表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 終章 旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

566/568

4-7:過去の話は

いつもご覧いただきありがとうございます。


 ラングはロトリリィーノと会話した後、即座にアルに情報を共有した。ツカサの仲間でありラングよりも付き合いの長い男にとって気分のいい話ではなかっただろうに、途中で声を荒げることなく、まずは聞いてくれるだけの度量があったことは救いだった。


 ドルワフロへの滞在延長を推奨されていること、ロトリリィーノがユキヒョウとキスクを探す手紙を書いてくれること、鍛冶師たちからツカサの様子について指摘があること、今後、ラングはツカサを信用も信頼もしないこと。それを知っていてほしいこと。

 アルは腕を組んで唇を結び、唸った後に首を摩った。


「わかった。あの黒い命の泉で何があったかもわかってないし、ラングが疑うのも当然だろ。俺たちが知っているツカサは俺たちの前だけだし、いないところでどんな顔をしてるのかは想像しかできないしな。俺は引き続きツカサを信頼する、ラングは疑っておく、それでいこう」


 疑う、わかった、俺はツカサ、信頼する、ラング、疑う。文脈として大雑把ではあるものの、通じるだろうと高を括り、アルはラングの胸板を拳で軽く叩いた。ラングはその部分に手を当て礼を尽くし、小さく首を傾げた。


 その日からラングとアルの立ち回りは監視者と庇護者に変わった。ただし、互いに敵ではない。ラングは確信を得られればツカサに疑ったことを謝ると言ったので、アルは存分に疑えと笑った。その間はアルが全面的にツカサを信頼し、受け入れ、その心を守るという役回りだ。存外、使える男だと思った。


 そうして、数日様子を見守った後、ツカサの部屋で水のショートソードを振ったあの日、ドルワフロでの滞在延長を切り出したのだ。

 ラングはその動きに、ともに剣舞を舞った相手では無いと判じた。体が覚えているというのは、もはや反射のようなもののはずだ。それを引き出すまでに時間は掛かるのかもしれないが、違和感が強くなった。そうした直感をラングもまた信じるのだ。

 剣舞、芋の皮剥きひとつとってもそうだ、ツカサは料理に慣れていて、そうした作業も手慣れていた。だが、どちらも()()()()()のような違和感が拭えなかった。

 同時に、確実にこれはツカサでは無い、と斬り捨てるだけの覚悟には繋がらなかった。空間収納なるものから取り出された道具は確かにツカサの持ち物であったし、ラングが借りて利用していたものと同じだった。背中を冷たいものが流れ、態度が固くなってしまったことは反省点だった。


 ロトリリィーノは手早くショウリに連絡を取る手筈を整えた。トロッコを動かすのにドルワフロの鍛冶師が乗れば、レバーは簡単に動く。こちら側についた際に修理と手入れも行ったので、前回よりも軽いだろうと男たちは笑っていた。

 この手紙の連絡にラングがついて行くと言ったことに、ツカサは必死に止めてきた。


『どうして!? ラングがいかなくてもいいじゃん! ポーツィリフが行くって言うなら、それに任せればいいじゃん!』

『私が直接赴いて確認したいこともある』

『だったら俺も行くよ!』

『もう少しの間、養生していろ。神殿に忍び込むわけではない』


 不安そうなツカサの顔に、ラングはその肩を叩いた。


『首都・レワーシェに入るのではなく、その周辺を探ってきたいんだ。前回は馬に乗って即座に入ってしまったからな』

『あぁ、なるほど』


 確かに周り見られてないもんね、とツカサは脱力し、それなら、とラングを送り出す姿勢をみせた。


『気をつけてね。日持ちするご飯は選んだから、ちゃんと食べてね』

『あぁ、鍛錬を怠るなよ』

『わかってるよ』


 ひらりとトロッコに乗り込み、ともに乗り合わせているポーツィリフの二の腕をラングが叩く。よいしょォ、と大きな掛け声を出して鍛冶師が二人レバーを押して、引いて、滑りだしていく。

 ラングは暗闇に消える直前、アルの目を見て頷きを確認した。


 ラングは先頭に立ってランタンを掲げる役を務めた。さすがドルワフロの鍛冶師、上り坂だがそれなりに速度が出ていて進みが早い。預かっている食料を開いて一晩眠れば、明日は下るだけで済みそうだ。

