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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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57:日誌を辿って


「二つ目の通路を右、そこで小休止を入れることにした」

「ふむ、なるほど。癒しの泉エリアか」


 日誌を読むツカサの言葉に地図を辿るラングの指先が動く。

 攻略は思いの外さくさくと進み、一日で1階層を越え、一晩を癒しの泉エリアで過ごした。二日目に2階層を探索し始めて半日が経っていた。

 【真夜中の梟】の攻略スピードも速かったが、中ボス部屋に入って然もありなん、これでは早い訳だとツカサは理解した。

 中ボス部屋に出る魔獣が各層ランダムで様々な種類が出るというが、当たりはずれはあるのだろう。

 一つ目に入った中ボス部屋では少し大きめのアサシンホーネットが一匹で浮いており、ツカサの対蜂訓練の犠牲になった。

 二つ目の中ボス部屋では炎を吐く大きなトカゲがいたが、ラングに軽く刻まれて息絶えた。

 三つ目ではオークが集団でおり、これはツカサの短剣の訓練に使われた。

 1階層の中ボス部屋は一事が万事そのような形で、非常に攻略しやすかったのだ。

 それよりも困るのは道中の魔獣と罠で、それがなければ一日で2階層まで踏破していたかもしれない。ただ、ツカサ達の足取りは間引きのそれなので通路をくまなく進む必要があり、それで時間が掛かったとも言える。ちなみに、アサシンホーネットと何度か遭遇をしたが、ツカサの風魔法は相性が良く、それなりの数のハチミツ入りグミと針を手に入れた。

 かくして二つ目の通路を右に曲がり、二人は癒しの泉エリアに辿り着く。先客も何組かいるが、思ったよりも広いのでスペースは十分にある。

 他のパーティから一定の距離を取って簡易竈を出しクズ魔石を燃やす。パンを炙りスープを温め直しコップに注ぐ。それだけでも満たされる。他のパーティは恨めしそうに二人の食事を遠巻きに眺めていた。

 ささっと食事を済ませ、日誌と地図を照らし合わせる作業に入る。2階層では中ボス部屋を二つ通るルートだ。日誌によると出現した魔獣はアルゴオークかホーンラビットだったそうだ。

 魔獣の手記を見る。アルゴオークはジュマで見たアルゴオーガの劣化版。ホーンラビットは名称からしてツカサの感覚だと動きの速い雑魚角兎だったが、手帳によると少し違うらしい。角兎なのは合っているが、とにかく強いらしかった。


『私の故郷にも角兎はいるが、食用と角の採取に養殖が出来るくらい穏やかな種類だ』

『それもすごいね。角取ってどうするのさ』

『薬になる。まぁ、軽い風邪に効く栄養剤のようなものだが』

『なるほど』


 故郷の情報も会話するため、言語を合わせつつ手帳に視線を落とす。多くの冒険者の手を渡り魔獣が記されたそれによれば、筆跡の違う追記もされてこう書かれていた。


―― ホーンラビット

 俊敏。強靭な角を持ち、突進攻撃は注意。

 獰猛で群れを成す。

 青銅作りの盾は貫通。

 毛皮は高く売れる。

 肉は美味い。


 盾魔法(シードゥ)が通じるかどうかが少し怖いが、アルカドスの剣を防いでいたので期待はしたい。


『そもそも、ホーンラビットが出てくれるかどうかもあるけどね』

『そうだな』


 日誌のとおりの魔獣が出てくれれば、ルートを通りフラグを立てるという行動に自信が持てる。けれどそれは、ファイアドラゴンと戦闘をする確率が上がるという意味でもある。

 ツカサが知っているファイアドラゴンとの戦闘に関して、ラングに伝えられるだけは伝えた。炎を吐くこと、ドラゴンなら尻尾を振り回すだろうこと、噛み付きや爪も、場合により鱗が固くて剣が難しいかもしれないこと。ラングは一頻り考えたあと、ツカサに言った。


「お前も戦闘に加われ。私のことは気にせず、やれることを思い切りやってみろ」


 ツカサと共に戦うと言われたのは初めてだった。高揚と緊張を感じ、ツカサはただ黙って頷いた。

 ファイアドラゴンと遭いたくない気持ちと、会いたい気持ちが半々でよくわからない心地だ。


「いくぞ」


 パチリとラングが時計を閉じる音で現実に引き戻される。手早く簡易竈やポットを仕舞い込むラングに慌てて頷いて後片付けを手伝う。気づけば他の冒険者たちもある程度出立したらしい、人数が減っていた。

 再び日誌のとおりのルートを改めて歩き直す。罠はトーチの灯りで順調に見つけて回避し、的中率も上がってきた。というところで気を抜くなと釘を刺され、ツカサは気を引き締め直したりもした。

