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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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56:ジェキアのダンジョン


 行くと決めれば早いもので、ラングは翌日を準備に充て、二日後には入るとツカサに言った。


 丁度準備を開始した日に【真夜中の梟】が戻ったので、ダンジョン内の様子を聞いておいた。


「俺らは10階層まで行ってきた」

「結構進んだね」

「初めてじゃないからね。帰還石はここでも使えるし」


 【帰還石】が違うダンジョンでも使えることに驚いていたら、ロナが笑って教えてくれた。

 【転移石】は入手したダンジョン固有のものだが、【帰還石】はその限りではないのだそうだ。良いことを聞いた。

 必要なものの買い出しにダンジョン帰りのマーシとロナがついてきてくれて、ツカサは話しながら干し肉や野菜を買っていく。


「罠が多いから地図は確認してから足を進めた方が良いぞ。歩きながら見てたら引っ掛かりそうなのもあった」

「どんな罠が多いの?」

「単純に落とし穴とか、壁から矢が飛んできたりとかだな」

「当たり所が悪いと死んじゃうから嫌な罠だよ。カダルさんが全部排除してくれたけど」


 話しながら会計をし、アイテムバッグに見立てた空間収納へしまう。


 マーシとロナ曰く、今回の10階層までの踏破は中ボス部屋を二十個攻略したという。それが多いか少ないかはわからない。

 聞いた感じでは通路に出てくる魔獣の強化版が出やすいようで、【真夜中の梟】にはどれも簡単に倒せたもののようだ。

 素材や出た宝箱からの報酬とドロップ素材で、稼ぎとしては金貨8枚程度。滞在中少しハイペースで攻略をすれば、冬宿代も簡単に取り返せる訳だ。

 冬の食料が出ることもあり、ダンジョンは良い稼ぎなのだそうだ。


「ただやっぱ思うのは、ジュマのダンジョンはおかしくなってたけど美味かったよな…。また同じ状態になってはほしくないけど、美味かったよな」


 大事なことなので二回言った。

 ツカサとロナは無言でこっくりと頷いた。


 食料と、ダイムでは後回しにした革防具を購入し、ツカサは宿に戻った。



 翌朝、早朝に軽い鍛練を行なって食事を取り、ツカサはラングと共にギルドへ向かった。

 入手した地図は昨晩読み込んだ。罠の位置もあるので進行はゆっくりにするつもりだ。目的は5階層までなので、そこまでで二週間を見込んだ。もちろん、見込みであって早く帰ることも、長くかかる可能性もエレナと宿には伝えてある。


 ギルドの中のダンジョン入り口は床下へ潜る形で開いていた。

 大きな穴の中に階段があり、そこを降りていく形だ。中から風が吹いてくるのが気味が悪い。

 前を行く人が入る前にランタンを点けていたので練習がてら照明魔法(トーチ)を唱える。ぽうっ、と光の玉が浮いたので指先に持ってくるようにする。宿で練習しただけあって我ながら動作はスムーズだ。

 このトーチという魔法は人数の少ない【異邦の旅人】では非常に有難い魔法でもあった。魔法を少し先に飛ばすだけで暗がりが晴れ、相手に気づかれることが前提だが索敵にも使えるのだ。特に対人の場合、これは良い牽制になる。逆に的にもなりやすいがそれは対処が可能だとラングは言う。

 しばらく階段を降り続けると1階層へ辿り着く。少し歩いて、予定通り道を逸れる。


 今回、地図はラングが、ブルックから預かった日誌はツカサが持っている。

 歩みは堅実に進むことを決めている。それというのもツカサが日誌通りに進んでみようと提案したからだ。

 ツカサは、ブルックたちのパーティが間引きをする中でフラグを立てたのだと考えた。この二十年近く、そのルートを同じ道を、同じ中ボス部屋を通ったパーティがあったかどうかはわからない。それでも確率は高いような気がした。

 先を歩くラングは地図を片手に罠を見分け、見つけ、ツカサに教えることも忘れなかった。


「罠がある」

「どこ?」

「探してみろ」


 実地訓練なのはいつものことだ。ツカサは照明魔法(トーチ)を利用して灯りを移動させ、増やし、壁や床を確認していく。魔法を使って確認をするのはラングから許可を得ている。これはツカサが持っている手段なので逆に利用しない手はない。


「あそこの床が色違うかな」

「良いだろう。他には」

「うーん、右手の壁、ちょっと気になる凹みあるかな」

「どのようなものだ?」

「元々壁が凸凹してるんだけど、なんとなく規則があるかなって。でもその中であの凹みは気になる」

「及第点だ」


 つまりそれがまさしく罠なのだろう。

 石壁は規則正しく、足元の石畳も整列しているが、よく見ればわかりやすい。ただ、地図を手に歩きながらでは気づきにくいだろうと思った。今は1階層なので魔獣との遭遇率も低いが、魔獣もいる中で罠を気を付けるとなるとまた難易度は上がるだろう。

