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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-12:首都・レワーシェ

いつもご覧いただきありがとうございます。


 洞窟のような道を進んでいき、外に出た。ドルワフロからやや弧を描くようにして西、大陸の中央にあるというフォートルアレワシェナ正教国。暗い洞窟を出た先は林で木々の隙間から高い城のようなトンガリ屋根が見えた。この距離でも見えるということはそれだけ大きいということだ。


 まず遠目で確認した。高い城壁の向こう、上に建物を積んでいるかのような構造なのか、教会の本部、神殿なるものが鎮座している。その背中に山を背負っているので攻められにくい造りだと思った。少し先で待っていたラングに並び、同じタイミングで腕を組み、ラングが少し嫌そうに腕をほどいた。


『正面だけが見えている状態で、裏が山で隠されている。逃走経路は山の方だろうな』

『だね。守りも考えて置かれたのかな、それとも何か意味があって置いたのかな』

「ははー、攻めにくそうだな。行ってみるしかないか」


 ツカサと逆にアルも並んで腕を組む。ラングは小さく溜息をついてテルタを振り返った。


「徒歩でいいな?」


 それは子猫と化したユキヒョウの背に乗らないということを言いたかったのだろう。だが、テルタには乗り物がないのかと受け止められたらしい。


「馬がある。人数分ないから、二人ずつ騎乗してもらうことになる」


 馬の数は三頭、まず一頭はテルタ、テルマ。さらに一頭はラングとツカサ。最後はアルとキスクだ。


「アル、馬乗れるの?」

「一応な、コアトルのが得意だけど」


 コアトルに乗っている姿は知っていても、ルフレンに乗っている姿は見たことがないのでツカサは少し不安だった。アルの前に乗って鞍を掴んでいるキスクは乗馬が初めてらしくガチガチに緊張している。ユキヒョウも預かりツカサの服の中に入れ、落ちても怪我はしないよう物理魔法障壁はかけておいた。なんとなく魔力に包まれるのはわかったのか、キスクは震える声で礼を言った。


「急げば、仲間が門を預かっている時間に戻れる。ついて来い」


 テルマが馬を走らせ、他の二頭もそれに追従した。ツカサはラングの背中から腕を回してしっかり掴まってはいるが一人での乗馬とは感覚が違う。ラングと馬の揺れに自分も合わせなくてはぐらつきそうで回した腕に力が入ってしまった。


『くっつくな、走りにくい』

『だって、安定しなくて』

『しがみついているからだ。お前、馬には乗るんだろう?』


 うん、と答えれば少しだけ速度を落としてラングがツカサの腕を外させた。


『乗り方を知っているのならば、私のベルトを掴んでいろ』


 ここだ、とラングが自身のベルトの両脇へツカサの手を持っていき、ツカサは言われるままにそれを掴んだ。手綱を掴むのとは少し形は違うものの、ルフレンの手綱を握る感覚を思い出し、背筋が伸びる。


『それから、鐙は譲ってやる』


 ラングは片方ずつ順番に鐙から足を抜き、ツカサはよっと足を伸ばしてそれを掴まえた。うん、足を置けるだけで随分と安定感も違う。ラングは大丈夫なのかと聞こうとした瞬間、馬の速度が上がった。話している間に少し置いていかれていたので距離を取り戻すらしい。ラングは鐙が無くても大丈夫だった。


 駆け続けて一時間程度、遠く見えていた城郭に辿り着いた。近づけば近づくほど高い壁は真下に着くころには真っ直ぐに上を見上げる羽目になった。積み上がった石は大きく、硬く、所々に凹みや削れがあり、戦乱の歴史を感じさせた。周囲を取り囲むように水路があり、それを跨ぐように木製の分厚い橋が掛かっている。橋を上げればそれがそのまま門になるのだ。

 検問に立っている兵士は白くて長いチュニック、ジャラジャラと鳴る鎖帷子、目元だけが見える兜など、制服のようになっていて一組織であることがわかる。その内の一人がテルタとテルマに気づき、こっちだ、と手を振った。


「早い戻りだったな、どうした?」

「商会長に会いたいという人が居て、雪山の状態を教えてもらえるらしい」


 ラングが降りたのでツカサも倣った。アルはキスクをひょいと降ろしていた。テルタは書状のようなものを差し出し、敢えてしっかりと手続きを踏んでいるように見せていた。ひそひそとやり取りが続き、これもまた敢えて裏金を渡しているように手を握らせた。こうすることで他の兵士からの目を逸らすのだ。皆、中に入るために袖の下を渡しているということであり、門の入り口からして既に腐っていそうだ。


