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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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58:日誌を辿って2


 順調に日誌を辿っていくことが出来ている。

 4階層で迎えた朝、ツカサは癒しの泉エリアでラングと現状の確認を行なった。


 フラグは立っている。

 確かかと問われれば恐らくとしか言いようがないが、ツカサはある程度の確信を得ていた。

 2階層の中ボス部屋から全て日誌と同じ魔獣が出ているのだ。道中の雑魚、ボス部屋の中身、日誌のおかげで攻略がしやすくもある。

 ラングは何か考え込んでいたが、ツカサにはこの状況がなんとなくわかる気がした。ジュマでダンジョンが理の生きものだと聞いたこともあって、このルートはダンジョンが反応するものなのだと思った。だから、免疫反応で強い魔獣が5階層で出る、そういうことなのだろう。

 問題はそのフラグがどこまで歩いて成されるのかだ。今の段階で既に5階層でファイアドラゴンが出て、別のパーティが攻略したらどうしよう、とツカサは心配していた。

 ラングはそれに対し、目的を間違えるなと言った。


「ファイアドラゴンがいることを証明することが目的だ、討伐そのものが目的ではない」

「それはそうだけど。せっかくフラグを立てたのに横取りはなぁ」

「直接戦わなくとも結果が手に入る、それを幸運だと思え。早い者勝ちの目的ではないのだから」


 言うことはわかる。ただ、気持ちが納得できないだけだ。

 ラングは小さくため息を吐いた。


「言っておくが、戦闘は少なければ少ないほど良い。やらなくていい争いは進んで拾いに行くな」

「あちこちで煽ってる人がなんか言ってる。ラング結構拾ってるじゃん」

「必要最低限だ」

「えぇ…どうかな」


 とはいえ、ツカサが首を突っ込んで巻き込んだことも記憶にあるので強くは出られない。振り返ってみれば、ラングは必ず相手が何かをしてくるから反撃しているだけに過ぎないのだ。サイダルのタンジャ然り、ジュマのアルカドス然り。

 朝食のスープとオーク丼を食べ終わり、食器を片づける。他のパーティがいなかったのでがっつりと料理をした朝は、満腹度合いも気合も違う。

 短剣に込めた魔力を確認、照明魔法(トーチ)を唱えていくつかの灯りを周囲に散りばめる。ずっと出しているので熟練度が上がったのだろう、かなり自由自在に操れるようになってきた。4階層のシャドウリザードは夜目が強く灯りに弱いため、トーチを当てて目を潰し、短剣で攻撃する手法がかなり上手く行った。

身支度を整え立ち上がり、ラングはツカサを見遣った。


「日誌はなんて書いてある」

「癒しの泉エリアで一晩を過ごした。もうそろそろ俺たちの冒険者人生も終わりかと思うと感慨深い。ルートは、2右、2左、3右だ。ってさ」

「二つ目の通路を右、次の二つ目の通路を左、それから三つ目の通路を右か」


 これはこの日誌の略語だ。途中でちらほら出ていたので最初はなんのことかと思ったが、日誌を読み返して今後はこう書く、と違う人の筆跡であったので、長く書くのが面倒なメンバーが作ったのだろう。そうした性格や日々の改善が見られる日誌は面白かった。これを書いた人たちがここで生きていた、活動していたというのは不思議な感覚だ。追体験というものの面白さを感じると同時、ブルックが拘っていたことに少し触れられた気がした。


 シャドウリザードは二足歩行の武装したオオトカゲだった。ゲームで似たような魔獣を見たことがあった。何度も遭遇し、ツカサはトーチ戦法と短剣でトドメを刺す。

 ラングは両手の短剣で器用に懐に入り込んで的確にトドメを刺していた。流石だと思ったのは、わざと罠を発動させてシャドウリザードを数匹まとめて葬ったことだ。ツカサには出来ない芸当でラングは片づけることもあった。

 ツカサは、落とし罠の場合、素材と魔石が拾えないのでやめてくれと頼んだ。貧乏性というか気質というか、素材が拾えないことをもったいないと感じるのだ。ラングは肩を竦めて、落とし罠の利用はやめてくれた。


