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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-47:喜びも束の間

いつもご覧いただきありがとうございます。


 土を空間収納にしまい、ヴァーレクスの通った後、背後にどさどさ落としながらツカサは絆の腕輪を目指して進んだ。これは追撃を土そのもので防ぐためであって、嫌がらせではない。


 シュンからの情報収集はある程度済んだ気がした。ツカサはまず自身の中にいるという欠片をどうにかしなくてはならなかった。理の女神とマール・ネルが頑張ってくれたとしても、どこか隙をついて体を奪われでもしたら何もかもが不味い。【変換】を利用して【神】にだってなることを厭わない奴が何をするかと考えただけでゾッとした。


「させない、させてたまるか」


 道標を握り締めるようにして土の中を進み続け、ツカサは突然ぼこりと道が開いて足を止めた。通路に出たらしい。


「なに、ここ」


 血生臭い通路だった。人為的に掘られた横穴なのは地下牢などもあったのでわかる。だが、この血だまりのような臭いはなんだろうか。トーチの明かりで通路を照らせば、足元が真っ黒になっていた。壁や天井と色の違うそれが臭いの原因らしい。恐る恐る【鑑定眼】で覗き込んだ。それは【血の跡】と出ていて、ここを死体が運ばれたのだとわかった。


「……そういえば、首都・レワーシェってあんまり死臭がしなかった。享楽の都市って、イメージだと、貧富の差が激しくて、それこそスラムみたいなのありそうだけど、俺が行動した範囲じゃ見えなかった。そうだ、死体を見てないんだ、黒い命も」

「地下闘技場での死体は運ばれ、奴らの言葉で『穴』に運ばれているようだった」

「穴……」


 ツカサはトーチで地面を改めて照らし、残っている靴先の向きを確認した。その先を向く。異臭漂う、むわぁっとした人の体温のようなものが流れてきて、うっ、と息が詰まった。絆の腕輪もそちらを指している。向こうは向こうでこの位置を辿り、進んでいるだろう。


「行ってみていい?」


 一応、同行者であるヴァーレクスを振り返れば、顎で先を示された。

 道中、少し文句を言った。


「【ラング】との決闘で死んだヴァーレクスで間違いないんだよね?」

「そうだ」

「なんで生きてたの?」

「パニッシャーに聞け」


 聞けるのならば聞いている。その兄は帰郷してしまったため、聞きたくとも次の手紙を待つしかないのだ。いや、今ならアルに手紙を持たせれば、戻った時に合わせて返してもらえるかもしれない。とはいえそのためにはまず現状をどうにかしなくてはならない。


「すぐに聞けないんだよ。ヴァーレクスはなんでここに? ここ、リガーヴァル……元の世界じゃないよ?」

「言葉が違うのだ、なんとなくはわかっている」

「で、なんでここに?」


 ヴァーレクスは髭面の下で舌打ちをしたらしかった。口元の苛立ちが見えずいつもの威厳も半減しているように思えた。髭がある方が立派な印象があったのでこれは意外だった。髭が似合う、似合わないがあるのだろう。

 ヴァーレクスは面倒くさがりながらもこういう時はきちんと話してくれる。それはあの鍛錬の時を彷彿とさせ、ツカサは少しだけ懐かしさに笑みを浮かべていた。


 ――ざっくりと聞いた。そもそも、ヴァーレクスが生存していたことは奇跡にも等しい確率だったらしい。

 そして軍人、おそらくヴァンの配慮で生き直すための土台が揃っており、ツカサが学園でバタバタしている間、イーグリスで悠々自適に療養していたらしい。


「なんで家に来なかったんだよ、家がどこかは知ってたんじゃないの?」

「何度か行った。だが、小僧が居なかったのだ」


 学園での魔獣騒動とその後の事態収拾に奔走している時に来ていたのだろう。となると、待てよ。ツカサは一度足を止めた。


「もしかして、モニカとかエレナとか、アーシェティアはヴァーレクスのこと、知ってた?」

「当然だ。小娘にはコーヒーを馳走になっていた」

「なんっでだから俺に会わないわけ!? いっそ学園まで来てくれてもよくない!?」

「居ない時を狙ったわけではない。それに、魔導士の女が口止めしていたのだ」


 どういうことかと眉を顰めれば、どうやら学園で教師として必死なツカサに、変な甘えが生まれるから一年は秘密にしておいてほしいと言われたそうだ。確かに、あの時ヴァーレクスがいると知れば、とツカサは自身の行動を思い返し、がっくりと肩を落とした。エレナにはツカサがどうなるか、よくわかっていて、モニカもアーシェティアもそれを否定しなかったのだろう。赤面する思いだった。