 目当ての中ボス部屋は最短ルートから外れていることもあって先客はいなかった。入る前に装備の確認、呪文の確認を行なう。


「ファイアドラゴンから急にやれと言っても無理だろう。次の戦闘から動けるだけ動け。私に気を使うことはない」

「わかった」

「盾は気を付けろ」

「うん」


 もろもろの確認事項が済んで扉を開ける。

 中には角の生えた兎魔獣が四匹で群れを作っていた。フラグ説は濃厚だ。

 ラングはナイフを両手に持った。ツカサも両手に魔力を込めた短剣を持つ。風と炎だ。

 ホーンラビットたちは後ろ足で耳をパタパタ言わせたり、角を擦り合わせてコミュニケーションを取っていたりと可愛らしさ満点だ。そちらを見遣りつつ、扉を閉める。

 ホーンラビットたちは揃ってツカサとラングの方を見ると、ピン、と耳を立てた。


「来るぞ」

 

 ラングの声がして、同時にホーンラビットが襲い掛かってきた。

 後ろ足の脚力で一気に距離を詰め角を突き出す。


防げ(シードゥ)!」


 素早く展開した盾にホーンラビットがぶつかる。ガキン、と固い金属同士が当たるような音がしてホーンラビットは跳ね飛ばされるがすぐさま着地して体勢を整える。盾魔法は通用する。それにまずは一つ安心をした。

 考える猶予を与えずにホーンラビットたちが続けて攻撃を仕掛けてくる。【群れ】と表現されるのは正しく、一匹が正面から行くなら側面からもう一匹が回り込む。ツカサにもラングにも来るので、ツカサは自分で対処を余儀なくされた。

 僅かに視線を感じることからラングには余裕があり、自分の対処をしながらツカサのことも出来るのだろう。だが、今回は手を貸さないらしい。

 ホーンラビットがラングにやる連携でツカサにも襲い掛かる。

 盾魔法(シードゥ)で正面を防ぎ、横に回り込んだホーンラビットの対処に移る。すでに跳躍をしているホーンラビットを風の短剣を振って突進を抑える。白い毛皮を切り裂きながら、それでも突進を止められずツカサは体を大きく仰け反らせて角を避ける。

 角が風を突っ切ったためにあまり効果がなかったのだろう。出しっ放しの盾魔法(シードゥ)で再び突進するホーンラビットを防ぎ、弾いた空中に向けて風の短剣を投げた。喉に刺さりホーンラビットはそのまま地面を転がった。

 もう一匹がその間に突進をしてきたが、ツカサはいっそ大きく体を前に倒し、前傾姿勢で床に落ちたホーンラビットの下へ駆け、炎の短剣を刺した。

 喉が潰れた動物の鳴き声が響き、ホーンラビットの体が燃えていく。


「やっぱ生きてたか!」


 魔獣がそう簡単には死なないことをラングに言われ、確実なトドメを刺すことを何度も言われていた。手の中で肉を抉る感触がしたがゾワリと来たものは堪えて短剣を二本とも引き抜く。

 キィィ、と鳴き声を上げながら突進をしてきたもう一匹のホーンラビットに同様の手を使おうとすれば、すでに学習をしたのか飛び掛からずに方向転換をした。瞬時にツカサは炎の短剣に魔力を込め、発動させるとホーンラビットの足元へそれを投げた。

 炎に焼かれホーンラビットの体勢が崩れたところへ飛び掛かり、風の短剣を刺す。

 命が消えるまで、深く強く刺し貫いた。


 やがてホーンラビットは灰になり、毛皮と肉と角が残った。


 ツカサは自分で思っている以上に息が切れていて、床に座り込んだ。


「上出来だ」


 肩を叩かれてびくりと振り返る。


「自分の手で倒せたな」

「う、うん」


 心臓がばくばく言っていた。

 ラングに促されて素材を拾い、出現した小さめの宝箱を開ける。

 兎の肉と毛皮がたっぷり詰まった宝箱は冬の恵みになるのだろう。これでマフラーを作ったら暖かそうだ。

 【鑑定】をすれば、兎の角に薬効があると出たので、用途はラングの故郷と似ているのかもしれない。


「良い手段だった。魔力を込め、短剣を投げるなど魔法を使えるお前だからの手段だな。盾魔法(シードゥ)の過信だけはするな」

「わかった」


 褒められたことが嬉しくて笑顔になった。釘も刺されたが初っ端に盾魔法(シードゥ)が破られていれば出来なかった戦法だ。ツカサは両頬をバシリと叩いた。


「日誌は」

「えっと、宝箱を開けて中ボス部屋を出た。通路を真っ直ぐ行き、左に行けば癒しの泉エリアだ。ホーンラビットは緊張する、少し休みたい。だって」

「わかった」


 宝箱の中身は空間収納へ、中ボス部屋を出て日誌に従う。


 ツカサは内心、動けたことで浮かれていたので休憩は非常に有難かった。

 ブルックたちのパーティは、浮かれたことで一人が死んだのだ。同じ轍は踏まないようにしたかった。



 


次回更新は3/22予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] きちんとした冒険譚で面白い どでかい魔法でドッカーンみたいな戦闘ではなく、武器と技術を使って戦う様を丁寧に書いている 面白い [気になる点] 改善を求むのは、改行をもう少し増やしてほしい…
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