2巻発売記念SS その4 癒しの泉エリアで
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11/10 2巻発売記念SS その4
ダンジョンの中でともに過ごし始めると、不思議と距離が近くなる気がした。死地で背中を合わせ、預け、それとなく連携が取れるようになってくるのは、チーム、という感じがして肩を組みたくなる。そしてラングがエルドに従っていることにもツカサは驚いた。
ラングの強さを【鑑定】でツカサを覗いたことで見抜いたカダルは、エルドに結果を伝えているらしい。
パーティを組むとなった際に改めて伝えた内容、ダンジョンの一階層で掃除をした時の動き、その後の戦闘とラングはその実力を遺憾なく発揮した。そうして畏敬の念も相手に抱かせながら、ラングは淡々と事態に対処していた。エルドは時に緊張した様子で指示を飛ばしていたが、ラングが首を傾げることも、異論を唱えることもなかった。
「ラング、連携が取れないっていう割には結構ちゃんと協力してくれるよね」
癒しの泉エリアで夕食を取りながらツカサが何とはなしに言った言葉に、エルドとマーシが咽た。おい、ちょっと、ツカサ、と慌てる二人を一瞥して黙らせ、ラングは器を膝に置いた。
「余計なことしない。合同パーティ、基本だ」
「あー、ラングにリーダーやれやれ言ったりしないからいいんだ」
「そうだ」
再び器を持ち上げて食事を再開するラングに倣い、ツカサもパクパクとスプーンを動かす。突然の切り込みに冷や冷やさせられたこちらはたまったものではないぞ、とカダルがハーブティーを啜った。
「ラングさん、クランの御経験もあるんですね」
せっかく終わった話題をロナが蒸し返し、次はカダルが咽た。ロナ、とカダルが咎めるように名を呼び、すみません、と少年のしょんぼりした声が零れる。器を空にしてハーブティーを手にし、ラングが不意に言った。
「面倒だった。だから、嫌だった」
まさか話題に乗ってくれるとは思わず、大人連中は呆気にとられ、ツカサとロナが少し身を乗り出した。
「いずれって言ってたもんな、聞きたい」
「僕も、ラングさんはどんなダンジョン攻略をされたんですか?」
あ、それは少し難しいかも、とツカサは思った。ラングはダンジョンを表現する言葉を、今、まさしく学んでいる最中だ。けれど良い機会でもある。ラングもそのつもりなのだろう、特に否定はせず、会話を続けてくれた。
「ダンジョン種類違う。もっと、不便」
「ダンジョンなんて不便なもんだろ、どんなダンジョンだったんだよ」
マーシも興味津々に会話に混ざり、ラングは腕を組み、小さくシールドを傾げた。どう不便だったのか、どう話せばいいのか、言葉を選んでいるらしい。やがて、その話をするとどこのダンジョンか、という話題にも飛び火すると思ったのか、単純に面倒になったのか、ラングは腕を解いてハーブティーを飲んだ。ツカサが苦笑を浮かべロナを見遣る。
「話すの疲れちゃったみたいだ」
「残念」
ふふ、と笑うロナにそりゃないぜ、とエルドとマーシが駄々をこねる。もうやめておけ、と止めるカダルの姿もそろそろ恒例だ。
食事の後は各々好きに過ごす時間でもある。鍛錬は食事前にやっているので短剣の魔力補充をしてもいい、早めに横になってもいい。ラングは単語の習得に精を出してカダルとやり取りしていることも多い。横からマーシが口を出して随分乱暴な言葉を教えていたりする。ラングはそれを要らないと言うことはなく、聞いて、受け入れて、使うかどうかは自分で決めるといった様子だった。
「ラングさんって勤勉だよね」
並んで座って大人たちを眺めていたロナがぽつりと言った。
「うん、本当に。あっという間にこの大陸の言葉覚えていくもんなぁ」
ツカサと二人だけでは会話の幅が狭く、単語も同じものを繰り返し使う。言い回しも一辺倒、誰かその他大勢と話す方が幅も広がり種類も多いのは当然のこと。少しだけ悔しいが、ラングのためにはこの攻略パーティ、よかったのかもしれない。【変換】で聞いているラングの故郷の話し方と、この世界の話し方のずれがなくなっていっていることは、ツカサだけが知っている。
「ツカサ、すごい拗ねた顔してる」
「えっ、そんなことないよ」
「あはは、お兄ちゃん大好きだよねぇ、ツカサ」
「ロナ!」
わぁ! と少年二人が楽しそうに笑ってじゃれ合い、大人たちがそれを見守る。年齢的には大人の分類だが、精神年齢の幼いマーシがそれに混ざりに行き、わぁー! と少年二人が巻き込まれて草に倒れ、笑い声が上がる。
「まったく、癒しの泉エリアとはいえダンジョンだっていうの。緊張感が足らないんだからな」
カダルが頭を抱えて唸れば、ラングは黒いシールドを騒ぐ三人の方に向けたまま、ふっと小さく息を吐いた。
「死ぬこと、怯え続ける、まし」
「うん? もう少し続けてくれ」
「怖い気持ち、体かたまる。少し、笑う余裕、ある方がいい」
あぁ、とカダルは言いたいことを理解して頷いた。エルドは今日の分の酒をちびっと啜りながら同意を示した。
「だなぁ、緊張感があるのは戦闘の時だけでいいわな。カダルは心配性だから仕方ないけどよ」
「お前に緊張感がなさすぎるんだ」
パタン、とラングが単語を書いていた手記を閉じてそれだけで視線を集めた。
「それぞれ、やることがある。カダル、警戒。エルド、盾。マーシ、剣。ロナ、手当て」
「お、おう、そうだな?」
「日頃も同じ」
ゆるりとラングのシールドが少年たちと一人の大人を指しカダルとエルドがそれを見る。ラングが囁くように言った。
「楽しそうだ」
もみくちゃにされているロナと、やり返されるツカサと、少年二人に飛び掛かられて笑い転げているマーシ。つい、エルドとカダルは笑ってしまった。
「ははは! 元気で何よりだな」
「そうだな、楽しそうだ」
死と隣り合わせのダンジョンで、そうした束の間、笑い、楽しむ時間があってもいい。次の戦闘では死ぬかもしれない。そんな恐怖を振り払うような笑い声。
冒険者たちはそうして夜の死を追い払って過ごすのだった。




