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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-32:行きも悪いが帰りも悪い

いつもご覧いただきありがとうございます。


 暫く眠り続けてしまったらしい。目を覚ませば水の中、溶けた床の窪みに寝かされていた。体を冷やすためにしてくれたのだろうが、ブーツの中まで濡れていて気持ちが悪い。呻きながら身を起こせば離れたところにいたアルが近寄ってきて、こちらの意識がきちんとあることを確かめてから、飲めというかのように水筒を揺らしてきた。受け取り、ごくごくと飲んだ。予想通り癒しの泉エリアの水というやつだった。ヒリヒリしていた肌がすぅっと癒えていく感覚があり、水筒を返した。

 ざばりと生温い水を上がりはしたものの、床一面濡れていては衣服を乾かすことができない。とりあえずマントを絞っていれば、しゅるりと蛇がきた。


『無茶をさせたねぇ』

『厄介だったのは事実だ』

『ううーん、やっぱり()とは合わないなぁ、でも、お礼はしなきゃねぇ』


 ちょいちょい、と尻尾の先で屈むことを示され、アルとホムロルルにも促されてしゃがみ込んだ。体長六十センチ程度の蛇はラングの胸に顔を寄せ、つん、と小突いてきた。ぶわっと熱風のようなものが駆け抜け、衣服が、ブーツが乾く。ラングを中心にして床の水もふわっと霧散し、水滴はどこにもなくなった。


『【女神様の欠片】は君が既に持ってっちゃったけど、鍵……加護、欲しかったんでしょ? ホムロルルからも頼まれたし、あげるよぉ』

『ありがとう、感謝する』

『ううーん、この()とは合うかも?』


 へへへぇ、と蛇は笑ってホムロルルの方へ戻った。ラングは立ち上がり、加護をもらったという胸を押さえて感触を確かめた。ユキヒョウの時と同じく、加護を得た際には一瞬何かがあるが、その後変化はない。そこへアルが近づき、背中を向けて槍を握れと示した。話があるのだろう。ラングはそっと槍に手を置き、やぁ、と声が掛かったことに小さく微笑んだ。さて、どんな会話が出るのだろうか。


「お疲れさん。【女神の欠片】も手に入ってよかった。んじゃ、えーっと、首都・レワーシェに戻る方法、ホムロルルが飛ぶでいいんだよな?」

「おう、オレ様が飛んで」

「ぼくがドカーンと噴火させてその上昇気流に乗るんだよねぇ!」

「って言ってるからよ、とりあえず任せることにした」


 ホムロルルは少し疲れた顔で言い、アルの肩へ戻った。


『しかし、空は毒があるから飛べないと言っていたのは解決していないと思うが』

『それをぼくがドッカーンと吹き飛ばすのさぁ! そしたらホムロルルは飛べるよぉ』

『ただし、降り注いでくる噴石に飛び散る溶岩はあるからな、黒い灰に細かい石、できるだけ避けるけどよ、ひっでぇ帰路になるぜ』


 つまり、この洞窟までの道中で踏んできたものが次は降り注ぐというわけだ。本気でその方法を採用したのかとアルへシールドを揺らせば、困ったような苦笑が返ってきた。オルファネウルがシィィ、と震えるようにして音を発し説明したところによると、大山脈に集まっている兵士を追い払うのに噴火するのもありではないか、と蛇が提案し、軽いノリで、いんじゃね、とホムロルルが肯定したことでもはや止まれない勢いを得てしまったらしい。ラングは焚火を思い出した。炎に風を吹き込む方がよく燃える。大ムカデもツカサの炎魔法を受けてよく燃えた。そういうことなのだろう。ラングはシールドの中に手を入れて眉間を揉んだ。


「まぁ、一番早く戻る方法はホムロルルが飛ぶことだしな、世界の事情的に殺すのもどうかとは思うけど、敵戦力を減らすのは悪いことじゃない」


 一応真っ当な理由を出され、ラングは小さく溜息をつき呆れを返した。しかし、早く戻るという点では賛成だ。


『問題はどこに戻るかだ。首都・レワーシェの門はショウリの商会の力で越えただろう。忍び込めというのならばやらないこともないが』

『そこは任せとけよ、実はよ、ポットポスと話したんだけどよ、力を貸してくれるって言ってんだ』

『ポットポスとは?』

『北の取りまとめだ、会ったことあるらしいけどな? 覚えてねぇのか? お前記憶力はよさそうなのによ』


 どの獣のことかわからないと首を傾げれば、ホムロルルと蛇があれこれ特徴を上げ始めた。茶色ででかい。基本四足歩行で時々二足歩行。いびきがうるさくてハチミツが好物。爪が鋭い。会ったことがある土地神の中で該当するものがあった。


