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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-16:互いの信用

いつもご覧いただきありがとうございます。


 今回もマール・ネルを膝に置いておいてくれ、とアルに言われた。さすがに気になったのでその真意を尋ねれば、こそりと教えてくれた。


「ツカサに二か国語通訳させると大変だろ? 俺がその場に居ても居なくても、オルファネウルがマール・ネルを通して聞いたことを、俺にわかる言葉で通訳してくれるって言ってるんだ。だいたい五十ロートル、このくらいの距離まではできるらしい。基本的に、オルファネウルは俺に自分で努力しろっていうから、今回だけだぞって言ってる」


 なるほど、様々な世界を【神の裁き】で越えているからか、そもそもが【神器】ゆえの特性なのか、オルファネウルは言葉に困らないらしい。確かに言葉と手書きの文字では通訳もそれなりに大変で時間が掛かる。世界の寿命、やらなくてはならないこと、様々なことを考慮し、オルファネウルはアルに対し方法を提案したのだろう。通訳する先がラングだけで済むのは正直助かった。そんなわけでこの時も美しい杖はツカサの膝にある。

 アルは扉の前で警護に当たってくれた。防音の宝珠がなく、ツカサが防音魔法障壁を使うのも手の内を見せるようで嫌がり、オルファネウルの協力を得てアルが外に立った形だった。


 ラングはこの世界の言語が未だ少し不自由だ。専門的な単語をツカサが使わなかったこともあり、テルマとテルタとの情報共有でかなり単語が増えた。こうして実際に言葉を扱うことであっという間に吸収していくラングに、テルタは先ほどとは流暢さが違うと舌を巻いていた。逆に、弟であるツカサがどうしてそこまで話せるのかという点はいろいろあって、の一言で収めた。この世界、確かにいろいろあるらしく憐憫の眼差しで見られてしまい少し居心地が悪かった。いったい何を想像されたのだろう。尋ねるのも怖かった。


 一年前の情報ではあるものの、テルマたちが持っていた情報はとても詳細だった。教会本部である神殿の見取り図、階級の違いで誰がどの階層に居るか。最上階に近いところはほとんど空いているらしい。【神子】が階段の上り下りを嫌がり高くて三階までしか生活しておらず、教会関係者は【神子】より上に暮らすことができないので空いている、ということだそうだ。強いて言えば女が四、五階で暮らしており、逃げ出せないようになっている。本人にその気がなければ逃げもしないだろう。そこはいわゆるハーレムで、衣食住は完備、美しく着飾ることができる場所だ。少しだけ世界を見て回ったツカサにも、労働から離れ、美しいものに囲まれての生活に溺れていく人がいてもおかしくはないと思えた。階段の上り下りが面倒なのも、エスカレーターやエレベーターに慣れていた身だ、正直よくわかる。


 潜入はここ一年していなかったが、教会関係者の入れ替わりは把握しているらしいテルマは、侵入経路を味方の部屋からと提案した。その味方は二階に在住し、教徒の従者であり性的な関係者でもあるという。潜入時は教徒に一服盛って眠らせておいてくれるのが常らしい。そういうことが公になっていることにツカサは少し複雑な気持ちで赤面したりもしたが、相変わらずそういったことでも顔色を変えずに続けるのがラングという男だ。


「私は一人でいい。それに頼りたく、ない」

「我々の仲間が信じられないというのか」

「体の関係を持つということ、それはいずれ執着、おもいに変わる。少年が裏切らない、限らない」


 ラングはテルマが指していた二階の一室から指を滑らせ、とん、と厨房を指した。


「物資、運び込む。一番無難」

「フォルマテオではやらなかったくせに」


 ぼそりとツカサが言った言葉にラングは小さくシールドを揺らした。じっと見ていればじろりとした視線を感じてツカサが目を逸らした。テルマは自身の意見が否定されたこともあり、ムッとした様子で言った。


「物資の運び入れは業者が決まっている。私たちは雑貨屋であって食料品店ではないから、運び込むだけのものはない」

「ある」


 ラングはツカサの肩を叩いた。豊穣の剣の出番だなとツカサは思い、見せはしないが頷いた。


「伝手があって、実は食料を結構抱え込んでるんだ。それもかなり質のいいものを」


 ツカサは空の革袋を取り出し、それを傾けながら空間収納に繋いだ。テルマとテルタにはまるでその革袋が延々と小麦を吐いているように見えただろう。テーブルの上にざらりと零れ落ちた小麦を手に取り、テルタはごくりと喉を鳴らした。品質については確認ができただろう。

