドロップした。ドラゴンは捨てる所がないとよく言うし、これは何か薬になるのだろうか。


「鱗が出た」

「完璧だな」


 頷き、鑑定を続ける。ファイアドラゴンからドロップした宝箱だ。思ったより質素な箱だ、大きさだけはある。

 よっこら開ければ驚いた。


 竜の心臓

 炎の剣

 炎のナイフ

 業炎の衣

 金貨 50枚


 ジュマのダンジョンほどの金は出なかったが、これが普通なのだろう。ここが5階層ということも考慮すればかなり破格だ。


 詳細の鑑定を先に行う。


――竜の心臓。脈打っている。

――炎の剣。炎を纏った剣。

――炎のナイフ。投げナイフ。使用者を登録すれば投げたあと、元の位置に戻る。

――業炎の衣。炎を防ぐことが出来る衣。


 竜の心臓。なんだこれは。

 そうっと持ってみれば、確かに脈打っている。ラングに渡せば首を傾げられた。


「先ほどのドラゴンのものか?」

「わかんない。とりあえずしまっとく?」 

「そうだな、持っておけ」

「えぇ…」


 戻され、ツカサは仕方なくそのまま空間収納へ仕舞った。

 武器の振り分けはまた宿でやることにして、部屋ドロップの宝箱を開く。


 金貨 10枚

 銀貨 40枚

 銀の滴草(しずくそう) 3束

 ハルバード


 初めて槍武器が出た。使えるかを尋ねてラングに渡す。

 軽々と槍術を見せてくれるので拍手した。とは言え、それをメインにするつもりはないのでこれは売ることになった。

 銀の滴草はどうやら調合素材のようだ。涙型の袋がスズランのように成っており、ぷにぷにしている。これは魔力回復薬になるらしい。エレナに渡してみようということになった。


 ファイアドラゴンの報酬は豪華だが、ジュマで経験した物に比べるとしょっぱく感じる。

 あれはイレギュラーだったとよく理解した。


「じゃあ、罠に引っ掛かる前に帰ろうか」

「待て」


 声をかければ、ラングは違うところを眺めていた。指を差しているのでその方にトーチを移動させる。


「なんかある?」

「ハズレ部屋ではあるが、お前の言うフラグだろうか。何かある」

「え、まじ?」


 そのシールドでよく見えるなと思うのは何度目かわからない。

 宝を全て仕舞い込み、トーチの灯りを持って壁に向かい、ラングが壁をなぞる。

 隣に立って一緒に壁を眺める。文字らしいものが彫られていて目を瞠る。


「誰も気づかなかったのかな」

「フラグというものが立っていて、ファイアドラゴンを倒す。それがまたフラグになっているのではないか?」

「なるほど、それじゃブルックたちが気づいてなかったら気づかないか。良く気づいたね」

「勘だ。これは読めるか?習った文字とは違う」

「本当だ。【変換】使うよ、待って」


 ツカサはこほんと咳払いをし、【変換】を起動する。


――変換を発動します。壁の文字に対して発動します。別の変換が必要な場合は再度使用してください。


 文字がじわりと読める文字に変わっていく。


「試練を越えし幸運の者よ、進め。だって」

「ほう、あれが試練か」


 ラングが首を傾げている。ツカサの治癒魔法をあてにしてある程度の無茶をしていたが、もしや一人だったら楽勝だったのではないだろうか。別に難しくなかったと言いたげに首を傾げている。足を引っ張った気がして少しもやついたが、振り払う。


「不思議な造りだ」

「ラングの故郷のダンジョンとは違う?」

「そうだな。魔法がないこともあってダンジョン自体が不思議な場所だったが、ここまで仕掛けがあるものではない」


 なるほど、向こうのダンジョンを知らないのでイメージになるが、何やら泥臭そうだ。

 ツカサは魔法がある方がいいなぁとぼんやり思った。

 

「進めとは、どこにだろうな」


 ラングは壁を覗きこみ謎を解く姿勢だ。ツカサも倣い【鑑定眼】と【変換】を発動したまま壁を見る。

 【鑑定眼】には反応が無い。文字もその他にはない。


「どこだろう、ヒントもないなぁ、うわっ」

「む」

 

 壁を同時に触った瞬間、ふわ、と手がすり抜けた。

 たたらを踏んで壁に吸い込まれたツカサの手を掴み引き寄せようとしたラングも、引っ張られるツカサと共に壁の中へ吸い込まれた。


「うわぁ」


 吸い込まれた驚きよりも、その先の光景に目を奪われた。

 キンと冷えた空気、キラキラと輝く壁。

 部屋全体が青白く発光し、ダイヤモンドダストだろうか、細かい何かが輝きながら降り注いでいる。

 美しい小部屋だった。

 中央に祭壇があり、その上に宝玉が乗っている。


「視えるか」

「今試す」


 その場から動かず【鑑定眼】を向ける。そして絶句した。


 迷宮の加護


――迷宮の加護。迷宮の慈悲。罠が所有者を避ける。隠された物を見やすくなる。


「これ、もしブルックたちが知っていたら」

「帰路は多少違っただろうな」


 何とも言えない気持ちになりつつ、宝玉を手に取る。

 リンと鈴のような音が鳴って掌に収まり、淡い輝きを放っている。


「帰るぞ」

「そうだね」


 ラングの声に頷き、ツカサはもう一度小部屋を見渡した。

 冒険者に対するダンジョンの祝福。見つけられる者は見つけられ、宝を得ることが出来る。


 運と実力の試される場所。


 ツカサが瞑目をしたのと、ラングがその肩に手を置き帰還する(リルヴニア)を唱えたのは同時だった。 

 



次回更新は4/2予定です。

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