表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

524/526

3-15:シェルティーダ

いつもご覧いただきありがとうございます。


 細々としたことをツカサとショウリの間で取りまとめ、紙に書き起こし、決まりごとのような形で仕上げた。そこまで終わってからまた雑談し、眠くなったのでさくりと寝た。


 翌朝、ショウリ、その主要な部下である双子と胡散臭い顔の商人も同席の上で方針を伝えた。ショウリがきちんと味方であること。キスクと同盟を結べること。西に行く手段がフォートルアレワシェナ正教の神殿地下にあること。その他細かいことはいろいろあったが、世界が百年程度の寿命だとか、【女神の欠片】がどうとかは話さなかった。

 【女神の欠片】はまず【神子】を排し、多少落ち着いてから。そうでなければ状況を混乱させるだろう。【世界の寿命】は落ち着いた後も言うつもりはない。ラングやアル、ショウリも同意見であると認識を合わせた。今を守れるのも変えられるのも今いる人たちにしかできないが、未来を変えるのは未来にいる人々のやることなのだ。


『礎は用意できても、積み上げていくのは後世だからな』


 ラングが言い、皆、じっと口を噤んだ。ツカサはマール・ネルを握り締め、その横顔を見ていた。

 ここに来てセルクスの言葉に背中を押されていた。


 ――世界は時を止めた。焦ることはない。確実に守るのだ。汝の光となったものを、手放すな。導け。


 ツカサが経験したように、アルが経験したように、多くの世界が時を止めているはずだ。きっとラングの故郷もそうだろう。だからこそ焦らず、事を対処し、確実に守れと言ったのだと確信を持った。百年もいるつもりはないし、【神子】を排した後も長く残るつもりはない。最悪、事後処理に半年は滞在を余儀なくされるかもしれないが、その程度であればと思うくらいの精神的な余裕はできていた。これがまたいつひっくり返るかはわからないがおかげで落ち着いて話はできた。


「というわけでよろしくな、キスク」

「あぁ、よろしく、ショウリ」


 グッと握手が交わされ、秘密裏に同盟が結ばれた。ドルワフロに何ができるのか、戦力は出せるのか、ショウリはポソミタキの顔を借りたままいろいろとキスクの状況をヒアリングしていた。ドルワフロからはトロッコを利用して必要なら武器を用意すること、鍛冶師の手を呼ぶことができると言った。ただ、冬が終わり春が来れば、ドルワフロは生きるためにやらねばならないことも多い。


『戦国時代と一緒なんだよな、農耕の時季は戦力がなくて、大体、田植え稲刈りが終わった頃に戦争しましょうって感じで』

『そうなの?』

『年貢を納めさせるには畑をやらせないとだしな。ほんと歴史に興味なかったんだな?』

『だって、似てる名前多いし画数が多くて』


 ゲームから入ればよく覚えただろうな、とショウリは笑い、言語を戻した。


「とりあえず、ドルワフロからは鉄器類の物資に期待することにする。【神子】個人は【不思議な力(魔法)】を持っちゃいるけど、周りにいる教徒はでっぷり太ったジジイどもだ。俺の手勢だけでも足りるだろ。問題は守護騎士(パラディン)だな」


 守護騎士(パラディン)。グルディオが脳裏に浮かんだ。その名を口にすればショウリが少し驚いていた。


「グルディオは【反抗勢力】に属してるな。教会内部の離反者を【神子排斥派】って呼んでるけどよ、実態は同じだから呼称は統一しとこうぜ」

「なんて呼ぶの?」

「いい感じの呼称や組織名があればいいけどな。毎回、どうすっかなって話してそのままになんだよな」


 ネーミングセンスには自信がない。ツカサは【異邦の旅人】の名を決める際にもラングに「ダサイ」と言われてしまっていた。アルはアルでそんな責任背負えねぇよ、と苦笑を浮かべつつ頭を悩ませていた。【異邦の旅人】の名を決めたのは実のところラングだ。ちらりと見遣れば黒いシールドの奥から視線が返ってきた。


「なんだ」

「いいアイデアない?」

「ない」


 すぱりと断られてしまう。皆で唸っていればじりじりと時間も進む。なんだか無駄な時間のような気すらしてきた。もう反抗勢力のままでいいんじゃない、という空気になった時、ラングが呆れた様子で言った。


『そこまでこだわらなくてもいいと思うがな。シェルティーダとでもすればいい』

『シェルティーダ? シェルティーダ(盾を持つ者)


