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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-35:暗号から信頼を

いつもご覧いただきありがとうございます。


 すぅっと目を覚ました。懐中時計をパチリと開き時間を確認、体の横にあった大熊の頭に少々驚いたもののベッドから木窓をそっと開いて外の明かりを確認した。白さを含んだ青い空、日中だ。


『もう起きてよいのか。ヒトは来なかったぞ』

『ありがとう。大丈夫だ』


 ギシリと音を立ててベッドを下り、ラングは大鷹の翼を布団にぬくぬくと眠っているアルの頬をベシリと叩いた。一度で起きなかったので二度、三度目の前に身じろぎがあった。


『やめろ、それ。おはよう』

『おはよう』


 ラングはくすんだ緑のマントをはたいて埃を落とし、ぐうっと腕を伸ばして体を解した。アルは大欠伸をしながら目を擦り、蛇が入ったせいでくしゃくしゃになっている服を少し整えた。それでも蛇が中にいるので多少膨らんでみえる。大鷹は再び鷹のサイズになってアルの肩に乗った。


『時間』

『昼過ぎだ。六時間ほど眠っていた』

『わかった』


 さて、まずはショウリのところへ顔を出そう。この墓地から出る手段はどうにかしよう。


『ワシはこのままここにいよう。何かあれば大地を割ってでも合流しようとも』

『無茶はするな。土地神、神獣は狙われているのだからな』

『あぁ、気をつけよう』


 大熊を残し墓守の小屋を出た。相変わらず人の気配はない。一先ず、道なりに門を目指して慎重に歩いていった。死者を弔う心や、過去を愛する者はもはやいないのだろう。

 何ということか、誰に出会うこともなく街に繋がる門へ辿り着いてしまった。アルは槍を振るい錠と鎖を斬り落とし、二人、呆気なく墓地を後にした。


「神殿側ならまだ誰かいんのかな」


 アルの呟きにホムロルルが位置を直すだけで答えた。墓地の周辺の家々は誰も住んでいなかった。享楽の都市に死を連想させる場所は忌避されているらしい。


『利用できるかもしれないな』


 家々は石造り、人が住まなくなって五年ほどか、多少の傷みは見て取れるが墓守の家以上にまだ住めそうだった。ラングはするりと一軒の家に入り、状態を確かめた。アルは周囲を窺ってから中に入りランタンを点ける。それだけ暗かった。


「埃っぽいな、でも、日中でこれだけ暗いってことは、しっかりしてんだな」

『……外に逃れられなかった場合と、外が危険な場合はここを隠れ家にしよう。ここに隠れる』

『隠れる、ここ? 家? わかった。上、見る」


 槍の通訳はなかったらしい。アルはいくつかの単語を拾って意図を察し、二階を確かめに行った。ラングもランタンを手に一階を調べた。竈で料理をしながら明かりと温もりを得ていたのだろう。台所と暖炉が隣り合っており、とても小さくまとまっていた。水釜は蜘蛛が白い居城を築いており、加えて埃まみれ、テーブルと椅子のあるダイニングから隣の部屋へ行けば、持ち運べなかったソファが残されていて物悲しい。暖炉を使えば煙でばれてしまうが、横になり体を休めることだけは問題なさそうだ。二階はどうだろうかと考えていればバタバタとアルが駆け下りてきた。


『騒ぐな、うるさい』

『ツカサ! 手紙!』


 アルが手にした紙切れにラングは駆け寄った。ランタンを二つ掲げて覗き込みいっそ眩しくて字が読めず、ラングがランタンを下げた。手紙のやり取りができるなど半信半疑だった。だが、そこにあったのは確かにツカサの文字だった。わざわざアルの故郷の文字と、ラングの故郷の文字で二通書いてくれている配慮もまたツカサだ。それぞれに宛てられたものを読む時間を作った。


 ―― ラング

 無事でよかった。

 こっちは無事とはいえないけど、殺されはしなさそう。

 地下牢の奥、拡張された方に放り込まれてる。

 ごめん、魔力総量の差で魔封じが効いちゃって魔法が使えない。

 魔法障壁も剥がれちゃってる、怪我はない?

