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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第二章 失った世界

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2-65:試運転は悪路にて

いつもご覧いただきありがとうございます。


 本日も外は雪。部屋の暖炉に火を入れて、こっそりソーセージを焼いてラングと食べた。未だ米や大麦のスープで体調を整えているドルワフロの民たちには悪いが、そろそろ肉が食べたかった。

 そしてこうした美味しいもののにおいに敏感なのが子供だ。チュチュリアネが部屋に来てソーセージを強請った。暖炉の前に毛皮を敷いて座り込んだツカサとラングの間に座って、はぐはぐ食べている姿に目を細める。いずれこうして自分の子供も、ラングやアルとこっそり夜食を食べていたりする時に混ざりに来るのかもしれないと思うと、なんだか面映くて堪らなかった。守らねば、と何度思ったかわからない。


 満腹になったチュチュリアネはそのまま眠ってしまい、ツカサのベッドに寝かせておいた。幼いチュチュリアネでも現在の状況を鋭く察知しており、体力を使わないようにしているのだろうとラングは言った。確かに、遊びたい盛りの年齢だろうにチュチュリアネは走り回ったり、遊びを強請ったりはしない。キスクの話からするとかなりお転婆な印象があったので驚いてもいたが、そういうことか。

 ツカサが納得しながら部屋を出たところで慌てた様子のキスクと遭遇した。


「おはよう、チュチュ知らないか、いなくて」

「おはよう。俺の部屋で寝てるよ。遊びに来て、そのまま」

「あぁ、うん、居場所がわかってればいいんだ。……いいにおいだな?」


 あはは、とツカサは苦笑を浮かべ、キスクの肩を叩いた。


「試運転だからさ、体力いるかなと思って」

「まぁ、うん、そうだな。ツカサとラングは、そういうの我慢してほしくない」


 ツカサの肩を叩き返し、キスクはラングを見遣った。


「ポーツィリフが、依頼の品ができた、トロッコで待ってるって言ってた。親父と土地神様も、もう行ってる」

「わかった」

「悪いけど、頼んだ。あの先に何があるかは気になるけど、狂った土地神様がいるなら、気をつけてくれよ」

「うん、ありがとう。キスクも、頑張ってね」


 うん、と頷き、キスクはツカサの部屋へ入っていった。チュチュリアネを回収するのだろう。それを待たずにラングが歩き出したのでツカサはそのあとを追う。ロトリリィーノに一度案内されただけだというのにラングは道を覚えている。似たような場所を進んでいるのにどうしてわかるのだろう。


『そもそもさ、交易路に使われてたならもっとわかりやすい道を通るものじゃないの?』

『バケモノが出たからだ』


 ラングが足を止め、ツカサのトーチを壁に促した。そこを見ろということだとわかりツカサは顔を寄せた。

 曰く、造られた年代が違うらしい。通路を埋め、通路を増やし、複雑にし、誰かが辿り着けないように。もし何かあったとして、バケモノが迷うように、通路を壊し、移動の妨げになるように、そうした工夫がされているらしい。言われて見比べてみれば、確かに横の通路とこれから目指す通路では、後者の方が新しいように思えた。この分かれ道はそうだとしても、増やされた通路も古い通路も行かなくてはならないのに、どうして新旧見極め、行く先を決められるのか。


『私は歩数とそれを見て、においを嗅いでいる』

『よく見えたね。それににおい、そんなに違う?』

『お前のトーチは明るい、においも違う』


 その黒いシールドで、という意味合いだったのだが、道を辿り覚えるコツを教えてもらったのでよしとする。すんすん、と鼻を鳴らして嗅ぐが、埃っぽいというか湿っぽいというか、そうしたにおいが蔓延していて右と左の違いがわからなかった。時々思うのだが、訓練の賜物だとはわかりつつ、ラングはそうした部分が野生児なのではないだろうかとも思う。言葉にすると顰蹙を買うので黙っておいたが、誰か言ってほしい。

