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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第三章 女神の欠片

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3-9:雪山の弔い

いつもご覧いただきありがとうございます。


 アルの連れてきた大鷹・ホムロルルの覚悟(トリニク)のおかげもあり、敵と味方がはっきりとした。


 キスクの歌った歌は【本物の理の女神】の歌であり、信じていい。

 キスクの聞いた声は【偽りの理を騙るもの】であり、信じてはならない。


 サルムのことを見てきたアルはキスクについてその身を奪われている可能性を危惧したが、ユキヒョウと大鷹から今近くにいる生者は己の肉体と魂を持つ、と証言があって懸念を晴らしてくれた。トルクィーロはと問えば、そっと目を逸らされた。一先ず、よかった、そうでなければキスクに対し剣を握る人がいた。大鷹はようやく翼を閉じた。


 有難いのは【精霊の道】に対して揃えるものが明確になったことだ。この世界が百年で滅びる前に脱することはできる。

 ただ、キスクやチュチュリアネを置いていけるのか、とアルはまた不安を口にした。ツカサの気持ちに寄り添おうとしてくれる槍使いは、ラングの年齢が自身より年下であると聞いてから、年長者であろうとしてくれている。

 ツカサはアルの、即座に自身の立ち位置を変えられる柔軟さに尊敬を抱いた。だからこそ、パーティに一人は欲しい男なのだ。立ち位置に拘らずに立ち回りを優先してくれる人というのは、本当の意味で調和をもたらしてくれる。

 【ラング】が皆のブレない芯であるのならば、アルは立ち回りを変えながら人手のないところを埋めてくれるバランサー。【ラング】の認めた前衛(アタッカー)はそうした意味でも強いのだ。ツカサは穏やかな声で言った。


「世界が終わるとかを伝える気はないよ。【理の女神の宗教】って、ややこしいから、フォートルアレワシェナ正教って呼ぶようにするけど、それを倒す手伝いを約束してる。できる限りのことはして、最初の目的通り、ラングを連れて帰る。ラングを連れて帰るのが一番、それができなくなりそうなら、キスクのことは申し訳ないけど」

「まあ、そうやって決めてるならいいか。細かい作戦だとかそういうのは任せた」


 うん、とツカサが頷いて答え、ラングを見遣った。ここまでツカサとホムロルルとで通訳を入れているので話題に置いていかれることはないだろうが、ラングは腕を組んだままじっと考え込んでいた。


『ラング? どうかした?』

『【精霊の道】は加護を集めた者しか通れないのか?』


 ツカサの声が切っ掛けになったのか、ラングが大鷹に問いかけた。やれやれと翼を広げ、大鷹は答えた。


『鍵を開ける役目を担うだけだ。一緒にいる奴らなら、通れるぜ』

『ホムロルル! 本当にトリニクになってしまうのである!』

『もう手遅れだっつってんだよ、こうなったら洗いざらい全部話してやんのさ!』


 ハハハ! と相変わらず自暴自棄に笑い、大鷹は翼を閉じた。アルがその両翼を上から下に撫でて宥めていた。


『【精霊の道】の行く先は決まっているのか? ツカサの話ではどこに行くかわからないというような話だった気がするが』


 大鷹は再び翼を広げ、少し疲れた様子で嘴を開いた。


『そこは小僧の中にいる時の死神がうまいことやってくれると思うぜ? 命を運ぶ舟の役割は、神の中でもでかいからよ』

「神様の序列ってやっぱりあるのか?」

「ある、だがまぁ、そこを詳しく話せるほどの知識はオレ様にもねぇよ。お嬢……【理の女神様】と関わったことのある時の死神くらいだ。随分昔に、ちらっと見ただけだけどな」


 大鷹は翼を閉じ、ふぅ、と息を吐いた。アルの太腿に鉤爪をかけて上り、脇腹に収まるようにしてそっぽを向いた。休みたいらしい。なんとなく話はここまでの空気になり、ツカサは床に敷いた毛皮の上にばたりと倒れた。アルの旅路とそれがもたらした情報の密度に胸やけがする。


『最悪、救いたい者は救えるらしい』


 ラングの言葉にごろりと頭を揺らしてそちらを見遣る。黒いシールドがゆっくりとこちらを向いて、小さく傾げられた。


『【精霊の道】がどこにあるのかは吐かなかった。ということは、揃えるのが先決なのか、その実、知らないのか、それとも、揃えた時に鍵が開くものなのか。気になることはあるが大枠は見えてきたな』