 2右、2左、3右で先に進み、中ボス部屋へ辿り着く。日誌にはキング・シャドウリザードと書かれている。日誌の中ではメンバーが狩り慣れた相手と書いているので、シャドウリザードより知能があるかステータスが高いかだろう。ここもまた、最短ルートから外れているので待っているパーティはいない。

 扉を開けて【鑑定眼】を使うと、キング・シャドウリザードと名称が出た。順調だ。


「日誌の通りの魔獣だ」

「ツカサ、ここは魔法だけで片づけてみろ」

「短剣の魔法は?」

「それも無しだ」


 言いつけられ、ツカサはキング・シャドウリザードを見遣り戦術を考える。

 通路にいたのとは違い、大盾を構えてこちらを見ている。身の丈二メートルはある巨体で、通路で遭ったものよりもはるかに大きい。キングと着くものがそうなのか、じっとこちらを窺っている辺り、知性的なものがあるようにも思う。

 日誌を見返して他の人の攻略を参考にする。


 ブルックたちはキング・シャドウリザードとは何度も遭遇しているらしく、記載は徐々に雑になっていた。前の方のページを探し直し、戦闘光景を記載されている部分を確認する。


――― キング・シャドウリザードと遭遇した。

 回数はまだ少ないが、今後も出てくる可能性があるのでルーティンに出来るよう記載しておく。

 前衛はいつも通り、ブルックとキルファは後衛で中距離攻撃。

 マリサはいざという時のため、防御魔法を準備。

 

「参考にならない!」


 戦う陣形だけが書かれたものは結局身内にしかわからないものだ。

 ツカサは腕を組んで待っているラングを見上げた。


「ラングならどう戦う?」


 僅かに驚きを含んだ視線を感じて、ツカサは首を傾げた。


「なに?」

「いや、成長したものだと思った」

「どうして」

「聞けるようになったのだなと」

「なにそれ」

「私なら双剣で攻める」


 続けて文句を言おうとしたツカサを無視してラングはキング・シャドウリザードを指差す。


「左に大盾、右に剣だな」

「うん」

「一度出方は確認をするが、知性が高いのであれば自分の体を大盾で隠すだろう」


 扉から少し離れ、ラングは左に盾を持ち、右手に剣を持つ想定で構えた。そこに大盾も剣もないが、動きに重みを感じるのは装備したことがあるからだろう。


「大盾の良い所は自分の初動を見難くすることだ。それから、大盾をそのまま武器に出来る。エルドがそうだな」

「あぁ、ジュマでフォウウルフにやってた、押し出しと、上から叩き潰すみたいな」

「そうだ。もちろんデメリットはある。大盾を前に出してしまえば自分自身に死角が出来る」


 ラングの大盾を持っているだろう腕が死角になる部分をなぞる。


「それを狙う。余程気配を読むことに長けていない限り、目に頼るのが生物だ。例えば、構えてみろ」


 言われ、ツカサはエルドが持っていたように大盾を構えた。ラングはそれを確認すると素早く踏み込んできてツカサの右側から攻めてきた。

 それを防ごうと反射的に大盾を持つ手を右に寄せ、剣を持つ腕で反撃をしようとした。とんとツカサの左足にラングの手刀が入った。

 ラングは左手を振りかぶるのと同時に右手もツカサに向けていた。


「反射というものは長い訓練によって抑えられる。逆に、訓練をするからこそ反射で防げるものもある。判断は場数だ」

「なるほど」

「私ならこうして削っていく」

「ありがとう」


 ラングならこうして四肢の自由を奪ってから屠るだろう。逆に、ラングはスライムなどの神経や骨が通わない魔獣は苦手としている。核を一突きで処理をしていくので問題はないが、例えば武器を溶かしてしまうほどの強酸性が出た場合には逃げるのだという。今はツカサがいるのでその限りではない。