 細かいことを書けない。大事なことは直接会った時に叫ぶよ。

 助けに来ないで。

 ―― ツカサ


 顔を見合わせた。内容に矛盾が散りばめられている。まず自身の無事が書かれており、人知れず胸を撫で下ろした。どこにいるかも書かれている。だが、そのあとに続いている言葉はなんだ。細かいことを書けない、ということは詳細を誰かが知ることを懸念しているのだろう。大事なことは直接会った時に叫ぶと書かれているのに、助けに来るなと書かれている。

 ラングは隣で手紙を読んでいる男を見遣った。そちらからも視線が来ており、どうやら同じ状況であることを理解した。ちらり。思わず槍を見てしまった。文字は読めるのだろうか。


『オレ様が読んでやってもいいぜ?』


 存在を忘れていた。そういえばこいつも多言語に対応していたかとラングが腕を組めば、鷹はピェー! と苛立たし気に鳴いた。はいはい、とアルはその翼を撫でて宥め、二通の手紙をテーブルに並べた。ホムロルルはどちらもそれぞれの言語で読み上げた。


 ―― アル

 手紙送れるんだ。

 いいアイデア助かるよ、これで情報がやり取りできる。

 地下牢の奥、拡張された方に放り込まれてる。

 ごめん、魔力総量の差で魔封じが効いちゃって魔法が使えない。

 このままだとちょっときつい、どうしよう?

 細かいことを書けない。見られてるから漠然としててごめん。

 同じことを書く。

 ―― ツカサ


 同じようでまったく違う内容だった。ラングは手紙を二枚並べ、それぞれに指を滑らせた。


『文字数に気をつけている。綴りが同じ長さになるようにしている気がする』

「本当だ、長さがほぼ同じ。ってことは、どちらかが偽物。たぶん俺の方だろうな、ツカサがこんな状況で、どうしよう? なんて悠長なこと書くわけがない」


 しかし恐らく、見られている、というのは本当なのだ。だからこそ綴りの長さや文字数に気をつけた。あまりに差異があると書いている内容が違うと即座にバレるからだろう。牢の中、空間収納を通してやり取りができる手紙など、見張ったところでツカサならばどうとでも書ける。だというのにこうして警戒したということはそれなりの理由があるはずだ。

 ラングは腕を組み家の中を八の字に歩き回り考え込み、やがて止まってジッと動かなくなった。


「おい、大丈夫かよアレ」

「心配すんな、ラングなりの思案方法だ」


 ひそひそと話す声を遠く、思案に耽る。ふと思いついたことがあった。素早く手紙を片付け、ラングはアルへ言った。


『ショウリに会いに行く』

「会う? ショウリ? 移動だな、わかった」


 行動が決まれば迷うことはない。隠れ家として決めた家を出て、足早に賑やかな街の中へと戻っていった。

 特に指名手配などもされてはおらず、ラングのシールドやアルの槍など気に留める者はいない。皆、今日この日、今の愉しみが大事で他人に構ってなどいられないのだ。享楽へ誘いを掛ける声だけが纏わりつき、振り払って足を進めた。

 目指したのは宿だった。商会ではなくこちらなのは、既に本拠地が【雑貨屋・イーグリス】ではないと判じているからだ。予想通りショウリはこちらにいた。通された会議室で再会したポソミタキの顔の男は、無事を喜んだ後、厳しい表情を浮かべて詰め寄ってきた。


「ツカサが捕まったってルシリュから聞いたぞ、どうなってんだ」

「見てほしい、ものがある」

「答えろよ!」

「必要!」


 ラングは叫び返し二通の手紙を差し出した。ショウリは悪態を吐きながらそれを受け取り中身を読んだ。


「ツカサの手紙? 魔道具があったのかよ! ……随分悠長なこと書いてるな?」

「私宛ての手紙、読めるする?」

「いや、こっちの手紙は文字がわからねぇな。あんたの故郷のか?」


 確信を得た。問答無用で槍を握り、アルが口を開く前にラングは言った。


()()()()()は私の故郷の文字は読めないんだ』

『説明』

『ツカサから聞いた、ショウリはこの世界に来て文字をポソミタキから習ったらしい。シュンが元々お前の故郷にいたのならば、お前の故郷の文字は知っているはずだ。だが、私を殺しに来たシュンは、私の世界で文字を、言語を学んではいないのだろう。何かを言われたが、私は言葉がわからず、向こうもわからない様子だった。だからツカサは二通書いた』