『そうだね。西に行く方法を知るためにも、一度中央にあるフォートルアレワシェナ正教国に行って、ショウリに会って、道を聞いてみようか。ショウリが本当にキスクと会わせていい人なのかどうかも、視たいしね』


 行動の方針は変わらない。ルシリュに会ってみたいラング、ショウリに会ってみたいツカサ。次の目的地は変わらず首都レワーシェだ。


『西、ホムロルルの翼で飛べたらいいんだけどね』

『大鷹はよくとも、人間が死ぬ空気が空に蔓延していると言われれば仕方がない』


 そうなのだ。空を飛ぶという手段を手に入れてすぐ、西に行くのに翼を借りられないのかと尋ねたところ、西の空は毒が蔓延しているという。これは世界がひっくり返ったせいではなく、元からだそうだ。よくよく話を聞いたところ、西にはどうやら火山があるらしい。ツカサの魔法障壁を使って強行突破も考えたが、魔法障壁にひとつひとつ重ねていくのは調整が難しく、何かあった時を考えて大事を取った結果、後回しになっている。

 西に燃えたぎる炎の川がある。これが溶岩の川を指すのだろう。どんな場所なのかと想像を膨らませていれば、ラングがじっとツカサを見ていた。言外に起きろと言われたような気がして体を起こせば、それを待ってからラングの薄い唇が開く。


『偽りの神から取り戻すのだ。仲間を探し、力を集めるのだ。古き歌を知る者よ、歌を響かせ、その歌に応える者へ、この言葉を伝えなさい。【異邦の旅人】よ、片鱗を集めよ』

『あぁ、キスクの聞いた声?』

『敵だとするなら、なぜそんな声を伝えたのか』


 これは、ラング特有の【ひとつ解決したからといって気を抜くな、謎はまだあるだろう】のフェーズだ。ツカサは姿勢を正して改めて手記を開いた。情報共有用とメモ用だ。どうぞ、と手で促せばラングはシールドの中で眉を顰めてから言った。


『言葉を伝えてきたものが敵だとするのならば、この言葉には従わない方がいい。だが、何かしらの意図は確実にあるはずだ』

『うん、まぁ、そうだよね。それに、結局、【片鱗】ってなんなんだろう』

『……命そのものだとしたら不味そうだ』


 腕を組み続けているラングの手が顎を撫で、思案の様相で唇を尖らせる。命そのもの、という言葉にツカサは自身の胸に手を当てた。


『土地神たちはツカサが命を引き受けなければ黒く堕ちてしまう。だからこそ(いざな)うことはした方がいいとは思う。しかし、その命を集めることでシュンとやらが有利になるとしたら、なぜだろうな』

『うーん、命ってすごいエネルギー、力を持ってるんだけど、まさかまた、何か創ろうと……?』


 ツカサは思いついたこと、かつてあった世界に降り注いだ雨や、ダンジョンを形成したもの、人の命を爆発に変えた事象などをラングに伝えた。その規模を上手く伝えられなかったが、大きな出来事の切っ掛けになるだろうことはわかったらしい。


『お前は少し、自分の身を気をつけるべきだな』


 確かに。今、命を抱え込んで空間収納の中にたくさんのそれがある身としては、狙われてもおかしくはない。


『話せば話すほど謎が増える。私には触れたこともない真理が多すぎる』

『安心して、俺も初めて触れることばっかりだから』


 ふ、とラングの口元が笑い、ツカサもへへ、と笑った。


「ツカサ、情報共有して。多少はわかるけど、ホムロルルがさすがに疲れてなんも通訳してくれないんだ」


 アルの困った声にツカサは今話したことを伝えたが、この状況もどうにかしなくてはならない。アルにはラングの故郷の言葉をしっかりと教えることにしよう。


 ――トロッコの道を利用し、ドルワフロを出たのはそれから三日後だった。


 残りの日数でツカサは空間収納に入れてあった【神子派閥】の斥候の死体を弔わせてもらった。命は既にツカサが光に変えて空間収納に、これは溶けなかった抜け殻といえる。雪山の墓は寂しく、名を刻んだ墓標と小さな鉄製の箱が埋められ、まるで戦場の墓場のように立っていた。中から声がするんだ、という鉄製の箱を開けてもらい、そちらもついでに(いざな)った。