 ツカサがラングの言葉を通訳して言えば、ショウリが頷いた。


「いいじゃん、盾を持つ者。反抗勢力、シェルティーダ。【神子】に対し盾を持ってその権力に抗う、ってか」


 シェルティーダ、と皆が口々に出して馴染んでいく。ラングは腕を組んでそっぽを向き、勝手にしろと言いたげだ。【異邦の旅人】然り、捻るよりも素直に実態を示すということがラングは得意なのだ。今後、【神子排斥派】の守護騎士(パラディン)たちも含めて【シェルティーダ】と呼ぶことにした。この言葉を知るか否かで敵か味方かも判別できる。連絡はできるのかと問えば、やっておくとショウリは答えた。


「そうだ、グルディオとその仲間のルシリュに会いたいんだ。神獣のお告げを聞いた時の詳細とか、どうするつもりなのか、とか聞きたくて」

「あぁ、顔合わせもしておかないと、何かあった時にお互い助けられないしな。グルディオが雪に足止めされてなきゃもうすぐ首都に戻ってくるはずだ。ルシリュも同じくらいだったはず」


 ショウリの視線を受け、胡散臭い顔の商人が手に持った紙をめくり、そうですね、と首肯を返した。


「ルシリュ様は北の先の見えない崖(レ・トルヴァ・デア)付近で目撃された神獣を探しに行っています。長くとも二十日程度の調査のはずですから、もうそろそろ戻られる予定ですね」

先の見えない崖(レ・トルヴァ・デア)の方かぁ、『というと、大猪かな?』


 ツカサはラングを振り返り首を傾げ、そちらからは肩を竦めて返された。だとすれば、遭遇することはできないだろう。あれはこの世界に来て早々、ラングと共に討伐し、当時は(いざな)いがわからず魔法障壁で包み、灰のまま空間収納に入れたままにしていたことを思い出した。(いざな)えることを見せるか? ツカサはショウリにそれができることを伝えていない。今伝えるのはタイミングが悪い気がして沈黙を返した。

 ツカサが黙り込んだことで眉を顰めたがショウリは話を進めてくれた。


「ルシリュが帰ってきたら、まず教会に適当に報告に行く。そのあと、お前らも泊った宿で一息つきにくる。そこで顔合わせをしようぜ」

「わかった。その間どうしよう?」

「こっちは調査だな。教会地下の道が潰されていないか、どの程度進めるか」


 ツカサはハッとしてラングのマントを掴んだ。その動きに全員が驚き、まじまじと視線を注がれる。


「だめだよ、ラング」

「ツカサ、どうした?」

「ラング、一人で調査に行っちゃうから」

「あぁ、まぁ、だろうな?」


 アルがきょとんと目を瞬かせる。かつて、ラングはマナリテル教の総本部に単身で潜入し、その実態を暴いた。ついでに熱烈な戦闘狂も釣りあげているがそこから持ち帰った情報はその後、全体の謎を解くことにも役立っていた。それがあるのでアルはラングが行くのは当然だろうと思ったらしい。


「アル、ラングは【ラング】じゃなくて、若ラングなんだよ。あれほどの戦闘技術まで磨き上がってないんだよ」

「うわぁ、言うようになったな? わかるけどな、今のラングなら失うのは指一本くらいでどうにか勝てそうだし」

「指失わないでよ!? だから、とにかく、単独行動はさせたくないんだよ。それも敵の本拠地で」


 うーん、とアルは苦笑を浮かべて頬を掻き、くるりとショウリを振り返った。


「ショウリ、お前リガー……俺の世界の言葉は覚えてるのか? 今のわかったか?」

「あぁ、わかる。なんだよ」

「そっちの考えてる調査ってどんなもん?」


 あぁ、とショウリは合点がいったと頷き、テルマを呼んだ。シェルティーダ(盾を持つ者)の諜報もまたテルマが主体。門を守る兵士に紛れ込ませたように教会にも仲間が入り込んでいて、そちらからも情報は来る。ただ、どうしても地下や隠された場所というのはテルマが探る必要がある。


「教会は教会で、如何に自分が優位に立てるかってんでお互いの足を引っ張り合ってるからな。その隙をついて情報収集できてるって感じだ」

「地下、監視は」


 ラングが口を出し始め、ツカサはマントを強く握り締めた。その感触はしっかりと伝わっているだろうがラングは振り返りはしない。


「あったりなかったりだな。こっちの手勢を介して首都・レワーシェに入ってっから、どこまで【神子】が知ってるかわからないっていうのが不安要素ってとこか」

「それに、昨年ごろから地下の様子がおかしい、とは情報が」


 テルマがショウリに囁くように報告し、ショウリが手のひらでツカサたちを指し、そちらに共有しろと示した。ラングを睨んでからテルマが言った。


「囚人や表立って反意を見せた者を地下に収容しているのだとか。そこから戻った者はいないと報告が」

「刑場か? 視えないからもどかしいな。何やってんだ……?」

「……ショウリならどうすると思う?」


 ツカサが問えば、ショウリは嫌そうな顔をしてから考えて答えた。


「……娯楽を作るだろうな。闘技場とか」

「この世界、魔獣と遭遇をしないんだけど、いるの?」

「いや、いない。だから、人間同士じゃないかと思うぜ」


 コロッセウム、グラディエーター、かつて見た映画の光景が脳裏に浮かぶ。この享楽に耽る首都であれば地上に作っても問題ないだろうに、本当に地下にあるのだとすればその方向性は良いものではないだろう。