 アルは少しの間視線を泳がせ、オルファネウルからの要約を受けて目を見開いた。


「だとしても、だったらなんで助けに来るな、なんて書くんだ?」

『何故、わざわざ見られていると書いたか、だ。地下牢の奥、拡張された方、場所は明確だ。だが、汚い地下牢につきっきりで【神子】がついているわけがない』

「そりゃ、まぁ、そうだろうな……?」

『見るんだ。可能性だが、ないわけではない。今までだって目にしてきた』


 待て待て、とアルがラングの肩を掴んだ。


「わかるように話してくれ」

『情報を漏らしたのはツカサ自身だ』


 言葉を失うアルと、もはや置いていかれているショウリが困惑の表情を浮かべていた。ラングは黒いシールドの奥からアルを見据え、静かな声で言った。


『命を抱えてきた中で、もし、その中にシュンの欠片があったのならば、ツカサ自身を通して、見ていただろう。聞いていただろう』


 孫の体を奪う祖母。温もりを求めて彷徨う黒い魂。そして。ラングの視線はショウリを見た。


『他者の皮を被れる命だ。皮を被らずにその身に潜み続けることすらできるだろう。西を目指すことも、ツカサ自身が話し、私とともに決めた。この世界の言語で、キスクにも話している』

「待て、だとしたらなんで地下の調査に相違が……、あぁ! そうか! マール・ネル!」


 アルは自分の背中の槍を見ようとしてぐるりと回り、まるで尻尾を追いかける犬のようなことをした。元の位置に戻り、槍を下ろして手に握り、アルは叫んだ。


「地下の調査に乗り出すって話の時から、俺、オルファネウルに通訳を頼んで、だからマール・ネルがその場にいる必要があった! それでツカサの膝に置かせてた。マール・ネル、たぶん知らない間にツカサの中にあるシュンの欠片を()()()()()()! 気づいてたら言ってくれてるはずだろ、無意識だったんだ、きっと」


 確かに、そうかもしれない、とこれにはオルファネウルも驚きの声を上げていた。ラングは通訳をまま受けたが理解できず、オルファネウルから妹武器であるマール・ネルは【封じる】ことができるのだと補足を受けた。【封じる】がよくわからなかったが、ショウリのように、繋がりを切るものだと理解した。


「そうか、だからシュンは【8】の守護騎士(パラディン)の情報を鵜吞みにするしかなかったんだ。日程ずれに腹を立ててたのも、今まで見えてたものが見えなくなったからか。危なかった、ルシリュとの会話もマール・ネルがいなければ不味かったな」


 ショウリは会話を諦めて紅茶を淹れていた。アルは改めて槍をラングに握らせてから、首を傾げた。


「でも、ならなんで助けに来るなって書いたんだろうな」

『ショウリがやったことと同じだ。ショウリに読めるかどうかを確かめさせたかった。もし、私の故郷の文字が読めているのだとしたら、いつ来るかわからないように、ツカサが孤独を選んだと思わせるように。……ガキの癖に頭が回る』

「いや、お前も大概クソガキだろ」


 オルファネウルが通訳を入れなかったが、アルが呟いた言葉は失礼な言葉だったように感じ、双剣の柄を肘で押して太ももを思いきり叩いた。ぴょん、と元気良く跳ねたアルの姿にショウリは呆れを浮かべながら少々乱暴にティーカップを置いた。


「相談は終わりか? それで、共有はしてくれんだろうな?」

「ルシリュ、グルディオ、イーグリス、危ない。ドルワフロも、危ない。キスク、どこだ」


 ラングがショウリに詰め寄り、ツカサの手紙を握り締めた。


「私、ツカサ、話した。つえ……マール・ネル、持たないで、グルディオ話した」

「おい、ちょっとこれどうにか」

「危険だ」

「ラング、待て、オルファネウルに通訳頼むから。ホムロルルはショウリに通訳してくれ」


 おう、とホムロルルはラングの言葉をショウリへ、オルファネウルはアルへ通訳を行った。


 ラングはドルワフロへの交易都市で守護騎士(パラディン)・グルディオと話したことを伝えた。その時、ツカサはマール・ネルを手にしていなかった。ツカサがそこにいるだけで【見聞きできる奴】がいたのならば、守護騎士(パラディン)・ルシリュやグルディオが【神子排斥派】として動いていることがバレている。だとしたら不味いのではないか。

 それに、ドルワフロも危険だ。首都・レワーシェからトロッコの道があり、それが今も健在であることはツカサが知らしめてしまっただろう。キスクはどこにいるのか気になった。


『優先順位がツカサだっただけだ。助けに来ないでは、とにかく逃がせということかもしれない』


 ラングの言葉にアルは一瞬瞑目し、ショウリを見た。そちらでは慌てた様子もなくショウリがラングを眺めていた。その様子にアルは訝しみ、尋ねた。


「おい、随分落ち着いてるけど、不味いんじゃないのか?」

「まぁ、そもそも【イーグリス】って名前を使ってる時点でお察しだっつー話だ。あんた、店の中を調べたなら、あの場所がよく燃えるって気づいたんじゃねぇの?」


 ラングへ肩を竦め、ショウリはティーカップを促した。ラングとアルはそれを手に取り、ショウリの言葉を待った。


「いつ兵士が突っ込んでくるかと思ってたんだけどな、なかなか来ないのは【俺】の中の優先度が低いからだってのもわかってる。ルシリュたちが【シェルティーダ】だとバレたことも、いずれわかることだった。捕らえようとすりゃ、あいつらはあいつらで反旗を翻すだろうぜ。元々そういう話になってる」


