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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第二章 失った世界

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2-56:会話を轍に変えて

いつもご覧いただきありがとうございます。


 二日、ゆっくりと体を休めた。合流して喧嘩して、お互いに不思議とわだかまりもなく、それがとても恵まれた結果だったと知るのは、ツカサがある程度年を経てからのことだ。


 ラングの体調もよくなった。食事に癒しの泉エリアの水を使い、飲み物もそれを呑ませていたからか、予後も問題なく越えた。滝つぼのほとりで双剣を振るい、調子を確かめるラングのキレの良さにツカサは胸を撫で下ろした。


 ドルワフロの対応については食事の際に話し合い、方針が決まった。ユキヒョウ(神獣)を伴って皆で登場、トルクィーロから事実を話させ、火傷を負った鍛冶師へ治癒魔法を使いツカサの力を知らしめ、ロトリリィーノにも事情聴取を行う。そうしてキスクの冤罪を晴らしてから、貯蔵庫を満たす。端的だが効果的に見せる方針だ。

 ヒトと関わることなく過ごしていたユキヒョウは、自身がその姿を堂々と晒せることにやる気満々だった。ヒトと関わってはいけないなどの制約はないのか、と問えば、ない、と答えがあった。ツカサは首を傾げた。


「じゃあ、なんで今まで関わらなかったの?」

「余裕がなかったのである。ここ数百年、我らは命を抱きかかえていたのである。今もそうなのである。オットルティアが特に多くて、それぞれの土地神からある程度の命を引き受け、ヒトに現状を知らしめたのである」


 ユキヒョウは自分が知っていることを前提に話すのでよくわからなかった。大丈夫だ、こういうのは慣れている。ツカサは自然と質問を重ねた。

 そうして聞き出したところ、それは交易都市で尋問した守護騎士(パラディン)・グルディオの会話と繋がるものだった。

 オットルティアという土地神はこのゴルドラル大陸の土地神を束ねるもっとも最上位のものだったらしい。美しい銀毛の狼、気高き神獣の長。それはこの大陸で【本当の(ことわり)の女神】に一番近いしもべだったそうだ。【本当の(ことわり)の女神】についてはユキヒョウも口を噤んだが、狼、オットルティアについては話してくれた。


「オットルティアは我らが今暫く耐えられるよう、その身がいつ壊れてもおかしくないというのに、命を少し引き受け、そしてヒトの教会へ行ったのである」


 それが、守護騎士(パラディン)・グルディオの話した狼の神獣だ。ツカサは手記を開いて確認した。

 三年前、神殿に現れた狼は、命を暫し抱えよう、だが限界は即座に来るであろう、と言って命をその身に抱え込んだ。その半年後、霧散して消えたと言っていたはずだ。牡鹿の言っていた消滅による救済を、狼は成したのだ。他の神獣から命を引き受け、自らを消滅させ抱えた命を救う。それがなければ大虎も、大熊も、ユキヒョウも、間に合わなかっただろう。

 ユキヒョウはそうして命をある程度引き受けてもらったからこそ、トルクィーロの命を拾うことができたのだという。その後の状況もまたユキヒョウを救った。ドルワフロから女が、娘が去り、鍛冶師が去ったことで死ぬ命が減り、この三年近く、ユキヒョウはある程度自由に動けたそうだ。だからこそラングの拉致もできた。


「我もいっぱいいっぱいで、オットルティアの犠牲がなければ、ヒトと関われる余裕がなかったのである」


 それが結論らしい。二百年より前はどうだったのかと問えば、時折、ヒトの前に姿を現していたらしい。それがあの天井画に繋がったのだろう。ユキヒョウはそれを聞き、見るのが楽しみである、と無邪気に笑った。

 そうした会話をしながらしっかりと昼食を取り、一行は隠し通路へ向かい、そこからドルワフロの洞窟の王城を目指した。


 ツカサとキスクのトーチが暗い洞窟の通路を照らす。足音は三つ。ラングとユキヒョウは足音もなく歩いている。洞窟の中を楽しそうに歩くのはユキヒョウだけで、キスクは緊張し、トルクィーロも沈黙を守っている。各々、この先で起こり得る最高と最悪の想像に温度差があった。そしてそれを気にも留めず自分の気になることを話すのがラングだった。