「あ、一応言っておくけど、地上にもあるぞ。まぁまぁ趣味の悪いやつが」

「あるの!?」

「オススメはしません」


 テルタが言い、ツカサはアルと顔を見合わせた。聞けば、それは当然のように賭け事らしい。ただ、ここが【宗教国家】であることもあり、死人は出ないように気をつけられているらしい。その枠組みを外したものが地下だとすれば、二つ存在してもおかしくはないだろう。深みにハマる者ほど地下に行くという仕組みだ。


「お前ら、どうせそういうのも見て見ぬふりできなそうだし、覗くなよ? で、調査だけどな、内部に潜り込んでいる奴からの情報と、テルマが行くからちょっと宿でゆっくりしてろよ」

「私が行く」

「ラング!」


 ぐいっとマントを引っ張れば逆にマントを引いてツカサが引き寄せられた。隣に立たされ文句を続けようとしたツカサの声の前に、ラングが言った。


「お前も来ればいい」

「ダメだ」


 はっきりと否定したのはアルだった。ツカサは誘われて目を輝かせてしまっていたが、思わぬ方向からの声に、お出掛けを止められたような顔で振り返った。


「あんまり言いたくなかったんだけど、オルファネウルから苦言が出てる」

「どういうこと? この会話の時もマール・ネルを持ってろって言われてたけどさ」


 ツカサは片手に握り締めているマール・ネルを見遣ってからアルへ視線を戻した。ここで何か作戦会議をする際は必ずマール・ネルを持てと言ったのはアルだった。アルはオルファネウルを背中から下ろし、そっとマール・ネルに当てた。ツカサは不思議な声を聞いた。青年の静かな声で、はじめまして、と耳元で囁かれた。驚いて声の方を振り返っても誰も居ない。逆側にはラングがいた。


「オルファネウルはマール・ネルをそこに行かせることを嫌がってるんだ。長年の付き合いだからオルファネウルの意見は聞いた方がいいと思う」

「じゃあ、マール・ネルをアルに預けるとか」

「俺じゃマール・ネルを守れない」


 アルはポンポンとツカサの腰のポーチを叩いた。空間収納に入れておくのが安全だと言いたいのだろう。アルのポーチはエレナの鍵魔法が掛かっていても、こじ開けられる奴がいないとは限らないのだ。兄たちからもらったポーチだってそうだ。


「オルファネウルは覚悟した上で俺と一緒に、血を浴びてくれてる。忘れるなよ、その子は女の子だ。できれば明るいところに居てほしいって兄貴は思うもんなんだよ」


 ネルガヴァントの兄妹の中、唯一の女の子だと言ったアッシュの声が思い出された。フゥゥ、シィィ、と兄妹が少しだけ喧嘩じみた音を出す。ツカサは柔らかくて綺麗なマール・ネルをぎゅっと両手で握り締め、ラングを見た。


「……行ってほしくないのは俺の兄さんだってそうなんだけど」


 いくら魔法障壁(迷子札)をつけていようと、離れたところで何をしているのか、咄嗟の時に助けられないのは怖い。同じ思いをオルファネウルは抱いているのだとわかればこそ、マール・ネルを連れて行くのは確かに気が引ける。テルマが改めて一歩前に出た。


「私が案内する。ここ一年ほどは情報をもらうだけになっていたが、実際にこの目で見たいと思っていたところだから」

「事前にある程度の情報は共有できる。そこからの差異を見つけて来るくらいなら、そこまで危険じゃないはず」


 テルタもまたテルマを援護し、ツカサはラングに肩を掴まれて溜息をついた。


「わかった、情報共有には同席するよ、言葉の問題もあるしね」


 ラングと【ラング】、その姿の差が不安なのか、それともラングを信じられていないからなのか。ツカサは自身の不安と戦う時が来たのだと思った。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


先日、ハンドメイド関連のフェスに行って、いろいろと刺激を受けてきました。

楽しかったです。


1巻書影

挿絵(By みてみん)

2巻書影

挿絵(By みてみん)

面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