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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第二章 失った世界

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2-60:掠れた証言

いつもご覧いただきありがとうございます。


 誰かに名を呼ばれた気がして、唸った。瞼が重かったがどうにか開き、薄目で周囲を見れば記憶にある明かりよりも眩しかった。

 まず部屋の暖かさにここが死後の世界か、快適だ、と思った。背を支えてくれている誰かが飲め、とスプーンを口元に運んでくれて水を飲まされ、至れり尽くせりだとも思った。右腕はふかふかの毛皮に埋もれていてそれを楽しむこともでき、なんだか息がしやすい。こんなに楽になれるのならば、もっと早く死ねばよかったと口元に笑みが浮かんだ。


「ロトリリィーノさん」


 呼ばれ慣れない呼び方。皆が頭代理、ロトリィ坊と呼んでくる中で聞いた覚えのない響きと声だった。目元が少し重い。左手からじわりと温かくて心地よいものが流れてきて、すぅっと体が軽くなった。そうしてようやく声の方を向けば、色の違う両眼を持った青年が心配の表情でこちらを見ていて驚いた。


「君は……?」

「初めまして、ツカサって言います。ロトリリィーノさん、これ、何本?」

「あぁ……二本……」


 うん、大丈夫そう、と青年が頷き、体を支えてくれていた誰かがどいた。クッションか、布団か、さらさらで心地よい何かが引き続き支えてくれた。このまま埋もれていたい。何度か瞬きを経て周囲を見渡せば、青年の後ろに兄の姿、甥っ子、姪っ子と並んでいて、眉間にしわが寄った。


「なんで……みんなを生かすために……私は……!」

「落ち着けェロトリリィーノ。クィースクとォ、チュチュは生きてらァ」

「兄者は……兄者は」

「悪ィなァ、死んじまってェ、今はァちょっとしたァ慈悲だァ」


 あぁ、そんな、と涙が零れた。色の違う両眼を持つ青年がその指で拭ってくれて、それにまた溢れてしまう。姪っ子がベッドをよじ登り、ぎゅっと布団に抱き着いてきた。


「おじちゃま、なかないで、チュチュがぎゅ、してあげる」


 左腕を持ち上げて癖毛を撫でてやる。この子だけでもと思ったが、食料もないドルワフロで守るには無理があった。姪っ子から離した手を甥っ子が掴み、そこから感じる温もりにホッとする。生きているのだな、クィースク。


「ロトリリィーノ叔父、何があったんだ? 親父が死んだのはなんでだ? ドルワフロにいったい何があった?」


 教えてくれ、と懇願する甥っ子の表情に目を細めた。こんなに大人だっただろうか。三年、暫く見ないうちに随分と成長していたらしい。指を動かせば甥っ子がそっと手を離してくれた。左腕を持ち上げて甥っ子の肩に手を置き、頬を撫でようとすれば、甥っ子が再び手を取って自ら寄せてくれた。


「クィースク……なんで戻ってきた……? 私は、お前に、戻るなと……言いたくて」

「それで俺に親父殺しなんて罪を? 殺されかけたよ……! それに、鍛冶場の事故があったって聞いた、なんで」


 悪かった。もっとやりようはあっただろうに、そうしなくては奴らが何をするかわからなかった。伝言を頼んだはずの商人はドルワフロを捨てて逃げてしまい、結局、誰にも正しく意図を伝えられなかった。

 鍛冶場もそうだ、鍛冶師が戻ってきてくれて嬉しかった。素晴らしい出来栄えのものさえあれば、金を出し、食料を譲る商人だっているだろう。だから、鍛冶場で礼を言い、どうか力を貸してほしいと懇願した。

 しかし、ロトリリィーノが嘘を吐いていたと鍛冶師たちと諍いになった。そうして排熱の経路を変えるレバーを皆が気づかずにあちこち押してしまい、結果は炎が戻ってくるという事故に繋がった。すべてが上手くいかない。ロトリリィーノは悔し気に呻いた。


「だから、私は、頭代理などと、そんな器でもないのだと、あれほど……!」

「ロトリリィーノさん、何があったの? トルクィーロさんはどうして、死んだの?」


 ブツブツと呟いている自身にはっきりとした声が問いかけてきた。色の違う両眼で真っ直ぐにこちらを見てくる青年の眼差しは、責める気もなければ同情する気もないといった様子だった。ただ、真実を知りたいのだと訴えかけてくる言葉以上に雄弁なそれに、ロトリリィーノは小さく喉を鳴らした。意味の分からない慈悲だと言った兄の方が不安そうだ。