『アルというのは、どういう人物なんだ』


 喧嘩の発端でもありはしゃいでしまった原因でもあり、少しだけ気まずさがツカサの中にあったものの、ラングがそれを払拭するためにも問いかけてくれたのだとわかり、厚意に甘えることにした。


『うーん、一言で表すのはちょっと難しいから、長くなるよ』

『構わない、この通路、それなりに長いだろう』


 相変わらず音の反響などで距離を測っているらしい。ツカサはそれなら、と歩きながら話し始めた。

 腕利きの冒険者で、少し特殊な槍を扱うこと。明るくて、賑やかで、けれどうるさいわけではなく、育ちの良さが時々滲み出る。生まれついて(ナチュラルボーン)の冒険者らしく、勘のいいところもあって、物事の本質をスパリと切り開くような、不思議な男だと話した。


『未来の【ラング】と対等に渡り合ったこともあるんだよ。【ラング】の意識はなかったけど。あの、ほら、今回の【首噛み切り未遂事件】と同じで、意識混濁してる時にね』

『名称を付けるな』

『【寝惚け暗殺者事件】の時もアルが止めてくれたらしいよ。【シェイさん危機一髪事件】もアルが止めてた』


 ッチ、と舌打ちが響いてキスクとユキヒョウが震えていた。ツカサはラングを小突いて、逆に頭をわし掴み押しやられた。笑うツカサの声が通路に響き、さすがにキスクが静かに、と慌てた。この先の貯蔵庫、ポーツィリフは通路があることを知っている。嘘の吐けない男が上手く伝えていなければ、この通路に向かって何かしらの悪意を放つこともできるのだ。ツカサもその可能性を考慮して魔法障壁は張っているが、必要以上に怖がらせることもない。キスクに向かって、わかってる、ごめん、と苦笑交じりに謝った。改めてラングとの会話に戻った。


『なんていうか、いい奴だよ。心配もしてくれる、思いやりもある、でも、【ラング】同様、押し付けてくることはなかったなぁ』


 お互いにきちんと自己紹介と素性を話した際、アルは開口一番、ツカサのことを弟と言ったことの責任はどうなのか、と問いかけてきた。アルもまた、口から出した言葉の責任というものを大事にしていて、嘘の吐けない人だった。そして、エレナとの出会いも切っ掛けだったスカイ、その故郷、イーグリスへ来ないか、と先を見越して声を掛けてくれる人だった。


 ――王都に行ったあとでいいんだ。もし戻る手段が見つからなかったらどうすればいいのか、って思うだろ? だから、そういう場所もあるんだって知っておけば怖くないじゃん。


 あれがだめでも、これがある。道を一つに絞らずに、それがだめだった時、逃げる場所があるのだと両腕を広げるように提案してくれたことを思い出した。今ならそれが、統治者(オルドワロズ)の弟としての権力を、ツカサとラングのために使おうというアルの覚悟だったのだと理解ができる。出奔した身ではあるが、仲間の、友のために膝をつき、頭を下げる。アルならばそうしてシグレに筋を通しただろう。そういう男だ。


『それに、世界を見て回りたいっていう理由で旅に出てたから、いろいろ知ってたことも多かった気がする。きちんと規則とか稼ぎ方を知ってて、自立してた。でも、運任せに生きてるところもあって、俺は話を聞いて結構びっくりしたなぁ。ほら、ラングはいろいろ準備する性質(タイプ)でしょ?』

『そうだな』

『アルって行き当たりばったりも楽しんじゃう方だったんだよ。何かあってものらりくらり乗り越えられちゃう性質(タイプ)なんだと思う』


 キャンプエリアで会った者たちにスープを分けてくれと頼むことができたり、アズリアから脱するために加入したパーティで旅を楽しんだり、冬宿を知らなくて凍傷になりかけ、なんだかんだジェキアに辿り着いて【真夜中の梟】のロナに救われ、【異邦の旅人】へパーティ加入まで。あぁ、あの旅路も、消えたのだった。