 レバーを動かしていても喋る余裕のあるポーツィリフと鍛冶師は、ラングに様々な話を聞かせた。


「旦那ァ! クィースク様ァ、大丈夫ですかねェ!?」

「それを確かめに行く」

「頼みましたぜェ、あっしらァ、クィースク様にァ期待してるんで」


 ほぅ、と続きを問うように声を出せば、レバーを引く二人で盛り上がり始めた。

 キスクは幼い頃から鍛冶場で遊ぶのが好きで、炎を怖がらず、板に絵を描き、装飾品や道具の設計をそこに示し、鍛冶師を驚かせてきたらしい。


「この子がァ金づちを持つ日にゃァ、とんでもねェもんができるんじゃねェかって」

「あァ、みィんな言ってたァ。金細工を任せりゃァ右に出るモンはいねェだろうってなァ」

「でもォ、クィースク様ァ筋肉がなァ、つかなくてよォ」

「金細工ならァ力がすべてじゃァねェ。問題はァ鍛冶場の事故の方だったァ。悔しかったよなァ、あれがなけりゃァ、一端の細工師だったぜェ。あれからァクィースク様ァ、設計にだけェ手を出すようになってなァ」


 才能ある者が才能を生かせるだけの肉体を持っているか、精神を持っているかは別の話なのだ。しかし、キスクの描くものを形にしてくれる鍛冶師が多くいたことは、ある意味ひとつの幸運であり、創造の輪だ。


「キスク、描く。お前たち作る、何が悪い?」

「金ってのァ、伸ばす速度とかァどこまで熱するかでェ、腕によって細工に差ァ出るんで」


 ポーツィリフはぎっこんばったん、レバーを押しながら答え、一瞬トロッコが上にぐんと上がった後、体が落ちるような感覚を与えながら自らの重さで走り出した。ここからは長い下りだ。皆でトロッコの中で座り込み、休憩をとった。ラングはツカサから預かった生ハムのサンドイッチを二人にも分け、水とサンドイッチで食事を始めれば、ポーツィリフが切り出した。


「鉱石はどれもそうなんですがァ、癖があるんで。金ってのァ案外柔らかくて、繊細なんでさァ」


 そのため、扱う指は器用な方がよく、細かな意匠を形にする時、指先の細さは貴重な武器になる。太い指でも扱える者も過去にはいたが、そういった鍛冶師はほんの一握りだという。キスクはその点、体は小さいが手先の器用さと細かな意匠を描き上げる才能があった。昔からちょっとしたものを鍛冶場作っていたこともあり、その器用さも知られていた。

 だから、皆が期待をしていた。鍛冶場で事故があり、ロトリリィーノに庇われて難を逃れ、炎に怯えるようになるまでは。


「鍛冶場、事故、何があった?」

「あれァ人災だったんで」


 ポーツィリフが悔しそうに当時を語りだした。まだドルワフロに活気があって、あちこちから注文が入り、皆が慌ただしくも楽しく、鉄を叩いていた頃。資材も足りない、火も足りない。鉄を叩くための台である金敷も足りず、奪い合うような状態だった。

 忙しさと充実感と思いやりは同居しない。各々が抱えた作業が多くなれば、他者を気遣う気持ちはすり減っていき、やがて自分のことしか考えられなくなる。金敷を使おうと取り合っての喧嘩は日常茶飯事になり、誰が鉄を採りに行くのかで揉め、火が欲しい鍛冶師が風の通り道を奪い合うようになった。

 そして事故は起きた。風の通り道を変えるレバーは責任者に任されていた。責任者へ詰めかける鍛冶師、ひとつ要望を通せば通らなかった者が憤る。片方を立てれば片方がさらに怒号を上げる。全体の作業状況を把握しながら、今日はあちら、明日はこちらと調整を行う者の責任たるや、ラングは口元をへの字に結び、その苦労に瞑目した。


「そいであの日ィ、ついに殴り合いが始まっちまってェ」

「あれァ長老方が酷かったなァ」


 若造よりも責任ある仕事を割り振られている、さっさとせんか、という一声に血の気の多い若造連中が叫び返した。

 おい、じい様、あんたァ知らねェだろうがァ、俺らに依頼されてる分はァあんたらにゃァ作れねェモンばっかりだァ! 技術も設計も古いんだァ! もうあんたらの時代じゃァねェ!