 黙々と歩きトロッコに辿り着くと、キスクの報告通り、そこにはポーツィリフ、トルクィーロ、そしてユキヒョウがいた。最後の到着につい、お待たせ、と言ってしまう。トルクィーロは気にしねェと笑い、ユキヒョウは待ったのである! と先に到着していたことを褒めてほしそうに言った。ポーツィリフはぬっとラングに何かを差し出した。


「旦那ァ、仕上げましたぜェ。依頼通りの品でさァ」

「ありがとう」


 ヘェ、とポーツィリフが布を取れば、そこにあったのは矢筒だ。マントを払い、革でつくられたベルトをぐいっと体に回し、右肩から矢羽根が出るようにしてラングは矢を抜いたりしまったり、その可動域を調べている。一本を抜いて、腰のポシェットから遺品(リト)の弓を取り出し、番え、射る。ふむ、と一つ唸ったあと土壁に刺さった矢を回収し、戻ってきた。


「いい矢、いい筒、ありがとう」


 へェ、と再びポーツィリフは恭しく頭を下げた。ツカサは見せてと頼んでラングに背を向けてもらい、矢筒を調べた。引き抜きやすいように、少し力を掛けると矢筒が傾く仕様になっており、ドルワフロの技術が光っていた。


「でもなんで弓矢?」

「ナイフ、飛ぶない、距離。弓矢飛ぶ」


 なるほど、何かあった際、遠くのものへ攻撃を当てるなら弓矢の方が飛距離がある、ということだ。せっかく職人がいるのだ、よい矢が欲しいと鍛冶場で依頼をしていたらしい。自分でできることの多い人だが、質を求めて誰かを頼れる柔軟さはいつも尊敬する。適材適所をわかっている人で、それをよく見極める。ツカサもそうでありたい、特に、生徒に対しては。あぁ、また、胸の奥がじくりと痛む。今の状況になって何日だろう。だいたい五十日は経っただろうか。日記のページを数えればいいのだが、そうすると実感が湧いてしまいそうで怖かった。

 この日数、どうなるのだろうか。ラングの故郷でも同じだけの時間が過ぎるのか、ツカサがリガーヴァルで最後に見たように何もかもが動きを止めているのか、確認のしようがない。


「取り戻せばいいだけ、だよね」


 それがどれほど難しくとも、何度も心の中で繰り返す。やるしかない。


「押すのである!」


 トロッコに乗り、ツカサがトーチを前方、後方に置いて、シーソーのようなポンプ、いや、レバーをツカサとポーツィリフが握り、ラングが目の役割を引き受ける。その布陣になってから、トルクィーロを背に乗せたユキヒョウが頭を当ててゆっくりと力を入れた。それに合わせてレバーをぎっこんばったん、徐々にその力だけで走り出し、ユキヒョウが並んだ。ポーツィリフが押して、引いてをしっかりとしてくれるのでツカサは押す方に全力で力を込めるだけで済んだ。

 ガタガタ、ギャリィ。レールを走り、継ぎ目を越えるガタン、ゴトン、という音が懐かしい電車を彷彿とさせた。乗り心地は比べるまでもない。鈍く鳴る風を直に体へ感じ、マントがバタバタとはためく。ツカサは進行方向側に立っているので、思った以上に背中へ受ける風の強さに背が丸まりそうだ。


「もうすぐ下り坂でさァ! 一気に速度が上がりますぜェ!」

「魔法障壁は張ってあるから、放り出されても大丈夫!」


 ちげェんで、とポーツィリフが叫ぶ。


「押すのをやめるんでさァ!」

「わかった!」

「旦那ァ! レールを切り替えるレバーがありやすんでェ、昔のまんまならァ、これァ首都にいく経路だァ、南にィ……」

「射る」


 止めないのかよ、と誰もが思った。


「止めないのである?」


 ユキヒョウが言ってくれた。


『一度止まると速度が出るまでに時間が掛かることは理解した。もし、バケモノに遭遇したとして、逃亡を選ぶのならば、最初からこの速度を保つべきだ』

『なるほどね!』


 ツカサは通訳を入れ、方針を伝達。そういうことならとポーツィリフが再び筋肉に力を入れてこぎ始めた。ラングが矢を番え、向かい風を射抜くように矢を放った。ビュンッ、暫くして、ギィン、と硬いものに当たる音。次いでもう一矢放てばガッコンと遠くから音がした。


