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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-24:失敗続きの男

いつもご覧いただきありがとうございます。


 守護騎士(パラディン)・ルシリュ。その厳かな態度が一部の守護騎士(パラディン)と教徒から絶大な人気を誇り、市井での評判もいい()。腹立たしい。侍る女たちも時々奴の名を口にして黄色い声音で武勇伝を語るのは気分がよくはない。ルシリュに付き従うグルディオの堅さもまた苛立ちを募らせる。


 事実、ルシリュは仕事もできれば剣の腕もよく、付き従う守護騎士(パラディン)たちもまた手練れ揃いだった。ルシリュが扱う斧、グルディオが扱う鎌、そのほかにも剣や槍やメイス、弓など、それぞれが得意とするものが違うからこそ、立ち回りも幅広い。

 どこで生まれ、どうして神殿にいるのかわからないが、ルシリュは昔からグルディオを引き連れていたらしい。グルディオ自身は農家の生まれで、だからこそ(サイス)を得意とする、土臭い男だ。


 ルシリュは不吉な男としても有名だった。陰口をたたいても筒抜け、何か罠に嵌めようとしてもするりと抜け、挙句、そうしようとした側が階段を転げ落ちたり、ぬかるみにはまって抜けられなくなったり、何故か不幸に見舞われるのだ。徐々に徐々に、ルシリュには手を出すな、という話が巡り、やがて近寄らなくなった。そうしたこともルシリュはまったく意に介しておらず、平然と、派閥の者と穏やかに過ごしていた。


 死体が溶けるとなってから、守護騎士(パラディン)の活動は大きく変わった。ルシリュたちは死体が溶けると言った村や町へ赴き、そこで人々を滅しているらしい。片や男はそうした職務にも当たらず、【神子】を持ち上げて女をもらい、享楽に耽り生を謳歌していた。せっせと働く奴がいるのは便利だな、と蔑む思いも抱いていた。

 そんなルシリュは【神子派】からも褒めそやされることが多い。聞きたくもない男への賛美、仕事をしていないのだから当然ではあるのだが、妬ましくて殺意が湧いた。


 どうにかして【1】のマントを奪えないかと画策してみても、ルシリュはそれをなんなく越えてきた。そして何が一番嫌かというと、ルシリュはこちらのことも眼中にないのだ。一度、はっきりと言われたことがある。


「すまない、忙しくてな。貴様の相手をしている時間がないのだ。いずれ暇になれば遊んでやろう、暫しいい子にしているがよい」


 軽く遊んでやっていると言わんばかりの言いざまに、その日、女を一人殺してしまった。【神子】には勿体ないと叱られたがそれだけだった。享楽に耽り楽しむ【神子】が守護騎士(パラディン)を野放しにしている状態は本当に楽だ。この状況で上まで上り詰めた時、どんな光景が見られるのだろうと想像し、胸が躍った。


 ルシリュが首都・レワーシェを離れている間にあれこれ難癖をつけてグルディオを東にやり、見張りをつけた。その間に失脚を狙って失敗した。食料に毒を混ぜて、ルシリュたちの管轄で死者を出そうとした。だが、残っていた【ルシリュ派】が連携を取って状況を落ち着けてしまった。死者は一人も出なかった。食料の件で大事になると首都全体が荒れると奴らが言って秘匿し、それはそうかもしれないと思い、次は別の手で行こうと思った。グルディオにつけた手駒は、グルディオとは戻ってこなかった。逃げたと言われ苛立ちが顔を歪めさせた。あれほど目をかけてやったのに。


 子飼いにしていた教徒から情報が入った。どうやら神殿に対し探りを入れてきている奴らがいるらしい。隣の部屋の奴らが話しているのを聞いたのです、と。早速、その教徒と世話係の少年を捕まえて拷問にかけた。あっさりと決行日と人数を吐き、頼むからあの人だけは、あの子だけは、とお互いを庇い合いながら死んだ。くだらない奴らだった。


 【神子】に情報を出せば捕らえるための対策を講じろと言われ、多少真面目に準備を行った。情報をやり取りしていた少年は殺してしまっていたが、どのようにしてやり取りをしていたのかは聞いていたので、字を誤魔化すために紙を滲ませて返すなどという小技を閃いた。了承の返事をもらい、いける、と思った。ルシリュはまだ戻っていなかった、その間に功績を上げたかった。