 ヴァーレクスは体の鈍りを解消するために時折アーシェティアを相手取ったり、ダンジョンにふらりと赴いたりと思うままに生活していたらしく、ある日戻ったらイーグリスの街が騒がしくて首を傾げたという。


「水路に魔獣が出ていると聞いた」

「あぁ、地下水道にダンジョンの魔獣がいて、街中も危ないって話で。もしかして、うちの生徒が言ってた街中で魔獣を討ち取った冒険者って」


 ふん、と尊大な息が聞こえた。ツカサは眉間を揉んでから再び歩き始めた。


「ヴァーレクスが元気そうでよかったよ! でも、その武器、俺に渡されたタルワールそれそのものだよね。いつ回収したの?」

「小僧が消える寸前だ」


 ヴァーレクスは淡々と話すことも多く、どのタイミングかがわかりかね、ツカサは詳しく尋ねた。

 どうやら、水路の一件もあり、取り急ぎ揃えた武器ではなく、やはり元のタルワールが欲しいと思い、ツカサの家を何度か尋ねていたらしい。しかし、魔獣騒動からあと、ツカサはダンジョン研修もあってなかなかタイミングが合わなかった。勝手に持ち出さなかったのは褒めてやりたいが、先ほどの件と相殺で黙っておいた。


 ある日、ついにタイミングが合った。ルフレンとともに駆け込んで戻ってきたツカサが脇目も振らずに自宅に駆け込んでいったのを確認して、ヴァーレクスはそのあとを追って家に入り、書斎の扉を開こうとした。

 だが、鍵が掛かっていた。中から歪な空気を感じたのでモニカやエレナに一応の声掛けをして扉を蹴り開けた。先ほど入ったはずのツカサがどこにもおらず、異様な空気にヴァーレクスは入ってすぐに飾ってあった自分のタルワールを回収し、そして書斎を出た。


 おかしなことが起きていた。元々見ていた生活が歪むように消えていく。横を見ればいるはずの女たちが揺らめきに合わせて消えていき、自分だけが取り残された。人の気配のない静寂に包まれた場所。家の中の家具や配置は何も変わっていないのに、人だけが消えた世界。ゆっくりと家から出た。そこにも人の気配はなかった。


「そこへ、顔に紋様のある男が来たのだ」

「それってこういう紋様? 髪の色は水色で、目が藍色の」

「そうだ」


 ツカサはここにきて消えることのない左頬の紋様を指差してみせ、確認をした。セルクスが来たのだ。ツカサは胸元を押さえながら続きを聞いた。


 ヴァーレクスはかつて自分が一度剣を振り、生きた相手のことは忘れない。タルワールも手に戻ったことだと構えたところ、男は盛大な溜息をついてそんなことをしている場合かと怒ったらしい。ツカサでも同じことを言うだろう。ツカサは白い目で髭面の師匠を見上げ、一度だけちらりとツカサを見た後、ヴァーレクスは前を向き続けた。


「連れて行かれた先が、パニッシャーの下だった」


 彼を救え、守れ、と言いつけてセルクスは再び消えた。何やら追われているようだったとヴァーレクスが言ったので、セルクスが怪我を負ったのは何かと戦ったからではなく、逃れるためだった可能性が出てきた。それはまた本人に聞こうと決め、続きを待った。


 ヴァーレクスはあれと示されたものに歓喜と憤怒を抱いたらしい。黒いローブの青年に、パニッシャーが膝をつかされていたという。許せなかった。自分を殺した相手、勝利者のそんな情けない姿を見せるなと怒りに燃えた。ヴァーレクスはパニッシャーの首を折ろうとする黒いものを斬り払うついで、黒いローブの青年も深く斬り裂いた。

 斬られながらも黒いローブの青年はヴァーレクスを見ることはなく、息を整えるパニッシャーを睨みつけ、その体が黒い波となった。ヴァーレクスもそれに巻き込まれ、気づいたらどこかの街の路地裏で倒れていたらしい。


「それが、ここ、レワーシェなる場所だった」


 ヴァーレクスは身につけているもの、タルワールと腰のポーチがあることを確認し、まずこの街を散策したらしい。金を持っていなかったがあれこれと押し付けられ、空腹は満たされた。

 おかしな街で、この街には危機感というものがどこにも存在しなかった。違和感と不快感、ヴァーレクスはこの街を早々に出ようとしたそうだ。しかし、今、ここにいる。


「街を出なかったの?」

「広場で人を集めているのを見つけたのだ」

「人を集める?」

「闘技場、剣闘士をな」


 あぁ、とツカサは地上の方の闘技場を思い浮かべた。ヴァーレクスは最初、強者と戦えれば幸運、そうでなくとも剣闘士としてタルワールを振るい、日銭を稼ぎ、ある程度貯まったら出る予定だったらしい。