 わざわざ罠を発動させる必要はないのでしっかりと避けて通る。


 罠を越えて歩き続けると、通路の向こうから嫌な羽音がした。

 高速で羽を動かす、ヴヴヴヴ、という音が暗がりから響いてくる。


「魔獣だな」

「えっと、1階層に出る飛ぶ魔獣は、アサシンホーネット」

「蜂型は私も初見だ。下がっていろ。灯りだけ周囲に頼む」

「了解」


 まずはラングが対応してみる、ということか。ツカサはトーチを増やしラングの視界を広げる。

 そもそも、黒曜石のようなシールドを着けていて暗闇でもよく見えるなと思っていたのだが、本当に謎だ。こうして灯りを求められるということは、ツカサと見え方が変わらないのだろうか。


 そんなことを考えていると敵はあっという間に来るわけで。

 大きな風船くらいの大きさの蜂が全速で突っ込んできた。通路を真っ直ぐに来たので重なっていると良く見えないが、二、三匹はいる。羽音に耳の裏がぞわりとした。生理的に苦手な音だ。


 すーはー、とラングの呼吸が聞こえたのは僅かなもので、シュッ、と音がしてラングのマントが静かにそのあとに続いた。

 針を突き出して正面や上から狙われるラングの姿までは見えた。そのあと緑色の液体と肉片が壁に飛び散るまでが見えなかった。

 二匹が潰れてもなお羽音は止まない。トーチのおかげで視界は良好だが、羽音がすごくてツカサは頭が痛くなってきた。視界が歪み始めた頃、それが魔獣のスキルか何かだと思い至った。


「ラング!」


 気を付けてと言おうとしたツカサは、はっとした声を上げた。

 トーチは日々の練習の甲斐もあり歪んではいない、置いた場所にそのまま存在している。

 ラングの姿を映し出す灯りはその影を伸ばして道化師のように躍らせていた。

 ツカサが視界を奪われた一瞬の間に、ラングは蜂の集団の中へ飛び込んでいたようだ。通路の真ん中で時々声を張り上げて、ツカサに敵視が向かないようにしながらの立ち回り。

 戦闘方法は幅が広い。双剣で蜂の針をやり過ごし、そのまま敵のスピードを利用して腹を裂く。それはジャイアントスネークでも見たやり方だ。かと思えば羽だけを斬り落として地面に落ちた蜂へ目もくれず、別の蜂を双剣で倒しながら思い切り地面の蜂を踏んで潰すなどの暴力的な力も見せる。緩急がついた動きはある意味のダンスのようにも見えた。

 羽音が全て止むと通路には静寂が戻ってくる。魔獣の灰が消え壁に飛び散った血肉が消えると、残ったのは魔石と素材だ。


「どうした」


 座り込んでいたツカサにラングが何もなかったかのように首を傾げた。


「い、今大丈夫だったの?すごいこう、なんだろう、視界が歪むっていうか」

「あぁ、精神系の攻撃が来ていたな」

「よく動けたね…」

「そういった訓練も受けていれば、造作もない事だ」


 そんな訓練を受けるなんてどういうことだよ、と聞きたいが気力が無い。

 顎で立てと言われたので立ち上がる。落ちた素材と魔石を拾いしまいこむ。

 ホーネットの針とハチミツだ。掌大の琥珀色をしたグミのような触感で、鼻を近づけると甘い良い匂いがした。ラングが瓶を取り出してツカサに持たせ、グミの表面を破いてみせた。とろりと瓶にハチミツが零れていき、外身は二人で分けて食べた。ハチミツ味のグミだ。これは嬉しいドロップ品だった。ダンジョン入りして早々におやつを済ませ、改めて地図と日誌を開きながら歩みを進めていく。

 先ほどの戦闘についての知見も尋ねておいた。


「蜂のスピードにお前がついていくのは難しいだろうな」

「魔法かな」

「次に遭遇したら使ってみろ」


 戦闘畑で育っていないツカサの辛い所はこれだ。技術を磨き、鍛錬をしたところで咄嗟の判断に体がついてこず、動けないのだ。

 故郷で見ていた漫画やゲームではレベルが上がればそれだけ身体能力も向上し、動けるようになった。スキルポイントの振り分けで能力値を上げたり、そういうことも出来た。

 ここではそれがない。ツカサが自分で戦うようになって思ったのは、金級のエルドのレベルが90なのも、理に適った数値なのだ。エルドは普段があれだが、戦闘時重い大盾を物ともせず扱い、魔獣にカウンターを打ち込んだりと歴戦の戦士の動きを見せる。

 ただレベルが上がっただけのツカサとは違い、あのレベルが実力を伴う堅実なものなのだと今ならわかる。


 数歩前を行くラングの背中が遠い。

 

 どうしたら。


 どうしたら、強くなれるのだろう。




次回更新は3/19予定です

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