 だが、蓋を開けてみれば決行日は前倒しされており、街で女を抱いて楽しんでいる間に全て終わっていた。【神子】からは罵詈雑言を浴びせられ、貶められ、処分を考えるから待っていろと脅された。地下闘技場の檻の中だけは御免だ。あそこにはふらりと辿り着いて自らそこに入りたいと言った頭のおかしい戦闘狂がいる。何度か見たが、あれは自分では倒せる相手ではない。逃げなくては。しかし、逃げようにも首都からは任務でもなければ出られない。だとするならば、どこから逃げ出せばいいのか。


「――地下の秘密通路でございますか? ルシリュ様」

「声を潜めろ、グルディオ」


 騒ぎの日に帰還したルシリュと、それを待っていたグルディオだった。まるで隠れるように闇の中、ひそひそと話していた。薄暗い廊下に響く静かで低い声、そっと壁に寄って聞き耳を立てた。


「地下牢の先、扉が封じられているのは知っているな?」

「えぇ、我々では地下牢にもなかなか入れませんが、確か、奥にそのような扉が。厳重に鍵が掛かっておりますね」

「その先に、この街から逃れられる通路があるらしい」


 なんと、真ですか、とグルディオは少しだけ声が大きくなり、ふたたびルシリュに咎められていた。地下牢の奥にそんなものがあったのか。


「しかしなぜそのような通路が?」

「昔は緊急時の連絡のやり取りや、重要人物を迎えるための隠し通路だったのだろう。想像の域を出ないがな。……そろそろ見回りに行くとしよう。商店街の西地区、四番通りの七、どうやら先の侵入者の仲間がいるようだからな、下見をするぞ」

「ハッ、ルシリュ様」


 二人の足音が遠のいていき、男はごくりと喉を鳴らした。地下牢の先にそんな道があったとは。地下牢の区画に入りさえすれば、ここを脱することができるかもしれない。おあつらえ向きに先の侵入者の位置もルシリュは割り出しているらしい。もし地下の秘密通路がガセだとしても、ルシリュより先に捕らえることで汚名返上もできるだろう。やるしかない、ここで生き残らねばこの先何もいいことがない。男は足早にルシリュとグルディオの後をつけた。


 商店街、西地区、四番通りの七。ルシリュたちは小さな家を見上げ、場所の確認を済ませると食事にしようと言いそこを立ち去った。適当に引き連れてきた部下はあまりやる気を出していなかったが、自分が失脚した時に同じ待遇を受けられないとわかっているのかと指摘をすればようやくやる気を出して武器を手にした。それを確認し。扉を開けさせた。


「おらぁ! 守護騎士(パラディン)様のお出ましだぜぇ! 床に這いつくばりなぁ!」


 中には穏やかに食卓を囲む三人の男たちがいた。鷹を肩に乗せた身長の高い男、童顔の人畜無害そうな顔の青年、そして黒い仮面で顔の半分以上が隠されている気味の悪い男。青年のきょとんとした顔にこちらの毒気が抜かれそうになってしまった。武器は所持していなかったので、部下の気が大きくなった。


「全員出ろ! 神殿へ連行する」

「うわぁ、なんでだ」

「わかっているだろう! お前らの仲間が神殿に忍び込んだのはわかってるんだぞ!」


 高身長の男がきょろきょろとあたりを見渡してから腕を上げた。乱暴しないで、という青年の言葉には少し躊躇してしまったが、その背中を思いきり突き飛ばした。黒い仮面の男は素直に従うものの、背を押したり小突いたりしようとしても、するりと避けられてしまい本当に気味が悪かった。

 守護騎士(パラディン)が歩けば道が割れる。何があったのかと予想し合う声と恐怖を孕んだ視線、好奇心に高揚した顔に優越感を覚えた。これを失うわけにはいかない。失うのならばいっそのこと、ここから逃げ出して生き直した方がマシだ。必ず生き延びてやる。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


こんな世界だからこそ、こんなふうにしてしか生きられない奴もいた。

たったそれだけのこと。


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)


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この作品が大好きで、その中でも殊更に思い入れた登場人物の再登場を、喜べばいいのか悲しめばいいのかわからず沈黙を選びましたが、少なくとも自らの意思で檻を選んだとのことで、なんだか安心しました。 安らかに…
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