 つまり、バレてもバレていなくてもどちらでもいいということだ。そのための準備は整っている。情報を出さなかったのはショウリらしいとすら思えてきた。

 ラングの予想通り、【イーグリス】それそのものが戦うための道具であったわけだ。アルは少し肩から力が抜けたらしく、紅茶を啜った。


「西の大山脈の向こう、また噴火したって聞いたぜ。兵士が戻されるか、残るか、とにかく【イーグリス】で迎え撃つ準備はしておくさ」

「いいのか? 大事な店なんじゃないのかよ」


 【イーグリス】という名とショウリとポソミタキ、その家族がここまで守ってきたものを思えばこそ、アルは確認を入れた。ショウリは小さく笑い、アルの肩を叩いた。


「【イーグリス】って名前の雑貨屋を作ったのは悪かったな。でもよ、俺たちの収入源と本拠地は雑貨屋じゃねぇんだわ。あそこはただただ、合流と、餌と、戦う場所ってだけでよ」


 ショウリは足元を指差した。


「いろんな名前とコンセプトで首都・レワーシェに宿屋を展開してんだ。それこそが俺らの本命の商売。そこで遊ぶ奴がいる限り、俺らの資金繰りはどうにでもなる。逃げ場にもなる。教会の奴らも遊びに来るから、情報だって結構新鮮なんだぜ」


 長く首都・レワーシェで商売をしてきたからこそ、徐々に商売敵を追いやって市場を独占し、一つが潰されても次があるように仕込んできた。ラングはそこにショウリという男の本気を見た。こいつは本当に、戦いに備えてきたのだ。ラングはゆっくりと紅茶を呑み、ティーカップを持ち上げてその覚悟に敬意を表した。

 それを見てからショウリは苦笑を浮かべた。


「心配ありがとよ。ルシリュたちにもバレてる件、連絡を取る。キスクも無事だ、テルタがゴミ捨てついでに城郭外へ出してる。今頃、トロッコの道をユキヒョウと戻ってるだろうぜ。あぶねぇっつーなら、そのまま戻ってくるなってまたテルタを向かわせる。……つか、あんたら埃まみれで汚ぇな、話が終わったら一回風呂入れよな。アル、お前、ひでぇぞ」

「仕方ないだろ! 地下牢からじめじめしたところから山だなんだでこっちは走り通しだったんだ!」


 アルは浄化の宝珠で臭わないラングを睨みつけ、嫌がるショウリに近寄って怒らせてやった。提案された通り風呂には入った。

 ツカサの詳細はわからないが、状況はわかった。再び二通の手紙をアルがポーチにしまい、それをツカサへ伝えることにした。


 ―― ツカサ

 マジかよ、なんてこった。

 状況はわかった、とにかく余計な抵抗をして怪我をするなよ。

 もう少しの間耐えてくれ、必ず助けに行くからな。

 大山脈が()()()したもんで頓挫してる。

 待たせて悪い、あと少し耐えてくれ。

 必ず戻る。

 ―― アル


 ―― ツカサ

 状況は把握した。私からの返事は文字を気にせずに書く。

 機転を利かせたな。文字のことも、見られていることも把握した。

 確認したところ読めないようだったので、こちらは真実でいい。

 店や人は問題ない、既に対策が講じられていた。

 手に入れるものは手に入れた。いつでもそちらへ行けるが、都合が少々気になる。

 問題がなければすぐにでもそばに行こう。

 ―― ラング



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


ラングとアルはいくつかの謎を解いた。

はたしてツカサは何を得るのか。


次からツカサのターンに入ります。


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
ツカサ手紙だけどやっと出てきた〜良かったよ〜 まだまだ不安な中であの手紙が返ってきたら 私なら嬉しすぎて泣いちゃうよ、お兄ちゃんたちカッコ良すぎます!
すぐにでもそばに行こう…(ラングの言葉遣い、本当に好き) くっ…ツカサァァ!ラングとアルが行くまで、おとなしく待ってろ!…待たないんだろうな…! くっ…ってなりながら、読んでいます。 全てを取り戻す為…
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