 昔は空間収納からこうして取り出すこともできなかった。慣れと訓練、鍛錬の成果を最近ひしひしと感じる。


「【神子】献上、その前に、料理人へ献上したい言う。自分の口にいいものが入る、人は警戒を緩める」

「日頃搾取される側が献上される側になる、なるほど、確かにできなくはなさそうだ。荷馬車と樽を用意すればいいな?」


 テルタの問いかけにラングが頷き、ツカサは胸を叩いた。


「じゃあ、テルタと俺がそっちの準備をするよ。この革袋は俺しか扱えないから、俺を丁重に扱ってよね」


 ツカサはにっこりと笑い、革袋を差し出した。テルタは疑いながら期待を込めて革袋をひっくり返した。何も出てこず、中を覗き、手を突っ込み、そこが空っぽであることに目を見開いていた。


「どういう仕組みなんだ?」

「俺にもよくわからない」


 空間収納という仕組みをよく知らないので嘘ではない。革袋を返され、ツカサはそれを腰のポーチへしまった。それを訝しみながらテルマはラングへ言った。


「潜入時は二人一組を基本にしてる。あんたは私と、もう一組はこちらで決める」

「私は一人でいい」

「それは許さない。私が、あんたを、信用していないからな!」

「待って待って! ストップ!」


 ツカサが素早くラングの前に腕を出し、もう片方の手をテルマへ差し出して制した。テルマの短気さはラングによく似ているが、それ以上に激情型で先が思いやられる。【ラング】であれば流してくれるだろうが今はそうもいかない。【ラング】曰く、()()()()である時分なのだ。喧嘩っ早い人が輪をかけて喧嘩っ早いので勘弁してほしい。


「テルマ、言っておくよ。俺たちはショウリに協力しなくてもどうにか行動ができる。キスクのことだけを預けられれば俺たち三人は身軽だからね。でも、君たちに協力するのはこれが【戦争】だからなんだよ」


 軍師服に身を包んだ凛然とした男と、その仲間たちが思い出された。あの事変でツカサを成長させてくれたひとつの欠片。リガーヴァルでの絶望の中、唯一寄り添ってくれた先達たちの優しくて強い眼差しと在り方が言葉を続けさせた。


「目的を同じにする者同士、行動する内容は知っていた方がいいからここにいる。攻めたい時に引かれても困るし、撤退を決めた時に残られても困る。お互いに足を引っ張らないためにね」

「テルマ、ツカサ……殿の言うとおりだ。短気なのは止せ、そういうところ、商会長にも指摘されてただろ。すまない、ツカサ殿、ラング殿」


 テルタがまずは誠意と敬意を見せた。会釈でテルタに返し、ツカサはテルマを見遣った。


「信用できないならそれでもいい。でも、同じだけ君も信用を失っていることには気づいた方がいい。ラングはだから単独行動を取りたがってる」


 ぐっとテルマが唇を結んだ。少しだけ浮いていた腰を下ろし、何度か深呼吸をして自身を収め、右手を差し出した。


「……少なくとも厨房から入り込めれば、地下のさわりまでは案内が可能だ。地図を持っていくのでそこからの描き起こしと調査に協力してほしい」


 ラングは暫くその手を眺め続け、ツカサに小突かれて溜息をつき、それから手を取った。


「ラングだ、よろしく」

「あぁ、よろしく」


 その握手にどういった感情と戦いがあったのかはわからないが、どうにか先に進めそうで安心した。

 一度味方とやらに連絡を取り、潜入すること、経路はこちらの事情で秘密にすることなどを連携してもらうことになった。疑り深いラングの提案で実際に潜入する日より四日後を決行日として伝えてもらった。なぜ四日前なのかと問えば、だいたいの準備は三日前から始まるかららしい。