『大熊か』

『そうそう! それだぁ! 熊だねぇ、熊!』

『北の取りまとめは大虎ではなかったのか』

『あいつ、挨拶もそこそこに命を拾いに戻ったっつーから知らないも同然だったわけだな。ポットポス……大熊は土の精霊なんだよ。エントゥケも北の土に属する風っていう、まぁお前らにゃそこまで関係ねぇか?』


 雑談に移行しそうな空気があったので、ラングはそれでどうするつもりだ、と本筋に戻した。うん、と蛇が頷き、ホムロルルに言葉が託され説明を担った。しかし、話の途中で揺らめきの強い蛇がひょいひょい言葉を入れ、ホムロルルがそれに反応を返すとさらに燃え上がってしまい結局まとまらず、最終的にラングは槍にどういうことかと尋ね、アルは笑った。もはやオルファネウルが一番要約が上手かった。

 曰く、大熊から、城郭の人けのないあたりに隠し通路を掘れる眷属を送る、役立ててほしい、と大虎の風に乗せホムロルルまで届いたらしい。なるほど、そういう手段であれば悪くない。それを利用し、首都・レワーシェを脱することも、地下牢やツカサのいるところまで掘って進める可能性もある。若干の不安要素もあるが、大筋としては把握した。


「というわけで、ラングが起きたなら早速戻るか。体は?」


 アルはくるりと振り返り、自身の胸板をどんどんと叩いた。どうやら体調を心配されているらしいことはわかり、頷いてみせた。


『じゃぁ、早速噴火だぁ!』

『ば、ばか! オレ様の準備を待て! アル! ラング! 乗れ!』


 ホムロルルは慌ててぶわりと大きくなりアルとラングを呼んだ。その背に飛びつき、羽を握り締めればホムロルルは足で蛇を掴み、翼を羽ばたかせて聖域の中、一度上昇した。


『よぉーし、いっくぞぉー!』

『だから待てっつってんだろうが! 掴まってろ!』


 ぐわっと通路の幅が広がり、ホムロルルが下降で勢いをつけ通路へ入り込んだ。鈍く何かが震える音が響き、時間がないことが示された。ラングたちが入ったあとに閉じていた扉がじりじりと開き、隙間を抜けるようにしてホムロルルが出た先はあの一本橋が崩れた場所だった。つまり、あの試練の間らしきものも聖域の一部だったわけだ。


『上がるぞ! 落ちんなよ!』


 ホムロルルが翼を必死に羽ばたかせて黒い空の見える上部を目指した。夜まで眠ってしまったのか、などと考えているその間にも下から炎の海がせり上がってくる。


「ホムロルル! 速く!」


 あと少し、もう少し、羽を握り締める手にも力が入った。

 バッ、とホムロルルが穴を抜けた次の瞬間、何かが凄まじい勢いで爆発する音が響いた。全身を震わせるほどの轟音、鼓膜が痛い、噴き出した風が熱い。ホムロルルが追いやられ、一瞬体勢が崩れた。即座に整え、上から一気に山肌を下りて行った。背後でドドド、と連続で音がしている。ボン、ボン、と黒い山は黒い煙と赤い雫を飛び散らせ、そこから煙を纏ったままの岩石が飛んできた。夜の暗闇の中で黒い山が光を打ち放っていた。山を滑空し下りていく速度は凄まじく、風を掴んだマントが聞いたことのない音を立てていた。シールドがなければ呼吸もできなかった。隣のアルは息を求めて後ろを振り返り、叫んだ。


「うわぁ! ほ、ホムロルル! すっげぇ降ってきてる! 当たる!」

「わかってらぁ! しっかり掴まってろ!」


 ホムロルルは左右に移動して降り注ぐ炎の石を避け、さらに先を急いだ。降った石はそのままゴロゴロと転がってさらにその先で岩にぶつかり激しい音を立てていた。


「きゃー! あはは! 綺麗だよねぇ!」

「どこが!」


 楽しいのはホムロルルに掴まれた蛇だけで、ホムロルルもその背中にいるラングもアルも必死だった。ホムロルルの羽をラングが掴み、膝立ちになるアルの腰を支え、アルは槍で空を斬りひらき岩石を振り払いもした。細かい破片が体に降り注ぐ。


「おい! やりすぎだって! 一回あれ止めろよ!」

「止まんないよぉ? 一回ドッカーンしたら止まらないってぇ、言わなかったっけぇ……」

「言ってねぇよ! うわあぁぁ! ホムロルル! 速く!」

「わかってるって言ってんだろうがぁ!」


 噴石は大山脈を越えるまで追いかけてきた。ホムロルルは徐々に高度を上げ夜の空に紛れ、兵士たちに姿が見えないように飛んでくれたので多少観察できたが、確かに兵士たちが大山脈の麓に集まっていたらしい。ここまで届く噴石に逃げ惑い、篝火をなぎ倒され、物資も何もかも置いて逃げ出していた。