「……兄者、覚えていないのか?」

「悪ィなァ」


 困ったように笑い、髭を撫でる。その癖を見て、兄なのだと確認が取れて、ロトリリィーノは小さく息を吸い、時折水を飲みながら語りだした。


 ――パタン、と扉を閉め、ツカサは一度、深呼吸をした。話自体はそう難しい内容ではなかったが、話し手のロトリリィーノの体調もあり、随分長く掛かったように思う。

 ラングの薬湯と、ツカサの渡した癒しの泉エリアの水と、ヒール。それからユキヒョウの毛皮の温もりが功を奏してかロトリリィーノは少しずつ顔色を取り戻し、目を覚ました。

 そうして語られた話にツカサは拳を握り締め、言葉を呑み込んだ。ドルワフロの一家を残し、ラングとともに廊下に出て、ツカサは防音魔法障壁を二人の周囲にだけ置いた。ラングは閉めた扉の向こう側から穏やかな声がしているのを確認してからツカサを見遣った。


『聞き取れない単語が多かった。それに、奴ら途中から訛りがすごかった。すまないが通訳をしてくれないか』

『もちろん』


 頷き、ツカサはロトリリィーノの話をラングへ伝えた。

 結論、トルクィーロを殺したのは守護騎士(パラディン)だった。ツカサは驚いた。そして、しまった、と思った。守護騎士(パラディン)・グルディオは【神子排斥派】と言っていい。その宣言と、そのあとに続いた言葉にも【鑑定眼】で見る限り嘘はなかった。グルディオの属する派閥のリーダー・ルシリュは【囁きを聞く人】だ。話を聞いて、ツカサは【守護騎士(パラディン)は神子を排斥する派閥】だと考えていたのだが、それが短絡的だったと反省した。

 十二人の守護騎士(パラディン)の内、何人が【神子派】なのだろう。


守護騎士(パラディン)の中でも【神子擁護派】があるって考えてもよかったよね。交易都市でグルディオと居た部下の中に、その派閥の人がいたわけだし』

『キスクが精霊の声を聞いて戦力を探し求めにドルワフロを離れてすぐ、守護騎士(パラディン)が来て、神子に降れと言った、か』


 ラングは腕を組んでふむ、と考え込んだ。その沈黙の間にツカサはトルクィーロとロトリリィーノの話をもう一度整理した。ブツブツと声に出す方式ではあったが、沈黙を求められない限り、ラングには問題ない。


 トルクィーロはキスクから聞いた「偽りの神から取り戻すのだ。仲間を探し、力を集めるのだ。古き歌を知る者よ、歌を響かせ、その歌に応える者へ、この言葉を伝えなさい。【異邦の旅人】よ、片鱗を集めよ」という言葉を自分の胸の内に秘めていたらしい。それを知ることで娘チュチュリアネが、弟ロトリリィーノが巻き込まれることを危惧していたのだと言った。

 ロトリリィーノはそうとは知らず、突然友人たちとドルワフロを出ていったキスクの姿に、まるで追放のようだと思い、兄トルクィーロを問い詰めていたそうだ。友人たちもまた密命として使命感を帯び、家族に言わなかったことも誤解を招いた。

 お互いに言葉が足りなかった。トルクィーロが素直に実は、と言っていたならロトリリィーノは協力したかもしれない。過ぎた話だ。今更あの時こうしていればなどと話したところで、トルクィーロが死んだ結果は変わらない。

 そうして秘密を一人抱え込んだトルクィーロと蚊帳の外に置かれたロトリリィーノはギクシャクとしてしまったらしい。


「甥っ子は、私と同じ、鉄を叩けない子で、孤独を感じさせたくはなかった」


 ロトリリィーノにも魔力が僅かながらあり、それが原因で筋肉がつきにくい体だった。大きな体に囲まれての生活、逃げ場のない雪山、洞窟の中。外に出ていくという選択肢もあれど、頭の一族に生まれたからこそ、ロトリリィーノはそれを選ばずにここで生きた。だから、成長するに従い、キスクがその体の成長に悩み始めるとロトリリィーノは寄り添った。その愛情はキスクが親殺しの罪を着せられたと聞いても、ロトリリィーノを信じるほどに深かったのだろう。

 小さな亀裂はそのまま修復されず、キスクが山を出てから僅か数日、入れ替わりのように守護騎士(パラディン)が来たらしい。まだ雪の降っていない時期で、移動は容易だったという。

 そこでトルクィーロは守護騎士(パラディン)から「神子に降れ、命を捧げろ」と言われたそうだ。ロトリリィーノもその謁見に立ち会っていたのでよく覚えていてくれた。


「神子に降れ、命を捧げろってどういうこと?」

「異変が、起きていて……そのために、人身御供が必要なのだと、言っていた」


 ゴルドラル大陸全土で死体の溶ける異変が起きている。それを乗り越えるために命を奪う。そんなことで解決には至らないとツカサは知っている。むしろ悪化するだけだ。狼の神獣が伝えたのだからルシリュ派はそれをしないはずだ。いや、タイミングがわからない。狼の神獣が現れる時とすれ違った可能性はある。考えても、仕方のないことか。

 組織というものはどうして一枚岩ではいられないのだろうか。【快晴の蒼】の本分である【空の騎士軍】も別の軍人たちとの関係性や方針の違いに頭を抱えていたのを思い出す。守護騎士(パラディン)もまた、内部の敵と戦っているのだろうか。まさか【神子擁護派】が守護騎士(パラディン)にもいるとは、盲点だった。