 潜入する日は連携もあるので今日から五日後。偽りの決行日は九日後だ。ついでにシェルティーダ(盾を持つ者)の名も広めるらしい。

 それを待つ間、ツカサたちはドルワフロの女子供とキスクの再会、街を見て歩くことにした。


 まずはドルワフロの女子供との再会だ。ショウリの言うとおり裏方の作業を引き受けており、寮のようなところでひと塊になって生活していた。中央からそれなりに外れた位置にある中庭付き、コの字型に配置された横長住居が。一室二人、三人程度での共同生活。これだけの規模を所有できるのだからショウリとポソミタキ、そしてサルムの記憶が如何に努力したのかがわかる。

 ここにはドルワフロの女子供だけではなく、ショウリが保護した者、従業員、そしてシェルティーダ(盾を持つ者)の者たちが生活をしていた。数にして三百人ほど、小さな町の規模だ。衰退の一路であったドルワフロの女子供は約六十人、あとは従業員の家族や他の保護された人々だ。


 周囲に広がっている居住区などを見るに、ここは首都・レワーシェにおいていわゆる下級市民、労働階級の居住区のようだ。そうした下級市民の家々が城郭に沿って外周、中級市民はさらにその内側、上級市民は中央という形で街ができているらしい。中央の大通りを北にいけば、神殿という構図だ。北のほとんどは神殿の敷地で、上級市民よりさらに優雅な生活を教徒たちが送っているという。


 足を踏み入れた敷地内で朗らかな歌を歌いながら洗濯をする大柄な女性たちがいた。ドルワフロの男性に比べれば細いがアルと同じくらいの大きさの女性が棒のようなもので布を叩いて洗濯していた。賑やかな歌だ。思わずゆらりと体を揺らしてしまうほどリズミカルで、少しの間聞き入っていた。女性たちの内、一人がこちらに気づいて嬉しそうに叫んだ。


「若様ァ! クィースク様ァ!」


 え、と声を上げてこちらに気づくと、石鹸まみれのままで女性たちがわぁっと詰めかけた。濡れた手で顔を撫でられても体を触って怪我を確かめられても、キスクは嫌な顔一つせず、ただ嬉しそうに笑った。


「みんなァ! 無事でよかったァ! 遅くなってごめんなァ!」

「若様ァ! ご無事だったんですねェ! ロトリリィーノ様が回りくどいことをォしてェ、アタシら心配してたのよォ」

「そうよォ、はっきりと教会にバレたくねェって言えばァいいのにィ……!」

「仕方ないわァ、男どもはぽろりと零すからァ。ロトリリィーノ様には感謝もしてるのよォ。ドルワフロはァ食料がなんもなくなってェ……」


 女性のおしゃべり好きというのはどこでも変わらないらしい。ロトリリィーノのやりようにいくらか文句は出たものの、生き残るために逃がしてくれたということもよく理解しており非難までは出なかった。そしてここには チュチュリアネよりも年嵩の子供たちもいた。久々に会うドルワフロの子供たちともきちんと面識があるらしく、キスクは吟遊詩人として歌を聞かせたりと交流を楽しんでから、女性たちの代表とツカサたちを引き合わせてくれた。

 ドルワフロの男性たちよりも柔らかい口調、できるだけ訛らないように気をつけてくれての声は耳に優しく、紹介された取りまとめの女性はそれなりに高齢だったがシャンとしており、ツカサは厳しい祖母を前にした気持ちだった。自身の祖母は優しい人だったが、なんとなくだ。


 まず、キスクに対し無事であったことを言祝ぎ、キスクは同じように取りまとめの女性に対し言祝ぎを返した。ドルワフロの儀礼なのだろう。


「というわけで、こちらにいるツカサとラングの協力もあって、ドルワフロは五年は大丈夫だ」

「戻れるということでしょうか」

「そうだ。すぐには状況も改善しないだろうけど、女子供、皆、五年は食える」

「そうですか……」


 ほぅ、と安堵を浮かべた女性にこちらの肩からも力が抜ける。それから女性は厳しい眼差しになった。


「春がきたら、戻った方がいいでしょう」

「あぁ、そこまで急がなくてもいいと思うけど、うん、どうした? 何かあったか」


 キスクが心配そうに尋ねれば女性はここに来てからのことを話してくれた。


「子供が死ぬのです」


 ツカサはその言葉に、ドルワフロ最後の幼子、チュチュリアネを思い浮かべていた。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


在庫放出。眼鏡ができたそうです。嬉しいです。

間に合えば今日引き取りに行きたいところです!


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)

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