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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第一章 スヴェトロニア

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55:記憶と誇り


「いやだわぁ、面倒くさい人ね」


 エレナに経緯を話したところ、一刀両断でぶった切られた。

 会話はダンジョンに行くラングとツカサだけで良いと思っていたら、エレナがローブを羽織り出掛ける準備をし始めた。

 

「エレナ、宿でゆっくりしててもいいんだよ?外、結構雪すごいし…」

「いいえ、行くわ。冒険者の信用度を調べるにしたって、なんだかやり方が嫌だもの」


 ラングも試されることは嫌いだと言っていたので、同じ感じなのかもしれない。

 

「食事するのでしょう?買っていきましょうか」

「うん」


 止めても無駄だな、と気づいたのでツカサはエレナと共に宿を出た。

 しんしんと降り積もる雪の中、人の往来は意外と多い。毎朝、毎晩の雪かきの甲斐もあり、思いの外足は沈まない。雪が踏みしめられて固いというのも理由だ。

 日が暮れるのもかなり早くなったがその分掲げられるランタンの数は増え、夜の明るさは変わらない。不思議と空が曇っている方が地上が明るい気がした。

 エレナは腕に下げたバスケットに食事を買い込んでいく。ツカサが気づいて持つのを代わり、エレナはお礼を言った。


 売り本屋へ辿り着くとブルックが出迎えてくれた。クローズの看板を下げ、鍵をかけ、火を落とす。

 そうして住居へ移動し、ツカサはバスケットを開いた。


「おお、でかしたぞ坊主」

「エレナが声をかけてくれたからです」

「不本意ですけれどね」

「お、おぉ」


 エレナの態度の固さに何かを感じ取ったらしく、ブルックはバスケットの中を漁っていた手を引っ込めた。


「来るとは思わなかったな」

「不躾な元冒険者の顔を拝みに来たのよ」

「第一印象が良くなさそうだなぁ、こりゃ」

「そう思うのならまずは言うことがあると思うわ」


 にっこり笑っているが笑っていないエレナの態度に、ブルックはぽりぽりと頬を掻いてツカサとラングを振り返った。


「面倒をかけてすまんかったな」

「本当にな」


 ラングも容赦なくぶった切っていく。

 聖典(ラノベ)的にはこういった遠回りはフラグとしてよくあるものだ。それはゲームでもそうだし、ステップを踏んでストーリーを進めるのだ。

 まぁ、現実はこうだろうなとツカサは思った。

 スマホもネットもなければ電話もない、効率を考えればあそこで試すのではなくしっかりと話すべきだった。その上で、信頼に足るかどうかを試したいと言われれば、ラングの態度も違っただろう。


「食事にしましょう、育ち盛りのツカサを空腹にさせておけないわ」


 言われ、ツカサは苦笑をしつつ頷いた。空腹なのは事実で、バスケットを受け取った後ツカサは目に付く物をあれこれと買い込んでいたのだ。

 空腹な時ほど買い物に出てはいけないの典型だ。


 ブルックの家だが勝手知ったる様子でラングとエレナは食事を広げて食卓を整えた。取り皿は自分たちの物を、ブルックも自分の物をセッティングした。

 焼き串や煮物、揚げ芋やパンを並べた食卓に着く。ラングは最後にツカサの魔力ランタンを置かせた。

 ブルックは用意されている間に暖炉に火を入れ壁にあるオイルランタンに火を入れた。部屋が明るい。寒い部屋もその内暖かくなるだろう。


「いただきます」

「いただきます」


 習慣をすっかり身につけたラングが先陣を切る。続いてツカサとエレナが手を合わせて言い、ブルックが戸惑いながら最後に呟いた。

 ツカサは早速肉串を二本、揚げ芋を三個取り、ラングが置いてくれた岩塩を芋に削りかける。

 ラングはワインを大人に分け、ボトルを置く。


「何故あんな面倒な真似を」


 ツカサが肉を頬張る横でラングが食事に手を付ける前にブルックに言う。

 ブルックは苦笑を浮かべパンを切り、手元に目をやったまま話し出した。


「本の弱み握って試したこたぁ、悪かった。誰に依頼しても笑われるだけだったんでなぁ」

「依頼って?」

「ファイアドラゴンの討伐さ」


 あぁ、と肉を食べながらツカサはギルドの様子を思い浮かべた。

 ギルドカウンターのスタッフも眉唾として笑い、冒険者も記憶にないという。その中で依頼をされたところで、あれだけの対応をされればよくも変な依頼を受けさせてくれたな、と憤る冒険者もいるだろう。芋を頬張り、ううむと唸る。芋は少しぱさついているのでハーブティーをもらった。