『あれ、だとしたら、どうしてアルは【アル】なんだろう?』


 家が消え、エレナが、モニカが、アーシェティアが消えた。ツカサが出会った人々がそこに居なくなって、【快晴の蒼】の記憶にすらいなかった。絆の腕輪が反応したということは、同じタイミングで手に入れた同一のもののはずだ。なぜ、アルは【アル】でいられたのだろう。それもまた違う【アル】なのだろうか。急に不安に苛まれた。


『会えばわかる』


 はっきりとした強い声で言われ、ツカサは思考から引き戻された。背中に腕を回して押され、止まりかけていた足を前に出させられた。


『見極めるためにも、その男についてもっとよく教えろ』


 歩く速さは変えず、ラングが少し先でそう言った。ツカサはじわりと笑みを浮かべ、少しだけ駆け寄ってまた隣を歩いた。


『【ラング】が相棒って呼ぶくらい、信頼してた人でもあるんだよ』

『最近、【ラング】に対しての評価が下がっている』

『なんでよ! 俺が悪いんであって【ラング】は悪くないからね!? それはまたあとで話し合おうね』

『断る』


 ちょっと、と文句を言うツカサの声は笑っている。ラングもまたわかっていてそれを話題に出している。こうして気まずい話題を一つずつ踏んでいくことでお互いの間で笑い話に変え、昇華していく作業をラングは嫌がらないでくれた。ツカサはそれを有難いと思い、だから、言った。


『ラング、ありがとう』


 小さくシールドが揺れた。それから、少しの間を置いて、呟かれた。


『大したことじゃない』

『だからさ、そこ、どういたしまして、とか言えないもんなの?』


 ふっ、と笑う口元に、まぁいいかな、と思う程度には俺も甘いよな、とツカサは笑った。


『いったい何があって【ラング】はそいつを相棒と呼んだのだろうな』


 話題が戻された。ツカサは腕を組んで唸った。


『そういえばそれ聞いたことないんだよね。俺たち、一回別行動になっててさ、二年くらい離れ離れになってたんだ。その間になんか、いつの間にか相棒って呼び合ってた。【ラング】がアルの名前を呼ぶだけでアルは何をすればいいのかわかる感じで、悔しいけど、二人で並んでるとかっこいいんだ』


 【黒のダンジョン】で肉壁に押し潰されそうになった時も【ラング】はアルのことを信じていた。


 ――ここだ! 頼む! 来い! アル!


 そしてそれに応えるように、アルは辿り着いた。血にまみれながらも駆けつけてくれた槍使いに、ツカサだってかっこいいと思ったのだ。


『将来、【ラング】が相棒って呼びたくなったのがなんでなのか、俺に教えてね』


 きっと、その未来を守って、ラングとまた話せる時がくる。ツカサはその願いを込めて約束を提示した。ラングはそれに対して沈黙を貫いたがそれでよかった。二十年以上も先のことを軽い口約束で結ぶような人ではない。変わらない対応に安心すら覚えた。


 話していれば移動は早く感じる。もう少しゆっくり歩いてもよかったと思うほどなのは不思議だ。突き当りに辿り着いてキスクが壁を触り、ガチンと何かを引いた。ガゴン、ズズズ。行きと同じ音を立てて扉が開き、空の箱、分解された樽が転がる光景が広がっていた。置いた大量の薪は消えているのでポーツィリフが配ったか、使ったかしたはずだ。待ち構える誰かはいなかった。


「魔法障壁を使うから先導するよ。大広間までだけど」


 ツカサが言えば皆が頷く。ラングだけはその隣に立った。


「道案内、任せる」

「うん、任せて」


 頷き合う。階段を上りながら、ツカサは言い忘れていたことを思い出した。


『そうだ、忘れてた。アルってなんかこう、雰囲気がリーマスさんに似てるんだよね。飄々としてるというか、槍を扱うからか手足がいい感じに長いというか、なんだろう、なんか似てる』

『大した男ではなさそうだな』

『未来の相棒でしょ』

『知らん』


 あはは、とツカサは堪えきれずに笑ってしまい、再び背後のキスクに叱られた。



いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


きりしまのよもやま話。


今回のお片づけフェーズは題材が題材なので長いですよ、重いですよと先にお伝えしておきます。


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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