 弔い方は驚いたことに、炉から取り出した赤と白の高温の石炭の上に乗せて焼く形式だった。遺体の焼ける臭いは上の通気口から抜けていくが、なんとも言い難いものが漂い、自然、呼吸回数は減った。腐臭ではない。肉を焼く時のにおいでもない。ただ何か、くすんだ蝋のような、焦げたにおいだった。かつての故郷の火葬場では、閉じてしまった後のことは知らない。ツカサはまだ熱い骨と灰から漂う独特のにおいを思い出していた。


 この葬送の儀、ラング曰く、薪を組んで焼くよりも臭いは少ないらしい。火力の問題なのだろう。それから目を逸らすことは許されない。彼らを持ち込んだのはツカサたちなのだ。

 焼いて残った骨は砕いて灰に混ぜ、それを手のひら大の鉄製の箱に入れて葬送の儀は終わりとなる。これが埋められるのだ。骨壺と同じなのだなと思った。

 ポーツィリフとキスクとともに埋めに行った際、ツカサがぼんやりと思いを馳せていれば、アルが隣に立って崖の街・ファンファルースの弔い方法を教えてくれた。曰く、遺体を谷に投げ捨てるのだそうだ。


「弔いの方法の一つだからさ、捨てるって言葉も正しくはないんだと思う。でも、そういうのもある」

「そっか」

「ちなみに、オルファネウルはこの国が嫌いだ。ほら、オルファネウルも、マール・ネルも、自分を武器の材料にされただろ? 鍛冶師そのものが好きじゃないんだ」


 アルが風呂に行く際、ツカサの部屋に槍を置いていったのはそういうことだったのだろう。マール・ネルは常々ツカサの空間収納にいたのでよかったが、武器を背負っているアルは配慮をしたそうだ。特に、アルの槍は造形も見事だ。鍛冶師であればぜひ見せてくれと言う者はもちろんいて、丁重に断っているらしい。


「俺、だから防具屋は行っても、武器屋はあんま行ったことないんだよな」

「まぁ、オルファネウルさんは最高の相棒だろうしね」


 むしろ他の武器を見る必要がないのだ。アルはそうそう、と言いながら、鉄製の箱が埋められていくのを眺めていた。


『一時的に火の勢いは落ちるが、だからこそ、炉から抜いた石炭で焼くのは奴らからの、最大の敬意なのだろうな』


 ラングの一言にツカサは土の掛けられていくそれへ視線を戻した。理由はあれど命を奪ったもの。部外者である彼らをドルワフロの炉の熱で焼いてくれたことは、ツカサやラングに対する敬意でもあるのだ。


『その土地によって、弔い方って変わるんだね。……厳しいなぁ』


 言いながら、ツカサは最後の土をかけて大地を撫で、不思議な感動を覚えていた。


 弔いを済ませ、頼んでいたレターオープナーを受け取った。素晴らしい出来だった。一見すると淡い紫のナイフだ。持ち手の丸みに親指を添えられるように両側が削られていて、右でも左でも、とても扱いやすい。両刃になっているが指で触っても切れない。先端の鋭いところを封筒の端に入れ、すっと開けられる仕様だった。機能の邪魔にならないところに青い宝石が埋め込まれていて全体がキラキラと美しく輝いており、最高の一品だ。余った鱗は正しく返却され、喜びを伝えるために改めてドルワフロへと寄贈した。


 礼に再び食料庫を満たし、首都を目指してトロッコの道を行く。

 メンバーはツカサ、ラング、アルの【仮・異邦の旅人】、トルクィーロとユキヒョウと大鷹、それから、【打倒・偽りの女神】に対して旗頭となるキスクだ。

 ロトリリィーノには今暫くフォートルアレワシェナ正教に対し、頭代理を務めてもらうことにした。


 向こうからトロッコが来る可能性も考えながら、再び、闇の中を進んでいく。

 新しい場所、フォートルアレワシェナ正教国、首都・レワーシェを目指して。

 


いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


新しい場所を目指して。

その先で何があるのか。

未だ謎のままの答えはどこにあるのか。

旅人よ、暗闇をランタンで照らせ。

歩みを止めるな、恐れることはない。

歩き続けられるだけのランタンの明かりは、もう、渡している。


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