 そんなある日、声を掛けてくる者があった。この世界の理解できない言語ではなく、リガーヴァルの言葉だった。


「ショウリという男だった」


 ツカサはごくりと喉を鳴らし、続きを待った。人相を確認すれば、どうやらポソミタキの顔で会ったようだ。

 ショウリはヴァーレクスに対し「船で見たことがある」と言い、協力を申し出てきたという。船という単語に眉を顰めたものの、ヴァーレクスの望みは自身と同じようにここへ来ているはずのパニッシャーを探すこと。路銀ができれば勝手に探す旅に出ると断ったヴァーレクスに、ショウリは待てと呼び止めた。


「そう簡単に死ぬような奴じゃねぇだろ、だったら、敵の本拠地に居た方が会える確立高いんじゃねぇの? あんたが言ってる男と、俺の考えてる男が同じなら、来そうな気がするんだよな」


 あちこち探し回るよりも、本人が向こうから来るのを待つ方が会える確立が高い。いざとなれば連れ出すことは容易なのだ、敵陣に潜り込んではどうだろうか、という提案だった。人気の剣闘士であれば地下牢ではなく部屋も与えられる。寝食にも、金にも困らない。ただし、髭を剃るな、髪を切るなと指定され、ヴァーレクスはそれを呑んだという。

 おそらく、それはヴァーレクスの人相を隠すための施策だったのだ。それでこの髭面か、とツカサは頷いた。


「ショウリはマナリテル教で行動してた時のことは覚えてたんだ。護衛とか言ってたもんね。教えてくれればよかったのに……」


 いや、ヴァーレクスが本当にこちらの味方か確証がなかったからだろう。ヴァーレクスから鍛錬を受けたことだってイーグリステリアとの戦いが終わった後のことだ。ツカサは一度もヴァーレクスの名を呼ばず、思い出話にも名を連ねなかった。そこで出していたのならば、そういえば、とショウリは教えてくれただろう。そういう生存の知り方も嫌ではあるが、言っても仕方のないことだ。


「結果として小僧とは合流ができた。つまり、パニッシャーとも合流ができる」


 うふふ、と相変わらず気味の悪い笑みを浮かべたヴァーレクスに白い目を向けてから、ふと思い出して注意した。


「あのさ、ヴァーレクス。今のラングはまだパニッシャーじゃないんだよ」

「先ほども言っていたがどういうことだ」

「今のラングは二十二歳なんだ」


 次はヴァーレクスが足を止めた。伸び放題の前髪の奥から訝しげに見られていることはわかり、ツカサは肩を竦めた。


「どうやったのかわからないけど、シュンがまだ若いラングのところに襲撃して、ヴァーレクスに斬られて、そのまま二人をこの世界に。ラングはパニッシャーになるための試験代わりの依頼をこなしてる最中だったって言ってた」

「……では、あの膝をつかされていたパニッシャーはパニッシャーではないと」

「まだね」


 すぅ、とヴァーレクスが息を吸い、深く吐いた。


「……そうか」


 その光景に屈辱を覚えていた男がどうにか溜飲を下げたらしい。会ったら戦いを申し込んだりするのかもしれない、その時は止めよう、とツカサは苦笑を浮かべ、二人、再び歩き出した。

 くたびれてしまった服を変えたいことや、散髪したいことなどをヴァーレクスから聞きながら、ツカサは足取りが軽くなったように思っていた。ヴァーレクスの戦力はよく知っているし、失礼なところもあるがなんだかんだ律儀なところも知っているので、この戦力増強は今後、確実に役に立つ。

 早く合流したい。絆の腕輪の感覚を調べながら、ついに通路は終わりを迎えた。


 そこに広がったものはいったい何だったのか。

 ツカサだけではなく、ヴァーレクスもまた言葉を失っていた。

 大きな穴が開いていて、その中に黒いタールのようなものがたぷり、たぷりと波打っていた。揺れる度に呻き声が聞こえた。ぴちょりと跳ねる揺れの一部が救いを求める誰かの腕のようにも見えた。いくつもの道、横穴がここに辿り着けるようにできていて、違う穴から誰かが来る気配がした。トーチを消して今出てきた場所に身を潜めた。

 男たちが勢いをつけて人の体を放り投げ、逃げるように立ち去って行った。思ったよりも派手な音は立てず、とぷりと落ちた体が浮かび上がることはない。けれど、一度だけ声がした。


 ――死にたくない……!


 ツカサはそれが、(いざな)う際の落ちていく欠片だと気づいた。ここは黒い命を溜めている場所なのだ。


「なんでこんな……!」

「理由があるからだってわかるだろ?」


 声に顔を上げれば、黒い命の揺蕩う穴の上にシュンが浮いていた。

 


いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


はらわたへようこそ。


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)


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