「よろしい、通れ!」

「ありがとうございます」


 テルタに倣い、ぺこりと礼をして検問を越え、フォートルアレワシェナ正教国の首都・レワーシェへと足を踏み入れた。


 門をくぐって暫く、道は両脇を高い壁に囲まれていて息が詰まりそうだった。上から矢雨を降らせ侵入者を殺すための仕様だ。ツカサにもわかるようになってきていた。もう一枚門があり、開いているその向こうからは賑やかな声が溢れ、そこをくぐったツカサの顔を熱気が叩いた。


 ――今まで通ってきた街々とはすべてが違った。

 人々の表情は明るく、まるでここだけ太陽が照っているかの如く温かい。空気が軽く、頬を撫でて通る風は柔らかく、冬の季節だというのに寒さを感じなかった。石造りの堅牢な街ではあるが道は広く、通り沿いに出された屋台は活気を呼んで、人々は美味しそうにものを食べている。チュチュリアネよりは年上だろう子供たちが走り回り、楽しそうな声を上げていた。空を見上げれば、久々に青空を見た。


『すごい、なんだろう、ここ』


 ツカサは今まで通ってきた道があまりにも灰色だったことに気づいた。いや、しかし、きっとそちらがこの世界の本来の姿なのだ。どこからか飛んできた花びらがひらりと風に乗って流れていった。その色がツカサの記憶を掠めた。

 ふと服の中でユキヒョウが身じろいだ。ツカサは宥めるように服の上からユキヒョウを撫で、そっと腰の感ずるもの(フュレン)にも触れた。少し震えている。ここは理が満ち溢れているのだ。だが、同じだけ魔力も満ちている。謎解きと情報共有は後だ。テルタに促され、一行は足を進めた。


 美味を楽しみ、歌い、踊り、騒ぎ、交わる。人々はまるで毎日をそうして過ごしているかのようだった。ここには一切の不安も不幸も苦痛もないのだと言わんばかりの姿に驚き、言葉を失う。自分の楽しみに溺れている人々がこちらを気にしないでくれたのは有難かった。この状況ならラングの黒いシールドについての言及がなかったのは納得だ。むしろ、ここまでの道中でそうであると見せていたように道化師か何か、催し物をやると思われたらしく、何をやるか知らないが楽しみにしてるよ、と好意的な声すらあった。

 大通りを物珍し気に歩くのは新参者の証なのだろう。ようこそ、と明るい声を掛けられ半端な笑みを返した。

 ちょっとあなた、美味しいから食べて行きなさいよ。お兄さん、可愛い子がいるぜ。なぁ、特別な酒があるんだよ、どうだ。君も踊っていきなよ。歌を聞いていきなよ。

 享楽へと呼び掛ける誘惑の声のすべてが本心からであるのが恐ろしかった。そうした声を置いてきぼりにして進んだ先は少し奥まったところにある商会だった。音楽はまだ聞こえている距離、けれど少しだけ静かな通りにそこはあった。【雑貨屋 イーグリス】。その看板の文字にごくりと喉が鳴った。その名を口にして繰り返せば、音は同じなのでアルにも通じた。


「イーグリス?」


 アルが呟き、ツカサは頷いた。馬を厩舎に入れにいったテルタとテルマに促され、先に中へ入れば明るい表情の店員が人懐っこい様子で声を掛けてきた。


「いらっしゃいませぇ! イーグリスへようこそ! 当店はなんでも揃っております! 欲しいのは高級な椅子ですか? リビングに映える棚ですか? 媚薬ですか? それとも惚れ薬ですか? 愛しいあの人との最高な夜でしたら当店が最高級のお宿をご紹介いたします!」


 ツカサは勢いに押されて後ずさった。ニコニコと貼り付けた笑顔の裏、目は笑っていない。外で心から善意で享楽に誘ってきた者たちとは違う在り方に、なぜかホッとしてしまった。この店員は()()を見ているのだ。


「リーダーへの客人だよ」


 テルタが入ってきて店員はがらりと態度を変えた。無表情に変わり、それから頬を揉んで表情筋をほぐすとだらりと肩を落とした。よほど無理をしてのあれだったらしい。

 テルタが店員に事情を話している間、ツカサは店内を見渡した。雑多にものがある。華美な装飾のランタン、何に使うのかまったくわからない棒、金糸で刺繍をされた赤いマントは王様の真似でもできるのだろうか。宝石のついた箪笥、箱、テーブル、椅子、なんだか尻が痛くなりそうだと見ていれば、キスクがふらりと一角へ歩み寄っていった。そこにあったのは素晴らしい金細工やアクセサリーの数々だった。


「……ドルワフロの技術だ」


 ツカサはユキヒョウの洞窟でキスクが見せてくれたいくつかのサンプルを思い出した。腕輪や指輪、ポンポンと土魔法で創り出されたものの中に似たようなものがあった。つまり、巡り巡ってそれがここに来たか、それとも、ドルワフロの願いを背負っていたはずの商人がここを終の棲家に選んだのか。キスクは難しい顔で金細工を眺めていた。ツカサはその肩をそっと撫でた。