「指示が届くまでこの混乱続きそうだな」

『好機だな』

「とりあえず北の奴の眷属と合流できる場所まで行くぜ」


 ホムロルルは片翼をグイッと上げて方向を切り替えた。その背中で少し会話が行われた。ラングはオルファネウルを掴み通訳を頼み、疑問を発した。


『道とやらが開いた気がしない』

「あぁ、そうだな。やっぱりツカサと合流しないとだめなんだろ」

『それから、あの蛇、元はどういう状態で山を閉じたんだ』


 あぁ、それは、とアルが話す前にオルファネウルが()を開いた。通訳を担う者が内容を知っているのならば、アルの言葉を言い直すよりも早いのは当然だろう。ラングは暫く槍と会話を続けた。

 蛇、名をエンケポルというらしいが、そいつは元々ぬくぬくと炎の海の中で惰眠を貪る土地神だったらしい。しかし、世界は狂い始め、命を抱えざるを得なくなった。その役割を押し付けられたと感じた蛇は苛立ちを募らせていたらしい。


 ある日、そこに多くの人が身を投げ、自ら死を選び始めた。蛇は自身のベッドに人が落ちてくることに嫌気が差し、落ちてきてしまった命は仕方なく抱えたものの、それ以上の身投げが嫌で山を噴火させたという。そうして、命が来ることのない山を創り出した。


 けれどその時にはもう遅く、抱えさせられた苛立ちと、抱えた命が混ざり合い、あの状態であったそうだ。責任感の強い土地神もいれば責任を負うことを厭う土地神もいる。まるでヒトのようだとラングは思ったが口にはしなかった。

 それで、蛇は連れてきてよかったのかと問えば、土地失いらしい、とオルファネウルは締め括り沈黙した。ラングは槍から手を離した。アルはそれで話が終わったと理解して肩を竦めていた。ラングがツカサから渡された水の石で鎮静化するまでのことをアルは知らないが、部屋の状態から何があったかはおよそ察したらしい。酷く同情した顔でアルがラングの肩を叩いた。


『ラング、蛇、運悪い』


 いったい何のことだろうか。


 方角にして首都・レワーシェのやや北側。山に沿って建てられた城郭の際に降り立った。扉もなく堅牢な城郭がそびえ立つ場所で久々にまともな大地に足をつけそれを見上げる。アルは絆の腕輪を胸の前に持っていき、地下、と言いながら地面を指した。腕輪を奪われていなければツカサはそこにいるということだ。早く助けに行かなければ。


「ホムロルル、その協力してくれる眷属ってのはいつ来るんだ?」

「もうすぐだぜ。エントゥケとは風が通ってるからよ」


 ならば待つしかない。ラングは腕を組み、城郭に寄り掛かるようにして少しだけ休むことにした。

 アルは肩にホムロルル、首に蛇と大道芸人のようになっていた。ちょろちょろと蛇が尻尾でホムロルルにちょっかいを掛け、翼を広げてホムロルルが威嚇をすることもあり、それらを乗せているアルは苦笑を浮かべてそれぞれを掴み引きずり下ろしていた。逆さに吊られてばたつく鷹と毒蛇を掴むように摘ままれた蛇は何か文句を言っているようだったが最終的には再び肩と首で大人しくなった。どうやら蛇は温かい場所でないととにかく眠いらしくホムロルルの翼に入りたかったらしい。最終的にはアルの服へ顔を突っ込み、徐々に体を押し込み、体長を縮め、収まっていた。それを許すアルの懐の広さには素直に称賛を贈りたかった。

 暫くして眠るように目を伏せていたホムロルルが顔を上げた。


「来たぜ」


 城郭の外を覆う森を見遣る。その木々がぐぐっと曲がり独特な道ができた。大虎が駆けた時のようにそれらが通るための道ができるのだ。首都・レワーシェはツカサ曰く、理というものも魔力というものも満ち溢れているらしい。こちらに目指すべき座標であるホムロルルたちもいるため、繋ぐことができたということか。すぅっと姿を現したものにラングは口元をへの字に結んだ。


『お待たせしました。あぁ、何ということでしょう。(いざな)い手の青年はいないのですか』


 かぽ、と蹄の軽やかな音を立てて現れたのは片方だけ立派な角を持った牡鹿だった。




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


この牡鹿、覚えておられるでしょうか。


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
お.ま.えーーー!!! ってなるやつ(笑)
ラングの受難回はまだまだ続く…
あらら、ツカサがいない状況でラングとめちゃくちゃ相性が悪い鹿さんがきちゃった笑
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