「お見事でさァ!」

「重い」

「切り替わってよかった、これで南に……、ッラング!」


 金属の擦れ合う音を立てながらトロッコが少し傾いて分かれ道をいったところでむずっとした。ツカサが名を呼べば少しだけシールドを傾けて聞いていることを示し、ラングは左頬を二度叩いた。紋様が出ている、つまり、来る。ぐんっと一瞬トロッコが上に持ち上がり、ジェットコースターのようにがくんと前に滑り落ちていく。臍の下がひゅっとして肩までぞわりとしたものが走り、ツカサは思わずトロッコにしがみついた。ガーッと下っていくトロッコの速度に感動する暇など無く、あまりの速さにレールと噛み合っている車輪が飛ぶのではないかと不安になった。飛び散る火花もまた激しい。顔を叩く風圧も一気に上がり、息がし辛くてトロッコに顔を隠す。


「うわ、うわぁぁ! 速くない!? 速すぎない!? これ試運転だよね!?」

「ガハハ! 試すならァ最初に最悪のやり方でェやった方がいいぜェ!」

「トルクィーロさんはユキヒョウの背中だからそんなこと!」


 いつの間にか周囲にはトーチで照らし出される横穴が増えていた。明らかに何かの通り道らしいそれに気づくと、ツカサは直感のようなものを感じた。ラングは矢に指を掛け、叫んだ。


「来るぞ!」


 耳をつんざく甲高い鳴き声。トロッコの通り過ぎた横穴から黒い塊が飛び出してきた。土を掻くために特化した前足、毛むくじゃらの体、つんと尖った鼻。これは、巨大なもぐらだ。あとを追いかけてくる速度も凄まじい。


「ツカサ! 鑑定!」

「堕ちた土地神、タルマティア! 手遅れ!」

「ひぃぃ! タルマティアー! 我なのであるぅー!」


 ユキヒョウは逃げる速度を一気に上げて並走していたトロッコからやや前に出た。トロッコは下り坂、今は速度が勝っている。だが、やがて平面になり押さねばあっという間に追いつかれる。


「トルクィーロさん! こっち来て、レバー押して! 俺とラングは土地神を対応するから!」


 おう、とトルクィーロはユキヒョウの毛皮を掴んで寄せさせるとドッスンと落ちてきた。その振動でも脱線しないトロッコの強度を確認でき、レバーをドルワフロの男に任せてツカサは後部に足を掛けているラングの横に並んだ。


『どうしよう? 弓矢ってあれに効くのかな』

『わからない、だが、双剣を投げるわけにもいかない。お前の魔法はどうだ?』

『氷魔法は被害少なく行けると思うけど、トロッコを止めてる間に壊されたらどうしようかなって感じ』

『ならば直接、飛び移って対処するしかないように思う』


 真正面から飛び移るか、ユキヒョウに近づいてもらうか。(いざな)う力を持つツカサはこうした土地神を引き寄せやすいので、今撒いたとしても結局どこかで対峙は必要になる。トロッコを止めて対峙してもいいが、横穴が多い。それは崩れやすさも示している。

