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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第二章 失った世界

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幕間 2025年のいい夫婦の日

いつもご覧いただきありがとうございます。


「いい夫婦の日?」


 ってなに? と尋ねて来るモニカの疑問はもっともだ。ツカサは少し首を傾げながら答えた。


「なんか、いい、夫婦だよって、日?」

「ふふ、なぁにそれ」


 雪花の月二十二日、地球で言うところの十一月二十二日。いい夫婦の日。

 昔はテレビの中で芸能人夫婦を並べてベストオブなんちゃら、と流れていたのをなんとなく見ていた程度、自分が三日後、結婚式だからこそ気になったイベントだった。そう、あと三日で結婚式。準備は佳境を迎えていて慌ただしく忙しい。料理の手配は、量は、種類は。酒の手配は、量は、種類は。当日の家の解放加減と、二階への階段を塞いだり、書斎やモニカの仕事場への立ち入りを遠慮いただくための手段をどうするか。コップはたくさんあっても困る、レンタルはどこでできるか。かなり細かいことを調整するフェーズに入っていた。

 ツカサは、もうそこまでしなくていいんじゃないの、と喉まで来ているものを必死に呑み込んでいた。


「まだ夫婦じゃないけど、もう夫婦になるから、なんか感慨深いなぁって思って」


 そうだね、とモニカはせっせと手元で借りた食器類を磨いている。こうしたレンタル品があるのは助かるが、構ってほしいな、と思ってしまうのはだめだろうか。


「ツカサ殿にとって、いい夫婦とはなんだ?」


 一緒に食器を磨いていたアーシェティアに問われ、唸る。こういう時、両親だと言えればいいのだが、母の行方不明とその間に父が再婚していたりとで、まだ大人になりきれない心が難しく腕を組む。もうこうなったら想像だ。


「うーん、こう、お互いに大事にし合ってるとか、尊重してるか、そういう……感じ」

「大事だよね。私の親も結構喧嘩してたけど、なんだかんだ仲良しだったもん。村が襲われた時も、私を逃がすために二人とも」


 ツカサはそっとモニカの肩を撫でて、寄せられた体を抱きしめた。父親の安否がわかるだけでも幸せなのだ。こつりとモニカが一度ツカサの肩に頭を乗せて、それから離れた。まだ磨く食器が残っているからだ。ツカサはゆるりと手を離し、こちらも作業に戻った。


「そういえば、草原で出会ったヤンはさ、許嫁がいてさ。なんかこう、尻に敷かれてる感じだった」

「許嫁さん強いの?」

「いや、普通にヤンの方が強いんだろうけど、なんだろう、好きにさせてる、みたいな……」


 あぁ、いい夫婦になりそうだな、とツカサも眼を細め、ついでに、尻に敷かれていることを揶揄って、お前もだろう、と言われたことを思い出した。


「男はそれでいいんだっけ」

「あら、何の話?」


 取りこんだ洗濯物の籠を腕に、エレナが合流した。モニカがハッとした顔をした。


「ごめんなさい! 洗濯物すっかり忘れてた! エレナさんありがとう!」

「いいのよ、私のだってあるのだから。騎士様が大所帯でよかったわよね、干す場所多いもの」

「エレナ、受け取ろう」

「ありがとうアーシェティア」


 ぐいっとアーシェティアが受け取るのを見守ってしまい、あっ、とツカサは気づいて項を摩る。しまった、そうして声を掛けるべきだった。食器磨きはそのくらいにして皆で洗濯物を畳む作業に移行した。話題は未だ【いい夫婦】だ。


「エレナはヨウイチさんと、いい夫婦だった?」

「どうかしらねぇ、ヨウイチの人の好さに腹を立てたこともあるし、私もこうでしょう? あの人、女はこうあるべき、なんてところもあったから、喧嘩は多かったわよ」

「そうなんだ。ヨウイチさんどの時代の生まれだったんだろう」


 歴史の教科書曰く、女性の参政権や働き方改革があるまで、男性優位の時代が長かったはずだ。ツカサはバスタオルを抱きかかえるように腕を組み、せっかく伸ばして干したのにくしゃくしゃになっちゃう、とモニカにそれを引っ張られた。


「ただいま」

「あ、おかえり、ラング」


 ふらりと出掛けていたラングが戻り、リビングでの洗濯物の山に小さくシールドを傾げた。するりと混ざりにくると、誰に言われるでもなくテキパキと洗濯物を畳み始めた。ツカサも負けじとタオルを手に取る。洗濯物の畳み方は生まれも育ちも違うメンバーの中で違いが多く、自分のものはお好みで、タオル類は置いた家具に合わせてこうしよう、という感じでまとまっている。その陣頭指揮を執ったのはラングだ。その手際の良さを見ながらモニカがぼやいた。


「ラングさん、いい夫になりそうですよね」


 あぁ、わかる。ツカサは頷いた。自身が弟としてその背中を追ったからというのもあるが、ラングの父親くさいところもよく知っている。言葉足らずを感じる時もあるが、必要なことだけを言ったあと、そっと手を離すことのできる人は、いつも自立を促してくれる。


「どうかしら」


 少し揶揄うような声でエレナが言い、モニカとアーシェティアが目を瞬かせた。


「何も言わずにふらっと数日いなくなる人が、いい夫かしらね?」

「で、でも、家のことはこうして、ほら、手伝ってくれるよ? やってって言わなくてもさ、うん」


 なぜかツカサがフォローを入れる形になり、エレナがジト目で振り返った。


「うろついて出掛けてた後ろめたさがあるから、自発的にやるのよ。御機嫌取りよ」

「いや、でも、ラングは独り身長いし、それがなくたって手伝ってくれるよ。ほら、ご飯だって作ってくれるし」


 タオルを手にツカサが必死に言えば、つん、とエレナはそっぽを向いてしまった。困惑するツカサと、思わず笑ってしまったモニカとアーシェティア、ラングは黙々と洗濯物を畳んでいた。

 洗濯物が畳み終わり、磨いた食器を箱に戻して片付ける。明日は自宅と庭と、大掃除らしい。もうあとはゆっくり当日を待とうよ、と言いたい気持ちをツカサは奥歯で噛み砕いた。

 女性陣が小休憩の準備に盛り上がるのを眺めていれば、ラングはタオル類を棚に仕舞い、自分の洗濯物を手に一度自室に戻るらしく立ち上がった。ツカサはふと尋ねた。


「あ、ねぇ、ラング。ラングにとっていい夫婦ってなに?」


 問いかけにラングは振り返り、少しだけシールドを傾げた後に言った。


「……生きていて、互いが笑顔であることだ」


 かつて亡くしたからこその言葉に、ツカサは軽い気持ちで尋ねたことを恥じた。その目の泳ぎにも気づいてか、ラングのシールドはわかりやすくキッチンの女性陣を指した。


「単純だが難しい。だからこそ、それを守れるのなら、いい夫婦なのだろうと私は考える」


 するりとツカサの横を抜け、ギシリとも、ゴトリとも、階段に痕跡を残さずに上がっていく深緑のマントを見送り、ツカサはキッチンを振り返った。ニコニコと笑うモニカ、優しく笑い返しているエレナ、それを見守る微笑を浮かべたアーシェティア。

 うん、なるほど、笑顔は幸せだ。背伸びはしないで、少しでも多く笑顔でいてもらうことを心掛けて行こうとツカサは思った。




来年はどこかの夫婦をピックアップできるといいなと思います。

本編がどこまで進むか、それが問題です。

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