「それも聞いてみよう。ここにある理由は知ってもいいと思う」

「あぁ、うん、そう、だな」

「待たせた、奥に案内するよ」


 テルタに声を掛けられ皆で頷き合ってから促される方へ向かった。

 カウンター横の扉を抜けて赤い絨毯と金細工の燭台を眺めながら進む。扉の奥から穏やかなマダムの笑い声がする。違う扉の奥からは居丈高な男性の笑い声、違う部屋からは若い男女のご機嫌な声がした。今そこで商売は進んでいる。世界がどうなるかなど心配もない声で、前向きに、未来への輝きすら抱いて。

 アルは一度ツカサの肩を掴んだ。これはツカサがどうというよりは、アルが自分を抑えるためにそこにツカサを求めたのだろう。何もない谷と崖の街を見てきて、そこに揺蕩う黒いものをその手で眠らせてきたアルにも思うところはあるのだ。


「いい商談だった!」


 先ほど豪快な笑い声を上げていた部屋から出てきたのは大きな男だった。廊下は広いがこちらの人数が多いのでお互いに愛想笑いで通り過ぎようとした。


「おや、素晴らしい槍だな!」


 アルの背負う槍・オルファネウルに目を輝かせて大男はそれを覗き込んだ。アルはしっかりと背を壁に向け体の正面を男に向けた。


「その槍はどこで手に入れたんだ? いやぁ見事だな! いくらで売ってくれるんだい? ここにいるからには君も売り物か、商売人だろう? 今こちらで商談が終わったところでね! その槍の売買について話をさせてもらえないだろうか!」

「だめ」


 はっきりとした拒絶を端的に伝えるアルに、大男はさらに様々な条件を出してきた。聞き取れない、理解はできない、それでも槍を求められる不愉快に日頃明るい男が真顔になっていく。アルも十分に身長があるので引けを取らないが、大男はそれを越えて大きい。その体はまるで。


「コーポルヒィオ……?」

「おや? 私の名を知っているのは……」


 ニコニコしていた大男が横を向いて青年を見遣り、真っ青になった。キスクは帽子を外し、じぃっと大男の顔を、こちらも真顔で覗き込んでいた。大男は情けない声で尻もちをつき、ガバリと許しを請うように両手を合わせ、顔を伏せた。


「クィースク様ァ……!」

「コーポルヒィオ、金細工とかを売ったのはお前だったのか。ドルワフロを背負っていたにもかかわらず、裏切ったのはお前だったのか!」


 キスクが今までになくはっきりとした怒気をみせていた。大男は体を震わせて謝罪の言葉を繰り返していて会話にならない。外の騒ぎに楽しそうな声は止み、誰もがアトラクションを見るかのような好奇心旺盛な目を隙間から覗かせていた。ツカサはそうした人の不幸すら自身の愉しみにする人間の本質にゾッとした。悪目立ちはし過ぎない方がいいだろう。ツカサが歩み寄る前にラングが大男の首根っこを掴んで顔を上げさせた。その顔は許しを請う声とは裏腹に、にちゃりとした笑みを浮かべていた。

 汚い笑顔だった。失敗がバレた大人のどう誤魔化そうか考えている、愛想を含んだ変な笑顔。キスクの周囲がすぅっと冷えていく。魔力暴走に近いものを感じ、ツカサはその肩を掴んだ。


「キスク、深呼吸。腹が立つのもわかるけど、魔力を落ち着けて」

「……あぁ、うん……」


 背中を撫でながら魔力を宥めるようにしてやれば、キスクは何度か深呼吸してどうにか落ち着いた。足早に駆けつけた他の店員が思いきり手を叩いて視線を集めた。にこ、と微笑むその顔の胡散臭いこと、けれど、状況を動かすにはちょうどよかった。


「やぁ、お客様方、申し訳ございません。少し商談に問題があったようで……。どうぞ奥へ」


 床に膝をついた大男もまとめて促され、好奇の目に晒されるよりはましだと皆で奥へ行く。豪華な部屋にでも通されるかと思いきや、倉庫を通り、階段を下り、明らかに隠し部屋のような場所へ案内を受けた。ツカサたちはこの先にショウリがいると考えているが、大男は何が何やらわかっておらず、逃げ出したそうにしていた。

 最後の扉を開く。石壁、燭台、地図、本棚。情報を集めに集めているといいたげな紙束。卓上のランタンに照らされていた男がゆっくりと振り返った。


『あぁ、やっぱりお前かよ』


 懐かしい日本語。壮年の男は優しそうな人相をしていた。クリーム色の癖毛、青い目、到底そうとは思えないがなぜかわかる。


『シュン』

『今は、ショウリだ』


 手に持った本を閉じ、ショウリが穏やかに微笑んだ。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


出会いました。


1巻書影

挿絵(By みてみん)


2巻書影

挿絵(By みてみん)

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