「あの冒険譚はお前の作なのか」

「いや、同じパーティのメンバーだった、基本は前衛のやつが書いた日記さ。それっぽい挿絵は癒し手のやつが上手く描いてな。これがパーティ日誌みたいなもんだった」


 食卓の、汚れない場所に冒険譚を置く。

 言われて見てみれば本のタイトルは記載が無く、他のページを見れば筆跡が違うところが多々ある。


「あの、気になってたんですけど。どうしてファイアドラゴンの鱗を出さなかったんですか?」


 芋を手に取っていたブルックの動きが止まる。ランタンの灯りの中、僅かに目元に影が落ちる。影のせいだろうがやけに年を取ったように見えてしまう。


「リーダーが珍しく空間収納を持ってる奴だったんだ。ファイアドラゴンを討伐して、宝を得て、じゃあ戻ろう、となってな」

 

 ブルックたちのパーティは帰還石のようなものを持っていなかった。

 間引きパーティとしてダンジョンに入っていたので、1階層から5階層、5階層から1階層への往復もする必要があった。ある程度の財産も出来たのでこの間引きを最後に引退をしよう。その道中で中ボス部屋に入り遭遇したのがファイアドラゴンだった訳だ。


 そして討伐し、小休止に日誌を書き、意気揚々と地上に戻る道すがら、リーダーが死んだ。

 浮かれていたのだろう。いつもなら無いようなミスだった。

 ファイアドラゴンとの戦闘で体が疲弊していて、それを興奮で気づけなかった。通路の魔獣の攻撃を受け流すのではなく受け止めてしまったために膝を突き、綺麗に脳天を割られて即死してしまった。


「空間収納は使用者が死ぬとどうにもできない」


 そうして、ブルックたちはギルドカードの討伐記録でしか報告が出来ず、証拠を提示出来ないまま冒険を終えた。

 無念があった。鼻で笑われても言い続けた。やがて諦めた仲間は故郷に帰り、ジェキアを離れ、ついに残るはブルックのみになった。

 冷静に考えるなら宝を分けて持って帰っても良かったのだ。もしもの時を考えて、往々にしてブルックたちもそうしていたはずだ。だが、高揚と興奮は常の心がけを忘れさせた。

 カダルがジュマのダンジョンで、ボスのあと戦闘してはならないと言ったのはそのためだ。


「空間収納に入っているんだ、とか言わなかったの?」

「そんなスキルを持っていたら誰も言わないだろう、坊主。申告していないスキルを実は、なんてのぁ、意味がない。死んじまったしな」


 それもそうだ。ツカサとラングも持っているが公開をしていない。


「結局、お前はどうしたいんだ」


 無念の話はわかった。証明をしたいのだということも。

 ラングが敢えて尋ねたのは決意を知るためだ。

 ブルックは初老の男性とは思えない程力のある眼でラングとツカサを見遣った。


「ファイアドラゴンを討伐し、あいつがこのダンジョンにいるのだと、儂らがかつて本当に奴と戦ったのだと、奴がここにいたのだと証明してほしい」

「報酬は」

「【自由の旅行者】の本と、発行された国の控え。その情報とこの日誌でどうだ」


 ブルックは、ラングの方へ日誌を寄せた。


「結果は約束は出来ない。レアポップだというからには遭遇出来ない可能性がある。一度5階層まで行き、戻ってくる、それだけだ。日誌は結果に関わらず、先にもらう」


 それでもいいのなら、ということか。


「お前はどうだ」


 声を掛けられツカサの意志を確認される。その厚意が嬉しくて頷いた。


「やるだけやってみる、くらいで良ければ賛成」


 ラングがブルックを見る。

 手を差し出し、ブルックの了承を待つ。

 しばらくしてブルックは日誌をラングの手に渡した。


「それで会えなきゃ、あれは良い最後の夢だったんだなぁ」

「そうだな」


 ラングの返した言葉が、ブルックに対して初めて温かみを持っていた気がした。





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