 謁見、対談はトルクィーロがのらりくらりと躱して終わったらしい。その態度が不服だったその守護騎士(パラディン)はその夜、トルクィーロの部屋でその年の収穫量について話しているところへやってきたらしい。部屋にはトルクィーロとロトリリィーノしかいなかった。改めて問われ、トルクィーロが「理の女神様の真心に応える」と同じ答えを返したところで、剣を刺された。分厚い毛皮と筋肉の鎧を持つトルクィーロを傷つけるならば、ツカサでも刺す方を選ぶ。つまり、守護騎士(パラディン)の殺意はもとより高かったということだ。


 だが、ドルワフロの戦士でもあるトルクィーロは剣を体に刺したまま反撃した。鉄を叩くために重い槌を握る腕だ。拳を握り締めて顔面に叩き込めば一撃で守護騎士(パラディン)を殺すことができた。首の骨がずれて頸椎が傷つけば抵抗はできなくなる。打ち所が悪ければ人は簡単に死ぬ。守護騎士(パラディン)は盛大に頭を叩きつけられて死んだらしい。

 騒ぎに守護騎士(パラディン)に随行していた教徒が駆け付けて呪詛を吐いた。ドルワフロに天罰が下る、滅ぼさねばと口々に叫ぶ。トルクィーロが刺されていることは一切無視だった。トルクィーロは腹に刺さった剣を抜き、教徒の声を黙らせるとロトリリィーノを見た。


「ロトリリィーノ、すまねェ、俺ァ堪えがきかねェからよォ……! 怪我ァ治してくるぜェ……!」


 ちっとォ、待ってろォ。ロトリリィーノの肩を掴みそう言って、トルクィーロは雄叫びを上げて教徒の間を走り抜け、居なくなった。それが傷を癒すため、霊薬を求めて聖域へ駆けて行った姿だったのだ。そして、トルクィーロは戻れなかった。

 残されたロトリリィーノは教徒に詰め寄られた。死んだ守護騎士(パラディン)への非礼と【理の女神】への不敬への罵詈雑言、そちらが剣を抜いて兄を刺したのだと言ったところで聞いてはくれなかった。

 人数の不利もありロトリリィーノは追いやられた。あちこちと話題が飛んで責められはしたものの、要は、守護騎士(パラディン)失態(死亡)をなかったことにしたい、教会の威光にかかわる、ということだった。

 守護騎士(パラディン)と戦力を率いてドルワフロを潰しても構わない。一切の交流を断つように交易都市や取引のある場所に言えば、すでに輸入に頼り始めているドルワフロをゆっくりと殺すこともできる。様々な脅し文句ではあったが、実際、収穫量の減っていたドルワフロでは非常に不味い話だった。

 ロトリリィーノは守護騎士(パラディン)の罪に眼を瞑り、兄の生死から目を逸らした。装飾品や金品の献金に守護騎士(パラディン)の遺体を紛れ込ませ、教徒たちは逃げるようにドルワフロを出ていった。ロトリリィーノは追放されたキスクが何かを聞きつけても「戻ったら危ない」と思うよう、兄の訃報と報せを出した。どこかにいるキスクに「守護騎士(パラディン)が殺した」という真実と、「危ないから戻らないように」という伝言を商人に託したが、商人は自身の家族を優先し、届くことはなかった。

 不器用で、やり方は盛大に間違っていたものの、ロトリリィーノは家族を守りたいだけだった。


『もっと情報網がちゃんとしていたら、話は早かったのにね。情報を持たせる人も見極めないといけないんだなぁ』


 直接電話ができるわけでも、チャットができるわけでもない。リガーヴァルのように伝達竜がいるわけでもないのだろう。ツカサがぽつりと呟けばラングはシールドを少し上げてツカサへ視線をやった。


『私には守護騎士(パラディン)の行動が理解できない。あまりにも短絡的すぎる』

『確かにね。ドルワフロの頭を殺そうとするなんて暴挙だし』

『何かしらの因縁をつけて最初から殺すつもりで来ていた、という方が正しい気がする。死んでもいい者を適当に担ぎ上げ、報酬をちらつかせる。生きて戻れば処刑、この場で死ねば重畳、そんな雑で穴だらけの意図を感じる』


 ほう、とツカサは顔を上げ、視線を合わせた。


『最初からドルワフロを潰すつもりだった?』

『人が減れば、食料の消費は減る。民族が減れば、民族間での争いは減る』


 どういうことだ、とツカサの眉が顰められた。ラングは声を潜めて言った。


『この危機を乗り越えるための選別だろう。よりよい血を残す、より強い種を残す、生きる者を選ぶ側が居る。もしくは、単純に自分が生き残るために糧の減少を抑えることが目的かもしれないが……』


 ゆっくりと、ラングは息を吸って、言った。


『ドルワフロはこの大陸を統べる者から、見捨てられたのだろう』




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


まったく別の作品を、いつかコミティアで出してみたい。

そう、本日はコミティアでしたね、次回こそは行きたいものです。


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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