 モグラは奇声を発しながら前足で壁を抉り土塊を飛ばしてきた。レールとトロッコに当たらないように魔法障壁で弾けば、横穴にずるんと消えていった。ムズムズはある、紋様もある、もう一度来る。逆側の横穴から再び姿を現したモグラの突進を魔法障壁で防ぎ、へばりつくようなねっとりとした黒い液体が飛び散ったことに生理的な嫌悪を抱く。腐ったトマトを投げつけられたかのような広がり方だ。それが再びずるりとモグラに戻っていくのも気味が悪い。ラングがそれをすぱりと斬り裂けばざぁっと灰が落ちていく。


『やはり剣か。飛びつくしかなさそうだ』

『俺もだよね、どのタイミングで!?』

『矢を射る。痛みに呻くようであればその隙を狙う。反応があるかを一本試す。高さがほしい、肩を貸せ』


 ラングは片足をトロッコの縁に、片足をツカサの肩に置いた。ツカサはグッと力を込めて足場にされ、ラングの足を掴んで支えた。大きく弦を弾いて射られた矢は真っ直ぐにモグラの眉間を射抜いた。耳を塞ぎたくなるような金切り声、少し距離が開いた。だが、効きはするらしい。ラングは一度トロッコに戻った。ツカサはドルワフロの男たちに叫ぶ。


「これから俺たち、あいつに飛び乗って対処してくる! ユキヒョウ、安全が確認出来たらでいいから、迎えに来て!」

「ひぃぃ! ひぃぃ! わかったのである!」


 ラングに頷く。ツカサのそれを待って、ラングはもう一度矢を番えた。次は少しだけ姿勢を低くして、違う部位を狙う。モグラが再び接敵してくる。黒い何かを口から吐きながら大きく腕を振ってトロッコを狙ったその瞬間、ラングの矢が迷いなく射られた。シュパッと白い線を描くようにして真っ直ぐに射られた矢はモグラの口の中に入り込み、ングッと何かを堪えさせた。

 合図など何もなかった。二人でトロッコの縁を踏んで跳び、ラングが少しだけ早くその体に双剣の一本を刺し、飛び乗った。ツカサも感ずるもの(フュレン)と水のショートソードの二本でどうにかしがみつき、(いざな)いの歌を口にした。

 ラングの剣の先から溢れていたものに辿り着き、白く輝く軌跡が洞窟内を散らばっていく。それらはあとを追うようにツカサに追いつき、その体に入り込んでいく。モグラは叫びながらも走り続けていたが、やがて失速、ふら、ふら、と巨体をよろめかせた後、ズゥンと倒れ込んだ。ラングは弓をしまい、もう一本の剣を刺し込み、黒い体を斬り開いていく。ツカサの歌が最後まで続き、終わるその一瞬、モグラの中から何かが飛び出してトロッコを追いかけた。


「え、何!?」

『速い、追うぞ!』


 ラングの手元にモグラも黒い命もない。ツカサの体に入っていく光の粒はあるものの、何かが逃げていくのを捨ておくわけにはいかない。トロッコもなしに走る。トーチの明かりの下、黒い何かがちょろちょろと凄まじい速さで駆けていく。ラングがそれを追って速度を上げ、矢を撃ちながら駆けていく。ツカサは置いていかれ始めた。


「おーい! 無事かァ!?」


 誘っている間にトロッコを止めてユキヒョウとともに駆けつけてきたトルクィーロの声に、ツカサが叫ぶ。


「気をつけて! 何かいる!」


 うわァ、なんだァ、と叫んだのはトルクィーロ。どさりと落ちたのもトルクィーロだろう。ツカサは風魔法を使って自分の後ろから風を起こし、必死に辿り着いた。ラングのマントが見えて駆け寄れば、シールドを揺らされてそこを見た。最後番えた弓矢は、トルクィーロに向いてしまったのだろう、撃ち切れなかったらしい。


「これはなんだ」


 問われ、ツカサは困惑した。トーチの下にいたのはラングとユキヒョウ、そして。


「なんだァ……!?」


 トルクィーロの声を発する、モグラだった。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


にこり。


1巻書影

挿絵(By みてみん)


2巻書影

挿絵(By みてみん)


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