 改めてキング・シャドウリザードとの戦闘へ思考を切り替える。

 先ほどのはラングの戦闘方法であって、今回魔法縛りのツカサには使えない方法だ。魔法なら何が出来るだろうか。

 魔法でしか出来ないことをやるか、堅実に行くか。


「どっちもかな」

「決まったか?」

「うん、やってみる。あの、いざとなったらフォローお願いしても良い?」

「任せておけ」


 そう言ってくれることの心強さがツカサの背中を押してくれた。

 扉の中を覗きこむ。キング・シャドウリザードはこちらを窺ったままだ。


「それじゃ、行くよ」

「あぁ」


 扉の中に入りラングがドアを閉める。ツカサは魔力を全身に感じながらキング・シャドウリザードを正面から見た。


「トーチ!ファイア!」


 光の玉を素早く投げつければキング・シャドウリザードは大盾で視界を防ぎ目くらましを避ける。当たれば火傷を負うくらいの傷は与えられるが流石に動きが速い。

 追撃の火球を振り払うような動作と同時にツカサに向かって駆け出してくる。

 ツカサは正面から受け止めることはなく、距離を取るために走りながら魔法を放つ。


「アイスブランド!」


 細い氷柱を複数発動し弾丸のように飛ばす。耐久度の問題か相手の防御力が高いのか、細く鋭いだけではキング・シャドウリザードの鱗を貫けない。大盾で正面から防がれもする。ただ、大盾の場合は少しだけそのものに傷をつけられているので、装備耐久を減らす目的には良い気がした。

 ラングに魔法が当たらないようにしなくてはと思うが、確認する余裕がない。大丈夫だと信じることにした。

 ツカサは部屋を走り回りながら魔法を放つ。キング・シャドウリザードはその後ろを追いながら魔法をかわし、防ぎ、剣を振るう。その刃がツカサに届くことはないが、決め手に欠けている。


 ぎょろりとツカサを捉える眼に、はっとした。


「ウィンド!風よ切り裂け!」


 狙いは一つ。目視できるほどのかまいたちがキング・シャドウリザードへ向かっていく。風圧を感じてかキング・シャドウリザードは足を止め、大盾を前に構える。体を大盾の向こうへ隠して魔法をやり過ごす。

 知恵があってよかった、とツカサは練り上げた魔力を形にした。


「貫け、アイスブランド!」


 地面に手を付けてツカサが唱える。大盾の構えを解いたキング・シャドウリザードは地面を走る魔力に気づき、飛び退く。

 視線が足元に行っている間にツカサはもう片方の手でドルロフォニア・ミノタウロスを斃した氷の氷柱を放った。

 飛び退いた姿勢を襲われてなお、大きい氷柱を大盾でやり過ごそうとしたのは流石だ。視線がそちらへいった瞬間、床を走っていた氷からいくつもの棘がキング・シャドウリザードへ飛び出した。

 腹の部分は柔らかかったのだろう。突き抜けた氷の棘が背中から生えている。大盾は防ぐことも忘れてしまい、キング・シャドウリザードの頭蓋はもう一つの氷柱で砕かれた。

 ボロボロと灰になり落ちていき、宝箱と素材と魔石が落ちた。


 深く息を吐いてツカサはラングを探した。


「よくやった」


 背後から声がして驚いて振り返る。どうやらツカサのすぐそばを並走していたらしい。


「虚と実が上手く出来ていた」

「へへ、やった」


 ブルックたちのパーティにはタンクがいた。タンクが引きつけ、中距離攻撃で削っていく、安定したやり方だったのだろう。

 タンクがいないツカサたちのパーティでは出来ない手法だ。何かタンク代わりになるものと考えたのが先ほどの手法だった。

 事前にラングならどうするのかを聞いておいて良かった、とツカサは思った。気づくかどうかはツカサ次第と言った形で、暗に攻略のヒントを教えてくれていたのだ。


「素材を拾って部屋を出るぞ。間引きの感じからするとこのあとは休めるだろう」

「うん、日誌ではそうなってる」


 宝箱と素材、魔石を空間収納に仕舞い、ツカサはラングと共に中ボス部屋を出た。


 

 

 

次回更新は3/24予定です。

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