 先達として道を作ってきた者たちの逆鱗に触れる言葉だった。けれど、若いからといって技術を磨くことを疎かにはしていなかったからこそ、若者もまた誇りがあった。それはどちらも後回しにされてはならないものだった。


 結果、殴り合いになった。鍛冶場など火もあれば溶けた鉄もある。今考えれば正気の沙汰ではないが、疲れ、そんな当たり前のことを頭のどこかが考えることもできなくなっていた。誰かがレバーを押したのだと思う。そうして鍛冶場は燃え滾った炎により、一瞬焼けた。レバーの管理者はレバーの近くから出ていた炎に身を焼かれながらもレバーを戻し、鍛冶場を守り、そのまま死んだ。

 鍛冶師たちに石炭と木炭を届けに来たキスクとロトリリィーノが運悪く巻き込まれた、ということだった。


「依頼受ける、誰が管理」

「あの時ァ、裏方に回った奴だったなァ」

「金づちで指を叩いてェ、潰しちまってェ、鍛冶師をやめて商人になってなァ」

「あいつがァ依頼をたくさん持ってきてくれてェ、賑わったんだなァ」


 ドルワフロの訛りに苦戦しながら聞けば、元鍛冶師が商人に転向し、ドルワフロの鍛冶技術を市井に広める形で流行らせてくれた。その時に持って帰ってきた発注を、自身が鍛冶場に居た時の感覚で割り振り、行商へ戻るのを繰り返していたらしい。

 ロトリリィーノが割り振りを引き受けると何度か口を出していたらしいが、ロトリリィーノは鍛冶ができないため、鍛冶師は皆、商人に割り振りを頼んでしまった。


「ロトリリィーノなら、追い詰めなかった」


 ラングの一言にきょとんとした顔をして、それからポーツィリフは肩を落とした。


「そうだァ、あの時ロトリリィーノ様に頼んでいりゃァ、上手く回ってたかもしれねェ」


 それは、キスクに火の恐怖を与えなかった可能性に気づかせた。


「惜しいなァ、潰したのァ俺たちかァ」


 もはや誰が悪いと言ったところで取り返しのつかないことでもある。レバーの管理者が死ぬという大事故だ、教訓は痛みだけではなく大きな代償を支払い、ドルワフロに刻まれただろう。


「元鍛冶師、誰だ? 今もドルワフロいる?」

「いねェ、あいつァ俺たちが山ァ出る前に出たんでさァ。金細工に宝石細工をたくさん持ってェ、食料を手に入れてくるはずだったァ」

「名は?」

「コーポルヒィオってェ男で」


 ラングは名を聞き、脳裏に雑貨屋・イーグリスでキスクに冷たく睨まれていた男を思い出した。キスクの怒りが周囲を燃えるように一瞬熱く感じさせ、ツカサが即座に収めたあの廊下での一幕。ロトリリィーノによく懐いていたというキスクのことだ、物事に対してもよく考えてもいる。おそらく、ロトリリィーノから状況は聞いていて、その上で手伝いの申し出をし、自他共に怪我をする事態に遭遇したのだろう。


「問題ない」

「え、っとォ、何がでェ……?」


 マントの中で腕を組み、シールドを下げ、休む体制になったラングにポーツィリフと鍛冶師は首を傾げながらも同じように休み始めた。


 トルクィーロのように一本気な気質も持っているキスクは、似た者同士のロトリリィーノから繊細な政治を学び、今まで二人で分けていたことを兼ね合わせ、唯一無二となるだろう。

 きっと、ドルワフロの歴史上にはいなかった新しい頭になるはずだ。それを少し見てみたいと思うのは。ふるり、ラングは小さく身じろぐように考えを振り払った。


 この調査ではキスクとユキヒョウを見つけることが目的だ。行方をくらませた理由も、ツカサがどういう状況であるのかも、いろいろと聞かせてやらなければならない。

 お前の覚悟も問わせてもらおう。




1巻書影

挿絵(By みてみん)


2巻書影

挿絵(By みてみん)


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
進撃ですね、ラングのダンナ! モー思う存分やっちゃってください。そしてユキヒョウちゃんはまだ子猫サイズなのか?!気になります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